病院から操祈が出てくる。
「おつかれ。みさき」
私は操祈にそう声をかける。
「……待っていたのぉ?」
操祈はそう言って私に近寄る。
「はい」
「……なにかしらぁ?」
ペットボトルのお茶を彼女に差し出す。
「おごりなんだよ。お嬢様に飲んでもらうのに安物で申し訳ないけど」
「……いただくわぁ」
病院内で出会った後、挨拶もそこそこにいったん私と操祈は別れていた。というのも、操祈は明らかに別の用事があったからなんだけど。
「とうま。どうだった?」
「! ……あなたあの人を知ってるの?」
やっぱり、当麻と知り合いだったんだね。
「うん、知ってるよ」
「……そう」
操祈は少し黙る。
「歩きながら話そうか?」
「……あの人は」
しばらく歩いたところで操祈は話しはじめた。
「私を助けてこんなことになってしまったのよ」
「……」
「いえ、もしかしたらあの人の本来の意思で助けたわけではないのかもしれないわぁ。私から放たれている
「力?」
「AIM拡散力場よ」
『AIM拡散力場』。能力者が無意識に外部に放つ力だね。例えば、電気を起こす能力者なら電磁波、火を出す能力者なら微量な熱。そう言ったものを能力者は外部に放ち続けているらしい。
「心を操る私はその力で無意識のうちにあの人を操っていたのかもしれないわぁ。私を無意識に助けるような行動をとるように、あの人を操っていた」
「それは違うんじゃないかな?」
「え?」
操祈は意外なことを聞いたように聞き返す。
「とうまは、いつだって誰かを助けるために行動してた。自分のことなんて二の次にして。私はその場にいなかったからわからないけど、きっとその場にいたのが誰であっても、とうまは助けようとしたんじゃないかな?」
「……」
「とうまはいつでも誰かのヒーローになれてしまうんだよ。それがたとえその日出会ったばかりの赤の他人であっても助けてしまう」
そのことを私は知っている。知りすぎるほどに知っている。知識としても実体験としても。
「でも、私は……」
操祈は声を震わせて言う。
「……私があの人の記憶を消してしまったのよ」
「!?」
「仕方がなかった。あの人を助けるためには私の能力を使うしかなかった!」
涙が落ちる。
「私が失敗しなければ、こんなことにはならなかったのに! あの人が私に出会わなかったら!」
「みさき」
操祈がどれくらい当麻といたのか、私は知らない。でも、少なくとも私よりよっぽど当麻と一緒にいたのは間違いない。
「私にはあなたが何を失敗したのかはわからないんだよ。でも、きっととうまはあなたに出会えてよかったと思ってたはずなんだよ」
「なんで……」
「あの人はそういう人だから。あなたと出会ったからあなたを助けられた。だからよかったって、とうまは最後までそう思ってたはずだよ」
確信に近いものがあった。理由もなく、どんな人であっても助けたいと思ったら助けてしまう。それが上条当麻だからだ。
「それでも……私は」
私は操祈を抱きしめた。私にできるのはもうそれしかなかったから。
「大丈夫。あなたは悪くない」
悪いのは……。
その後、泣き出した操祈が泣き止むまで待ってから、彼女を『学び舎の園』まで送っていった。
私は操祈について、正確には彼女の持っていたバッグに結ばれていたお守りについて思い返していた。
そのお守りは学園都市を出る前に私が渡したものだ。
お守りは正確に作動していた。
操祈に渡していたお守りの魔術は、操祈が受けた怪我を肩代わりするという物であり、外見には影響がなくてもお守りの中身はボロボロになっているのは間違いなかった。
これは人の身体の一部、例えば髪の毛や爪を利用して行う魔術を応用したものだ。
この系統の魔術で一番有名なものは『丑の刻参り』。これは藁人形の中に人の爪や髪を入れ、丑の刻に逸れに向かって釘を打ち付けることにより相手に呪いをかけるという魔術だ。現代では体の一部でなく、写真なんかでも成功した例がある日本ではポピュラーな呪いの儀式だね。
こういった術式を応用することで、対象を守る魔術を作り出すことができる。つまり、私はお守りの中に操祈の髪と写真を入れて特殊な術式をかけることで、操祈の身を守らせようと思ったわけだね。お守りにこめられた魔力で逆に魔術師を呼んでしまう、なんてこともない。何せ『丑の刻参り』は魔術の魔の字も知らないような一般人でも使えた事例もある魔術、ほんの少しの魔力でも一年間は持つからね。プロの魔術師から見ても、凄い神社のお守りとほとんど区別がつかないレベルだからね。
この術式で無効化できるのはせいぜい攻撃一回から三回程度。この程度の魔術にとどめたのは操祈が魔術師からの攻撃対象にされるのを避けるために魔力を抑えなければならなかったからであり、操祈ならこの魔術で不意打ちさえ無効化できれば何とかできると思ったから。
これに関しては科学サイドをなめていた、としか言えない。学園都市第5位をここまで追い込める人はそんなにいない、と思い込んでいたからね。狙撃とかの不意打ちを警戒すれば問題ないと思ってたんだよ。
私の手術の時も機械を使って『人払い』を突破してきていた。機械なら操祈の能力を受けずに攻撃ができるはずだし、そっちの対策もしておくべきだった。
とはいえ、お守りに関してはこれ以上のものは今の私には作れない。作れたとしても魔術師に目を付けられるようなものになってしまって原作の姫神秋沙みたいになる可能性が高まってしまう。
当麻にはお守りを渡そうにも右手で触れるだけで術式が壊されてしまうし、どうすればいいか。
私は携帯を取出し電話帳の一番上の名前に電話をかける。
数回のコール音。コール音が途切れたと同時、私は声を放つ。
「私なんだよ」
『インデックスか』
「
声を聞く限り、とりあえずは元気そうだね。
『どォした?』
「いや、あなたと
『あァ、とりあえずあのガキは元気だ』
「あなたは?」
打ち止めのことだけ言うのが気になり聞き返す。
『オレも問題ねェよ』
『あれあれ? あなたが電話なんて珍しいねってミサカはミサカはあなたの成長を見て喜んでみたり」
ラストオーダーは無事みたいだね。
「うん。それさえわかればいいんだよ」
『珍しく連絡よこしたにしては要件が少なくねェか』
「……そうだね。じゃあ一つだけ」
とはいえ今言えるのは忠告くらいだ。と言ってもここでの会話はアレイスターに聞かれているだろうし余計なことは言えないけど。
「若干、面倒なことが起こるかもしれないんだよ。そうなったら打ち止めたちを守るために行動してほしい」
『……わかってる』
翌日、私はコンビニにいた。『
あの後、ニュースをチェックしたら『
『
ここまでいくつかのコンビニに行ったけどどれも空振り。
「さて、そろそろ……」
いい加減、コンビニの棚の下を覗いて回る変人行為はやめたいところだね。
「あれ?」
ウサギのぬいぐるみがコンビニ菓子コーナーの中に混じっている。
私はそれを手に取り店員に見せる。
「これください」
「あー、はい。……あれ?」
バーコードを探す店員だったが見つからないようだ。
「店長ー。これ、バーコードがないんですけどー」
「ああん? ……こりゃお客様の落し物だな」
「いや、だから私がここに落としてきちゃったから、取りに来たんだよ」
店長はそれを聞いて一瞬不審そうな顔をする。がすぐに客へ向ける営業スマイルになり
「ああ、そうでしたか。これは申し訳ございませんでした」
と私にぬいぐるみを渡してきた。
「ありがとうなんだよ」
私はコンビニを出て近くの公園に走った。