ファミレスから研究所まではまあまあの距離があった。
でも、たどり着くまでさほど時間はかからなかったんだよ。
今までの学園都市生活で私は体力がついていたし、一方通行は能力でどうとでもなるからね。
「これはなんというか……」
「たいしたモンじゃァねェだろ、これぐらい」
私たちの歩いている通路。そこから少し横を向けば大量の機械が並んでいるんだよ。
電気の無駄遣いかも。まあ、学園都市の発電は風力だし問題ないのかな?
「ここだ」
立ち止まったのはひとつの部屋の前。
一方通行が自動ドアについている網膜スキャナに一方通行が読み取らせると、ピーという電子音と共に自動ドアが開いた。
中には一人の女の人。
その人は手元にあるデータ用紙をじっと見つめ、ところどころ赤ペンで線を引いている。
いきなり入ってきた私たちに気がついてないっぽいね。
もし私たちがこの研究所と無関係だったらどうするつもりだったんだろうね。学園都市の人はちょっと技術を過信しすぎている気がするんだよ。
「オイ、芳川」
「……あら、一方通行。おかえりなさい」
こっちに気付いた。
芳川桔梗、といえば原作でもたびたび登場した科学者だった。とはいっても、科学者だったのは初期登場時だけで、ほとんどのシーンでは無職だったけどね。『一方通行の実験』に関わった科学者の一人のはずだね。
あ、芳川がなんかこっちを見てる。
「ちょっと一方通行? 実験と無関係の人間を連れ込むなんて」
このままだと面倒なことになりそうなんだよ。
「無関係ではないんだよ」
面倒なことはやっぱり回避したいし、今は
「私の名前は
横目で確認した
「安心して。私はここの実験に関しては全部知っているし、無関係な人を巻き込むつもりもないんだよ」
「……わかったわ。警備は呼ばないであげる」
「ありがとう」
ここでが学園都市の闇側の警備を呼ばれるとちょっと面倒なことになっただろうし、助かったんだよ。
「今、
「一方通行。とりあえず隣の施設までその子を運んでちょうだい」
「ここじゃだめなのかな?」
「
研究所の真横の建物に入ると、ガラスで隔てられた大部屋に培養器がズラリと並んでいた。
横のパスワード式自動ドアから中に入る。
「どれに入れればいいのかな」
「この型の奴ならどれに放り込ンでも問題ねェだろ」
そう言った一方通行は自動ドアから10メートルほどの場所にある培養器の前で立ち止まり
私はとりあえず、
「一方通行」
「なンだ?」
「どう思った?」
「ソイツは
「いや、違うんだよ」
「
「あァ? そりゃァ、俺のやってきたことを知ってて自分からやってくるなんてどォいう神経してンのかとは思うけどよォ」
「確かにそういう疑問が出るのも理解できるけどね。でも私が聞きたいのはそこじゃないんだよ」
「あン?」
「あなたは
「……」
「
私の知っている一方通行と
でも
でも答えを聞く前に、入り口の自動ドアが開いて、芳川桔梗が入ってきたんだよ。その手には
「待たせたわね」
芳川は
「作業しながらでいいんだけど、
「簡潔に言うわね。倒れたのは彼女の身体の調整がまだ不完全だったからよ。そしてそれとは別に、彼女は頭にウイルスを入力されているわ。その内容は『|妹達による人間に対しての無差別攻撃』。それが発動したら学園都市外の協力機関にいる『
ここで、芳川はいったん言葉を区切る。
「あなたたたちが
ふむ、おおよそ原作通りかな?
「これで
どうやらこの謎液体が入っているだけで、ある程度
「すぐに、
「あれ、ウイルスっていうとワクチン見たいのがいると思うんだけど」
「それだと今回みたいな緊急の問題に対応できないから、どうしようもない場合は全ての人格を上書き消去するようになっているわ」
この子の負担を考えるとあまりしたくないんだけどね、と芳川は小さくつぶやく。
このまま何事もなく終わりそうかも。
そう思った瞬間、自動ドアが開く。
おかしい。隣の研究所には芳川以外いなかったはずだから、他の研究者がここに入ってくる可能性は至って低いはず。ならいったい誰が?
入ってきたのは5人の男だった。その中の一人、白衣を着て首から方位磁針をぶら下げた男を見た芳川が声を上げる。
「天井亜雄!?」
「芳川桔梗か。どうやらありがたいことに私が
でも、問題は残りの四人。その銃を持った男たちはフードのようなものがついたローブを着ていた。ローブの色は黄が3人、緑が1人。天井の右前方に緑ローブの男、左前方に黄ローブの男3人が立っている。
そう、まるでその姿は魔術師のようだった。
天井がその緑ローブの男に小さく何かを言う。
「
直後、緑のローブの男の口元が動いた瞬間、背を向けていた機械が音を発する。
機械が完全に停止する。
緑のローブの男の地属性魔術で地面の下のコードを切られたんだろうね。しかも、天井の指示で行ったとするなら、おそらく。
「ッチ!」
舌打ちをした一方通行がベクトルを操作して敵に向かって駆け出そうとする。
「
それよりも早く詠唱を終えた黄色ローブの3人の手元から、全く同時に風の刃が発射される。
三つの風の刃が一つになって、一方通行に衝突。
一方通行に触れた風の刃が虹色の光になって真横に逸れ、研究所の壁を粉砕する。同時に一方通行が足を止め、ベクトル操作によって後方に飛び退く。
歩く教会で破片をガードしたからよかったものの、そうでなかったら芳川は危なかったんだよ。
「……今のは」
一方通行は実験を止めた時に私の攻撃を受けた時と同じような現象が起きたことに困惑しているようだね。
「マズイわね。
機械を見て芳川が言う。
私は敵に聞こえないように小さく聞く。
「
「……今日の午前11時ジャストよ。
大体今10時半だから他の研究所に行く時間はおそらくないね。一方通行が
相手は仕掛けてこない。相手の目的は生きたまま
さっきの機械のコードを切ったのも天井が問題ないと判断したからなのは間違いないはずなんだよ。
原作の天井亜雄は学園都市外部の反学園都市機関と契約して学園都市から脱出するつもりでいた。おそらく時期がずれたことによって契約する機関が魔術結社になってしまったんだろう。
このままだと、ウイルスの発動まで
それだと、とてもマズイ。学園都市が困ると私の友達も困るし、下手すると核戦争で世紀末だもの。
機械が使えないなら
「一方通行。能力で壁を作れる?」
「なンでそンなことを」
「私があの人達を止めるからだよ」
一方通行がさっきみたいに飛び出さないのはきっと、戦いになって攻撃がこっちにそれるのを警戒してのはず。
実際、さっきの風の塊の魔術は一方通行の反射がうまく適応されていなかった。魔術の絡んだ物体は通常と別のベクトルが発生するから、一方通行の『ベクトル変換』との相性がよくないのが原因だね。
なら、一方通行が戦うより、『
「あの人達がきたのはたぶん私のせい。なら、ここは私が何とかしないとダメなんだよ」
「本気で言ってンのか?」
「もちろん」
それに
「一方通行。私が止めている間に、
一方通行は黙っている。やっぱり、いままで壊してばっかりの自分に救うなんてことができるのか、ってまよってるのかな。
でも、いまは迷っている場合じゃないんだよ。もうあんまり時間がないからね。
「はあ」
仕方がないんだよ。こんな時は発破を掛けるにかぎるね。
「がっかりなんだよ、
「ッチ、……できるに決まってんだろォが。俺を誰だと思ってやがる」
「その意気だよ」
私は一歩、敵に近づく。
「信じてるからね」
一方通行が能力を使ったのか地面が盛り上がって、私の背後を壁のように塞ぐ。私の最後に言った言葉が届いたのかはわからないけど、わかってくれていると信じたいね。
さて、今回ばかりは助太刀には期待はできないし、途中で逃げ出すわけにもいかないんだよ。
前方には敵。背後は壁。しかも背後の壁を守らなくてはいけないときたんだよ。背水の陣よりもさらに上の状態が本当に個人で戦うしょせんとは思わなかったんだよ。
まあ、『魔術や魔法の知識を見ることで解析、追加していく能力』のおかげで魔術の解析はもう終わっている。
「
「
『
真下の地面が砕けた緑ローブの男はバランスを崩す。
「
流石に連続攻撃をさばけるほど、『
向かってくる三つの風の刃が合わさった巨大な風の刃。避けたら背後の壁を貫通しかねない強力な一撃。
それを『歩く教会』で守られた腕を前方に構え、防ぐ。三人で放った魔術とは言っても流石に法王級の火力はないんだよ。
受け止めた瞬間に、発生した壁のような風圧がで止まりかける足を動かし、突き進む。
狙いは最初から決まっている。
「
「があ!?」
魔術師たちの中心にいた天井亜雄に『
そして首にからひもでぶら下げている方位磁針をちぎり取り、そこから飛び退く。
4人の魔術師はそれを見て
私は緑ローブの魔術師の腕を掴んで、黄ローブの三人に向けて受け流す。
衝突して、転倒する魔術師たち。
私は手元にある方位磁針を地面に落として踏み壊す。
敵が使ってきた魔術は……『コンパス』とでも呼ぶべきだろうね。
十字教における大天使はそれぞれ属性と対応する方角を持っている。
風の天使は東、火の天使は南、水の天使は西、地の天使は北といったところだね。
さらに、この四つの属性には親和性の高い色なんかもあったりするし、
この魔術は中心を表す物体を用意し、それを軸にそれぞれの方角の天使の属性に対応した色のローブを着た魔術師が立つことにより、全員の魔力で発動する、一種の儀式魔術なんだよ。
今回の場合、中心となったのは天井亜雄の持っていたコンパス。それを中心に風の天使の東に黄ローブの魔術師が、地の天使の北に緑ローブの魔術師を配置したということだね。
この魔術の厄介な所は中心からみて東西南北さえあっていれば、中心と1,2キロくらい距離が離れていても魔術を行使できることと、天使に当てはめることで破壊力をある程度まで上げられること。そして、一度発動さえ指定してしまえば中心さえ破壊されなければ魔術の威力が低下しないことだね。
弱点としては個人での行使ができないことと、中心の物を動かされて東西南北の位置からずれてしまったり、中心のものを破壊されると魔術が使えなくなること。そして発動した瞬間の人数が少ないと火力がでないこと。
本来ならこんな少人数で放つ者じゃない。最低でも東西南北に5人ずつ、これでステイルと互角レベルにはなるんじゃないかな?
おそらく学園都市の中に入るためにできる限り少人数にしなくてはならなかったんだろうね。
さて、魔術の要であるコンパスを破壊した以上、あとは消化試合。
とはいっても、油断はしない。それに、
倒れたまま震える手で銃を取り出そうとした天井の手に
「ぐう!?」
そして天井の腕を掴んで無理やり引っ張り起こし、『
「ぐえ!?」
腹を押さえてうずくまる天井に背を向ける。
「
立ち上がろうとしている魔術師の一人が立てている片膝に左足で飛び乗り、その勢いで太腿を顔面に叩きつける。
倒れた魔術師は同じく立ち上がろうとした残りの魔術師達にぶつかり体制を再び崩す。
最後に天井の頭を脇に抱え固定。そのまま後ずさりつつ後方に倒れ込む。
「
「「ぐお!?」」
天井の脳天が仰向けに倒れていた緑ローブの魔術師の腹部に激突。
二人はよくわからない声を出して、気絶してしまった。
「さて、残り三人なんだよ」
その後、気絶させた3人の服を奪い、その服を使って魔術師4人と天井を後ろ手に拘束し、足も胡坐をかいた状態で縛った。
なお、魔術師たちに関しては奪った色つきローブは使わずに、その中に来ていたシャツを使って縛ったんだよ。
身体検査はしたから、他に武器を持っているということもないはず。落ちている武器も回収した。
大覇星祭のときは、スキルアウトのみんなによる身体検査がおろそかだったせいで、敵魔術師の魔術行使を許してしまったから、その時の反省を生かす形になるね。
そう言った作業を全部終えたところで、一方通行の作った壁が崩れる。
「一方通行。ご苦労様なんだよ」
そこから出てきた一方通行は私の言葉には反応せず、そのまま自動ドアを通って外に出て行ってしまった。
私は崩れた壁から中に入って中にいる芳川に問いかける。
「
「一方通行のおかげで今は安定しているわ。こうなったのは奇跡かしらね」
「ふぅー。よかったんだよ」
壁があったからこっちで何があったかはわからないけど、落ちている携帯電子機器を見た感じだと、きっと一方通行が
そしてそれは成功した。
原作通りとか、そういう問題じゃないんだよ。
一方通行は自分の力で命を救うことができた。そのことが友達としてはうれしいんだよ。
「そろそろ、私は行くんだよ。私みたいなのがいつまでもいるのはこの研究所的にもよくないだろうしね。あと、あの人たちは早く上の人達に連れて行ってもらうべきかも」
芳川に言って外に向かう。芳川もこの実験に関わった研究者の一人だから、お仕置きしておきたいところだけどそんなことしている暇は今はないだろうしね。
私はとりあえず一方通行を追いかけようかな。
まあ、一人になりたい時間もあるだろうからちょっと間は空けるけどね。
たくヲです。
これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。