とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す   作:たくヲ

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とある服屋と風紀委員

 家の場所を確認したあと確認した郵便受けによってメガネの男の名前は介旅初矢だと判明した。

 

 この名前は私の知識にある『虚空爆破(グラビトン)事件』の犯人と一致したんだよ。あの男の犯行であることはほぼ確定と言えるね。

 

 しかし、このままでは証拠がない。流石に『私の知識にあるから』という理由じゃ逮捕されないだろうから、証拠の確保が必要になる。

 

 証拠確保のため介旅初矢をつけた所、第七学区の洋服店『セブンスミスト』にカエルのぬいぐるみを持って入っていくのを確認したんだよ。

 

 この場所は私の知識にもある場所。『虚空爆破(グラビトン)事件』の最後の爆破地点なんだよ。奴が犯人なら、ここで能力を使うのはほぼ間違いないかも。

 

 半蔵には昨日購入したインスタントカメラを使って、もしも犯行の証拠があれば撮ってもらうことになっている。

 

 仕上はともかく半蔵なら、ばれずに尾行することも余裕でできるはずなんだよ。

 

 わざわざ屋上に来たのは能力を使ってきたときの対策を立てるためだ。

 

虚空爆破(グラビトン)事件』を止めようと行動を始めた時点でいくつかの魔術を用意していたからね。外にいた間にいろいろと魔術の道具を調達できたし、使用できる魔術も増えたんだよ。

 

 私は『(laguz)』のルーンが刻まれたカードを屋上に配置していく。学園都市とイギリス清教との交渉を進めている間、ステイルの魔術の強化のために造ったラミネートのカードだね。非常に汎用性が高いから、24種類のルーンとステイルの開発した6種類のルーンをカードケースに入れてそれぞれ200枚持ち歩いている。

 

 しかし、これだけの量のルーンのカードを常に運ぶのは大変だったんだよ。一枚一枚は軽いカードでも、200枚にもなると少し重くなってくる。それが30種類となるとかなりの重さだね。まあステイルは5000枚以上のルーンを持ち運んでもステイルの魔術においては『たいした量じゃない』みたいだし、ルーンを持ち運ぶための魔術もあるから、多少は楽なんだけどね。

 

 40枚ほどのルーンが一定の規則を持って配置される屋上に、私はさらなる準備のためカードを取り出す。

 

 とはいってもそれはルーンのカードではなくタロットカード。『黄色の短剣』と呼ばれる『象徴武器(シンボリックウエポン)』だ。私はいろんなところに配置できるように裏に学園都市製の両面テープを張っている。

 

 私は屋上を歩きながら、タロットカードの山札からカードをめくる。

 

 『象徴武器(シンボリックウエポン)』っていうのは『黄金系』と呼ばれる魔術結社達の持つ『天使の力(テレズマ)』を操るための儀式用魔術礼装の総称なんだよ。

 

 その中の一種であるタロットカードを用いた魔術は一枚一枚のカードの『色』と『数字』によりそれぞれ別の魔術を発生させることができ、カードの配置により儀式場を造りだすことにより天使の召喚を可能とするほどの力を持っている。ちなみに『黄色の短剣』は風の『天使の力(テレズマ)』を操れるんだよ。

 

 イギリスに攻め込む際にも用いたこのタロットカードの魔術だけど、今回は天使の召喚はしない。あんまり強い魔術を使うとアレイスターからにらまれるしね。

 

 『ソードの五』『ソードの七』『ソードの三』の三枚をルーンの配置を邪魔しないような位置に配置する。

 

 これは『天使の力(テレズマ)』を用いた魔術を放つための下準備に過ぎないんだよ。

 

 とはいえ、ここでできることは終わったし、次の場所に行こうかな。

 

 私は中身のわからない山札の中から一枚のカードを取り出す。私の記憶(・・)が正しければ、このカードは『ソードのエース』。すなわち『黄色の短剣の一番』を示すカードのはずだね。

 

 私はカードを表にして確認する。そのカードは『ソードの(エース)』。私は魔力をこめて魔術を発動させる。

 

 『ソードの(エース)』による魔術は移動魔術。私の身体が空気に溶けるように消え、『ソードの(エース)』のカード以外に私の位置を判別できる要素がなくなってしまう。

 

 ふわりと浮いたカードが『セブンスミスト』の店内に入るべく屋上から落下していく。

 

 

 

 

 

 私が魔術を解除したのはセブンスミスト店内の試着室だった。魔術を解除した私の身体はまるで空気というカーテンをめくったように無人の試着室内に出現する。

 

 試着室のカーテンはしまってはいなかったが、誰かに見られてはいなかった。私は試着室の壁に突き刺さっている『ソードの(エース)』を抜いて試着室の床の端に置いて外に出る。

 

 試着室の外は冬服の売り場である。人はほとんどいなかった。当然人がいないところを選んで魔術を解除をしているけどね。

 

 私はそのコーナーの服の間に別のタロットカードを配置し冬服コーナーを出る。

 

 そこで、電話が鳴った。

 

 携帯の画面には『浜面』の文字。

 

『インデックスか!?』

 

 何やら焦っているようだね。後ろから怒号のようなものも聞こえるんだよ。

 

「どうしたの?」

『すまねえ! しくじっちまった!』

「一体何が……」

『詳しいことは後で話す! あの野郎、()()()()()()()()()()()()()()()!』

 

 『子供にぬいぐるみを渡す』という、普通なら和むか、不審者を彷彿とさせるような言葉に、私は一瞬凍りつく。

 

『俺には追いかけられねえ! 半蔵もだ!』

「子供の特徴とどこに行ったかはわかる?」

『ピンクのヘアゴムでツインテール、年は小5くらいだ! 悪いがこれしか覚えてねえ! たぶん3階のどこかだ!』

「ありがとう。あなたは何とか出て、あの男を探しておいてほしいんだよ」

『それは半蔵がやってる!』

「なら半蔵と合流して! そして半蔵があの男に手を出そうとしたら止めておいてほしいかも」

 

 そう言いながらも私は走り出していた。この階は5階だし、一度降りる必要がある。

 

 その時、天井のスピーカーから声がする。

 

『お客様にご案内を申し上げます』

 

 その声によると『電気系統の故障が発生したため、今日の営業を終了する』という。

 

 タイミング的に爆発の兆候を確認した『風紀委員(ジャッジメント)』による指示だろうね。

 

 となると標的はやっぱり……。

 

 私はエスカレーターに向かいつつ周囲を見回す。下の階とくらべ少人数だった学生がエスカレーターに集まってくる。私はエスカレータに人が集まるより一足早くエスカレーターに乗り下に降りていく。

 

 私は取り出したタロットカードを一枚とり両面テープのシートを剥がし、エスカレーターの側面の動かない部分に貼り付ける。

 

 一階まで降りるまでに同じように3階と2階の間にもタロットカードを配置する。

 

 一階ではすでに入り口に向かう人の流れができていた。外に誘導される人たちの流れ。

 

 その左右には複数の店員と学生が客を誘導している。エスカレーターに乗った状態の高い視点からの景色は私に二人のよく目立つ女の子を見つけさせてくれた。

 

 一人は頭に大量の花をあしらった髪飾りを付けた『風紀委員(ジャッジメント)』。

 

 もう一人は私にも見覚えのある女の子。学園都市第3位の超能力者(レベル5)の『電撃使い(エレクトロマスター)』、御坂美琴。

 

 それを見た私はバックの中のカードケースから一枚のカードを取り出した。

 

 私はエスカレーターから人の流れに入り、その流れに逆らわないようにじわじわと髪飾りを付けた『風紀委員(ジャッジメント)』の方にずれるように歩き、通り過ぎる直前で人の流れから脱出する。

 

「ど、どうしました?」

 

 『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子はいきなり人の流れから出てきた私に声をかける。

 

「『風紀委員(ジャッジメント)』の方ですよね? 女の子とはぐれててしまって!」

 

 私は流れるように嘘を吐いた。

 

「えーと。先に外に出たんじゃないですか?」

「先に外に出た友達に電話して聞いてみたんですけど、外には出てないみたいなんです」

「……わかりました。私も探すのを手伝います。女の子の特徴は?」

「小学五年生でピンクのヘアゴムで髪をツインテールにしています」

 

 私が仕上に言われた通りの説明をすると『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子は人の流れの対岸にいる御坂美琴に向かって言う。

 

「御坂さん! 私は店内に残っている人がいないか見てきます!」

「わかったわ! 気を付けて!」

「あなたは外で待っていてください。必ず連れてきます!」

 

 そう言って『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子は少なくなった人の流れの逆方向、エスカレーターに向かおうとする。

 

 その彼女の背中に、私は取り出していたカードとタロットカードを貼り付けた。

 

 

 

 私は『風紀委員(ジャッジメント)』の女の子の後を追いかけていた。

 

 彼女は一定の距離をとって追いかけてきている私の姿に気づかない。それは私のかぶっている帽子のせいだね。

 

 ギリシア神話系術式、『ハデスの隠れ兜』。その名の通りギリシア神話における冥界の神ハデスの所持していた『被っている者の姿を隠す兜』の術式だね。本来は星座なんかも利用した方がいい魔術なんだけど、今回は屋内だから効果半減だね。とはいえ、『ハデスの隠れ兜』は貸し出されてハデス以外が使用することもあったから、不完全でも魔術師以外に対しては十分な効果だと言えるね。

 

 『歩く教会』のフードの上からかぶっているから不恰好なのはご愛嬌だね。

 

 私はバックの中から取出した髪留めを『歩く教会』のフードの中で付ける。

 

「『神の加護受けし長髪の英雄(サムソン)』発動まで、4秒」

 

 騎士達と闘った時にも使った強化魔術で私の身体を強化しつつタロットカードを近くの洋服売り場に投げる。

 

 さて、問題は後ろからつけてきている御坂美琴だね。

 

 『ハデスの隠れ兜』の弱点は姿を隠せるだけであるってことだ。姿が隠せても物には触れる。おそらく御坂美琴は彼女自身の超能力によって発生する電磁力レーダーでこっちの位置を感知して追いかけてきているんだろう。

 

 おそらくあっちは私があの『風紀委員(ジャッジメント)』に何かしようとしていると考えているんだろうね。つまりはこれからの行動に妨害が入る可能性がある。

 

 正直、大抵のことでは『歩く教会』は突破されないだろうから、問題ないと言えば問題ない。とはいえ、このレベルの能力者に妨害されてはスムーズに行動ができないだろうね。

 

 つまり、御坂美琴よりも早く行動を起こさないといけない。

 

 2階の十字路で『風紀委員(ジャッジメント)』の電話が鳴った。電話に出る『風紀委員(ジャッジメント)』の姿を見ながらバッグからマッチ箱を取り出す。

 

「はい。現在中に残っているっていう女の子を探してます」

 

 近くの柱に10枚目のタロットカードを貼り付ける。

 

「えぇ!?」

 

 何やら驚いたような声が『風紀委員(ジャッジメント)』の口から洩れる。

 

 そちらに意識を向けつつ、私は残った4枚のタロットカードの中から一枚を抜き出す。

 

 確認するまでもなく抜き出した『従者』のカードをマッチ箱の裏に貼り付け、準備を終える。

 

「お姉ちゃーん」

 

 子供の声。そっちを向くと女の子が『風紀委員(ジャッジメント)』に向かって走ってきていた。

 

 私はマッチ棒を取り出す。

 

「メガネをかけたお兄ちゃんがお姉ちゃんに渡してって」

 

 女の子が『風紀委員(ジャッジメント)』に手に持ったカエルのぬいぐるみを手渡そうとする。

 

 その瞬間、カエルのぬいぐるみが急激に縮み始める。とっさに『風紀委員(ジャッジメント)』は女の子からぬいぐるみを受け取り放り投げる。

 

 もはや原型をとどめていないぬいぐるみは地面を転がり10メートルほどの位置で止まる。

 

 御坂美琴が『風紀委員(ジャッジメント)』とぬいぐるみの間に走り込みコインを構える。

 

 それを無視し、私は火をつけたマッチを床に投げつけた。


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