全力ダッシュでステイルを撒いた私は常盤台中学の女子寮に飛び込む。
いつも居候させてもらっている一室の裏においておいた紙束をとって、部屋の中に会った肩掛けバックの中に入れた。
修道服『歩く教会』の中で肩掛けバックを装備する。
とりあえず、これで最低限の準備は完了だね。『改良版
大覇星祭の終わりごろからコツコツ作り続けていた
「さて、行こうかな」
とりあえずこれで、問題はないね。
困ったことに魔力の流れに少し動きがあった。この感じは聖人が魔術使用の高速移動をしているっぽいね。禁書目録のからだは魔術を使えないけど、魔力の流れやテレズマの流れは感知できるみたいだからね。具体的には半径百メートルくらいは。つまり今は半径百メートルに聖人がいるってことになる。
聖人で、
おそらく私が突然走り出したのを見たステイルが自分に感づいたと思って神裂を呼んだんだろうね。
いくら聖人とはいってもイギリスからこんな短い時間で移動するのは無理だし、日本限定の場所移動の魔術『縮図巡礼』を使うにも日が悪い。
神裂以外の聖人の可能性もあるにはあるけど、だとしたらステイルと戦うことになっているだろうし、私の目的にとっては少しだけよい方向に働くはずなんだよ。まあ、もっと激しい魔力の流れが起こってない以上、その可能性は低いと思うけど。
つまり神裂もこの学園都市にいたんだろうね。
「!」
少し強い魔力の流れ。以前、この感じは体験したことがあるんだよ。
ルーンによる『
今の時間は3時。登下校中の学生を変に巻き込んじゃっても申し訳ないし、この魔術は今はありがたい。
部屋の窓を開け外に飛び出し、敷地の外に着地する。常盤台中学の女子寮を攻撃されないようにできる限り離れたいんだけど降りた所にはもうすでにルーンのコピー用紙が張ってあるし、無理かも。
壁に張られたルーンを見た感じ、常盤台中学を中心に半径200mって所だね。
足音が聞こえる。そっちを向くとステイルと神裂が立っている。
きっちりと逃げ道を作ってくれるあたり流石ってところだね。
「
詠唱と同時にステイルの右手から炎剣が出現する。同時に神裂は腰の刀に手を伸ばしている。
話し合いができそうな雰囲気ではないんだよ。
話し合いができるみたいだったら、それでもよかったんだけどとりあえず逃げないといけないね。
二人に背を向け、逃げる。目指すべき場所も決まっているんだよ。
「
その瞬間、思いっきり前方向に吹っ飛んだ。顔面から地面に突っ込まないように両腕で頭を抱えるようにして体を丸める。
着地。
地面を転がって、景色が回転する。止まったと同時に立ち上がりつつ走る。
ちらっと後ろを見ると、二人が追いかけてくるのが見える。
なるほど。私が『歩く教会』の防御力でダメージを受けないのをいいことに背後から攻撃しまくって、消したいくらいの悪い記憶を作るつもりだね。
「七閃」
再び吹っ飛ばされる。今度は七閃の七本のワイヤーのいくつかを使ってだろうね。
ギリギリ着地し、二人との距離をあまり
それから少しの間、ルーンによる『
そして、目的の場所の近く、結界の端の方まで来たんだよ。
私は建物で隠れている細い路地に急カーブして飛び込む。
「行き止まり!?」
そこは少し入ったところで行き止まりになっていたんだよ。
後ろからはステイルと神裂が追いかけてきているから引き返すこともできない。
足がもつれてこける。這うように行き止まりの壁ぎわまで逃げたけど、私はそれ以上逃げられない。
後ろから追いかけてきた二人が、私を見て一瞬困ったような顔をしたように見えた。
まあ、記憶消去ギリギリまで捕まえる気はないだろうし、困るのは当然だろうね。
ここまできて二人の動きが止まった。やっと喋ることができる時間が来たんだよ。
今までは話そうとしても攻撃音でかき消されてしまうし、何より場所も悪かった。
「……助けて」
そして私は、この二人にだけ絶対的な効果をもつであろう言葉を呟く。
「助けてよ。ステイル、かおり」
ステイルの炎剣が消える。神裂の目が見開かれる。
ステイルと神裂。この二人とインデックスが一緒にいた時のことを私は知らない。あるいは覚えていない。
でも、私は知っている。確かにインデックスがこの二人と一緒にいたことを。楽しく笑っていた過去があったことを。
それに、この言葉は紛れもなく本心からの言葉だし、心の底からこの二人に助けてもらいたいと思っている。
だから言ったんだよ。危険でも、ギャンブルめいていても、たとえ私が二人との思い出を忘れていたとしても。
この二人が私に攻撃をしてきたのは、私のためであることに変わりはないんだから。
「ま、さか、インデックス。私たちのことを……?」
ステイルは一度目を閉じた。歯を噛み締める。そして再び目を開き言う。
「惑わされるな、神裂。あの『運び屋』から僕たちの名を聞いていただけかもしれない」
……流石にそううまくはいかないよね。
「
詠唱に応じて、再びステイルの手に炎剣が出現する。
「ですがステイル、これは……」
神裂は攻撃をためらっているように見える。
駄目だ、ね。やっぱり。今の私の言葉じゃステイルには届かない。神裂には少し届いたようだけど、たぶんそれは神裂の魔法名が『
「
「あ」
私にぶつかる前に
そう。世の中っていうのはうまくはいかないんだよ。仮に私がオリアナと会っていなかったとしても、ステイルは同じ判断をしただろうし。もしも、記憶を消す前のことを私が覚えていたならステイルは攻撃を止めてくれたかもしれない。
でも絶対に成功することないように、絶対に失敗するなんてこともない。誰かが助けてくれなくても、他の友達に救われることだってある。
そう、
「おい」
絶望的な状況に友達が助けに来ることだってあるんだよ。
「一人相手に二人がかりなんて根性が足りてねえぞ!!」
たくヲです。
短回。
これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。