とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す   作:たくヲ

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とある実験の妨害説得

 場所は廃車場。廃車の裏に隠れている私の視界では、一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号が8メートルほど離れて向き合っている。私の位置はミサカ6023号から見て右斜め前方、いわゆる10時の方角6メートルの廃車の裏。

 

 実験開始が何時なのかはわからないけどもうちょっとで始まるはずだね。

 

 私の作戦実行は実験開始と同時。

 

 作戦の問題点があるとすれば、私がこの実験場を見つけるために切り札の一つだった『改良版速記原典(ショートハンド)』を使ってしまったことが一つかな。方法としては『改良版速記原典(ショートハンド)』の一ページを遠隔操作で飛ばす魔術を使ってミサカ6023号の服の中に忍ばせて、ページにこめられた魔力を追ってきただけなんだけど。

 よって『改良版速記原典(ショートハンド)』を使えるのはあと4ページ。といっても一度この魔術を使用しても一週間は魔力持つようにはなっているから、ミサカ6023号の服の中のページを回収すればある程度の魔術は使えるんだよ。……まあ、今地球のどこにいるのかわからないオリアナなら遠隔操作で破壊できるんだけどね。

 

「実験開始まで残り30秒ですが準備はよろしいですか、とミサカは最後の確認を行います」

「問題ねェよ」

 

 もう一つの問題は、私ごときがこの作戦を実行しきれるのか、っていう根本的なものだね。

 特に相手は学園都市第一位の超能力者(レベル5)。絶対成功する保障なんてないけど……まあ、何もしないよりはいいはずだからね。

 最悪、『改良版速記原典(ショートハンド)』でミサカ6023号と逃げれば、実験を一時中断まで持って行けるはずだし。

 

 そろそろ、実験開始かな?

 

「それではこれより……」

 

 ミサカ6023号が言葉を発し始めた瞬間に私は廃車の陰から飛び出す。

 

「そこまでなん……」

 

 そこまで言って視界がぶれる。次の瞬間には一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号が遠くに見えた。

 

 お腹を見てみると拳くらいの石が『歩く教会』から転がった。おそらく一方通行(アクセラレータ)がミサカ6023号をひるませようとベクトル操作して蹴った石だろうね。

 

 一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号が理解できないようなものを見るような目でこっちを見ている。二人とは30メートル以上離れている。

 

 ダメージもないしとりあえず立ち上がって、後ろを見ると車が6台ほどぺちゃんこになっていた。『歩く教会』がなかったら即死だったかも。

 

 私は二人の方に歩いていく。

 

「……オマエは」

 

 あまりの静けさに、離れた位置にいる一方通行(アクセラレータ)のつぶやきが私の耳に届く。

 

「久しぶりだね一方通行(アクセラレータ)。覚えていてくれてうれしいんだよ」

 

 前に会ったのは7月の終わりごろで今は1月だから、4か月ぶりくらいかな?

 

「なにしに来た?」

「しばらく会ってなかった恩人が妙な実験に関わっているのを知ったからね」

 

 思いだしたというべきかもしれない。完全記憶能力を持っている私が思いだしたっていうのはおかしな話だけどね。原因はいくつか想像できているけど、今は置いておくんだよ。

 

「なにしに来たのかって言ったら、道を踏み外した恩人を説得しに来た、っていうのが一つ。そこにいるミサカ6023号を助けに来た、っていうのがもう一つだよ」

 

 一方通行(アクセラレータ)はため息をついて私を見る。私は一方通行(アクセラレータ)から13メートルくらいの位置で歩みを止める。

 

「助けに、ねェ。ソイツの検体番号(シリアルナンバー)を知ってるてことは、正体も知ってるんだろ? 超能力者(レベル5)になれなかった出来損ないの乱造品(クローン)だってことくらいはよォ」

「うん。知ってるんだよ。でもね」

 

 私が思いだすのはついさっきのこと。妹達(シスターズ)たちと初めて出会った時のこと

 

「さっき私とあった時、妹達(シスターズ)の一人は目撃者の私を排除することは『気が進まない』って言ったんだよ。そして実際に私には手を出さなかった」

「……それがどォした?」

「『気の進まない』って言ったってことは、彼女たちにだって感情があるってことだって私は思う。少なくとも私は、感情がある生き物は人間として見るんだよ」

「……下らねェ」

 

 一方通行(アクセラレータ)は私の方に一歩近づく。

 

「逃げてください、とミサカは忠告します」

 

 今まで喋らなかったミサカ6023号が口を開いた。

 

「あなたも落ち着いてください、とミサカは指示します。実験の内容は私を殺害することであり、そこの女性を殺害すると実験結果が変動する可能性があります、とミサカは不安を訴えます」

「ミサカ6023号。それは私を心配してくれてるのかな?」

 

 私は問いかける。

 

「……なぜそう思うのですか? とミサカは疑問を呈します」

一方通行(アクセラレータ)が実験期間に妹達(あなたたち)以外の人間と闘ってないはずがないことくらいあなたにもわかってるはずだよね。一方通行(アクセラレータ)の立場を気に入らない人に襲撃されてないはずがないし、一方通行(アクセラレータ)の能力なら敵に攻撃された時点で相手を倒しちゃうもの」

 

 ミサカ6023号は僅かに首をかしげる。まだ、妹達(シスターズ)一方通行(アクセラレータ)の能力を知らないはずだもんね。

 

「ほら、一方通行(アクセラレータ)。やっぱり彼女たちには感情があるんだよ。こんな実験を行える科学者たちがわざわざ感情を与えるとも思えないし、きっとこの感情は彼女たちの内側に会ったものなんだと思う。無表情で分かりづらくっても、人の命が失わることを嫌う気持ちを持った人間(・・)なんだよ」

「……だから何だってンだァ? ソイツに感情があったところで6022体の量産人形を殺してる俺の気が変わるなンていうおめでたい考えじゃア」

 

 私はその声を無視する。

 

一方通行(アクセラレータ)。あなたに聞きたいことがあるんだよ。あなたはこの実験で『絶対能力者(レベル6)なるつもりだったのは間違いないよね」

「……」

 

 返答はない。私はそれを肯定と認識して続ける。

 

「あなたはこの実験が終わった時、その絶対の力、無敵といってもいい力を手に入れて……何をしたいと思っていたの?」

 

 静まり返る廃車場。

 

「……ッハ、ほンっとうに下らねェ。……そもそも俺が学園都市で最強の能力者なのは知ってるかァ?」

「もちろんだよ」

「じゃあオマエはなんで俺が最強だって知ってるんだァ? 実際に戦ってみたやつが返り討ちに会ってるっから、だろォ? そんなんじゃァ全然ダメだ。俺が求めてンのは、誰も『挑戦しよう』なンて思わねェ、絶対的な強さ『その物』なンだよ」

「じゃあ、無敵になった後の目的はないんだね……でも」

「?」

「そんな力を手に入れてもきっとなにも変わらない。『最強』が『無敵』になっても、『無敵』の力なんて現実味がなさすぎる。その力を理解するまで、あなたを倒そうとする人は絶対に現れるし、『外』からその力を危険視されて戦争にすらなりかねない」

「なにが言イてェンだ!オマエは!」

「そうなってしまったら……あなたは一人ぼっちになっちゃうよ」

 

 一方通行(アクセラレータ)が顔を僅かに歪める。

 

「だから、なンだってンだ!」

 

 その表情はきっと怒り。

 

「馬鹿にしてるわけじゃないよ。あなたは私を助けてくれた恩人だからね。そんな人が一人ぼっちで悲しむ姿なんて見てられない」

「……殺す」

「恩を仇で返すようで嫌だけど、私はあなたに殺される気はないよ。でも、それで気が済むなら」

 

 そこまで言った私に、ベクトルを操作した一方通行(アクセラレータ)が前傾姿勢で滑るようにまっすぐ突っ込んでくる。

 

 一方通行(アクセラレータ)をただ説得するだけで実験をやめさせるのはもともと無理だとは思ってたけど。

 

 もう一方通行(アクセラレータ)は6022人の妹達(シスターズ)を殺害している。こんなことをしちゃったんだから、一方通行(アクセラレータ)は自力じゃ引き返せないよね。

 

 でも、ここで私という実験に無関係な人を殺せば、きっと一方通行(アクセラレータ)は終わってしまうだろう。だから、私はここで殺されるわけにはいかないし、元々殺されるつもりもない。こうなるように煽ったのは私だけどね。

 

 

 突っ込んでくる一方通行(アクセラレータ)が拳を振る。

 

 私はそれを左に避けつつ、一方通行(アクセラレータ)の胸元に私の右の二の腕を叩きつける(インデックスラリアット)

 

 一方通行(アクセラレータ)の身体にと接触した瞬間、右腕に走った奇妙な感覚を無視し、『歩く教会』が一瞬虹色に光ったのも無視して私は右腕を振り抜き、一方通行(アクセラレータ)を地面に叩きつけた。

 

 すさまじい音とともにコンクリートの地面にひびが入る。

 

 一方通行(アクセラレータ)が魔術を反射しようとすると、謎の現象に変換されるらしいから虹色に光ったのはそのせいだろうね。

 

 仰向けに倒れる一方通行(アクセラレータ)は何が起きたのかわかっていないみたいだけど。

 

「私はね。一方通行(アクセラレータ)

 

 私は両膝を『歩く教会』ごしに地面につけて一方通行(アクセラレータ)の目を見て言う。

 

「あなたと妹達(シスターズ)を救えるならなんでもいいんだよ」

「……」

 

 一方通行(アクセラレータ)は喋らない。

 

妹達(シスターズ)はともかく、6022人も人を殺したあなたを救いたいっていうのはおかしいって思うかもしれないけどね」

「……」

 

 一方通行(アクセラレータ)は口を開かない。

 

「あなたは罪から目をそらして逃げているだけだよ。妹達(シスターズ)を殺すっていう行為を、人形を壊すって自分に言い聞かせてるだけ」

「……」

 

 一方通行(アクセラレータ)は私の目から目をそらさない

 

「だって、あなたは優しいんだから。私と最初にあった時の不良なんてちょっと能力を使って上を飛び越えるだけでよかったのに、わざわざ私を助けたのがその証拠」

「……」

「私はあなたに罪を償ってほしい。6022人の妹達(シスターズ)を殺した罪を」

「……」

「罪を償うと言ってもこんな大きな罪を償うんだから一生かかっても償いきれないかもしれない。それでも償う気持ちがあるなら……私が手伝うよ。困ったことがあったら相談にも乗るし、また道を踏み外しそうになったら引き戻してあげる。……簡潔に言うとね」

「……」

「実験なんてやめて、私と友達になってほしいんだよ」

「……好きにしろ」

 

 

 

 

 

 どうやら実験を止めることはできたらしい。

 

 結局、私が思いついた方法は『一方通行(アクセラレータ)自身に実験をやめようと思わせる』ことだった。はっきり言って説得し切れるとは思わなかったけど。もしかしたら、軍覇たちと会っていたことがなにか影響をもたらしているとか? ……それはないか。

 

 『歩く教会』は右腕部分が魔術的に僅かに解れた状態になってしまったんだよ。防御力的にはほとんど問題はないけど法王級の魔術を受けた時には致命的になりそうだね。

 

 あの後、私は一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号と共に病院に行くことにした。一方通行(アクセラレータ)は説得のためだったとはいえ全力の『禁書目録(インデックス)ラリアット』をカウンターで当ててしまったから骨が折れているかもしれないから。ミサカ6023号は無傷だけど。無理やり成長されたクローンだから病院で調整を受けないとすぐに寿命を迎えてしまうらしいからだね。私はともかく殺し合う直前だった一方通行(アクセラレータ)とミサカ6023号が一緒なのはまずかったかも。まったく会話がないんだよ。

 

「ミサカ達は」

 

 あ、ミサカ6023号が話し始めたんだよ。

 

一方通行(アクセラレータ)に殺されるために造りだされました。ですが一方通行(アクセラレータ)が実験をやめると決めた以上、私たちの存在意義はなくなりました、とミサカは自分の置かれている状況を再認識します。ミサカ達はこれから何のために生きていけばよいのでしょうか? とミサカは自らの将来に疑問を抱きます」

「ふむ」

 

 どうやら、ミサカ6023号はなんで自分が救われたのかわかっていないらしいね。

 

「ミサカ6023号。あなたは今『何のために生きていけばよいのでしょうか?』って言ったけど、そんなことは他のみんなだってわかってないんだよ」

「みんなとは他のミサカ達のことでしょうか? とミサカは率直な疑問を口にします」

「違う違う。みんなっていうのは、私やこの町の住民たち、この星の住民と言い換えてもいいかもしれない人達のことなんだよ。ほとんどの人は自分が何のために生きてるのかなんて理解してないと思う。少なくとも私は自分が何のために生きているのかわからないんだよ」

 

 実際、私くらい年の人は自分の生きる意味や目的は理解してるのかもしれないけど。

 

「それにあなたが生まれてから一年もたってないよね? じゃあ生きる意味なんて分からなくて当然だよ」

 

 あんまり納得がいかないような顔だね。無表情だけど。

 

「生きる意味がどうしても欲しいなら、しばらくは生きる意味を探すこと自体を目的にして頑張ってみるのがいいと思うんだよ」

「わかりました、とミサカは妥協案としてそれを採用します。ですが……」

「ん?」

「生きる意味を見つけるのに協力してください、とミサカは生まれて初めての我儘をいいます」

 

 ふむ。もともとの存在意義を失ったのは私のせいだからかな?

 

「かわいい女の子の我儘なら仕方がないかも、協力してあげるんだよ」

 

 

「ああそうそう。あなたも協力してね、一方通行(アクセラレータ)

「あァ?」




 たくヲです。

 憑依禁書目録「私と友達になって罪を償ってよ!」

 夏休みの息抜き的投稿。

 これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。

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