私は両腕を左右に開いて大きく空気を吸い込み、息を止める
その直後に叩きつけられる炎剣。
炎剣が爆発し、私は
勿論、ダメージはない。
私はゆっくりと立ち上がり、ステイルの顔を見る。
「!
ステイルが炎剣を出現させる。その表情はあまりにも辛そうで。
「見てられないんだよ」
私はステイルに向かって走り出す。25メートルほどに開いた距離を駆け抜け一気に接近する。
ステイルはすぐに表情を消した。ただ私を迎え撃とうと炎剣を腰だめに構える。
「
私はステイルの腹部に向け頭から低姿勢で突っ込む。
魔術の習得のために身体能力を犠牲にしているステイルはこの攻撃を避けれない。避けようとしても当てることはできるはず、だった。
「!?」
スカッ、っとステイルの身体を私の身体がすり抜け、勢い余って地面に倒れる。
地面が爆発し右方に吹き飛ばされる。
河川敷の傾斜に背中から叩きつけられたが、ダメージはない。
上下反転した景色の中で、ステイルは私の攻撃した場所の左側に川を背に立っている。
私はすぐに立ち上がりつつ、一つの結論を出した。
『炎』の魔術によって作り出した蜃気楼。私の攻撃を避けたのはそれだね。
それも純粋な『蜃気楼』の魔術ではない。
昔の人々は蜃気楼という現象を見て、それを神の仕業だと思い魔術にした『蜃気楼』の魔術も確かに存在する。
でも、私が
私は傾斜を駆け下りステイルに向かって再び走る。
私は走りながら懐に手を入れ、|単語帳を取り出す。
ページは4ページ。そのうちの一ページを口でちぎりとり、単語帳のを投げ捨てる。
「
ステイルに向かってラリアットを放つ。叫んだことでくわえていたページが落ちる。
スカッ、っと私の振った腕はステイルの身体を突き抜ける。
真横からの炎剣がバランスを崩した私を真横に吹き飛ばす。
今度はしっかりとしゃがむように着地をした私はすぐに立ち上がり、ステイルに突撃していく。
「
闘牛のように何度も突っ込んでくる私を相手にしていては埒が明かないと思ったのか、ステイルは術式を変える。
両手に二つの炎剣が出現する。
「
『
そして、私はステイルとは全く別の方向に走る向きを変更する。
正確にはさっき引きちぎった単語帳のページの魔力に向かって走る。
蜃気楼のステイルが目を見開く。
跳ね上がった炎剣の制御がステイルに戻る。
本体にしたことで蜃気楼ではないステイルの姿が現れる。
「
「
ステイルの右足に、走った勢いのままのサッカーボールキックをすり抜けざまに叩きつける。
ステイルのすぐ斜め後ろで立ち止まり、横目で確認するとステイルは膝立ちになっている。
ステイルが私の姿を追うように膝立ちのまま振り向く。
それと同時に私は振り返る。
ステイルの頭は膝立ちになったことで、私でも届く位置にまで落ちている。
「
振り返る勢いのままに放った裏拳が顎先に入る。
ステイルは力が抜けたように倒れ、両手から炎剣が消える。
気が付くとすぐ近くにまで軍覇と火織が来ていた。
二人はほとんどダメージはないように見える。
「終わったのか?」
「いや。これからが本番なんだよ」
私と火織と軍覇、そして気絶したステイルはさっきの場所から2キロほど移動していた。
それはステイルのルーンの範囲から抜けるためなんだよ。
気絶したステイルは靴なんかも含めて魔術道具は没収して、ステイル自身の修道服で腕を縛っている。暴れられても困るからね。
さらに周囲には火織の結界まで張っている。まあ火織はあんまり結界は得意じゃないらしいけど、最低限の処置だね。
さっき、私が使った『改良版
簡単に言えば魔術を受けることでその魔術の魔力を覚え、魔力の発信源である魔術師を追跡し、その魔術師に張り付くっていうただそれだけの魔術だね。
ステイルは気が付かなかったようだけど、仮にも『原典』だから見つけられたとしてもちょっとやそっとじゃ壊れないんだよ。
「っ……ここは」
ステイルが目を覚ました。
ステイルは一応火織がお茶を使った天草式回復魔術で強引に治したからダメージはないはず。
「かおり」
「わかってます」
火織が魔術を発動し、衝撃波で結界内の『
「神裂火織。君は裏切ったのか?」
それを見て察したのか、ステイルが問いかける。
「いいえ」
「だったら、なぜ
あの時っていうのは、たぶん一番最初にステイル達の襲撃から軍覇が助けてくれた時のことだろうね。
「ステイル、裏切ったというなら私達の方でしょう。私たちは最後のあの夜に
「ッ! そこまで話したのか……そうだ。僕達はあの子を裏切った。だが、それは……」
「インデックスが記憶を消す苦しみをやわらげるため、でした。でも、本当にあの子のことを思うなら、私たちは探し続けるべきだったんです」
火織は私を見る。
「
「……」
「ステイル」
私は話しかける。
「この間も言ったんだよ。私はあなたたちに助けてほしいって」
「……君はまさか覚えていたのか?」
「覚えてはいないんだよ。でも、あなたたちが私の友達だったことは知っていた」
私はステイルの後ろに回って腕を縛っていた修道服をほどく。
「以前の私の気持ちはわからないし覚えていない。でもね、ステイル。今の私はずっとあなたと友達になりたかったんだよ?」
「……」
「私はやり直したい。さっきのあれで、今までのことは全部水に流して、私と友達になって私を助けてほしいんだよ」
「……だが僕には、君を助けられるだけの力は」
「一つだけ可能性があります」
火織が口を開く。
「インデックスの記憶を消さなくてもいい可能性をもった計画が。必ず成功するとは決して言えませんが」
「私はその計画にすべてを賭けたい。成功すれば私は記憶を消すことなくあなたたちと笑って過ごせる。でも、失敗すれば、二度と私たちが笑って暮らせる未来はない。それでも、やらなきゃいけない」
私はステイルの目を見る。
「私は二人と並んで歩きたいんだよ。だから、私に力を貸してほしいんだよ」
「……その計画とやらが成功すれば、本当にこの子の記憶を消さなくてもいいんだな?」
「ええ、間違いないです」
ステイルは少し目を閉じ。何かを考えて、これまでに一度も聞いたことがないほど優しい調子で言う。
「わかった。インデックス。少し説明をしてもらうよ」
「なるほど。確かに、それなら可能性はあるね」
とりあえず改めて修道服を着てもらったステイルが言う。
「この作戦の根幹には学園都市の人がいるんだよ。それでも、構わないのかな?」
「正直言って気に食わないが、それしか方法がないというなら、受け入れざるを得ないさ。まあ、少しでも君におかしなことをしようというなら、この手で焼きつくすけどね」
さて、準備は整った。
「この計画を実行する以上、私には何もできない。全部あなたたちに託すしかないんだよ。だから、ぐんは、かおり、ステイル。三人の力を私に貸してほしい」
私は三人に頭を下げる。
「当たり前だな。ここまで、関わって知らんぷりなんて俺の根性が廃る」
「ええ、もちろんです」
「今までの行いの償いくらいはさせてもらわないとね」
さて、そうと決まれば早く電話をしないとね。
たくヲです。
ステイル加入回。
ここから先はスピード勝負。
これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。