とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す   作:たくヲ

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とある魔術と禁書目録

 目が覚めると白い天井が見えた。手術前に儀式を行った部屋だと気が付くまで数秒かかった。

 

 右からカエルのお医者さんが覗き込んでくる。

 

「目が覚めたかい?」

「……うん。手術は?」

「手術は成功だよ。あとは、傷の治りを待つだけだね?」

 

 のどにわずかに痛みはあるけど、一応問題はないかな?

 

「飲食はできるのかな?」

「一応は問題はないね? だが、炭酸飲料や酒は避けたほうがいい」

 

 さて、まだ麻酔が完全に切れていないのか、体はゆっくりとしか動かない。

 

「じゃあ、僕はそろそろ行かせてもらうよ。今のところはまだ急患はないけど、いつ来るかはわからないからね?」

 

 そう言い残して出て行くカエルのお医者さん。カツカツという足音が遠ざかっていく。

 

 私は体をゆっくりと起こす。

 

 そして手術衣の胸元をはだけ、貼ってあったルーンのプリント用紙を剥がした。

 

 『封印』が解ける。

 

 

 私は立ち上がり、ベッドの横にある机の三段の引き出しの一番上を開ける。

 

 そこに入っていたのはペットボトルに入ったスポーツ飲料。

 

 私はゆっくりと、しっかりとペットボトルのふたを開け中身を口から流し込む。

 

 のどに一瞬痛みが走る。でもそれはその直後にはもう消えていた。正確には消した(・・・)というのが正しい。

 

 

 三段の引き出しの中で一番大きい下を開ける。その中には一着の服。壊れた『歩く教会』を大量の安全ピンで強引に修復した修道服。

 

 麻酔を完全に切った(・・・・・・)私は手早くそれに着替えた。

 

 着替えた理由はいくつかあるけど、(インデックス)と言えばやっぱりこれなんだよ。

 

 

 ゆっくりしている場合じゃない。

 

 推測だけど、外では軍覇たちが敵と戦っているんだろう。

 

 参戦したいところだけど、今の私は『歩く教会』の防御力が失われている。そんな状態で飛び込んで行っても足手まといになるだけだね。だから準備をしないと。

 

 私は三段の引き出しの真ん中を開き、中にある単語帳(・・・)を取り出した。

 

 

 

 

 

 軍覇は大量の機械の犬に囲まれていた。さらに、その周りには機械の犬の残骸が大量に転がっている。

 

 暗部の人間を差し向けていないのは周囲に貼られた『人払い(Opila)』のルーンのせいだと思う。その点において学園都市製の機械は『人払い(Opila)』を無視できるから入ってこれたんだろう。

 

 軍覇が右腕を振り抜くたびに大量機械犬は壊れていく。

 

 この調子なら問題なさそうだけど……。

 

 その時、軍覇の後ろに機械犬の一体が回り込んだ。軍覇に噛みつこう跳びかかるのを見て、私の身体は、口はすでに動き出していた。

 

禁書目録(インデックス)跳躍両足蹴り(ドロップキック)!!』

 

 考えるよりも先に体が動いた。

 

 20メートルほどあった距離が一瞬でゼロになり、機械犬の胴を両足の靴底で踏みつけるように蹴り飛ばす。

 

 吹き飛んだ機械犬が壊れながら他の機械犬を巻き込み、機械の塊になって転がっていく。

 

「ッ!」

 

 軍覇は向いていた方向に鉄山靠の(背を向ける)ような動きで攻撃を繰り出す。

 

 どういう現象が起こったのかはわからないけど、軍覇の身体に触れていない機械犬まで、見えない巨大な壁に衝突されたかのように吹き飛ばされる。

 

 すぐさま元の体勢に戻る軍覇。

 

「インデックス、もう動いてもいいのか?」

「……問題はないよ」

 

 軍覇は地面に掌底をするように両手の平を叩きつける。

 

 謎の力が周囲の機械犬たちを吹き飛ばす。

 

「手助けはいるかな?」

「いや、大丈夫だ。それよりカミジョーのとこに行ってやってくれ。アイツはこいつらよりやばそうなやつとやりあってる」

 

 機械よりもやばそうなやつってことは魔術師かな? 機械に対して幻想殺し(イマジンブレイカー)は相性が悪いから間違いないと思うけど。

 

「なにより、こんな根性のかけらもねえ機械どもは俺が根性を叩き込んでやんねえとな」

 

 機械犬はどこで作っているんだと聞きたくなるくらいに湧いてくる。

 

 当麻の位置は大体わかる。魔術師らしき敵の魔術を次々と打ち消している、独特の魔力反応を感知したからね。

 

 軍覇は真横に右腕を突き出す。その瞬間に右の機械犬の集団にぽっかり穴が空く。

 

「行け!」

「ありがとう!」

 

 軍覇が作った道に向かって私は走っていく。

 

 

 

 

 私が辿り着いた時にはもう決着はついていた。

 

 当麻の右手は敵の魔術師の顔面に突き刺さり、魔術師は後ろに転がり、仰向けに倒れる。

 

「とうま!」

「!? インデックス! 手術は終わったのか!?」

「うん」

 

 上条当麻は脇腹のあたりを抑えるようなしぐさをする。おそらく一撃貰ったんだろうけど、あんまりダメージを血が出てないあたり打撃によるダメージだろうね。

 

 倒れている魔術師をみる。40歳くらいの女の人。黒い上着に、脱色したジーンズ。手入れしていないか傷んだ髪。

 

 ふむ、おそらく『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師テオドシア=エレクトラだね。北欧神話の術式をベースに次々使用する魔術を変える魔術師だった。

 

「あれ? お前なんか雰囲気が……」

「そうかな?」

 

 自分ではあんまり変わった気がしないけど、人から見ると変わっているものなんだろうか?

 

「よお。カミやん」

 

 声。

 

 かなり離れたところに金髪にアロハシャツ、サングラスをかけた大男が立っている。

 

「つ、土御門!? お前なんでこんなところに」

「それはこっちの台詞ぜよ」

 

 土御門元春。以前から交友があった土御門舞夏の兄であり、当麻のクラスメイト。

 

「インデックス。上条当麻を何故巻き込んだ?」

 

 イギリス清教、学園都市を筆頭にあらゆる組織に所属する多角スパイにして、陰陽道を扱う魔術師。

 

「んー、本人の希望かな? ああ、安心してアフターケアくらいはちゃんとさせてもらうんだよ」

「ふざけるなよ。そう簡単に魔術サイド(こっちがわ)に一般人のを関わらせていいとでも思っているのか!」

「お、おい! 土御門! お前何を……」

 

 クラスメイトの見せるあまりの剣幕に困惑している当麻。

 

 土御門元春はその言葉には答えず、見向きもせずにこっちに近づいてくる。

 

「わからないんだよ。何せ一年前から記憶がないんだから」

 

 土御門元春は苛立つように口をゆがめる。

 

 当麻には記憶がないことは計画の説明で話したから驚いた様子はないけど……。

 

「お前、何が目的だ? カミやんや、第七位を巻き込んでまで何をする気なんだ?」

「もちろん、幸せになるんだよ。このままじゃ一年周期で記憶を消され続けることになるし、ステイルやかおりにも辛い思いをさせちゃうからね」

 

 土御門元春は両手をポケットに突っこんで足を止める。

 

 そこからよくわからないけど殺気のようなものを感じる。

 

「もう一つあるけど、それは説明しても仕方がないから言わないんだよ。……あなたは戦うつもりみたいだけど、この状況を理解しているのかな?」

「お前の『歩く教会』が破壊されたことくらいはわかっている。それさえないお前ならオレでも止められる」

 

 確かに、土御門元春と言えば当麻を上回る素手での戦闘能力を持っていたはず。

 

「確かに素手じゃあなたにはかなわないと思うけど……あなたはもう気が付いているはずだよ?」

「……」

「今の私は魔術を使えるし、今既に使っているってことぐらいはね」

 

 麻酔を解いて、のどの手術痕を治したのはスポーツドリンクを利用した食事によって発動する『天草式』の『回復魔術』。軍覇の時の高速移動は『改良版速記原典(ショートハンド)』によって天使の力(テレズマ)を引き出しての強化魔術。すでに、私は二つの魔術を使っている。

 

 土御門元春は当麻を見る。

 

 ふむ、戦うのはあきらめたのかな? 

 

「カミやん。自分が何をしたのかわかっていないようだから教えてやる。インデックスは魔神になった」

「魔神?」

「魔術を極めて、神の領域に入っちまった人間のことだ。もうすでに、そいつはその力を得てしまった。なにせ、魔神ってのは神にも等しい存在だ。世界を粘土みたいに組み替えちまうことも可能だろう」

 

 土御門元春は続ける。

 

「わかるか、カミやん。魔神になったソイツは頭にある十万三千冊の知識で世界を支配できる。そんなやつを野放しにしておくわけにはいけないっていうんで、イギリス清教はそいつに『首輪』の術式を施した」

 

 土御門元春は両手をポケットから出し、構える。

 

「カミやん。頼むから、止めてくれるなよ。他の相手ならお前の相手もしてやれるが、流石にこいつの相手をする前に消耗するわけにはいけないからな」

 

 その両手には動物の折り紙のはいったフィルムケース。

 

「私が魔神になったっていうのはあなたが言ったはずだけど」

「ああ、知っているさ。確かに、お前は魔神の力を手に入れたようだが、その力を持て余しているんじゃないのか?」

 

 ……ばれてたみたいだね。

 

「そうだろう? 魔神としての力を万全に振るえるのなら、こんなところにまでわざわざ出向いてくる必要はない。その力を振るえないのも当然だ。お前が魔術を振るうのはこれが初めてなんだからな」

「だからといって勝てると思っているのかな?」

「むしろ、この機会を逃せばお前を倒せることはないと言うべきだ。お前がその力に慣れた時にはもうどうしようもない」

 

 そこまで話して、上条当麻が私と土御門元春の間に割り込むように立ちふさがる。

 

「……。オレはカミやんと闘う気はない、という意味で言ったんだがな」

「ふざけんじゃねえよ。土御門」

 

 当麻は私に背を向けたまま私を守るように立っている。

 

「俺はお前が言っていることなんてほとんど理解してねえし、魔神ってのが具体的にどんなもんなのかも想像できねえよ。でも、インデックスが嘘を言っていないのはわかった」

「インデックスとほとんど会話もしていないカミやんがそれを言うのか?」

「確かに俺はインデックスとはほとんど会ってないし、会話もしてねえよ。実際、会った時間なんて24時間にもならない。でも俺はインデックスを信じたい」

「ソイツはもうすでに世界を変えられる力を持ってる。そいつが暴走でもしたら、俺たちもただじゃ済まない。そのことを理解しているのか?」

 

 当麻は首を横に振る。

 

「わからねえよ! でもな、俺はインデックスの言葉を疑いたくねえんだ! インデックスは俺を巻き込まないために最後まで言葉を探し続けてた。そんなやつを裏切れるわけねえだろうが!」

 

 当麻は叫ぶように言った。

 

「土御門。テメエが言ったんだぞ」

「何をだ?」

「イギリス清教がインデックスに『首輪』の術式を施したって話だ。さっきインデックスから聞いた話と同じだった。なら、こいつを魔術師に対抗するために十万三千冊を覚えさせたってのも事実なんだろ。『首輪』の魔術ってので、記憶を一年周期で消させて教会に逆らえなくしたってのも」

 

 土御門元春の表情に変化があったように見える。サングラスで目は確認できないけど、迂闊に情報を与えてしまったことを悔やんだようにも見えた。

 

「それなら、インデックスが殺されるのは間違ってる。だって、インデックスが魔神の力ってやつを手に入れたのは記憶を失いたくなかったからだろ! 記憶を失うのが嫌だったから昔の仲間から攻撃されながら説得して、一年もお前らの演技に付き合わされて、そんな中でようやく目的を果たした! それを否定する権利はだれにもないだろうが!」

「カミやん。もう、感情論で語れる次元じゃない。魔神ってのはそう言うレベルの化け物だ。どうしようもなくなる前に殺すしかない」

 

 そこまで、言って土御門元春は説得をあきらめたのか、両手に折り紙の入ったケースを持ったままボクシングのように拳を握る。

 

「どうやら口で言っても解らないらしい。なら、上条当麻(・・・・)。お前を無傷で倒してそこの魔神を倒すだけだ」

「それはこっちの台詞だ。……いいぜ。お前が人の幸せを踏みにじろうってんなら、そんなふざけた法則しかないって言うなら!」

 

 当麻は拳を握りしめて言う。

 

「まずはその幻想をぶち殺す!」

 

 

 

 土御門に向かって駆け出そうとする上条当麻。

 

 その瞬間、バックステップで距離を取りながら私は上を向いた。

 

 当麻と土御門元春が私の視界から消える。

 

 視界には巨大な建物の上部と青い空とぽっかりと浮かぶ白い雲だけ。

 

 私は歌う。私の口から洩れた一音が世界に吐き出される。

 

 その歌に反応したかのように私の目の前の空間に二つの魔法陣が浮かび上がり、亀裂が走る。

 

「『(セント)ジョージの聖域』発動」

 

 そして、空間の亀裂から一直線に、光の柱が空に放出された。

 

 光の柱に触れた雲に吹き飛ぶ。

 

「自壊せよ!」

 

 バキリと、空間の亀裂が砕け、浮かび上がった魔法陣も空気に解けるように消えていく。

 

 視界を元に戻す。

 

 そこでは当麻が拳を振り抜いた姿勢で固まっており、土御門元春は少し離れた所で倒れていた。

 

 意識はまで落ちてないようだけど、ある程度はダメージが入ったはずだね。

 

「インデックス、今なんかしたか?」

「いや? 二人には何もしていないよ? ただ魔術の試し打ちをしただけ」

 

 嘘ではない。土御門の注意を引きつけるために魔術をできる限り強力な魔術を使っただけ。

 

 普通に戦えば当麻では土御門元春には勝てないからね。超えてきた場数も積んできた訓練の量も違うだろうし。

 

 なら、土御門が無視できないほどの魔術を見せて意識をこっちに向けさせればいい。その一瞬で当麻なら勝負を決めてくれるはず。

 

 私が飛び込んで行ってもよかったんだけど、ここで私が戦うのはなんか違う気がするし、だからといって実力差を知っていて黙って見ていられるほど薄情でもないからね。

 

 何より、ここで土御門元春を直接倒すのは当麻の信用を失いそうだったから、動きづらかった。

 

 ……これも大概だけどね。

 

 私が以前から考えていた魔術を使いたかったというのもある。

 

 『(セント)ジョージの聖域』。単純に『竜王の殺息(ドラゴンブレス)』を放つ魔術。歩く教会を壊せるほどの強力な魔術だね。

 私が使いたかった本命はこの魔術そのものじゃなくて、その魔術をトリガーにした他の魔術なんだけどね。今現在進行形(・・・・・)で使用しているけど、魔力がごっそりと持ってかれているからできれば早く解除したいんだよ。こういう状況で解除すると襲撃に対処できないからまだ解除はしないけど。

 

 私は懐から単語帳の残った2ページの内1ページを口で引きちぎり、背中に貼り付ける。

 

 とりあえず離れないとね。流石の多角スパイ土御門元春とはいえ、当麻の一撃がクリーンヒットしたわけだし、そうそう動けないと信じたい。

 

「あ」

「どうしたんだ?」

「いや、刃物か何かを持ってないかなって」

「それならさっき倒した奴が持ってたぞ」

 

 ふむ。

 

 うつぶせに倒れている女魔術師、テオドシア(仮)とでもしておこうかな? その横にさっきの立ち位置では見えなかった短剣が落ちている。

 

 近づいてその短剣を拾おうとした時に、テオドシア(仮)の右手が動く。

 

「死ねデス!」

 

 短剣を掴み私に突き出してくるテオドシア(仮)その短剣はまっすぐに私のお腹に向かい……。

 

 私の体に突き刺さることなく私の皮膚に触れた途端ぴたりと停止してしまう。

 

「アレ?」

 

 私はテオドシア(仮)の短剣を持つ右手を掴み、後ろにひねり上げる。

 

「イタタタタタ!?」

「まったく。完全記憶能力を持つ私にそんな小細工が通じると思ってたのかな?」

 

 まあ、私じゃなくても仰向けに倒れていたのがいつの間にかうつぶせに変わっていたら気づくとは思うけどね。

 

 右手から短剣が落ちる。素早く左手で肩を掴み、

 

禁書目録(インデックス)河津落とし(フロッグドロップ)!」

 

 左足で相手の足を取るようにして自分の身体ごと背中から地面に叩きつけた。

 

「ッぐう!?」

「ッ!」

 

 ……流石に『歩く教会』がないとダメージがきつい。覚悟していたとはいえ捨て身技は反動がきつい。

 

 地面に落ちていた短剣を拾い転がって距離を取る。

 

 立ち上がるとまだテオドシア(仮)は痛みに悶えている。

 

禁書目録(インデックス)肘撃ち落とし(エルボードロップ)!!」

 

 私は倒れたテオドシアに跳びかかるように肘打ちを落とす。

 

 ゲホッとせき込むように空気を吐き出してテオドシアは気絶する。

 

 短剣を手に持ち高く歌う。すると、減少し続ける魔力の量が一気に緩やかになる。

 

「……これで、良いかな」

「お前だいぶえぐいことするんだな……」

 

 若干引き気味の当麻が言う

 

「迷わず刺してくるような相手はこうでもしないと止まらないからね。とりあえず逃げようか? そろそろさっきの人も起きてくるだろうし。

 

 

 

 

 

 移動すると、火織とステイル、そして一足先に合流したらしい軍覇がいた。離れた所から爆発音が聞こえるあたり『魔女狩りの王(イノケンティウス)』は出張中らしいね。

 

「大丈夫だった?」

「ああ、問題ないよ」

 

 周りには魔術師が3人ほど倒れている。

 

 その中の一人、仰向けに倒れている魔術師の服の特徴は知識(・・)にある。年齢20歳ほど身長は2メートルほどの黒いコートを着た男。使っていたのであろう西洋剣は折れている。

 

 リチャード・ブレイブ。全ての者を平等に燃やす魔術『破滅の枝(レーヴァテイン)』の使い手だったはず。

 

 おそらく、火織の『七閃』による先手必勝って所だろうね。

 

 今まで見た敵の中で人間は全員魔術師だった。内三人が『必要悪の教会(ネセサリウス)』の魔術師で確定。

 

 私たちの動きに感づいた教会が刺客を差し向けたってところかな?

 

 日本に出張中の所属メンバーを強引にかき集めたんだろう。

 

「インデックス。無事でしたか」

「うん。ごめんね心配かけちゃって」

「……インデックス? まさかあなた魔術を?」

 

 私を見て火織が聞いてくる。

 

「うん。まあ手術が成功した証拠だね」

「……? 北欧神話系の魔術かな?」

 

 ふむ、やっぱり、北欧系の魔術を使うステイルはある程度わかっちゃうかな?

 

 まあ、複数の逸話、伝承を利用して保管しているから、厳密には純粋な北欧神話系とは言えないんだけどね。

 

 私が使用した術式は先程までの強化魔術の他に英雄『ジークフリート』の術式というものがある。術式は単純で『(セント)ジョージの聖域』を自壊させることで、『竜殺し』の記号を取り出して、偶像崇拝の理論を応用し『竜を殺して背中以外無敵の身体を手に入れた英雄』である『ジークフリート』を私自身の身体で再現したものだ。この『ジークフリート』という英雄は北欧神話の『シグルズ』と同起源とされるから、そちらの伝承も魔術に組み込んでいるから北欧神話系の魔術の色が付いたんだろうね。

 

 効果は背中を除くすべての部位の無敵化。さっきのテオドシア(仮)の短剣による一撃を受けてダメージがなかったのはこの魔術おかげなんだよ。

 

 ただし、強力な魔術効果と引き換えに多量の魔力を消費してしまう上に、背中だけは無敵化しないという弱点もある。テオドシアの短剣を奪うことによって、ジークフリートが奪った剣『バルムンク』の役割を偶像崇拝の理論で再現、補完することで、『ジークフリート』の偶像としての役割を本物に近づけ、魔力消費を抑えることに成功した。まあ、奪う剣が西洋剣ならもっとよかったんだけど、ぜいたくは言えないかな。弱点の背中は『改良版速記原典(ショートハンド)』で補った。

 

 

「インデックス」

「どうしたのかな? とうま」

 

 当麻に向き合う。

 

 もちろん、私の身体に当麻の右手が触れればこの『ジークフリート』の魔術も破壊されてしまう。強化魔術と背中を守る防御魔術は『改良版速記原典(ショートハンド)』のページを使って発動しているから、ページを破壊しないと効果は消えない。……まあ、当麻の右手が私の身体に触れている間は効果は切れるんだけど。

 

 だから当麻の動きには注意を払う。無論周りの動きも含めて。

 

「これからどうするんだ? やろうとしていたことは終わったんだろ?」

「そうだね……」

 

 言われてみれば私は終わった後のことは、あまり考えていなかったような気がする。

 

 転生前の目的は果たせた。『首輪』も外れた。

 

「とりあえず、学園都市から出るつもりでいるんだよ。ここに来た目的は果たしたし」

「そうか」

「……ここは一応引きとめる場面だと思うんだよ」

「……ええー?」

「ああ、冗談だから安心して」

 

 インデックスジョークなんだよ。

 

 この後、私はひとまず学園都市を出る。

 

 イギリス清教と決着をつけておかないといけないし、ここで、アレイスター率いる暗部による暗殺を恐れながら暮らすのもあんまりだからね。

 

 それに、前の私(インデックス)との約束も果たさないとね。

 

「3日後ってところかな、いろいろしなくちゃいけないこともあるし」

「そうなのか……」

 

 さて。

 

「ぐんは。あなたはどうする?」

「どうするって?」

「それはもちろんお礼だよ。私はあなたをここまで巻き込んでしまったわけだし、今後の生活くらいは保障させてもらいたいかも」

「いや、大丈夫だ。俺は俺の根性を見せつけるためにやったまでだからな!」

 

 まあ、拒否してもアフターケアぐらいはさせてもらうつもりだ。その準備もしないとね。流石にここまでしてもらって何も返さないほど恥知らずじゃないし。

 

「とうまもだね。このお礼は必ずさせてもらうんだよ」

「いや、無理言って協力したのは俺の方だし」

 

 うーん。当麻に関しては難しいんだよ。

 

 正直、これ以上私が関わらない事が一番のお礼と言えるかもしれない。アレイスターのプランの性質上、当麻は殺せないだろうし。……まあ、上条当麻本人はあんまり納得はしないと思うけど。

 

 そう考えると、二人のピンチには颯爽と参上するっていう形が一番よさそうかも。

 

 

「さてと。とりあえず二人とも病院行って来ようか?」

「「へ?」」

 

 軍覇と当麻の声が重なる。

 

「へ? じゃないんだよ。ぐんははさっきのあれを見る限り何回か攻撃をうけてるだろうし、とうまはさっきから脇腹のあたりを気にしているし」

「問題ねえよ。気合い入れれば血は止まる」

「……血出たんだね」

「あ、やべ」

 

 はあ、とため息を吐く。

 

「迷惑かけたのはこっちだし、お金ぐらいは払うから行ってきて」

「流石にそこまでしてもらうわけには……」

「こっちは命を助けてもらってるんだよ? それくらいはしないと。ほらほら、早く」

 

 病院に二人を向かわせる。

 

「さて、そろそろ出てきてくれないかな?」

 

 ステイルと火織が私の向いた方を向く。

 

「一応、気配くらいは消せてた思うんだがな」

 

 建物の陰から現れたのは土御門元春。

 

 まあ、勿論気配を消した土御門元春を発見していたわけじゃない。追いかけてくるとは思ってたし、気配なんて読めないからとりあえず警告しただけだね。出てきてくれて助かった。

 

「土御門!? なぜここに!?」

「オレは学園都市へ送り込まれたスパイ。オレがいない方がおかしいだろう? それにしても神裂、ステイル。随分と早まった真似をしたものだな?」

 

 ステイルと火織は警戒を緩めない。

 

「禁書目録を解放した裏切り者であるお前たちは教会には戻れない。こんな簡単なことも理解していなかったのか?」

「いえ、わかってはいました。事実、インデックスの排除に関する連絡は先程ありました。……ですが」

 

 あれ? そうだったの? 初耳なんだけど。

 

 火織は刀を構える。

 

「私たちはこれ以上友人を傷つける気はありませんし、それを黙ってみている気はありません」

「僕も神裂と同意見なんだよ。この件は、先にこの子を攻撃した僕に罪がある。その償いのためならなんだってするさ」

 

 ステイルが10枚のコピー用紙周囲に撒く。

 

 まあ、安心した。

 

 そこで、土御門元春は顔に貼り付けていた無表情を解いて、皮肉気に笑う。

 

「……流石に世界に20人といない聖人様に『必要悪の教会(ネセサリウス)』の誇る天才魔術師。そして魔神の3人を相手にするつもりはないぜよ」

「なら何をしに来たのかな?」

 

 土御門元春の口調が変わった。

 

 どうやら戦う気はないらしい。まあ、土御門元春はウソつきらしいから、あまり信用はできないけど。

 

「そりゃ勿論、説得に決まっているぜよ」

「説得?」

「どうやらお前は本当に世界を滅ぼす気がないらしいからな」

「あれ? 信じたの?」

 

 正直、土御門元春があんまり人の話を信じるとは思えないんだけど。

 

「オレはまだ疑っているけどにゃー。でも、この状況はぶっちゃけ詰んでるんだぜい。この場で倒せなければ魔神の完成。そうなっちまえば、世界のすべてを人質に取られたようなものだ。なら、そうなるよりも先にご機嫌取りに伺ったってわけだぜい」

「……まいかを守るためかな?」

 

 一瞬、土御門元春に笑みに別の感情が混じった。

 

「ああ、安心して。まいかに関しては手を出すつもりはないし、人質にとる気もない。彼女とは友達だからね」

「ッ! ……」

 

 土御門元春は口を開こうとするけど、それを途中でやめて少し黙る。

 

「……本当にそのつもりなら助かる」

「まあ、主従関係ともいえるね」

「ッな!?」

「ほら、まいかってメイド学校の生徒だし」

 

 やっぱり微妙に動揺するあたり筋金入りのシスコンだね。

 

「まあ、信じてもらえないならそれでもいいけどね。私は別に世界を滅ぼす気なんてないんだよ。ああでも、近いうちに最大主教(アークビショップ)に会いに行くからその時はよろしく」

 

 土御門元春を信じる気はない。

 

 何せ魔法名が『背中刺す刃(Fallere825)』。裏切られる可能性が高すぎる。

 

 まあ、前の私(インデックス)との約束もあるし、突っぱねるわけにもいかないよね。拳銃か何かの飛び道具で私を狙ったりもしなかったし、信じたい気持ちはある。

 

「あなたにはイギリス清教に今言ったことを伝えてくれればありがたいかな? 学園都市をできれば明日出発する感じで。この仕事受けてくれる?」

「……わかった。やらせてもらう」

「二人はどうする?」

 

 火織とステイルに聞く。

 

「どうする、とはどういうことですか?」

「私についてくるか、『必要悪の教会(ネセサリウス)』に戻るか、だよ」

「……僕は君についていかせてもらいたいね」

「私もついて……」

「本当に?」

 

 火織の言葉を遮る。

 

「あなたは元々は天草式十字凄教の所属だったはずだよ? 『必要悪の教会(ネセサリウス)』と敵対してしまうと天草式十字凄教(かつての仲間)を人質にされる可能性も高くなるわけだけど」

「ッ! それは……」

 

 『必要悪の教会(ネセサリウス)』に所属していた時点でその可能性はあったけど、『必要悪の教会(ネセサリウス)』を抜ければその可能性が高くなるのは間違いない。

 

「今なら、一応交渉役も確保できたし火織もステイルも『必要悪の教会(ネセサリウス)』に戻ることができる可能性もあるんだよ」

「ですが……それは」

「私についてくるってことは世界を敵に回すようなものだしね。私は別に敵対する気はなかったんだけど、相手がやる気じゃしょうがないもん。それに後ろ盾がないと辛い事だってあるだろうし」

 

 私についてくるということはイギリス清教の『必要悪の教会(ネセサリウス)所属』という後ろ盾がなくなってしまうことを意味する。

 

 アレイスター=クロウリーみたいな強力な魔術師であっても『学園都市』という組織を作らざるを得なかったあたり、組織という物の重要性はわかるだろう。

 

「まあ、僕の意見は変わらないけどね」

 

 ステイルが言う。

 

「もともと魔術を覚えたのも力を付けたのも君のためだ。今更躊躇するつもりはないよ」

「ありがとうね。ステイル」 

 

 やっぱり協力してくれる人がいるっていうのは、ありがたいんだよ。

 

 個人的にはやっぱり火織にはついてきてもらいたい。今『必要悪の教会(ネセサリウス)』に戻ろうとしたとしても、土御門元春の協力があるとはいえ一度裏切った火織を『必要悪の教会(ネセサリウス)』が放置するとは考えにくい。土御門元春の裏切りも視野に入れると危険度はさらに増す。

 

 『聖人』を抑えられるだけの魔術。私に施されていた『首輪』以上の魔術をつかって火織を抑えにかかる可能性が高い。

 

「……」

「まあ、別に私達で『必要悪の教会(ネセサリウス)』よりも早く迎えに行けばいいから心配しないでもいいんけどね」

「へ?」

「切羽詰まっているとはいえ大丈夫だよ。さっきの二人には3日後って言ったけど、本当は明日、ここを出る予定だったわけだし」

 

 これはこれで、火織が天草式十字凄教関連で精神的に成長する機会が減ってしまうんだけどね。そのために、天草式十字凄教が全滅してしまっては本末転倒だしいいかな?

 

「……わかりました。あなたにつかせていただきます」

「うん。ありがとうね」

 

 さて、この後はちょっと火織に付き合ってもらわないといけないことがあるし。他の魔術師が起きてくるまえにここから離れようかな。




 たくヲです。

 作品タイトル回。

 魔術師を超えて魔神一歩手前まで上り詰めてしまった……。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。

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