「七閃」
私の真横の地面を神裂火織の七閃が切り裂く。
私はただまっすぐに走る。目指すはステイルの『人払い』の魔術の外。
もう残り十数メートルで人払いの結界の外に出れる。
でも、あと一歩で出れるというタイミングで目の前に火織が落ちてくる。
後方から跳んで、一気に距離を詰められた。そう考えた瞬間に火織が私の『歩く教会』の袖を右手で掴み、左手を添えるようにして一本背負いのような動きで放り投げる。
地面に背中から叩きつけられるけど『歩く教会』によってダメージはない。
立ち上がるため、横に思いっきり転がると直前にいた地面に火織の刀、七天七刀の鞘が突き刺さる。
私は立ち上がりながらも逃げようと足を動かす。しかし、力の入れ方を間違えよろける。
私の真上を鞘に入ったままの七天七刀が切り裂くように横切っていく。
私はそのよろけて転んだ勢いのまま斜めに前転し、その勢いで立ち上がり走る。
さっき投げられたことでわずかに減った結界外までの距離を一気に詰める。
「七閃」
その声にとっさに真横に跳ぶ。跳ぶ前足がついていた地面に七閃の傷が走る。
私はそのまま結界の外に飛び出す。右に人が歩いているのが見える。
人の目ができたおかげで、追撃の手が止まった。
私は振り返ると、すでにそこには火織の姿はなかった。
上条当麻と別れてから一ヶ月が経過し、6月になったんだよ。
困ったことに襲撃の頻度は上がっている。一ヶ月前までは4日に一度だった襲撃が半月前には3日に一度になり、今では2日に一度は襲撃を受けているんだよ。
とりあえず、今日はすでに襲撃を受けてるし、本来なら明日までは襲撃の心配はないはずだったんだけどね。
今の所、常盤台中学の女子寮が襲撃されたことはない。超能力者二人が所属する常盤台を襲撃するのは、流石にリスクが大きすぎるし、土御門元春あたりが裏工作してくる危険も少ないはずだもんね。
私としては襲撃されないことに越したことはないからありがたいし、何より襲撃を警戒して選んだ居候先だからね。
今、私は軍覇と行ったとある場所から、いつかの河川敷に行くところなんだよ。
軍覇を呼んだ理由は二つ。
そのうち一つは今日の火織の襲撃に、正確には襲撃後にあった。
今日襲撃してきた火織は私を背負い投げする瞬間に、私の『歩く教会』の袖の中にとあるものを入れていた。
それは日本のどこのものかはわからない山をデフォルメしたご当地キャラのキャンドルだった。
なんでそんなものを入れたのかっていったら、もちろん魔術を発動するためなんだよ。
術式は『山彦』。遠くの山に大声を発すると反響によって声が戻ってくる自然現象を、偶像崇拝の理論を用いて再現したものなんだよ。神の力なんかを再現する魔術が多いけど、これはどちらかといえば妖怪的な方向性の魔術と言えるね。
効果は単純で『一度吹き込んだ声が戻ってくる』というたいしたことのない効果。ただし、耳を当てないと聞こえない代わりに、声を吹き込んだものに直接耳で触れられていない限り、決して盗聴されることがないという隠し効果を持つんだよ。偶像崇拝の理論で本来のものより弱体化しているのを逆手に取っている魔術と言えるね。
さらにこの術式のために使用したのはキャンドルだからね。メッセージを聞き終えた後は火をつけて溶かしてしまえば証拠はほぼ残らないんだよ。
その術式で聞いた火織からのメッセージ。これが重要だった。
一つは、火織に調べてもらっていたことが分かったらしいってこと。もう一つは『今日の18時半ごろにステイルと共に私を襲撃する』ということ。
一つ目に関しては思っていたより速かったと言わざるを得ないね。
すぐにでも計画を実行に移したいところだけど、流石にまだやることが残っていたんだよ。……具体的には説得なんだけどね。
そのことについて話すために、軍覇にはわざわざ来てもらったわけだね。まだ、私たちの計画については軍覇にはちゃんと説明できていなかったし。
軍覇を呼んだもう一つの理由は、今回向かったとある場所の人達をあんまり巻き込みたくなかったから、っていうことだね。
もう一人説得したい人のいる場所を襲撃されるとシャレにならないからね。いざというときのために軍覇に来てもらう必要があったんだよ。
今日は一度襲撃があったし、火織は問題ないとしてもステイルもあまり一般人は巻き込みたくないだろうってことを考えると、襲撃の可能性はほぼないと思ってはいたけど、念には念を入れてってことで。実際、襲撃はなかったし。
まあ、冷静に考えると、これから思いっきり巻き込んでしまう可能性があることを考えると何とも言えない気分になる。
そのあたりは
「さて、ぐんは」
河川敷に着いた。
学園都市に潜入した時オリアナと別れたのも、利徳と横須賀が決闘したところも、横須賀が黒妻綿流と決闘したところも、火織と魔術について会議したのもここだったんだよ。
私は周りを見回す。見える範囲には人はいない。
「ちょっとお願いしたいことがあるんだよ」
「なんだ?」
「ここで、私を巻き込まず、かつ他人に攻撃が当たらないように大爆発を出してもらえないかな?」
軍覇は首を傾げる。
「そんなことしてどうすんだ?」
「ちょっと内緒話をね」
もちろん、これは
「あんまり、他人に聞かれたい話じゃないし。あなたには話しておかないといけないからね」
「お前を巻き込まない保証はねえぞ?」
「大丈夫大丈夫。ぐんはの根性なら私を巻き込まないように能力を使うくらい余裕余裕」
軍覇は自分の能力を制御できてるとは言えないから、心配といえば心配だけどね。
「私は何よりあなたとあなたの根性を信頼しているからね。きっと、私の期待に応えてくれるって」
「……ハッ。そう言われたら断れねーな」
空気が変わる。
私達の周りに空気が集まっていく。少し離れたところにある空気にカラフルな色が付き始め、周囲には何か得体のしれない力が満ちていくのを『歩く教会』ごしに感じる。
「ッ!」
軍覇が地面に両腕を叩きつけた瞬間に起こった爆発が周囲を覆った。
さらに何かの力がバリアのように私と軍覇を守っていた。抑えきれなかった爆風が私の『歩く教会』を叩く。
私は爆風を無視し、軍覇の耳元に口を近づけて言った。
爆発が完全に収まり、内緒話が終わった。
時間は大体午後7時半。
背後からザッ、という河川敷の砂を踏む音。
私と軍覇は音のした方に向きなおす。
15メートル先にステイルと火織が立っていた。
「さて、ぐんは。任せたんだよ」
「おう。お前もぶちかまして来い!」
そう言った瞬間に軍覇が一歩踏み出す。
地面を蹴って、砲弾のように二人への距離を詰める。
火織が鞘に納まったままの七天七刀でその攻撃を受ける。
しかし、その勢いを抑えられずに後方に吹っ飛ぶ。
「ッ!?」
ステイルが振り返った時には、すでに二人との距離はかなり離れている。
「ステイル」
「! ……
ステイルの右手に炎の剣が現れる。
私はただステイルの顔を見つめる。
「
私に向かって炎剣が横なぎに振るわれる。
私はそれを、
「!?」
両腕を大きく開いて受け入れた。
新約12巻をやっと購入した結果、もう再登場しないと思ってたからこの作品に登場させたアイツが登場したことに驚き、いったん本を閉じてどうしようかと小一時間ほど悩んでいた、たくヲです。
繋ぎ回。
これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。