私は聖ジョージ大聖堂の大きな部屋で一人の女性と机を挟んで向き合っていた。
部屋内にある調度品には一つ一つに術的意味が込められている一級品の霊装だ。
「
「そのような小さしことはどうでもよいのよ。せっかく自由の身になれたというのになぜ再びここに来たりけるのかしら」
向き合っているのはイギリス清教の
「あれ? わからないのかな? つちみかどもとはるから聞いていると思うんだけど」
「確かに、土御門元春のヤツから話は聞いているわね」
「なら、話しは早いね。私は近いうちに
「海より忍び込んだ輩の言う言葉だとは思えん言葉よね」
うーん。やっぱ素直に飛行機使った方が良かったかな?」
「まあ、確かに今の私は不法入国者だね。そのことに関しては申し訳ないんだよ」
でも、私の国籍ってイギリス籍じゃないのかな? そういう知識は持ってないんだよ。
「わざわざ会いに来た理由なんて決まっているんだよ。私はあなたたちと争う気はないっていう話をしたいだけだね」
「『騎士派』からの報告で分かりているわよ。あなたはイギリスの『騎士派』と交戦したということくらい」
「? それがどうかしたのかな」
「この国の『騎士派』と交戦したりけるということは、この国の軍部に喧嘩を売りしということ。その意味が分かりたるわね?」
日本で騎士数人と戦闘を行った時のことだね。
「あれはあっちが先に攻撃してきたから仕方がなかったんだよ。正当防衛ってやつだね。むしろこっちは誰も殺さずに治療までしたんだから、感謝してほしいくらいなんだよ」
私達は騎士たちを誘導したけど、先に武器を向けてきたのはあっちだしね。
「簡潔に言うんだよ。私からの要求は一つ『私と
正直、国相手に取引するのに、私ではいろんな意味で力不足だと思う。
「簡単に飲めん条件ね」
「今のイギリス清教の現状を考えればいいアイデアだと思うけどね? 対魔術師用の
「……」
おそらく、イギリス清教対ローマ正教、ロシア成教の戦争にまで起こる可能性すらある。まあ、そうなるとしても私を始末した後だろうけど。
「せっかく、ローマ正教、ロシア成教に私が魔術を使えるようになったと知られないように動いたんだから、その努力を無にしないようにして欲しいんだよ」
「……一つ勘違いをしたりているわね」
「?」
ローラ=スチュアートは一つの霊装。
「ここは、我々の本拠地。そこに簡単に侵入させるとでも思うていたのかしら?」
「いいえ、思わないね」
やはり、誘い込まれていた。
「貴様もここに忍び込んでいるステイルも、今ならまだ救いてやりても良いのだけれど。再び魔術を行使できない身体にさせてもらう条件が飲めしというならね」
「嫌なんだよ」
返答はとっくに決まっていた。
「以前の私ならその条件を飲んでいたかもしれないけど、今の私はその条件は飲めないね」
私はローラ=スチュアートの目を見て言う。
「だって、今の私には自分がなぜイギリス清教を信じていたのかも、私がなんで『
「そう、残念ね」
その瞬間、『歩く教会』があるにも関わらず私の全身を圧迫感が襲った。
私はすぐさまその術式を解析し呟く。
「私の『遠隔制御』術式を応用した……行動制限魔術……だね」
私が首輪を破壊するために神裂とステイルに使ってもらったものと同じ、魔術を使わせないための魔術。
そもそも、『禁書目録の遠隔制御術式』はその性質上『歩く教会』を貫通できるようになっているはず。
私たちが『首輪』を破壊したから、本来の役割を果たすことはできないけど、『歩く教会』を貫通できる魔術的なつながりは残っている。
「その魔術……あなたの持つ霊装だけじゃない……『王室派』のもう一つの霊装からも……同じ魔術を行使することで効果を上げている……」
「……」
ローラ=スチュアートは言葉を発さない。余計な情報を渡すつもりはないということだろうね。
その時、聖ジョージ大聖堂の内部から複数の魔力を感知できた。この大聖堂のいたるところで、これとは別に魔術が行使され、魔力がまき散らされているのだろう。
すべての魔術がここを標的にしているのは明らかだった。
「……いいのかな?」
「何がかしら」
「『歩く教会』を……貫通するような……術式なら……あなたごと吹き飛ぶ……と思うけど」
ローラ=スチュアートは答えない。ただにっこりと微笑んだ
「そう……覚悟は……できてると」
流石に不用意に入りこみすぎたかな?
ちょっとイギリス清教を甘く見すぎだったかもしれない。
でも一つだけ言えることがあるとしたら。
「なめられたものだね」
その瞬間、周囲の魔力がかすむほどの魔力が聖ジョージ大聖堂の一点に現れる。
ローラ=スチュアートの顔に一瞬動揺が見える。
「私が使った術式は、『アスモデウス』」
ローラ=スチュアートは私の言葉を聞いた途端、慌てたように自分自身の手を見る。
私の両手には二つの霊装、禁書目録の遠隔制御霊装が握られている。
「アスモデウスという悪魔は色欲の悪魔と呼ばれると同時に、72柱の悪魔を支配したソロモンに唯一抗うことができたことで知られているね」
聖ジョージ大聖堂の中に張り巡らされた魔術的な防御機能が突如出現した巨大魔力反応に向かう。
「ソロモンの悪魔を支配する力の源である指輪を奪いとるエピソード。このエピソードから読み取れる記号は『支配者への抵抗』と『支配するために用いた道具の強奪』。『歩く教会』の魔力で隠れて、発動してたことに気がつかなかった?」
聖ジョージ大聖堂内部で行使されていた魔術は、突如現れた巨大な魔力反応に狙いを変え放たれる。
魔力と魔力の衝突。
それにもかかわらず私たちがいる部屋が受けた衝撃はほんのわずかだった。
聖ジョージ大聖堂の要塞めいた魔術防御を内側に向けていたためだろうね。
そんなことを考えながら私は続けて言う。
「『アスモデウス』の術式の発動条件は何らかの霊装によって私の行動を制限すること。効果は霊装を奪うことによって行動の制限を無効にするというものだよ。女王サマの方の霊装は魔術防壁のあるウィンザー城あたりにいるから大丈夫だって考えたんだろうけど、残念だったね。せっかく引きこもっていても魔術によるつながりを逆利用すれば、そっちに魔術を向けること自体は簡単なんだよ」
私は両方の霊装をしまいながら言う。
弱点として奪った霊装は使用できないということがあるけどそれは大したことじゃない。
巨大な魔力反応が復活する。その魔力反応は私たちのいる部屋の入り口を開け放つ。
「大丈夫だったかな? ステイル」
「何とか、ね」
入り口に立っているのはステイルと巨大化した『
私たちはイギリスに上陸する前に、この国の東西南北にある島にステイルのルーンを配置。それと同時にそれぞれの方角を地図の上下左右に対応させ島ごとに1色ずつタロットカードを配置することで、それぞれの方角にあった四大天使の『
聖ジョージ大聖堂にある霊装と地脈を利用することで、その『
本来魔術はあまりに距離が離れた場所に対して影響を与えることはできない。しかし、『黄金系』のタロットカードを用いた『大天使召喚魔術』を利用した最良の術式は遠距離砲撃である。
本来遠距離攻撃に使われる術式。タロットカードと共に配置したステイルのルーン。これを用いれば数十キロ離れたここまで、『
この他にも、東西南北と言った方角を利用する風水などの術式を使って細かい強化も施しているけど、わざわざ説明するほどのことでもないね。
もともと法王級の術式である『
聖ジョージ大聖堂に誘いこもうとした『
私はステイルからローラ=スチュアートに視線を戻し言う。
「さて、もう一回だけ聞くんだよ。……同盟を組むか、ここで聖ジョージ大聖堂壊滅か。どっちを選ぶ?」
さて、脅しめいた方法でなんとか同盟を組めたわけだけど、もう一声欲しいところだね。
力による同盟なんて、いつ破綻するかわからないし。
「お会いできて光栄なんだよ」
というわけで私は英国女王エリザードの目の前にいた。
場所はウィンザー城。『歩く教会』を上回る圧倒的な魔術防御機能を誇る施設だ。
私はその中の一室無駄に広い部屋の無駄に大きいテーブルについている。
私はエリザードの向かいの席に座っていた。すぐ後ろにはステイルが立ち、エリザードの後ろには
「思ってもいないことを言うな」
「いや、心の底からの言葉なんだよ? テレビなんかでしか見れないような有名人が目の前にいるわけだしね」
実際、学園都市にいた時にも時々テレビで見かけていた人だからね。
「さて、簡潔に言わせてもらうんだよ。私はあなたたちに危害を加えるつもりはないし、あなたたちに特別なことを望むわけでもない」
「ふむ」
話を切り出す。
あんまり戦闘にはしたくないというのが正直なところだね。王女クラスとの戦闘になってしまうと本格的に私の……私たちの目的は達成できなくなってしまう。それに、まともに戦う場合、被害が大きくなりすぎるし。
「私を自由にしてもらいたいんだよ」
「無理だな」
即答だった。
「貴様の力は強大なものになりすぎた。そんな貴様を野放しにするわけにはいかん」
「でも、こうして交渉の席についてくれたということは何かしらいいアイデアがあるのでは?」
「そうだ」
エリザードは続けて言う。
「確かに貴様の力は強力だが、現時点では十字教全体と同等のものでしかない。禁書目録を作りあげるために十字教系のあらゆる文書に目を通させたのは我々だからな。つまり、われわれが協力すればどうとでもなるということだ。それこそ特別な霊装でも作られん限りはな」
確かに、私は魔神になれるための知識を有してはいる。しかし、私自身は魔神一歩手前の状態。いわば原作に登場した『魔神になるはずだった男』オッレルスと同一の状態であると言える。
まあ私は『魔神になれる』という状態でいるわけだけど。
つまりは私が特別な霊装を……つまり魔神になるための霊装を作らないかぎりは、魔神にはなれないわけだね。
「つまり、魔神になるという手順を踏まなければ放置してもらえる、と?」
「監視つきだがな。言っておくがこれ以上の条件は出せんぞ? それに、魔神になろうという行為を行えば容赦なく攻撃させてもらう」
確かに、この上ない条件であるといえるね。ある程度自由を勝ち取れるし常に命を狙われるわけでもない。
「随分と緩い条件だね? 私に対しての人権侵害へ対してのお詫びかな?」
「それもあるが、今の現状でぶつかれば我々に勝ち目はないだろうというのが問題だな。
その認識は正しい。流石に、何の策もなしに、天使長と同質の力を得られる剣である『カーテナ=セカンド』をもつエリザードと、その後押しがあれば並みの聖人を軽く上回る戦闘力を持つ
「もう一声欲しいかな?」
「なに? これ以上の条件は……」
「監視は女性でお願いしたいんだよ。どうせ見てもらえるなら女の子がいたほうがいいし」
一瞬、言葉の意味が解らなかったのか、エリザードと騎士達は首をひねる。
そして、言葉の意味を察したのかエリザードと一部の騎士は何とも言えないような表情をした。
「……なんだ、お前はそういう趣味もあるのか?」
「うーん? 私はどっちも問題ないだけなんだよ」
エリザードはため息をつき、言う。
「……まあ、いいだろう。とはいえ、この国の騎士に女性はいない。『
「うん、それで構わないんだよ」
できるならばイギリス清教の魔術師を2人ほど着けてほしかった。見張りが騎士だけだと、『イギリスのために』という行動原理を持つ騎士派はそのために女王に嘘をついて攻撃してくる可能性があるからね。
その点、基本的に自分のために行動する『
とはいえ、騎士が『
「じゃあ、私には騎士と魔術師による二重の監視がつく。あなたたちは私たちへの攻撃を止める。これでいいんだよね」
「そうだ。だが、こっちの問題に対して協力してもらうことはあるかもしれないがな」
「そう言うことがあれば積極的に協力させてもらうんだよ」
たくヲです。
イギリス回。
ローラ=スチュアートの実力がわからないのでこんな感じに……。
これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。