とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す   作:たくヲ

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とある騎士と十字凄教

 『天草式十字凄教』。天草で一揆をおこしたことで有名な、切支丹(キリシタン)を起源とする十字教の宗派の一つであり、当時の幕府の弾圧から逃れるために神道や仏教といった宗教を組み込み、他の宗教に溶け込むことで難を逃れた、多角宗教融合型の十字教。

 

 難しいように聞こえるけど、宗教界では複数の宗教を組み合わせるのは結構メジャーな考え方でもある。とはいっても、このような形式ではないけどね。例えば、別の宗教の神を自分の宗教では悪魔として登場させるといった方法は十字教でもメジャーな手法の一つだ。日本でも神仏習合などは教科書にも載っているような現象として現れている。

 

 火織はそんな『天草式十字凄教』に女教皇(プリエステス)として所属していた。

 

 別に『天草式』自体は特別に強力な組織であるわけではなかった。実際、個人で見ても魔術師の平均より少し上程度、『天草式』全体で見てもイギリス清教やローマ正教には劣ってしまう。

 

 その中で、火織はその組織のレベルを一人で引き上げる存在だった。引き上げてしまったともいえる。

 

 何せ火織は『聖人』。本来、『天草式』のメンバーが相手にすることもないような相手が火織を狙って出てくることもあったのだろう。かつて火織が今ほどの実力を持ち合わせていないころから、『天草式』は火織を守るために格上の相手とも戦わざるを得なかった。

 

 火織が実力を付けてからも、そう言ったことはあったという。火織の敵ではないが、集団の一人一人が『天草式』のメンバーよりも強かったことも多かった。

 

 そんな相手と戦い続けて無事でいられるわけもない。『天草式』のメンバーたちは戦うたびに傷を負っていき、死人もでるようになった。

 

 火織は自分のせいで『天草式』の仲間を傷つけてしまったことを悔やみ、教皇の立場を捨て『必要悪の教会(ネセサリウス)』に入った。インデックス(前の私)と出会ったのはその後だという。

 

 『必要悪の教会(ネセサリウス)』はそのことを知っているため、『天草式』は火織にとって実質人質ともいえる存在になっていた。

 

 ここまでが火織から聞いた話から気遣いとオブラートを抜いてまとめた内容だね。

 

 なんでこの話をしたかというと、私達が今、天草式十字凄教を助けに来たからなんだけど。

 

「ッ――――――――――!!」

「ちょっとまって、抑えてかおり!」

 

 今すぐにでも飛び出していこうとする火織を私は『歩く教会』で抑える。

 

 私達の結構離れたビルの屋上にいる私達が双眼鏡を覗いた視線の先には、城のような結界に覆われた廃ビル。それを取り囲み、魔法の弾を撃ちこんでいるイギリスの騎士派に所属する騎士たち。廃ビルの中には『天草式』の魔術師たちが籠城しているはずだ。

 

 正直、ここまで早く『天草式』を見つけられるとは思ってなかったから驚いている。『天草式』は本拠地を持たない組織だからね。もしも火織がいなかったら見つけるのにどれくらいの時間がかかったかわからない。

 

 結界を解析すると『城』の術式だね。『島原の乱』で一揆軍が籠城した『城』を再現した結界術式。宗教戦争的な色を取り出して、自分たちよりも強力な組織による弾圧、攻撃行為に対して強力な防御性能を発揮する。しかし、防御機能は大規模なため、長続きせず魔力の消費が大きい、自分たちよりも明確に弱いものに対して防御性能を持たない、という弱点もある。

 

 派手な行動を好まず、集団に溶け込むことを得意とする『天草式』の特色にあった術式とは言えない。

 

 とはいえ、『天草式』は本場(イギリス)の騎士団を相手にできるほどの魔術師たちではない。騎士は一人一人が一般的な魔術師数人分の戦闘力を誇る武闘派。それこそ、相性がいいステイルや、火織のよな圧倒的な力を持つ魔術師でないと突破は難しい。

 

 そう考えるとこの魔術を用いたのは正しいんだけど……。

 

「イギリスの誇る騎士団をあそこまで防いでいるのは予想外だけど、そう長くは持たないだろうね」

「だから、私が行きます!」

「はい、ちょっと落ち着こうか」

「ひう!?」

 

 『天草式』らしくない術式っていうのがどうも引っかかる。

 

 もとにしたエピソードのせいで、あの術式は籠城している人間全員で魔力を負担しているはずだ。つまり、あの術式が破られた時、敵に対抗する術がなくなってしまう。

 

 まさか、火織の助けを期待しているわけではないだろう。火織にこんな状況になっていることが伝わっているとは思っていないだろうし、火織頼みで耐え続けるような人達なら、火織も守りたいとは思わないだろうし。

 

 戦うのは愚策。このまま籠城していてもいつかは破られる。ついでに、投石しているような様子もない。となると……。

 

「地下かな?」

 

 

 

 

 マンホールから下水道に入ると、やはりというか暗くて何も見えない。

 

 あまりいいにおいとは言えないし、早いところ外に出たい。外にはステイルと火織。ステイルのルーンを貼ってもらうことで、先日の手術の日のように私の『歩く教会』の魔力反応をごまかしているのであまり時間はないね。

 

 とはいえ、魔術の明かりは騎士団が感知しかねないし、文明の利器に頼った方がいいかも。

 

 私はケータイを取り出しカメラのフラッシュで、一瞬廃ビルのあった方向を照らす。

 

「……」

 

 なんかいた。

 

 ふわふわの髪のスレンダーな女の人が剣を構えてこっちを見ていた気がする。

 

 私はケータイをバッグに戻しつつ前に歩く。左側に水があるから落ちないようにまっすぐ暗闇の中を歩くと、左からヒュンという音。

 

 左の腕にぶつかった何かを『歩く教会』越しに掴み、その位置から、予測して相手の肩を掴む。

 

 少し暴れるように動こうとした相手に抱きつくようにして、ぼそりと呟く。

 

「落ち着きなさい」

 

 離れようともがくが『歩く教会』の防御力の拘束を突破することはできない。

 

「かおり!」

 

 私は首だけ振り返って、後ろの蓋がいているマンホールに向かって呼びかける。

 

「!?」

「どうしました!?」

「ごめん。説得お願い」

 

 攻撃してきたことは後で、いろいろするとしてひとまずは説得してもらわないと話にならない。

 

 火織が飛び降りてくる。コンクリートの地面の部分にちょうど着地したようだ。

 

女教皇(プリエステス)!?」

「この声は……対馬ですね」

 

 ふむ。天草式の女魔術師の一人で剣を扱っていて、脚線美説が浮上していた対馬だね。

 

「じゃあ、ちょっと離れるんだよ」

 

 これ以上は拘束しなくてもいいよね。

 

 私は懐中電灯を取り出して周囲を照らした。

 

 

 

 対馬の説明を受けた火織が他の『天草式』のメンバーの所に向かうことになった。

 

 対馬から話を聞くと、下水道に入ったのはいいが、あの結界魔術を使用した建物からは余り離れることはできない。そのため、逃走を図る前に何人かを周囲の安全確認に出して、他のメンバーは結界を維持する必要があったのだという。さらに、騎士に察知されないためにできる限り魔術を使用しないようにしなければならない。だから、この閉鎖空間でも戦える武器を使えるメンバー……対馬を中心とした比較的狭いところでも振り回せる武器を持つメンバーが動く必要があった。そんな中強力な魔力反応がいくつも発生し、さらにそのうち一つが下水道に入ってきたため、それが誰なのかを探りに来たという。

 

 そこにいきなりフラッシュで目くらましをされやはり敵かと思い攻撃をした。とのことである。

 

 まあ、割と私も悪い気がするけど、『歩く教会』があるとはいえ、私の命を狙ってきたのはちょっと問題だよね。

 

「逃げる算段はあるのかな?」

「今日は幸い『縮図巡礼』の準備がありますし、なんとかなりました」

 

 火織の手前迂闊に普段通り喋るわけにはいかないのか、私の知っている(・・・・・)のとは違う口調の対馬。

 

「『縮図巡礼』。移動魔術だね。……確かにあれならあの騎士たちから逃れられるだろうけど、ここから一番近い『渦』が使えるのは3時間後のはずだよ。イギリスの騎士から逃げ延びるには現実的な時間だとは思えないんだよ。あと敬語は外していいよ」

「その点は問題ありませ……ないわ。私達なら一般人に紛れてしのぐことは可能ですし」

 

 微妙に敬語が抜けないね。

 

 確かに、『天草式』と言えば一般大衆に紛れ込む宗派だし、一般人に紛れてしまえば発見は難しいだろうけど……。

 

「やっぱりあんまり有効な手とは思えないんだよ。騎士たちは私達よりも早く『天草式』に近づけたわけだし、『天草式』の居場所を探る何らかの魔術を持っているって考えるのが妥当かも」

 

 『失せ物探し』に関連した探索魔術は結構多いからね。大体万能ではないものの、『必要悪の教会(ネセサリウス)』とのつながりがあったイギリスの騎士たちならば、火織と関連させて天草式を探すのは容易だろう。

 

「一応、さっきかおりが言ったけど、私たちはあなたたちを助けに来たんだよ。とりあえず、あの騎士たちの相手は私たちに任せてもらえないかな?」

「……そう、ね」

「納得できてないのはわかるけどね。かおりがいなくなってからせっかく力をつけたのに、またかおりに助けられるっていうのは」

「! ……なんで、それを」

「かおりから説明を受け終わった後にちょっと悔しそうだったからね」

「インデックス!」

 

 外からステイルの声。

 

 その直後、外から爆音が聞こえる。

 

「話は後だね」

 

 私はバックの中から取出した髪留めを『歩く教会』のフードの中で付ける。

 

「『神の加護受けし長髪の英雄(サムソン)』発動まで、4秒」

「! 私は何をすれば?」

「そうだね……。サポートをお願いするんだよ」

 

 私はマンホールの空きっぱなしの出入り口から一度の跳躍で飛び出す。

 

 

 神の加護を受けた髪を持つ怪力の英雄、サムソンの術式によって強化された体によるジャンプで、一気に地上10メートルほどに飛び出した私は周囲を確認する。

 

 マンホールから30メートルほどの位置でステイルが炎剣を構え、対峙するように騎士が7人ほど武器を構え立っている。

 

「!」

 

 いきなりマンホールから飛び出してきた私に気を取られたのか騎士たちの鎧に隠れた目が視線が私に集中する。

 

「ステイル!」

「ッ! 砕けろ(IAB)!」

「『ペクスヂャルヴァの深紅石』発動まで4秒!」

 

 ステイルが炎剣を爆発させ、爆風で7人の騎士を吹き飛ばす。

 

 騎士たちは全員受け身を取りそのうち4人がステイルを狙い走り出す。

 

 その瞬間、私の魔術が発動し4人の騎士が武器を落とし両足を抑える。

 

「!? 貴様か!」

 

 後方からの遠距離攻撃を狙っていたのか、走り出さずにとどまっていたことで『ペクスヂャルヴァの深紅石』を回避した騎士3人が着地した私に向け武器を構える。

 

「チッ! 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』!」

 

 騎士たちの武器から放たれる魔術攻撃を現れた『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が防ぐ。

 

「あの子に剣を向けて無事でいられると思うなよ……! 我が名が最強である理由をここに証明する《Fortis931》!」

 

 ステイルが魔法名を名乗る。

 

 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』が十字架型の巨大な炎の剣を横なぎに振るう。

 

 『ペクスヂャルヴァの深紅石』のダメージから回復した前衛の騎士たちと後衛の騎士たちは大きく飛び上がり攻撃をかわす。

 

灰は灰に(Ash To Ash)塵は塵に(Dust To Dust)吸血殺しの紅十字(Squeamish Bloody Rood)!!」

 

 空中の騎士たちに向け両手に出現した炎の剣を交差するように振る。

 

 4人の騎士に炎剣が直撃し、爆発がすべての騎士の位置を分断する。

 

 4人の騎士は地面に落ち、甲冑が大きな音を立てる。残りの騎士は爆発の勢いを受けても簡単に体勢を立てなおし着地する。

 

 その瞬間、騎士の一人の着地した足元がきれいに崩れ騎士の一人がバランスを崩し穴にはまる。

 

「っ!」

 

 私はバッグから取り出したコピー用紙をばらまく。風に乗って前に、騎士たちの方に飛んでいく。

 

 ばら撒いたコピー用紙に書かれているのは青のルーン文字『巨人(þurisaz)』『(is)』。

 

「『霜の巨人(ヨトゥン)』、発動まで5秒」

 

 私は踏みこむ。騎士たちに向かってたったの一歩で距離を詰める。

 

禁書目録(インデックス)足甲片足蹴り(サッカーボールキック)!」

 

 バランスを崩した騎士の甲冑の胴部に蹴りを放つ。

 

 分厚い甲冑が足の形にへこむ。

 

「ッぐ!? この程度……」

 

 くぐもった声。騎士が穴にはまったまま剣を振りかぶる。。

 

 しかし、その腕は振り下ろす前に停止した。。

 

「ぐあああああああ!?」

 

 騎士の腕を後ろから掴み止めていたのは3メートルの氷の巨人。

 

 氷の巨人に掴まれた、騎士が凍りついていく。

 

 私は、コピー用紙をばらまきながら残りの騎士の方を見る。

 

 『魔女狩りの王(イノケンティウス)』の近くに転がっている騎士が一人。

 

 『蜃気楼の魔術』を使っているのか、騎士二人の遠距離攻撃をすり抜けているステイル。

 

 『炎の巨人(イノケンティウス)』と『氷の巨人(ヨトゥン)』が騎士二人の方を睨んだ。

 

 流石に分が悪いと思ったのか、逃げようとする二人の騎士。だが、その足元がちょうど足がはまるように綺麗に崩れた。

 

「「やれ」」

 

 『炎の巨人(イノケンティウス)』と『氷の巨人(ヨトゥン)』が同時に二人の騎士に襲い掛かる。

 

 

 

 

 周囲には倒れている騎士たちの治療は念のためやっておいた。イギリスの騎士団に少しでも恩を売っておくためだね。ステイルの攻撃を受けた騎士たちのダメージは相当なものだったから、放っておけば死んでしまったかもしれないし、自分たちのせいで人が死ぬのは避けたいもんね。

 

「で、なんで天草式の居場所が分かったの?」

 

 私はステイルの炎で頭部だけ氷を溶かした騎士に聞く。一応さっき凍らせたのは甲冑と外側だけだし、命に別状はないからね。凍傷になるかもしれないけど。

 

 凍らせた形的に雪だるまっぽい感じに見えなくもない。

 

「……」

「むー。だんまりだね」

「どうする?」

 

 ステイルが聞いてくる。

 

「まあ、放っておいていいと思うんだよ。拷問とか好きじゃないし、あくまで正当防衛っていう立場をとりたいしね」

「そうか。君がそう言うなら僕は止めないよ」

「……貴様ら……何が目的だ?」

 

 騎士が甲冑の中でくぐもった声を出す。

 

「まあ、とりあえずは身の安全の確保と天草式を助けるのが目的かな?」

 

 私は目的をしゃべる。別に知られて困る情報じゃないしね。

 

「インデックス、仕掛けておいた罠が壊されたようだ。すぐにでも残りの騎士たちが攻めてくるぞ」

「ありがとう、ステイル。じゃ、早く逃げようか」

 

 

 私達は下水道に再び入る。

 

「無事、でしたか」

「うん。援護ありがとうね、つしま」

 

 騎士たちの戦いで都合よく地面が崩れたのは対馬が下水道から援護していたからだった。騎士たちの武器の魔力に向けての攻撃って所かな?

 

「これからどうするんだい?」

 

 あとから降りてきたステイルが私に問う。

 

「とりあえず、かおりたちと合流しようと思うんだよ。仮にもイギリス清教の騎士だし、全員を返り討ちにするにするにしても一度集まっておいた方がいいかも」

「え?」

「ん? ああ、返り討ちにするって所?」

 

 確かにさっきは中途半端な所で騎士たちが乱入してきたからね。

 

「騎士たちは天草式(あなたたち)の居場所を割り出せる。だとすれば、このまま逃げ続けても時間の無駄でしかないんだよ。なら、こっちから騎士たちに攻撃して、こっちの居場所を探し当てる霊装を破壊する方が早いよね?」

「た、確かにそうですけど」

「武闘派の騎士たちの相手は少々骨が折れるかもしれないけど、イギリス領土じゃないだけましだしね」

 

 イギリス領土内だとだと、とある術式によって騎士たちが強化されるからね。ただでさえ素の状態でもそこらの魔術師と同等レベルの実力者である騎士がそんなことになったら対処できる魔術師はそう多くはない。

 

 天草式の居場所を探り出す術式が霊装によるものでなければちょっと面倒かもしれないけど、延々考えても仕方ないし、その時に考える方向で行こうかな。

 

 いくつか特別な術式も作ってあるしね。




 たくヲです。

 『霜の巨人(ヨトゥン)』の説明は後ほど。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。

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