父親のシグムンドと同じように狼の皮を被ってバーサーカーになるようで、さすがはオーディンの血筋ですよね
「これで終わりだァァァァッ!」
「まだだ、まだ倒れられない!俺はユーのライバルだ、ユーの家族なんだッ!」
ダークキバのパンチはそれこそまさに
白龍皇の光翼の減少の使わず、ただ己の肉体で受け止めるのはダークキバ――ヴェルメリオを己の好敵手、戦闘者であると認めた証。家族でありライバルである年上の少年のように黒い外骨格に身を包み、魔力を除けば白兵戦というヴァーリにとっては血湧き肉踊る戦いをさせてくれる。
飛び道具がある相手には近づいて殴ればいい。
圧倒的なプレッシャーに包まれて近寄れない相手に対してはプレッシャーを跳ね除ける強さ、心の在り方を鍛えればいい。
幼少期のヴァーリは既に雄之介と出会ったときにはポテンシャルで超えていたが、超人ジョーカーとして三大勢力に名を馳せるアザゼルの養子の一人はそんな自分に負けるのが悔しくて鍛錬を続けた。武器を使うと言う手もあっただろう、現にヴァーリ自身もアザゼルには鍛錬の為に何度サンドバッグ代わりのものを作ってもらったことか。元々、アザゼルは三大勢力でも屈指の神器の研究者であるし、学者だ。そんな彼に強い武器を作ってもらえれば、それで終わり。ヴァーリの弱点等つくのは容易い。
しかし、それをしなかった。
血の滲むような努力の果て、己のものとしたマキシマムドライブのライダーパンチという拳撃とライダーキックなる蹴り。ネーミングセンスも雄之介の憧れている男がつけたものらしいが、それらの奥義をただの一度の勝利の為にものとしたのが南雄之介だ。
たった一度の勝利の為。
そう言えば聞こえはいいが、享楽主義もいいところで彼の幼馴染の少女達は何度気にかけたか数えられないだろう。一度目はヴァーリに触れることすらも叶わなかった、ヴァーリ・ルシファーへの南雄之介の挑戦は雄之介の不断の努力と執念深さ、そして根性が勝利へと導いたのである。
(だから、俺はユーみたいに強いコイツを超えていくッ!アイツは俺を肯定してくれた!俺の兄のようなもの!だからこそ超えなければならない!連れて行かれては困る。俺が超えるまで―――!)
「いい加減に諦めろよッ!」
「嫌だね!それはお互い様だろう?ダークキバ!」
「そいつぁ違ぇねえや、白龍皇!俺もヴェルメリオとしてでなく、ファンガイアのキングのみが持つことを許された、このキバの鎧『闇のキバ』を継ぐ者として負けられねえ……!てめぇを倒して連れ戻す!雄之介を!」
「断る!」
煙が巻き上がり、周囲の木々は吹き飛ぶ。
旧世代の魔王の血筋と
目的は唯一つだ、超人ジョーカーに関係するもの。彼らは皆人外のそれ、目標とするべきなのは人間の青年。
研究所時代に友として出会った者。
家族として出会った世界に絶望していた者。
ダークキバの纏う紅の魔力に己の中にある白龍皇の神器が懐かしさに咆哮を上げており、内なる
啼く紅い蝙蝠、猛る白い龍。
『『ヴァーリ(ヴェルメリオ)!』』
砂煙が巻き上がり、それが晴れた時には紅い青年と銀髪の少年が倒れていた。
※※※
「……その理由は?」
「僕にとっては今居る場所が大事なんだ。それに、いつ堕天使勢力に拳を向けろと言われかねないのは嫌だし。今回だってコカビエル討伐に来たといってもなぁ。僕は正直乗り気じゃないんだよ」
「どうして?アザゼル先生に言われたから?」
「そうだよ、アンちゃん。僕はコカビエルさんと敵対したくないんだ。例え裏切り者として言われたってコカビエルさんはバラキエルさんみたいにアザゼル先生と同じく、僕に色々教えてくれたから尚更。……って理由じゃ駄目かな?」
雄之介は断った理由を淡々と述べた。
そこには悪魔側への怒りが滲んでおり、アンにはそれが明確に伝わった。
南雄之介は争うのを嫌う、その拳を理由がなければ振るうことが出来ない性質であるからだ。反対に理由があれば簡単に振るうのかといわれればそうでなく、今回幼馴染の少女と共に駆り出されなかったら自分からは決して向かわなかったろう。
戦闘技術の向上を、とヴァーリに負けてしまった日に教えを請うたのは他でもない雄之介自身だ。その相手が今回の討伐に向かったコカビエルのであるのだから、アザゼルの内心は複雑であろう。トライドロンやジョーさんといった深層瓶の追加はアザゼルなりの気遣いだったのかもしれない。
「超人ジョーカーとして貴方には責任があります。その責任を放棄なさるのですか?」
グレイフィアは耳を疑った。
こんなにも悪魔に物怖じをしないのは今も昔も歴代の『超人』の中でも二人だけだ。
超人ジョーカーから見て先代に当たる、超人スカルであった鳴海ソウキチと初代超人くらいであったのだから。その超人たちの意思、『人の自由』を継いでいるのであれば非常に厄介だ。それらの思想を掲げるということはいつか必ず悪魔に刃を向けるだろうから。
時代が時代であれば人間のために尽くそうとする在り方は英雄といっても違いはない。しかし、そのベルトにはまだ未知の力があるとされていて三大勢力が停戦状態にある今でも存在が明るみになればベルトの力を狙うものが現れないとはいえない。だからサーゼクス・ルシファーは先に動いたのだ、こちらにメリットを話を受ければもたらすつもりであったから。それを断ればの話なんて考えたこともなかった、能天気で暢気な青年だと聞いていたから。
「さあね。僕には僕の流儀がある、縛られるわけには行かないよ。……あ、もしもし?朱乃ちゃん?そうそう、着いたんだよ。良かったら泊めて欲しいなぁ。……え、いいの?ありがとう!」
唐突に雄之介は電話をかけると、アンは緊張してしまった。グレイフィアのこめかみに青筋が浮かんできたことと、雄之介のマイペースぶりに。グレイフィア・ルキフグスといえば上級悪魔でもかなりの実力者であったはず。そんな相手を怒らせれば領地内でも手加減されたとしても、口止めくらいであったにしろ殴られてもおかしくない。
「アンちゃん、OKだって!じゃあ、行こうか!……では、これで」
グレイフィアと自分への変化が激しい雄之介は思ったよりも暢気でないのではないだろうか、とアンは思った。小さくであってもお辞儀してトライドロンに乗り、アンは幼馴染の少女の家に向かうこととした。
※※※
「……ええ、私です」
『やぁ、彼は引き受けてくれたかい?』
「いえ、それが……」
『ふむ、断られたのか……。しかし妙だね、あの超人ジョーカーが?』
「ええ。仇為すのであれば許さないと」
その後、グレイフィアはグレモリー邸に戻ってからサーゼクスに連絡していた。
妻でもある彼女が怒ったら怖いというのは重々承知しているサーゼクスであったが、彼にとってはことがことなので珍しく宥めることをしない。電話越しにもサーゼクスの様子が普段と違うのを察すると、怒りが収まる。
『最悪の場合、アレを使っても良さそうだ』
「アレ、とは?」
サーゼクスの声の調子が上がったのを確認できた、そういえば最近に良いものを手に入れたと言っていたがそれのことだろうか?
『オーズドライバーさ』
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