オーバーロード ~ナザリックの華達は戦っている~   作:SUIKAN

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最初に、時間が葬儀前に戻る、Interlude的なネム視点の話をプラスで少し。


STAGE07. お姉ちゃんが変/…支配者の気紛れ(4)

 

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「えっ、あぁ、ネム。ゴメンね」

 

 少し赤毛の幼いネム・エモットが、姉、エンリのおかしな変化にはっきりと気が付いたのは、両親の墓を掘る姉の手が何故か止まっていた事からであった。

 

「うぅん、何でもないの」

 

 そう姉は言って作業を再開したが、すでに三度目である。

 子供は予想以上に敏感であり、加えて良く知る姉の事。両親が亡くなったばかりであり、不安の広がる感情が自然と幼女の心を支配し出す。

 今朝まで、家族四人で優しい村のみんなと楽しい生活を送っていた。

 それがいきなり、村へ鎧を着た残酷で憎い悪魔といえる騎士達が現れ、隣の優しいおばちゃんや、向かいのよくおやつをくれたお年寄りのお爺ちゃんらを斬殺した上で、大好きだった両親らにも襲い掛かり……。

 あの地獄から半日経った今、家族は姉と二人きりになってしまった。

 その只一人の肉親で、いつも傍にいる大好きな姉が、何故か少し遠くへ居るように感じたのだ。

 さっき、村長さんのお嫁さんのおばちゃんが、姉をどこかへ連れて行った後に帰って来てから、姉のエンリは何かをずっと考えているみたいに思える。加えて雰囲気が少し変わって見えた。

 皆、気が付かないが姉は実は結構サバサバしており、これまでも他人より妹である自分や両親の事を大事にしていた姿をよく知っているが、同等かそれ以上と思える誰かを見つけたような感覚だ。

 それに近いものを、ネムは幼いながらいくつも見て知っている。

 まずは、以前から偶に村へと大都市からやって来る薬師の少年、ンフィー君だ。村の人達とは普通に話をしているが、姉のエンリには何か特別の想いがあるようで、世間話を熱心に話し込んだり、稀に何か決心を伝えようとしながらも出来ず、目線が空を泳いだりしていた。

 そんな少年へ、エンリは村人達と変わらない対応だ。笑顔はネムや両親へ向けるものより、少し距離が有るモノであった。その壁に、少年は気付いていなかったが。

 また、村でも働き者で気立てのいいエンリの『伴侶へ』という人気は高い。今16だが、以前から年齢が合わずという形で、他の村娘と結婚した男達が何人かいる。この世界では、多少の若年や年齢差は気にされない。まあ、一番の理由はエンリが彼等に関心無く、納得せず首を縦に振らなかった事だろう。

 彼等の、姉へ向けてのそのどうしようもない雰囲気が、今の姉から感じ取れるのだ。

 ふと、ネムは姉の小さい変化が、あのすごく強い骸骨の方との出会いから始まっていることに気付く。初の出会いは無慈悲で残虐な騎士達に襲われ、姉は背中を斬られ血が服へと急速に広がっていくのを見ていた直後で、ネムも正に恐怖のどん底で、骸骨の方への見た目の恐さで漏らしてしまっていた。

 だが、その方は怖がる自分達を怒る事も無く、大事に守ってくれたのだ。気が付けば、服まで綺麗にしてくれていた。

 姉は彼が去った後に、とても感謝している気持ちを何度となく口にしていた。その様子から凄く尊敬もしていたと思う。

 ネムにとっても、今は彼に対して『怖い』という感情はなく、すっかり姉や村を救ってくれた『英雄』的な眼差しと思いに変わっている。

 彼がたとえ、華麗ながらも夢物語の様な天使達を率いていて、人では無かったとしても……。

 姉を傷付け、村のみんなや両親のカタキである、あの憎い騎士達をほぼ全て討ち取ってくれてもいるのだもの。

 姉はもう良いお年頃である。寂しいが近いうちに、どこかへとお嫁に行くだろうと思ってもいた。だが、お金持ちだと知るンフィー君にも男として関心がない、あのサバサバとした姉が、いつ誰の事を好きになるのかと思っていたが――人外?

 それは、骸骨のアインズさま?

 

(お姉ちゃん……、そうなの?)

 

 今も、墓の穴を掘りつつ頬が赤いような、そして邪魔な前髪を指で上げながら、熱い溜息までも()いている。

 ネムとしては別に気にしていない。姉が幸せならそれでいいのだ。ただ、一言強くお願いするだけだ。

 

 ――お姉ちゃん、私も一緒に付いて行ってもいいでしょ、と。

 

 小さい妹ネム・エモットは、断られても駄々を捏ねまくってでも、姉に付いて行くつもりである。

 

 

 

 

 

                 ※ ※ ※

 

 

 

 

 

 神官風の集団に包囲されているとの報告を広場で受けたガゼフが、無為に殺された多くの命を思い、苦々しく呟く。

 

「来たか。スレイン法国と言うのは本当の様だな。神官の服をそのまま見せているという事は姿を隠す考えはなく、知る者は全て殺して闇に葬ろうという傲慢な意図を感じる」

「そうですね」

「おそらく、六色聖典(ろくしょくせいてん)の何れかだな」

「六色聖典?」

 

 アインズは初めて聞く呼称に聞き返す。

 

「定かではないが、スレイン法国にはいくつかの特殊な部隊が存在し、その部隊は大きく分けると六つあると言われている」

「そうですか……国家お抱えの部隊とは随分と、王国戦士長殿へ力を入れられているのですね」

「ふふふ、全くですな。少し失礼。奴らの様子を確認しなくては」

 

 その場を去りつつガゼフは、まだアインズの皮肉に笑いを浮かべていた。

 スレイン法国の強さはこの周辺国の中では突出していると思われる。それを影で支えるのが強大な魔法を駆使する特殊作戦部隊『六色聖典』である。

 スレイン法国の南方には人間種とは異なる国家がいくつか存在する。人間種は他種に比べて弱い種族なのだが、スレイン法国はそれを覆して領土を維持していた。

 そんな、『六色聖典』の一部隊と思われる絶対的強兵団に周辺をすでに囲まれながら、横に居るアインズとその配下は全く動じていないことにガゼフは気が付いていた。

 それが何を意味するのか――彼は感じ始めている。

 

 

 

 

 

 スレイン法国神官長直轄特殊工作部隊群、六色聖典の一つである陽光聖典(ようこうせいてん)

 所属者は、全て第三位階の信仰系魔法を使える必要があり、部隊員は100人弱しかおらず法国の精鋭中の精鋭と誇れる一翼である。

 その中から隊長のニグン・グリッド・ルーインが主導し以下四十五名が、神官長より直接受けたこの王国戦士長抹殺指令を実行していた。

 神官長からは、相手が王国最強の戦士という事から、切り札といえるアイテムを託されている。しかし、自身も法国で数えるほどしかいない第四位階魔法の使い手且つ、複数の他者の魔法力を強化できるという生まれながらの異能(タレント)持ちであり、あくまでも預かったアイテムはお守りという考えで臨んでいる。

 自分と自身の率いる精鋭部隊、陽光聖典の前では、リ・エスティーゼ王国最強の王国戦士長、ガゼフ・ストロノーフも恐るるに足らずと。

 

 今回の抹殺は、人間種のため――。

 

 スレイン法国が掲げるのは、人間種以外の種族淘汰志向である。

 そのためには、世界でも少なくなってきている人間種は勢力を一つに纏まるべきであるという考えの下、他国の柱石となる英雄級の人物を排除しようとしているのだ。

 だが、陽光聖典は元々隠密や野戦に長けた存在ではなく、また一般兵の陽動部隊を上手く動かせず、すでに村を4つ襲って全てを無駄に空振っていた。しかし、それに対し隊員を含めニグンも、後悔や負い目などは余り感じていない。ただ、面倒臭くなってきた事と、訓練にはなったなと思うくらいだ。

 ニグンは陽光聖典の多くの部下らを前に口にする。

 

「人間種が一つになって纏まり共に歩むためには、犠牲は必要なのだ。分かっているな?」

「「「「はい」」」」

「では、正義の礎となる作戦を始めよう」

 

 その場にいる全員が、魔法を発動する。彼等が修めた天使召喚魔法を。

 すると、宙に浮かび白く輝く翼の生えた無機質で機械的な人形型の天使が現れる。それは異界より召喚されてくると言われるモンスターだ。

 だがそれらは、スレイン法国ではかの地で神に仕えていると考えられている。

 しかし、リ・エスティーゼ王国の神官らは、単なる召喚モンスターの一種に過ぎないと断言していた。

 その考えも許せないのである。そういった宗教論争も、国家レベルでにらみ合う理由の一つになっていた。

 

 

 

 

 

 天使が等間隔で周りを囲う様子を、村の外れよりガゼフは直接部下数名と確認する。

 今回見る天使は、いつも見る天使とは違い、光り輝く胸当てが増えていて手に持つロングソードは紅蓮の炎が付加されている。

 戦士長は数と姿を確認し終えると、アインズらの居る村の広場へと戻って来た。

 

「ゴウン殿、少しよろしいか?」

 

 アインズは頷くとルベドらを広場に留め置き、そこから一つ入った道へガゼフと共に二人だけで移動していく。

 

 

 残されたソリュシャンは、周りに人間が居ないことを確認すると、吐き捨てる様に口を開く。

 

「下等生物どもめっ。皆ブチブチと引き裂いてしまえばギャァギャァと鳴いて面白いですのに。アインズ様は慈悲深いから、色々とお助けになりますわね。どう思いますか、姉様?」

 

 左眼帯のシズは右目をゆっくりと横に動かし、ソリュシャンへと無表情な顔を向ける。

 

「……アインズ様の……ご意志に従い、……私達……盾となり……守る。……アインズ様……私達……いつも……大切にする。……昨日……頭……撫で……られた」

 

 ポッと、シズの無表情なはずの頬が染まる。

 

「あっ、姉様ずるいですわ。ナデナデはもう四回目ですよねっ。私なんて、こちらに来てまだ肩と腕との二回しか触れて頂いていませんのよ? ナデナデなんて無しですのよぉ? 私は……魅力がないのでしょうか?」

「……ソリュシャン……とても……美人。……だから……きっと……照れて……られる」

「それは……美人は触って頂けずに損ってことですかぁ? た、確かに……。さっきも、下等生物の平凡な薄汚れたメスでさえ、アインズ様から優しく肩へ手を置かれていたというのにぃ」

 

 そう言いつつ、ソリュシャンは袖先を悔しそうにキィィーと噛んでいた。

 

「くっ。とりあえず慰めに、アインズ様のお声を漏らさず聞いておきますわ……」

 

 それでも、彼女の仕事に抜かりはない。

 その横で退屈そうにしているルベドであるが、興味無さそうにしつつその目がプレアデスの姉妹をチラチラといつも追っていた。

 

「……ふっ(プレアデス達はいつも仲良し姉妹なのが最高っ)」

 

 ルベドは顔を静かに背ける。ニヤケ顔を誰にも見られないようにと……。

 

 

 厳しい表情のガゼフは、アインズを前にして悔しそうに言葉を吐く。

 

「相手は、数と質で我が隊を上回っているようだ。私の装備が万全なら良かったのだが」

 

 今のガゼフは完全装備ではなかった。本来彼には王家に伝わる五宝物……現在は四つしかないが、疲労しなくなる『活力の籠手(ガントレット・オブ・ヴァイタリティ)』、常時癒しを得る『不滅の護符(アミュレット・オブ・イモータル)』、致命的な一撃を避けるとされる最高位の金属アダマンタイトで出来た『守護の鎧(ガーディアン)』、鎧をバターの様に切り裂く魔法の剣『剃刀の刃(レイザーエッジ)』の装備が許されている。だが、それらが今はない。

 工作員により、王国の貴族達を動かし、今回の出陣の際だけ制限を付けられていたのだ。

 その、不足した部分をガゼフは、目の前にいる男の力で補おうと考えた。

 

「ゴウン殿、包囲する敵との戦いに手を貸して頂けないだろうか?」

 

 この場に村長はいない。アインズとしては、戦士長の本気で放つこの世界特有の特殊な剣技がどんなものかを是非見たいところである。協力した場合、その前に決着が付いてしまうだろう。そのため今は断るしかない。

 

「申し訳ないが、これは貴国の問題での戦いかと」

「もちろん、報酬についても十分に用意するつもりだ」

「いや、お断りさせて頂きましょう」

「あの召喚された黒い騎士を、貸して頂けるだけでも構わないのだが?」

 

 アインズは一瞬悩む。確かにデス・ナイトを一国の精鋭である魔法詠唱者の部隊にぶつけるのも悪くない。だが、マーレがすでに弱いと言ってる相手。圧勝してしまう場合、ガゼフの特殊である剣技が見られない事になる。今、彼がアインズに頼むのは、敵を視察して少なくとも全力でも拮抗するか苦戦すると判断したためだ。戦士長に匹敵すると思われるデス・ナイトを一体でも加える訳にはいかないだろう。

 

「それもお断りさせて頂きます。そうですね……私に出来ることは、隙を見て村人達を逃がすことぐらいです」

「……そうか」

 

 ガゼフは、アインズの考えにも納得できる。これは王国の問題でガゼフ自身が標的。アインズは完全な迸(とばっち)りであり、正面から強力だろう魔法を使う敵を相手にしての戦いへ関わりたくないのも当然の考えに思えた。

 ガゼフは、王国の民である村人を守ることを当然第一に考えている。

 それならば、道は有る。ガゼフの表情が和らぐ。

 

「では、ゴウン殿、村の者達の事をお願いしても構わないだろうか。我々が王城のある西方を目指し敵陣の包囲を突破し引きつける。そうなれば、一時的にでも村の包囲を解いて私を追おうとするだろう。その隙に、東の方へと村人を逃がしてはくれないか。申し訳ないが今は手持ちもない、出来ることは――」

 

 ガゼフは、その場へと膝を突こうと身を屈める直前、アインズは手で押し留める。

 

「そこまでされる必要はありません。一度は守った村人達です。必ず今度も守りましょう。このアインズ・ウール・ゴウンの名に掛けて」

 

 アインズの気遣いと、名をあげての誓いにガゼフは胸の閊えが取れていた。

 

「……感謝するゴウン殿。ならばもはや後顧の憂いはない。前のみに進ませて頂こう」

「そうだ、これをお持ちください。お守りです」

 

 「ほぉう」と言いながら、ガゼフはアインズが出してきた、小さい変わった彫刻像を受け取る。

 

「君からの品だ、有り難く頂こう。ではゴウン殿、名残惜しいが」

 

 二人の立つ場所には眩しい赤い夕陽が当たり始めている。

 

「もう? 夜陰に紛れてではないのですか?」

「ふふっ、囮が隠れていては意味があるまい。それに、〈闇視(ダークヴィジョン)〉などの魔法もある。こちらの不利はあっても、あちらの不利になる可能性は低いだろう」

「なるほど。王国戦士長という地位に相応しい考えです。隊の皆さんを含め、御武運を祈っています」

「ゴウン殿らも是非無事なことを祈っているよ」

 

 村人達の事を優先する戦士ガゼフの心意気は、人間であれば大きく心を打たれていただろう。だが、アインズは死の支配者(オーバーロード)

 大きい感慨は一瞬で霧散する。

 

(悪い気はするがこれでよし。剣技をしっかりと見せてくださいよ、王国戦士長殿。その後は心配なさらずに)

 

 ガゼフは、小走りで広場に戻ると馬に飛び乗り勇ましく叫ぶ。

 

「全員騎乗! 出陣するぞっ!」

「「「「おおおおっ!」」」」

 

 夕暮れの中、二十余騎の馬脚により、薄い土煙が広場に広がり少しの時間残された。

 アインズがシズ達の所へとゆっくり戻って来る。村長が小さくなりゆくガゼフの戦士騎馬隊を呆然と見送る。

 

「出ていかれてしまった……。王国戦士長様達はこの村を守ってはくれないのでしょうか?」

「敵の狙いは戦士長殿なのです。ここで戦いになれば、村人達にも被害が出てしまいます。あの方は打って出る事で、相手を引きつけ動揺と隙を作ろうとされているのですよ」

 

 アインズは、戦いの隙を見て村から避難する可能性を一応村長へ伝えた。すると村長は、足早に皆が集まっている場所へと伝えに向かう。

 アインズはその様子を見送ったあとに呟く。

 

「まあ、その前に決着は付けようと思うんだがな。……人間に対して、初対面では虫程度の存在だが、顔を合わせ話をしていると小動物に向ける程度の愛着が湧くな。戦士長やこの村は幸運と言えるだろう」

「尊き名前を用いてまでお約束されたのは、その為ですか?」

 

 シズやソリュシャンらは見詰めてくる。ガゼフとの会話が聞こえていたようだ。

 ソリュシャンのその問いに「ああ」とだけアインズは答える。

 アインズの考えはナザリックに於いて絶対である。その意志と意見は最優先で尊重される。たとえ対象が下等生物であっても。

 戦闘メイドプレアデスのシズ・デルタとソリュシャン・イプシロンは、主の命に従うのみである。ルベドは直接指示された訳ではないが、聞いてしまったものは仕方がないという態度であった。

 シズは主へと確認する。

 

「……アインズ様……私達……どう動き……ますか?」

「今のところは、暗殺戦闘劇を見物だ。この世界の魔法の水準と種類、そして不明である剣技に乗せる特殊ななにかを見極める。動くのはそれからだ」

 

「……了解……です」

「畏まりました」

 

 

 

 

 

 

 馬を駆る王国戦士長のガゼフは、戦術を改めて考える。

 先程確認した包囲をしている神官達の間隔はかなり広い。それから判断すれば、敵は各自の腕によほど自信のある少数精鋭だ。それでも一点突破は難しくないはず。だが、村人を逃がす為には包囲の東側の多くを、西側へ呼び込むまで引き付けなければならない。

 となれば、一度包囲を抜いたのち折り返し、その周辺の敵を倒しながら、徐々に西へ撤退しつつ敵の指揮官らが群がって来るのを躱す。そうして、村との距離と時間を稼ぎながら、機を見計らって逃げ去るという形が最良という事。

 

(……さて、上手く躱し逃げ切れるか)

 

 相手は、素人では無くスレイン法国六色聖典の精鋭の一隊と思われる。

 逃げながら背に攻撃を受けることになるだろう。しかしやらねばならない。王国戦士として民を守るのだ。これは誇りある戦い。

 だが標的は自分。勇敢で優秀な部下までも巻き込む事に、申し訳無さそうな表情で率いる部下へと振り向くが――目に飛び込んで来た顔はどれも笑っていた。

 

「すまんな、みんなっ」

「気にする必要は全くありません!」

「そうです、我々は隊長と共に民を守る者なのですからっ!」

「よし、敵に一撃を加えながら包囲網をこちらへ引き付けるぞ。最後に撤退するが遅れるなよ」

「「「「了解っ!」」」」

 

 ガゼフは思う。こいつらは皆、分かっていると。これが厳しい戦いであることも。

 ならば、後は卑劣な敵を皆で倒すのみ。

 

「行くぞぉ! 凶悪非道な奴らの(はらわた)を抉り切り裂いて、罪を償わせてやろうっ!」

「「「「おおおおおおおおおおっ!!」」」」

 

 前方にかなりの間隔で数体の天使が浮かぶ。そのうちの一体を操る者へとガゼフは隊を率いて突き進む。目標にはもってこいである。

 距離を縮めると戦士の一人が鋭い矢を放つ。それは前方の魔法詠唱者の額へ一直線に向かう。しかし、当たる直前で弾かれた。

 

「ちっ! やはり魔法で矢を防御されているか」

 

 魔法の矢なら刺さるかもしれないが、残念ながら扱えるものが部隊にはいなかった。その後に撃つ数本の矢も、体に当たるコースにも拘らず全て弾かれていた。矢による攻撃を諦める。

 すると魔法詠唱者が、先頭を走る戦士長へ目掛けて魔法を放つ。

 ガゼフは咄嗟に魔法へ抗するべく気を張り、左腕で顔を庇い精神を集中する。

 魔法が命中すると急に馬が嘶き、前脚を高く上げる形で立ち上がり、蹄が空をかいた。

 

「私に構わずに前へ食い付けっ、あとは走り抜けろ!」

 

 ガゼフの指示に、戦士騎馬隊のスピードは落ちない。戦士長の両脇を副隊長が率いそのまま抜けて魔法詠唱者へと迫る。

 だが、立ち上がった馬の高い位置からガゼフは見た。凄い勢いで、周囲に浮かぶ天使達が集まって来ているのを。

 

(くそっ、流石にスレイン法国の精鋭だな。俺には初手の包囲突破すらさせないつもりか)

 

 すでに戦士騎馬隊は、手前の魔法詠唱者へと襲い掛かっていた。

 だが――それを空に浮かんでいた天使が降りて来て頑強に阻む。

 王国戦士たちは、果敢に剣で天使へ切りつけていく。だが、天使は強靭で頑丈である外甲によって構成されているようで、当たっても金属音を放ち僅かに傷つく程度。さらに天使が燃え盛るロングソードを振り回す。

 戦士騎馬隊は中々魔法詠唱者へ攻撃出来ない形で走り過ぎていった。

 立ち上がった馬を落ち着かせて、ガゼフが騎馬隊を追おうとした時には、右手から10数体、左手からも10体ほどの天使が正面で合流する形になろうとしていた。

 その後も、神官風の魔法詠唱者らを含め続々と集結してくる。

 

(偶然にも部下たちが死地から離れた。厳しい戦いになりそうだが、全然悪くない……狙い通りだ)

 

 死ぬなら自分だけでいい。道連れに、敵の指揮官ぐらいは連れていくつもりである。

 ガゼフは先程確認した包囲状況から敵の天使の総数は45体程と見ているが、すでに視界内へ40体近くが集まってきていた。これならほぼ全部集まってくるだろう。東側はガラ空きになる。

 ガゼフは内心だけでほくそ笑む。ここで感付かれてはいけない。

 彼の目線は前の敵を厳しく睨み付けている。

 

「さて、戦いの前の挨拶といくか」

 

 ガゼフは、平地へ横一列に並ぶ敵陣形の中間付近から、他と異なる一体の大きめな天使と5名程を従え、一歩前に出る者らと40メートル程の距離で対峙する。彼は王国戦士長として堂々と名乗りを上げる。

 

「私は、リ・エスティーゼ王国所属、王国戦士長のガゼフ・ストロノーフ。卑劣に他国へ侵攻した薄汚いお前達よ。どこの者かぐらい名乗ったらどうだ?」

 

 居並ぶ神官の姿は、改めて近くで見ると全員上質の服装と杖や腕輪などの装備。間違いなくスレイン法国の者だろう。その中の指揮官らしき人物が口を開く。

 

「これは、これは、前を失礼する、ストロノーフ殿。私はスレイン法国六色聖典の一つ、陽光聖典隊長のニグン・グリッド・ルーイン。正義の行いに国境など無意味だと思うが?」

「何が正義か、賊軍が! 話すだけ無駄だったな。貴様ら、無傷で帰れると思うなよ――参る!」

 

 その声に対し、ニグンは余裕の薄笑いを浮かべつつ、部下へ命じる。

 

「そら、戦士長様を盛大にもてなして差し上げろ」

 

 さすがに多勢に無勢。ならばまず指揮官を落とす。戦士長の狙いの切り替えは早い。

 馬から飛び降り、速攻でニグンとの間を詰めようとするガゼフ。だが、すぐ邪魔をするようにニグン配下の操る天使の一体が、炎のロングソードで切りつけてくる。ガゼフにとってその攻撃は遅い。余裕で躱し、抜き放ったバスタードソードで天使の腰部を一閃。真っ二つにしたつもりであった――が天使の胸に輝く見慣れない胸当ては伊達じゃないようだ。切り裂けずに天使を投げ飛ばす形になった。

 ガゼフの知る天使のモンスターよりも上位の天使のようだ。それは、陽光聖典側の魔法詠唱者達の優秀さを示していた。

 彼はすぐさま武技〈戦気梱封(せんきこんぷう)〉を発動する。すると僅かに赤みのある微光が刀身に宿った。そして次に迫る天使の攻撃を躱すと、電光石火に剣を振り抜く。

 その赤みのある微光を放つ刀身は天使の体を袈裟懸けに切り裂いていた。

 さらに続く天使も一刀で両断する。二つに切られ破壊された天使らは、舞い散った羽根をキラキラさせつつ空中に溶けるように瞬き消えていく。

 まだまだ天使が押し寄せて来るのを見たガゼフが吠える。

 

「消えろっ!」

六光連斬(ろっこうれんざん)

 

 武技〈六光連斬〉、複数の武技の同時発動――ガゼフの身体の筋肉が瞬間僅かに盛り上がって見える。

 

 ――一閃にして六つの斬撃。

 

 ガゼフに群がっていった天使8体は、十秒ほどで姿を消していた。

 その高い攻撃力にニグンも言葉が漏れる。

 

「ほぉ、これは見事な武技。流石は王国最強の戦士と言われるだけはあるな。だが――それだけだ。天使を失った者は次の天使を召喚せよ」

 

 この頃には、村を包囲していたであろう、魔法詠唱者全員がこの地に集結を終えていた。狙いはあくまでもガゼフの様だ。

 天使を失った魔法詠唱者が天使召喚魔法を唱えると、消えた天使達は再び現れる。

 

(やはり不味いな。先に詠唱者を倒さないとキリがない)

 

 ガゼフは――一つ大きく肩で息をした。

 大技を使うと一時的に圧倒的な攻撃力を得る代わりに、比例して体力を奪っていく。王家の宝物があれば自動回復出来るのだが、今は自分の体力のみで凌ぐしかない。

 休む間もなく次が来るかと思われたが、そこに叫び声が轟く。

 

「「「「戦士長ぉっーーーーーーー!」」」」

 

 ニグンらの後方から、戦士騎馬隊の一団が陽光聖典へと襲い掛かる。幾体かの天使はそちらへ振り向けざるを得なくなる。

 

(あ、あいつら、戻って来やがって……本当にバカで、自慢の奴らだ)

 

 怒りと喜びが交錯してしまう。だが、これは好機に他ならず、利用しない手はない。

 その少し混乱する隙に、迷わずガゼフはニグンに近付こうとする。

 だが、王国戦士騎馬隊に向けられた天使は10体程度に過ぎない。

 まだニグンの周囲には、30体を超える天使達が、壁のようにひしめいている。

 

「はあぁあーー、邪魔だっ!」

〈六光連斬〉

 

 周りを囲む天使の6体を一蹴。だがまだまだ残っており、天使の振るうロングソードがガゼフに迫る。

 

「くっ」

〈即応反射〉

 

 ガゼフの体は霞むように躱し、天使を一体、また一体と切り捨てる。

 更に、彼は畳み掛ける。軽やかに上へ跳躍した。

 

「はぁっ!」

〈流水加速〉

 

 流れの行き着く渦のように回り加速し、周囲の天使達数体をあっという間に切り裂いて見せた。

 ニグンの前にいた天使三十余の半数が消え失せる。

 その雄姿に、天使10体の攻撃を受ける部下の戦士達から歓声が上がる。常人では対抗しきれない天使のモンスターを圧倒出来る存在の姿に。

 ――やれる。この戦士長がいれば勝てる、と。

 だが、すぐに彼らに歓声を上げる余裕はなくなっていく。隊ではガゼフ以外の者に武技は使えない。そして魔法を使える者もおらず、彼等の腕と剣で傷を付けれても天使を倒す事は難しかった。

 そのため、戦士騎馬隊の隊員達はジリジリと傷付き倒れていく。天使達は敵の無力化を優先させており、トドメは後でいいと、動ける戦士へ攻撃を向けるように魔法詠唱者は操作しているようだ。

 そして、無休での全力の戦いにガゼフも余裕が無くなってゆく。

 いくら天使を倒し消滅さそうとも、消えて間もなく再召喚を続けられては、ニグンへは届かない。

 ――遠い。

 だが、この指揮官だけはという思いが、ガゼフを加速させる。そして、まだ息の有る仲間のもとへと。

 ガゼフは大技〈六光連斬〉と〈流水加速〉を連発し、ニグンへと迫った。

 

「ふっ、監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)よ、少し相手をしてやれ」

 

 一回り大きい監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)は輝く全身鎧を纏い、右手に柄頭の大きいメイス、左手には円形の盾を持ち、周辺の天使よりも迫力と威圧を感じる。本来、監視の権天使は静止時に自軍構成員の防御力を若干引き上げる能力もあり、動かさないのが常道だ。

 しかし敵はもはやガゼフ一人と言える優勢な状況であり、余裕であるとし稼働させる。

 ガゼフはジグザグを描きつつ、構わず正面から監視の権天使へと武技を乗せたバスタードソードで真っ二つにするべく切りつけた。

 監視の権天使は――それを盾で受け止めていた。

 ガゼフの両目が見開かれる。

 確かに盾の半分までは切り裂けていたが、強固で硬い。

 

「ぐっ(クソっ)」

 

 権天使からメイスが高速で振り下ろされてくる。

 

〈即応反射〉

 

 素早く剣を引き、振り下ろされてきたメイスをギリギリで霞むように躱し、戦士長はそれを踏み台にするようにして高く跳躍する。

 そして、配下の天使に守られ驚くニグンの高き頭上を跨ぎ、仲間達を背に庇うように反対側へ降り立つ。

 仲間の戦士達を襲っていた10体の天使群が、間を置かずガゼフへと群がって来る。さらに、向きを180度変えた30余体の天使達も。

 

「幾らでも来い、貴様らの天使など大したことは無いっ。ガァァァァーーーー!」

 

 ガゼフは野獣のように咆哮をあげつつ、それら全てを只一人で迎え撃った。

 大技〈六光連斬〉と〈流水加速〉の連続使用は新記録だろうなとすでに数えるのを止める程使用して。

 

「獣が囲いを破壊しようと暴れているだけだ、無駄だという事を調教してやれっ」

 

 合間にニグンの叱咤する声が響く。

 

 ――どれぐらい戦い続けただろうか。

 天使達は監視の権天使以下数体を残し見事に殲滅されていた。再び召喚され再投入を繰り返されていたはずであるが。

 精鋭である陽光聖典の魔法詠唱者達も、その状況に驚きは隠せない。これまで殆どの敵を、手早く容易に殲滅してきた部隊であったのだ。

 しかし、ニグンだけは静かにじっくりと観察していた。ガゼフの身体酷使による膝の疲労度合いを。すでにカクカクとしている。

 体力の回復手段もなく、武技が無限に発動できるものではないことは周知の事柄。あれほどの大技をいくつも良くこれだけ使えたものだが、どんな豪傑でも限界近くで酷使すれば体力の底は三十分もすれば見える。

 

「(王国最強もここまでだな。最後までボロボロにしてわが国の威信を示してやろう)全員、十分な間合いを取っての魔法攻撃に切り換えろ! さぁストロノーフ殿、食後のデザートだ。遠慮せずじっくりと味わいたまえ。はははっ」

 

 ニグン達は、距離を置いての苛烈である魔法攻撃を仕掛ける。

 ガゼフは、全身が極度の疲労で、すでに思うように切り込めない。大技はあと二回使えるかという極限の感覚。

 ――動けない。

 ガゼフは、すでに震えの来ている手でバスタードソードを構えながら、全身に無数の攻撃魔法を受けていく。武技〈戦気梱封〉により、打ち据えられる各一撃に対して殆ど弾くことが出来る。だが、それでも僅かずつだが、じわりと削り取るように攻撃が浸透してくるのを感じていた。

 

(くっ、最後の隙を期待するしか今はない……)

 

 だが、そんな時が来るのだろうか。

 

「がはぁっ」

 

 毒の魔法も混ざっているのだろう。ガゼフは鮮血を吐き出していた。

 その満身創痍の様子に、ニグンは止めを刺すように配下へと告げる。

 

「もういいだろう、天使達を召喚し詰めの攻撃に移れ。早い者勝ちだぞ?」

 

 王国最強の戦士をこのまま倒せば最大の栄誉者は、隊長の自分になるのだ。少しは武功を部下にも恵んでやろうという配慮であった。

 詠唱の声に多数の天使が、強欲のように湧き始めてくる。

 ガゼフは、包囲されるのは不味いと感じ、天使召喚で今まさに、一瞬だけ魔法攻撃が凪いでいるのを好機と感じた。

 

(くっ、ここで切り込むしか)

 

 だが、欲に塗れた者達の行動は素早かった。すでに数体の天使がガゼフに襲い掛かる。

 ガゼフは、よろめきながら2体を切り倒す。

 

 が――ずぶりと腰に熱い感覚を覚えた。

 

 彼が視線を落とすと、後方側面に回って来ていた天使により刺された、炎の鋭いロングソードが腹から突き出していた。

 引き抜かれた瞬間「ぐふっ」と声が自然に漏れ、体がうつ伏せに沈んでいく。

 その様子にニグンが、嬉々とした声を上げるのがガゼフにも聞こえる。

 

「はははっ、最後の止めだ。だが、一体では無く、数体同時で確実に喉と心臓を貫いてやれっ!」

(おのれ、まだ死んでたまるか。――貴様を殺す前に)

 

 戦士長は死など恐れてはいない。だが、戦う術を持たず罪のなかった多くの村人達を殺す指揮をした、この男だけは道連れに倒しておきたいと願望する。

 ガゼフはニグンを睨み付けながら、ゆっくりと立ち上がる。

 

「はあぁぁぁぁぁぁ、なめるなぁぁーーー!」

 

 気迫の籠った武技の込められた雄叫びの効果に、天使達が僅かに後退する。

 

「俺は王国戦士長っ! この国を愛し守る者だ! この国を汚したお前らに負ける訳にいくかぁぁっ!」

 

 命を懸けた全身全霊全力全開の最後の武技を、指揮官へ見舞ってやる。

 そんな決意を秘めるガゼフを眺め、ニグンは戯言に感じニヤリと口許を緩ませる。

 

「夢物語な事を。現実を見ろ。こんな辺境の村人などさっさと見捨てれば、貴公は死なずに済んだものを。村人数千人より貴公の力や命の方が価値があるのだ。国や民が大事ならそうすべきであったのに、愚か者め」

「貴様とは、本当に話すだけ無駄な様だな、行くぞ?」

「はっ、立っているのもやっとな満身創痍の身体でまだ吠えるのか? もう無駄な足掻きは止めて、そこへ大人しく横になれ。強さと勇敢さに免じて苦痛なく殺してやろう」

「では、お前が止めを刺しに来たらどうだ? それまで、ここで動かんぞ?」

「はははっ、戦意だけは本当に大したものだ。これでまだ、勝算でもあるというのか?」

 

 ニグンもまだ油断はしていない。相手は王国最強の戦士長である。近接戦用のアイテムもあるかもしれない。

 ガゼフも、最後の瞬間まで諦めていない。鋭い眼光で睨んでいた。

 何故心が折れていないのか、ニグンはそれが気に入らない。

 

「無駄な努力を。そうだな――せめて、最後に守ろうとした村人で、若く生きのいい女ぐらいは奴隷として生きて連れ帰り、後で味見ぐらいはしてやろう。安心しろ、あとの村人は全員殺しておいてやる、貴公らの戦いは無駄だったとなぁ」

 

 それを聞いたガゼフは、ツボにでも入ったかのように、急に眼を閉じて笑い始める。

 

「くっ、くく……くく……あははははっ」

 

「……な、なにが可笑しい? この状況に気でも狂ったか?」

「ふん、いや失礼。無知なことは余りに愚かで恐ろしい事だとな。……あの村には、俺よりもずっと強い御仁がいるぞ。いや、シモベの黒い騎士達だけでも貴様らには十分かもしれん。その底の知れない御仁が守っている村人を殺すなど……不可能なことだ」

「……はぁ? 本当に気でも狂ったか? 王国最強と言われているお前よりも?」

 

 ニグンは不可解な顔をしている。王国随一の切り札が、正体不明の他者を持ち上げる事を言えば当然かもしれない。

 だが――事実だ。

 ガゼフもこれまで様々なモンスターと戦ってきた。あの黒い巨躯のシモベの騎士を見た時に、凄まじい威圧を感じた。それが三体。そして、ゴウン氏の後ろにいた美女三名。その少し小柄な一人の大剣を抱え持つ身から漏れ出るパワー。そして射出装置のような謎の機械を扱いなれた眼帯者の静かなる闘気。力に余裕のある金色巻き髪の無手者。

 彼はその雰囲気を知っている。アダマンタイト級冒険者「蒼の薔薇」達以上のものを感じさせていた。

 そして、それらを率いるゴウン氏はさらに別格。何かの深淵を覗くような、深入れば帰って来れないという風格があった。間違いなく真の強者だと戦士の勘が告げていた。

 

 ガゼフは薄笑いを続けていた。

 全く、気に入らないとニグンは吐き捨てるように冷徹な言葉を命じる。

 

「……天使達よ、ガゼフ・ストロノーフを串刺しにしろ」

 

 ゴウン氏の戦いぶりを見てみたかったがと、ガゼフが最後の武技を目の前の指揮官へくれてやるために動こうとした瞬間、すぐ横からその仮面の彼の声が聞こえた。

 

 

 ――そろそろ交代ですね。

 

 

 ガゼフは次の瞬間、周囲の風景が土間のような室内へと変わる。

 

「なっ?!」

 

 振り向くと傷ついた仲間達もいっしょにだ。気付くとその部屋には、他に避難して集まっている人間が数名居る。

 

「これは……王国戦士長様」

 

 聞き覚えのある声の方を向く。

 

「そ、村長か。……これは一体……ここは?」

「カルネ村の中の、私の屋敷横の倉庫です」

「ゴウン殿は?」

「それが、今までこの場におられたのですが、すぐに戻りますと告げられて間もなく、戦士長様らと入れ替わるように、三名の女性の方々と共に掻き消えられて……」

 

 ハッとして、ガゼフは腰に仕舞っていた小さな彫刻像を取り出す。

 しげしげと見ていると、それは役目を終えたように静かに消え去っていった。

 

「(すり替わりの魔法のアイテムであったのか?)……ゴウン殿、かたじけな……い」

 

 そう言い終えるや、ガゼフはその場に倒れ込んでいった。

 村長を初め、村人らが慌てて気遣ってくれる。

 

(何という御仁だ、全員を一瞬で転移……ゴウン殿のおかげで死なずに部下共々全員助けられた……)

 

 徐々に薄まる意識の中で、口許へ自然と薄笑いが浮かぶ。

 スレイン法国六色聖典の一つ陽光聖典。確かに恐ろしい連中であった。今の装備では完敗と言えるだろう。

 だがそれでも、あのアインズ・ウール・ゴウン達の負けるという光景が、全く想像出来なかった。

 

(……その……雄姿……、是非とも目で……見たかった………が……)

 

 ガゼフは腰の酷い傷と、溜まりに溜まった疲労により意識が薄れていった。

 

 

 




捏造・補足)姉様ずるいですわ 
本作に関しては捏造という「シズ姉」が「死に設定」に近い状態で継続中です(笑)
プレアデスの姉妹の大まかな順が記された「プレイアデスな日」の公開日は2016年06月26日。
なのでそれ以前に29話まで進んでいた本作とは設定に差がある形になっています。
33話の後書きに一応この辺りの詳細を書いてます。

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