それが仮面ライダー   作:ふくつのこころ

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最初からクライマックス
初戦闘で敵を倒せないのは、ウチの主人公では珍しいかもしれない


覚醒のJ/ビギンズナイト、英雄の死

 紅い世界が広がる。

 どうしておやっさんが傷ついているんだ?

 

 ……おやっさん(、、、、、)

 

「世話ァ焼かせやがって……。大丈夫か、雄之介」

「だいじょうぶだよ。だいじょうぶだけど……ッ!」

「なら、泣くんじゃねえ。男なら常に、」

「よゆうをもってわらえ、だっけ?」

 

 よく出来てるじゃねえか、と笑ったように見えた髑髏の怪人。

 

 どうしてこうなったのか?

 ただソウキチは自分に社会のルールとやらを教えてくれようとしただけだ。

 そんなソウキチが怪人に襲われた自分を助けてくれ、そのせいで身を貫かれているのはいくらなんでも不条理ではないだろうか?

 

「(どうして、こうなったんだ……。このまま、ぼくはおやっさんになんにもかえせないのか?)」

 

×××××

 

南雄之介(みなみゆうのすけ)は海外出張に行っている父親と母親の元に生まれた少年だった。

時折、世界中を冒険しているという、伯父のように父親のように世界中をまわりたいという夢が膨らんでいた。

 

「青空ってのは良いよ、雄之介。それに晴れた青空の下で見る笑顔も素晴らしいものだ」

「じゃあ、ぼくもおじさんみたいにせかいじゅうをたびしたい!それでたしかめにいくんだ!」

「おお、凄いじゃん。でも、その為には大事なことがある」

 

 伯父が雄之介に渡したのは名前の前に肩書きとして特技の数が書かれた、特製の名刺を渡された。

 日々、その特技の数は増え続けているらしく、きっかけは伯父の恩師の言葉によるもので一番目の技が笑顔とのこと。

「わざ……?」

「ああ、技だ。世界を知るには真っ白なキャンパスのようにまっさらな状態で出向くのもいいと思うけど、なんらかの用意をしていったほうが楽になる。これ、俺の体験談ね?」

「うーん、よくわかんないや」

 

 まだまだ自分の話を理解していないらしい甥っ子の頭を撫で、視線を合わせた。

 雄之介は分かりやすく自分の目線に立ち、それでいて自分を一流の男として接してくれる伯父が好きだった。

 

 思えば、ソウキチも伯父と同じタイプのように思える。

 

「雄之介の得意なものは?」

「とくいなもの?」

「そう、得意なものだ。たとえば、学校の国語とか算数とか。自分が一番できるってことさ」

「ぼくのとくいなもの……」

 

 雄之介はこれといって自分の得意なものが何か分からなかった。

 学校での勉強は得意とも不得意ともいえないし、同級生との仲は愛しの少女以外で良いとはとても言えない。

 

 正義のヒーローをカッコいいと思い、そうありたいと思うくらいしか幼い少年の好きな物はなかった。

 中身がまだ伴っていない少年の抱える理想は同年代の子供からすれば気味悪い物だった。

 

『みんなが仲良く出来て協力し合う世界』

 

 世界がそうあってほしいと願い、自らもそう動いている。

 両親からまだ少年が異質であると言われたことこそないものの、思われているのに気づけないのが幸いか。

 

「とくいなものはうかばないや」

「じゃあ、したいこと。それはあるかな?雄之介の夢だよ」

「ぼ、ぼくのゆめは―――」

 

 はじめて話す、ありきたりの少年らしい夢。

 学校の先生や同級生、両親もまともに取り合ってくれなかった。

 そんな夢をはじめて伯父に語るのだ。

 

「いい夢じゃないか。だったら、より叶えないとね」

 

 伯父は笑ってそう言ってくれた。

 自分の夢のように、自分のことのように。

 しっかりとしていてかつ優しい瞳。

 こんな男になりたい、こんな大人になって誰かの夢を応援できるようになりたい。

 

 これが南雄之介の『きっかけ』だ。

 

JOKER

 

『もう終わり?あーあ、飽きちゃった。さ、降りていこうかな』

「ま、まて!」

『何を言っているのか分からない。けど滑稽だよ、その笑顔』

 

 怪人が去っていくと、雄之介は膝から崩れ落ちたソウキチを支える。

 身体は重く、特訓の見本として見せてくれた時のような軽快な動きからは想像がつかないほどだ。

 

 アッハッハッハッハッハッ!

 

 目障りな笑い声、凄惨な笑顔。

 笑い声や笑顔は本来はそんなものではないはずだ。

 

「いい夢じゃないか。だったら、より叶えないとね」

 

 そう言ってくれた伯父のように自分はなれそうにない。

 自分は弱い、だからソウキチのようにカッコいい人を死なせないように戦うことが出来ない。

 あのまま放っておけば、怪人は故郷の町に降りていって殺戮の限りを尽くすだろう。

 

 両親、先生、同級生に想いを寄せる少女―――。

 

「――泣くなっつったろ?雄之介」

「おやっさん、ぼく、おやっさんのあしをひっぱってばっかりで……っ!いろいろおしえてもらったのになにもできなかった!ごめんなさい、おやっさん……」

「いいんだよ。―――使えるようになったじゃねえか、敬語」

 

 ソウキチは髑髏の超人『スカル』の変身が解除され、白スーツ姿に戻る。

 白いソフト帽と鮮血の赤で染まった白スーツ、雄之介に負担をかけまいと最後の力を振り絞って雄之介の細い二の腕をしっかりと掴み、その目を見据える。

 

 弱っているのに力強さは瞳から消えず、まだ炎は灯っている。

 

 ソウキチはどこまでも南雄之介にとっては憧れであり、目標で世界中を旅する冒険家である伯父と同じくらいに尊敬できる人だった。

 

「その調子を忘れんな。目上には敬語を使えるようにならなきゃならねえ。それが社会のルールだ」

 

 そして自らのソフト帽を取り、雄之介の頭に被せる

 

「俺はお前に言ったよな、帽子の似合う男になれと」

「うん……!おやっさんがよく言っていたことば、ですよね……!」

「今のお前は似合ってる。だから、これを託す」

 

 ソウキチはロストドライバーとメモリを外し、雄之介の手に握らせた。

 『スカル』と普段は浮かんでいるはずのメモリには文字と意匠が浮かんでおらず、ソウキチは改めて自分の死期が近いことと継承者として雄之介を選ぶことが出来た安堵感に包まれる。

 

 ソウキチの商売道具(チカラ)の本来の名称はソウキチ自身も知らない。

 あるときに手に入れた無銘のメモリに文字と意匠が浮かび、ベルトを装着して『スカル』に変身した。

 

 そして、継承者として殆ど他人でしかない雄之介を選んで身内を選ばなかったのは最も適任者であったのを理解していたからだ。

 

「これは、おやっさんのたいせつなものじゃ……」

「俺の帽子も、ロストドライバーもメモリもやる。卒業祝いの免許皆伝だ、心して受け取れ。それが一流の男になれた―――」

「おやっさああああんッッッ!」

 

 絶叫した。

 事切れたソウキチの身体は想像以上に重く、子供の腕力では雄之介には抱えられない。

 そして身体が粒子へと変換され、空へと消えて行く。

 

 怪人の力?

 それとも疲弊によるもの?

 雄之介を護って戦ったことでフィードバックが来たのか?

 

 難しいことは幼い少年には分からない。

 けれど、少年が託されたもの(ベルト)を持って走り出すのに時間はそう掛からなかった。

 泣きじゃくりながら、家族のこと、先生のこと、同級生のこと、そして愛おしい少女のことを思うと足に不思議と力が入る。

 

『BLANK!Start up!』

『Shift Change!』

 

 雄之介の想いに答えるようにメモリが音声を流し、それは七色に輝く。

 ベルトは雄之介の腰に移動し、決まった文字に意匠を定め、信念(いろ)が定まったときにはじめて挿入されるメモリ。

 

『Shift!』

 

『JOKER!』

 

 眩い光と共に現れるのは黒いボディに走るのは紫色のライン、紅の一対の複眼に日本の触覚。

 武器を持たないところから印象付ける超人『スカル』に似た姿、しかし、『スカル』に非ず。

 

「ウォォォォォォォ!」

 

 獣の如き咆哮を上げ、黒き希望(ジョーカー)は森を駆ける。

 そのあり方は風の如し。

 

JOKER

 

 怪人は退屈だった。

 平和な田舎町、そこには自分を楽しませることのできる見込みを持った強者はいない。

 唯一、自分を楽しませることが出来そうな『スカル』は羽虫ほどの価値しかない人間の子供を護って消えた。

 

 『スカル』のチカラは正体不明のところが多く、実のところ良く分からない。

 しかし、何の異能も持たない怪人の姿になって徒手空拳と経験だけで自分に立ち向かってくるのは興味深かった。

 

 自らの持たない概念と、意味があるのか分からない心と言う言葉。

 超人『スカル』はいつだって矮小な人間のために戦い、こんな辺境の地にまで訪れて自分を追いかけにやってきた。

 満身創痍のところを鞭打って自分に挑んできたところを見ると、それほど羽虫が大事だったのだろう。

 

「た、たすけて……」

 

 怪人の後ろで積み上がる肉塊の山。

 怪人が本気を出せば人間は簡単に捻り潰すことができるし、実際に後ろを振り向けば目を背けるほどおぞましいものが積み上がっている。

 ねじ切られた首からは断面が見え、頭と胴体を繋ぐ首は一回転しており、一本の背骨はねじ切られている。

 

 毟り取った中身の中で特に長いものをバラバラにされた遺体に巻きつけてみると趣があるが、人間は価値観を理解してくれないようだ。

 今回は『適合者』探しに訪れたのだが、此処には適合者どころか骨のある者はいない。

 別働隊がサンプリングに勤しんでいる中、怪人はあえて自分のしたいことを為していた。

 

 別働隊のサンプリング中、目撃者は皆殺す。

 

 運がよければ過激な三大勢力の中でも特に眷属収集にかけては多種族の被害を辞さない悪魔のせいにすることが出来よう。

『ぴーぴー五月蝿いね、死んでよ』

 

 怪人が隅に追いやられた少女に手を伸ばそうとする。

 

「そのこにさわるな!」

『どういうつもりだい?それは』

 

 紅の複眼をした黒い超人が怪人に向かって人差し指を突きつけて立っていた。

 声が震えているところ、身体が震えているところを察するに背が伸びて超人形態となってもなお分かる『スカル』が護ろうとした人間。

 

 理解が出来ない。

 敵わないというのは本能でわかっていいはずだ、目の前で『スカル』を殺したのは他でもない自分なのだから。

 あのベルトや装飾具を見るに『受け継いだ』のだろうか?

 

 あの子供が持っているはずがなかった、受け継いだのでなければ雰囲気の変化が読み取られたはずだ。

 

「き、きいてるのか!」

「ユウノスケくん、なの……?」

「もうだいじょうぶ!ぼくがきたから!」

 

 自分が不安で、恐怖で仕方ないのに他者にかまけている余裕があるというのか。

 怪人は黒い超人に興味を持った。

 ベルトの変化に意識を向けるよりも、今は新たに現れた超人に意識を向けるのが面白そうだ。

 

 どんな戦い方をしてくれるのだろう?

 どんな楽しませ方をしてくれるのだろう?

 どんな変化を『スカル』から見せてくれるのだろう?

 

 血湧き肉踊るとはまさにこのこと、一度芽吹いた希望を叩き潰すのが一興。

 少女に気を取られている黒い超人の鳩尾に不意打ちで拳を入れると、ふらふらと足取りはおぼつかなくても平静を装っているのが分かる。

 

「ここでたおれたら、だれがここをまもるんだ!」

『大層だね。笑顔にして見せてよ、“切り札”さん』

 

 互いの言葉は伝わらなくとも、雄之介は明確な悪意を怪人から感じた。

 愛おしい少女を護る為、その場から動くことの出来ない超人は攻撃を正面から受けてしまい、タイミングを見て放った一撃も超人に変身しているとはいえ、軽々と避けられる。

 

 時折、気まぐれで攻撃を受けようと思ったのか怪人が正面から受けたが威力が足らなかったのか腰から軽々と持ち上げられて地面に頭から叩きつけられた。

 

 雄之介が上手く立ち回れなかったのはソウキチを喪ったことと、ソウキチを殺した相手が目の前にいること、愛おしい少女を護る為に離れることが出来ないこと、そしてなにより怪人の力量と差がありすぎた。

 

 素養は良いとソウキチが判断した雄之介は伯父に会ったとき、普段ならいけないような場所や自然の中で遊びまわっていたこともあって運動神経は同年代の子供より優れている。

 それはあくまで人間の、子供の範疇。

 本物の化け物である怪人には無力、『スカル』と同じように身体能力を強化しているタイプだと雄之介が思っている黒い超人では敵わないと思っているから。

 

 尊敬する男に認められたというのは普段ならモチベーションに繋がったが、シチュエーションがいかんせん悪すぎた。

 

『なんだ、全然駄目じゃないか。これじゃあ半熟だよ、半熟。あれは?いつもの拳と蹴り。スカルと似ているんだから、やって見せてよ。ホラ、早くしないと腕が折れるよ?』

 

 雄之介は怯えている少女の姿を感じる。

 怯えている目を感じる。

 いつも優しくて笑顔を振りまき、周囲にも笑顔を見せた少女。

 そんな姿と笑顔が大好きだったから、雄之介は好意を抱いた。

 尊敬する男、ソウキチはきっかけをくれた。

 大好きな故郷(ばしょ)を護る為に必要な力と、一人前の証たる帽子を。

 

 地面に伏せられ、関節技を決められる。

 右腕を固定され、徐々に骨の悲鳴が聞こえる。

 怪人が『スカル』が自分に対して見せた奥の手、『ライダーパンチ』を警戒しての行動だが知る由もない雄之介は泣き言を言わないだけ精一杯だ。

 

 どうしてこうなった?

 自分はおやっさんのようになりたかった。

 おじさんのようになりたかった。

 おとうさんのようになりたかった。

 そして、将来は世界中をまわりたい夢を叶えたい。

 ゆくゆくは大好きな人と――。

 

 ぽろぽろとフルフェイスの仮面の下で雄之介は涙を流す。

 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。

 

 こんなことになるんなら、

 

「う、うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 途中まで考えて、考えるのをやめた。

 

          ―――

「いい夢じゃないか。だったら、より叶えないとね」

          

          ―――

 笑顔が似合う、雄之介の夢のきっかけを与えてくれた伯父。

 

          ―――

「今のお前に似合ってる。だから、これを託す」

          

          ―――

 尊敬するおやっさん。

 認めてくれた人。

 

『!?なんだ、このチカラは……!』

「そこを、どけェェェェェ!」

 

 今、自分は何を思った?

 何を考えた?

 まさか、

 

 ――――おやっさんと出会わなければよかった。

 

 そう考えたのではないか?

 

 押し付ける怪人を跳ね除けるべく、そして必殺の一撃を見様見真似、それもロクでもない贋作以下の失敗作でしかない技。

 不意の行動は戦闘不能と断定した怪人を驚かせるには十分、だから放った。

 

「ライダァァァァァァァァパァァァァァァンチ!」

 

 全ての体重を乗せた、必殺の一撃。

 これが外れれば、もう後はない。

 自分を震わせる為、懸命に頭を動かして動かして動かして、そして考えるのをやめた上の結論。

 態勢を立て直そうとしている怪人に振り下ろされた、紫色の炎を纏った右拳による右ストレートは、

 

『威力、足りないよ?』

 

 愛しの少女という肉壁の使用によって、防がれた。

 

「ああああああああああああッッ!あああああッッ!」

 

 不思議なことは起こらない。

 助けてくれるヒーローもいない。

 頼みの綱も、誰もいない。

 風穴が開き、見るも無残な光景を受け容れられずにいる超人が打ちひしがれると怪人は見下しながら、

 

『切り札というより、道化?』

 

 そんなことを言いながら手刀を振り下ろした。

 それが雄之介が意識を失う前に見た怪人と、抉り出された内臓から放たれる鼻をつく異臭と破壊されて潰された真っ赤な世界。

 

 これは、ビギンズナイト。

 英雄の死という終わりからはじまる。

 既に日の暮れた夜空は月が昇り、超人の身体を照らしていた

 




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