夕日が町を赤く染め上げている。
そんな当たり前でありながらどこかほっとさせられる景色の中、私はとある教会裏庭の花壇の陰に身をひそめて、誰かが来るのを待っている。
禁書目録のデータと照合したところ、ここがローマ正教系の教会で間違いはなさそうだ。
私がここに何をしに来たのかと言われれば、この教会を占拠しに来たとしか言いようがないね。その理由もこれ以外の生き残る方法が思いつかなかったとしか言いようがないのだけれど。
あっ、ちょっと背が高いシスターさんが歩いて来る。隠れて、ぎりぎりまで引き寄せて。
ほぼ真横に来たところで、飛び出す!!
「恐怖、舌噛みヘッドバット!!」
「ッ!?」
やってきた黒い修道服のシスターさんの顎にしたから突き上げるような頭突きで攻撃し、後ろに回り込んでからの絞め技でで、意識を落とす。
これでよし。シスターさんを引きずって花壇の陰に戻る。顔を見られないためには迅速な行動が重要だよね?
それにしても『歩く教会』ってすごいね。頭突きの反動が全くないもん。
「ごめんね」
一言謝ってシスターさんの修道服を脱がしていく。
別に私にそういう趣味があるわけじゃ……あるけど、違うよ?変装のために少し借りるだけだからね?
原作ではオルソラ・アクィナスが着ていたモノと同じ黒い修道服を『歩く教会』の上から着る。
ちょっと背が高い人の来ていた修道服だからかぶかぶかだけど、『歩く教会』の上から着れば少し違和感を抑えられる。かな?
あ、『歩く教会』フードは脱いで、黒い修道服フードに変えてっと。フードは意外と大きかったので、顔にかぶってしまったけど、顔を隠せるからいいかも。
それじゃ、行って来ようかな。できれば穏便に済ませたいところだけど、そんなにうまくいかないんだろうね。
正面から教会の聖堂に乗り込む。って、あれ?
聖堂にはなぜか武装神父と武装シスターたちの姿があった。
……おかしくない?原作7巻のシスター軍団レベルではないけど、25人程度だけど、それが全員武装しているなら十分に危険だと思う。
たぶん、
流石に
まあ、私の敵を勝手に減らしてくれるのはいいけれど、この状況は少し危ないかも。今の私は変装しているから
こっちに武器を向けている神父&シスター。うん、完全に戦闘モードだね。
大方、気絶させてから記憶消去をしてそのへんに放置するってところかな?
でも、捕まった後に私が
私としても戦争なんて事態は避けたいから、私の正体がばれてないうちに何とかしないとね。
とりあえず私の頭の中の『十万三千冊の魔導書の知識』から選んだ内容を、跳びかかってきたシスターたちに向けてぼそりと呟いてみた。
「ーーーーーー」
とびかかってきた武装シスターは頭を押さえてうずくまる。
おお、効いた。ぶっつけ本番で成功するとは思ってなかったけど。では、この場にいる全員に聞こえるように再び呟く。
「------」
……これは、すごいね。一瞬で教会内の敵性を戦闘不能にできるなんて。
私が使ったのは『
とりあえず全員を気絶させておこう。
教会内の一室に、私の探していたものを見つけた。
それは、ただの電話。その周辺を捜すととある電話番号のメモも見つかった。
私はその番号を入力して電話をかける。電子音が3・4度鳴り、止まる。
『はい。こちらはローマ正教、リドヴィア教会でございます』
私が電話をかけたのはローマにあるリドヴィア教会というところだ。名前で分かるとおり、ローマ正教のシスターであり原作にも登場した、リドヴィア=ロレンツェッティの布教の功績から建設された教会、らしい。
原作にないそんな施設の存在より、電話相手さんが日本語で応対してくれていることに驚いた。
「申しわけございませんが、オリアナ=トムソン様はいらっしゃいませんか?緊急で依頼したいことがあるのですが」
『オリアナ=トムソンさんは……この教会にいらっしゃるようです。電話を代わるのでございますよ』
私がこの教会に攻め込んだ目的はオリアナ=トムソンと接触するためだったりする。
私こと、
しかし、私が外部から完全に隔離されている学園都市に入る方法を知っているわけがない。
そこで学園都市侵入のために私が考え付いた方法は、『運び屋』オリアナ=トムソンに依頼することだった。
餓死の危機にさらされていた私は、迷わずこの作戦を実行に移したわけなんだけど……正直、この時期にオリアナ=トムソンがローマ正教に雇われていたかどうかは運任せだったから、少し安心しているんだけど。
あのお姉さんに協力してもらうための算段はついているから。
『オリアナ=トムソンです』
「少し依頼したいことがあるのですが……」
あのあと、一悶着あったけれどなんとか日本に来て貰えるようだったので、助かった。
どうやら、この町まで出向いてくれるそうなので、市立図書館に行って時間を潰すことにした。
とりあえず、
このままだと本格的に餓死エンドだからね。
幸い近くには小さな山があるからそこでキノコを採れば……それがだめなら野草を洗って食べるしかないけれど。
そこは、
あれ?図書館内の人が消えた?
「お前が
……やばいかも。
見回してみると短剣や杯や杖などの道具を持った人達が並んでいる。
まさか、図書館で魔術結社の人達に囲まれるなんて……。
うん。もうこれはあきらめるしかないね。あ~あ、これでせっかく始まった私の旅もここまでなんだね……。この後、捕まって魔術で頭の中をのぞかれるか、人体改造されて知識を吐き出す人間コンピューターにされてしまうのかも。
サヨウナラ。私の
これにて、とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す物語は終了………………
……とはならないんだよ!!
まず捕まってもほぼ確実にステイルが助けてくれるはずだし、いざとなったら『
と言っても、私自信の力でこの場を切り抜けることさえできるならそれに越したことはないんだけど。
ということで、まずは敵戦力確認。敵4人の内1人は他の3人より後ろ、つまり一歩分私から遠ざかっている。武器は『杖』『杯』『短剣』『円盤』という4つの『
修道服などの分かりやすい服を着ていない点。これだけの少数人数で来た点。この二つから敵は小さめの組織と判断。
武器の種類から、おそらく黄金系の魔術結社。他の人達より後ろで『円盤(CDみたいなのに五芒星が描かれたもの)』を持って偉そうにふんぞり返ってる人がリーダーかな?
私が黙っているのに苛立ったのか前にいる三人がそれぞれ
「黄金の杯は水の象徴。湧き上がれ、水よ」
どう見ても杯に入りきらない量の水が杯から浮き上がった。杯の人が少し命じるだけであの水が飛来するだろう。
でも、その程度じゃこの『歩く教会』は突破できない……
「……貫け、炎よ」
杖の人が放った魔術の炎が水塊に突き刺さる……突き刺さる!?
まさかと思った瞬間、水塊を中心に爆発が起こった。
これは水蒸気爆発……?これってどちらかと言えば科学の分野じゃ?
そんなことより今の爆発。私は『歩く教会』の恩恵で少し吹っ飛ばされただけで無傷だった。『歩く教会』は運動エネルギーに関して、ある程度しか打ち消すことはできないらしいね。それでも普通に比べ飛ばされた距離は随分と短いけど。
今の爆発の威力なら敵の人達は爆発に巻き込まれているはず。
「引き裂け」
声とともに起こった風で煙が吹き飛ばされ、先程の位置に敵の人たちが現れる。
私の知識と合わせて、敵の使った魔術を考察。水蒸気爆発の瞬間に短剣の人が風の防壁を張っていたみたいだね。この防壁は爆風を受け止めるのではなく、私の方に向けて流している物みたい。
水と火の魔術による水蒸気爆発を、風の魔術で一つの方向へ流すことで、威力を高めているっていうわけだね!
煙を吹き飛ばした魔術は、私を逃がさないため、見逃さないためだと思う。
「湧き上がれ、水よ」
「貫け……」
でも、敵の戦法さえ分かっていれば攻略は簡単かも。
再び現れた水塊に向けて私は走り出す。それに一瞬驚いたような表情を浮かべた敵の人達。
「炎よ!」
杖の人が炎を放ち、水塊に突き刺さる。
再び起こる水蒸気爆発に対し、私は全力で飛び込んだ。
普通なら自殺行為だけど『歩く教会』でダメージは完全に無効化できるし、爆風によって生じる運動エネルギーもかなり軽減できる。爆発の瞬間に全力で飛び込めば……!
私の身体は煙に包まれる。そこで、私は一度足を止め、煙を吹き飛ばすための魔術が使われるのを待つ。
煙を吹き飛ばす魔術と爆発から身を守る魔術は別物だった。だから煙を吹き飛ばしたタイミングなら相手に接近できる!
「引き裂ッ!?」
「
走った勢いを利用した
短剣は風の
「湧き上がッグ!?」
そのまま振り返りつつ杯の人の手を全力で蹴って杯を落とさせる
こういうタイプの魔術師の弱点は詠唱の時間。詠唱が必要な魔術師は近距離で詠唱が終わる前に攻撃すればいい。
「貫け、炎……」
「
「!?」
杖の人が出した炎はなぜか出した途端に爆発し、その場にいた全員を吹き飛ばした。
まあ実際は
この『
さて、爆発の煙に紛れてこの人達から逃げないと。
いい魔術詠唱が思いつかない作者のたくヲです。
『歩く協会』。……いや、『歩く教会』マジ便利回。
前回チートになるのはもっと後と言いましたが、もう結構チートな気が……まあいいか。
『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をこれからもよろしくお願いします。