とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す   作:たくヲ

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とある病院と上条当麻

「……は?」

 

 頭が真っ白になった。

 

 その言葉が表したのはわかりやすい一つの事実。

 

「大丈夫ですか?」

「……大丈夫だよ」

 

 当麻は初対面のように敬語で聞いてくる。

 

 病室から出ていかない私を見て、当麻は不思議そうに尋ねる。

 

「もしかして、俺達って知り合いだったのか?」

「……」

「ッ! ふざけるなよ上条当麻!」

 

 ステイルが一歩前に出る。ルーンのコピー用紙が足元にばらまかれる。

 

「ステイル」

 

 私は右手を横に出しステイルを止める。

 

「ここは病院なんだよ? 静かにしないと」

「だが……」

「私は大丈夫だから」

 

 私は病室に入る。

 

 自分がどんな顔をしているのかはわからなかったけど、とにかく私は言った。

 

「はじめまして。私の名前はインデックスっていうんだよ」

 

 

 

 

 

「彼の脳は物理的に破壊されているね?」

 

 カエルのお医者さんはそう言った。

 

「記憶のために使われている脳細胞と記憶の呼び出しのための回路の一部が強引に潰されている。少なくとも日本語は喋れているようだし、箸も使えるから、知識や行動には問題はない。記憶する分においても……おおよそ問題はないね?」

 

 『問題はない』の所だけカエルのお医者さんの表情が変化した。

 

「そう……なんだね」

 

 私はケータイを取出し、カエルのお医者さんに渡す。

 

「これは?」

「つないでほしい相手がいるんだよ」

「……誰にだい?」

「アレイスター=クロウリーに」

 

 その名前にカエルのお医者さんは黙り、私の顔を見た。

 

 数秒の間。

 

 ため息を吐いたカエルのお医者さんは諦めたように私のケータイを操作し、私にケータイを返してくる。

 

 ケータイを耳に当てる。

 

 コール音すら鳴らなかった。

 

「よくもやってくれたね、アレイスター」

『ふむ。私が何をしたというのかね?』

 

 アレイスター=クロウリー。この『人間』は機械を通し、あまりにもクリアな音質で問いかける。

 

「かみじょうとうまに何があったのかあなたが知らないとは言わないよね? この街を隅から隅まで監視しているあなたが知らないなんてことがあるわけがない」

『勘違いしているようだから言っておくが、上条当麻の一件に私は関与していない』

「……」

『今回の一件で動いたのは我々とは別だ』

「なら誰が」

『今回の一件の黒幕とでもいうべきは『蠢動俊三』。実行者は『デッドロック』という集団』

 

 知らない名前だった。

 

『今回の一件は我々の意思ではない。『蠢動俊三』にそそのかされた『デッドロック』によるものだ。『蠢動俊三』の始末はすでに終わっている』

「とうまは誰を守ろうとしたのかな?」

 

 その『デッドロック』という集団が当麻を狙って行動を起こしたとは思えない。当麻は『アレイスター』のプランのメインともいえる存在。当麻を狙ったならばアレイスターが事前に潰しにかかるはず。

 

『食蜂操祈』

 

 その名前を聞いて思考が止まる。

 

『君もよく知っているだろう? 『デッドロック』は超能力者(レベル5)に恨みを持っていたが、恨みを向けていたのは超能力者(レベル5)全員だった。『蠢動俊三』は『デッドロック』をそそのかし『食蜂操祈』一人にその恨みを向けるように誘導した。今回の一件は言ってしまえばそれだけのことだ」

「そう、最後に一つだけ聞くけど」

「何をかね?」

 

 最も重要なことを聞く。

 

「とうまは自分の意思でみさきを助けようとした。そういうことで間違いはないね?」

『すくなくとも我々は上条当麻に食蜂操祈を助けさせようとして動いたわけではない。上条当麻は巻き込まれただけだが、逃げようとすればいつでも逃げることはできた』

「そう……ならいいんだよ」

 

 仕方がない。当麻が自分の意思で行動した結果なら、私がとやかく言うのは間違っている。

 

「でも、今回までだよ。あなたたちが自分の意思で私の友達をあなたたちの目的のために使おうとするなら、私はあなたたちを潰す」

『肝に銘じておこう』

 

 

 

 

 ステイルはすでに学園都市の外に脱出していた。アレイスターとの連絡の後に電話があった。

 

 ステイルは学園都市との交渉で学園都市内には入ることはできるけど時間制限があった。

 

 私は学園都市の深部に関わらない限りは学園都市に出入りができるけど、ステイルはその護衛としての役割で一時的にしか学園都市には入れず、時間も24時間に制限される。神裂も同じような条件でしか学園都市には入場できないんだよ。

 

 要するに、あの二人は私がいなくては学園都市に入ることはできないってことだね。

 

 もちろん学園都市側が許可すれば入れるけど。

 

 病室に入る。

 

「とうま」

「ん? ああ、インデックスか」

 

 私を見て、当麻が言う。まるで、今までの記憶がまだ残っているかのように。

 

「さっきは悪かった。ちょっとからかったつもりだったんだ」

「……うん、気にしてないんだよ」

 

 その言葉で私は気が付いた。気が付いてしまった。

 

「あー、でも俺の演技力も大したものだなー。はっはっはーっ! ステイルも怒って帰っちまうしさー」

「……そうだよ、とうま。今度ステイルに謝っておいた方がいいかも」

 

 当麻は別に記憶が残っていたわけじゃなく、私に気を使って嘘をついているだけだってことを。

 

「さて、じゃあそろそろ行こうかな」

 

 私がもし知識(・・)がなかったなら、きっとこの演技に騙されていただろう。

 

 私は止められたのだ。少なくとも、当麻の記憶が消されることを止められるだけの力はあった。

 

 あの時。学園都市を去る時に、当麻を守るための行動を、保険をかけておくことはできたのだ。

 

 そう考えるほどに。私はその(優しさ)に甘えてしまう。

 

 記憶を失って辛いのは本人なのは間違いないのに。……いや、すでに記憶を失うことが辛いということを感じることすらできないのだ。

 

「おいおい、もう行くのか?」

「私もやることもあるからね。またお見舞いに来るんだよ。今度はお見舞いの品物でも持って来るね」

 

 

 

 

 

 病室から出て病院のロビーで時計を見ると6時を回った所だった。

 

 受付の待ち時間の暇つぶしのためか、つけられているテレビからはニュースキャスターの事務的な声が病院内に流れ続けている。

 

『次のニュースです。学園都市内で発生した銀行強盗事件について』

 

 銀行強盗という言葉で私は足を止めた。テレビの画面にはぐちゃぐちゃになった銀行のシャッターとひっくり返った自動車が映し出された。

 

『……少年三人は風紀委員によって捕縛されたとのことです』

 

 知識にあった一つの事件、学園都市第3位、御坂美琴の関わった事件。超電磁砲の始まりのエピソード。

 

 入院している以上、後に起こるであろう『虚空爆破事件』の時、当麻に頼るわけにはいかない。

 

「えっ」

 

 声が聞こえた。

 

 病院は閑散としていた。平日の夕方となれば学生はまだ遊んでいる時間。

 

 私みたいなシスターが病院にいるのを見れば誰であってもそんな反応になるんだよ。

 

「い、インデックス?」

 

 聞きなれた声だった。

 

 私は声のした方を向く。

 

「……みさき」

 

 学園都市第五位。食蜂操祈が驚いたような顔をして立っていた。


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