場所は廃車場。廃車の裏に隠れている私の視界では、
実験開始が何時なのかはわからないけどもうちょっとで始まるはずだね。
私の作戦実行は実験開始と同時。
作戦の問題点があるとすれば、私がこの実験場を見つけるために切り札の一つだった『改良版
よって『改良版
「実験開始まで残り30秒ですが準備はよろしいですか、とミサカは最後の確認を行います」
「問題ねェよ」
もう一つの問題は、私ごときがこの作戦を実行しきれるのか、っていう根本的なものだね。
特に相手は学園都市第一位の
最悪、『改良版
そろそろ、実験開始かな?
「それではこれより……」
ミサカ6023号が言葉を発し始めた瞬間に私は廃車の陰から飛び出す。
「そこまでなん……」
そこまで言って視界がぶれる。次の瞬間には
お腹を見てみると拳くらいの石が『歩く教会』から転がった。おそらく
ダメージもないしとりあえず立ち上がって、後ろを見ると車が6台ほどぺちゃんこになっていた。『歩く教会』がなかったら即死だったかも。
私は二人の方に歩いていく。
「……オマエは」
あまりの静けさに、離れた位置にいる
「久しぶりだね
前に会ったのは7月の終わりごろで今は1月だから、4か月ぶりくらいかな?
「なにしに来た?」
「しばらく会ってなかった恩人が妙な実験に関わっているのを知ったからね」
思いだしたというべきかもしれない。完全記憶能力を持っている私が思いだしたっていうのはおかしな話だけどね。原因はいくつか想像できているけど、今は置いておくんだよ。
「なにしに来たのかって言ったら、道を踏み外した恩人を説得しに来た、っていうのが一つ。そこにいるミサカ6023号を助けに来た、っていうのがもう一つだよ」
「助けに、ねェ。ソイツの
「うん。知ってるんだよ。でもね」
私が思いだすのはついさっきのこと。
「さっき私とあった時、
「……それがどォした?」
「『気の進まない』って言ったってことは、彼女たちにだって感情があるってことだって私は思う。少なくとも私は、感情がある生き物は人間として見るんだよ」
「……下らねェ」
「逃げてください、とミサカは忠告します」
今まで喋らなかったミサカ6023号が口を開いた。
「あなたも落ち着いてください、とミサカは指示します。実験の内容は私を殺害することであり、そこの女性を殺害すると実験結果が変動する可能性があります、とミサカは不安を訴えます」
「ミサカ6023号。それは私を心配してくれてるのかな?」
私は問いかける。
「……なぜそう思うのですか? とミサカは疑問を呈します」
「
ミサカ6023号は僅かに首をかしげる。まだ、
「ほら、
「……だから何だってンだァ? ソイツに感情があったところで6022体の量産人形を殺してる俺の気が変わるなンていうおめでたい考えじゃア」
私はその声を無視する。
「
「……」
返答はない。私はそれを肯定と認識して続ける。
「あなたはこの実験が終わった時、その絶対の力、無敵といってもいい力を手に入れて……何をしたいと思っていたの?」
静まり返る廃車場。
「……ッハ、ほンっとうに下らねェ。……そもそも俺が学園都市で最強の能力者なのは知ってるかァ?」
「もちろんだよ」
「じゃあオマエはなんで俺が最強だって知ってるんだァ? 実際に戦ってみたやつが返り討ちに会ってるっから、だろォ? そんなんじゃァ全然ダメだ。俺が求めてンのは、誰も『挑戦しよう』なンて思わねェ、絶対的な強さ『その物』なンだよ」
「じゃあ、無敵になった後の目的はないんだね……でも」
「?」
「そんな力を手に入れてもきっとなにも変わらない。『最強』が『無敵』になっても、『無敵』の力なんて現実味がなさすぎる。その力を理解するまで、あなたを倒そうとする人は絶対に現れるし、『外』からその力を危険視されて戦争にすらなりかねない」
「なにが言イてェンだ!オマエは!」
「そうなってしまったら……あなたは一人ぼっちになっちゃうよ」
「だから、なンだってンだ!」
その表情はきっと怒り。
「馬鹿にしてるわけじゃないよ。あなたは私を助けてくれた恩人だからね。そんな人が一人ぼっちで悲しむ姿なんて見てられない」
「……殺す」
「恩を仇で返すようで嫌だけど、私はあなたに殺される気はないよ。でも、それで気が済むなら」
そこまで言った私に、ベクトルを操作した
もう
でも、ここで私という実験に無関係な人を殺せば、きっと
突っ込んでくる
私はそれを左に避けつつ、
すさまじい音とともにコンクリートの地面にひびが入る。
仰向けに倒れる
「私はね。
私は両膝を『歩く教会』ごしに地面につけて
「あなたと
「……」
「
「……」
「あなたは罪から目をそらして逃げているだけだよ。
「……」
「だって、あなたは優しいんだから。私と最初にあった時の不良なんてちょっと能力を使って上を飛び越えるだけでよかったのに、わざわざ私を助けたのがその証拠」
「……」
「私はあなたに罪を償ってほしい。6022人の
「……」
「罪を償うと言ってもこんな大きな罪を償うんだから一生かかっても償いきれないかもしれない。それでも償う気持ちがあるなら……私が手伝うよ。困ったことがあったら相談にも乗るし、また道を踏み外しそうになったら引き戻してあげる。……簡潔に言うとね」
「……」
「実験なんてやめて、私と友達になってほしいんだよ」
「……好きにしろ」
どうやら実験を止めることはできたらしい。
結局、私が思いついた方法は『
『歩く教会』は右腕部分が魔術的に僅かに解れた状態になってしまったんだよ。防御力的にはほとんど問題はないけど法王級の魔術を受けた時には致命的になりそうだね。
あの後、私は
「ミサカ達は」
あ、ミサカ6023号が話し始めたんだよ。
「
「ふむ」
どうやら、ミサカ6023号はなんで自分が救われたのかわかっていないらしいね。
「ミサカ6023号。あなたは今『何のために生きていけばよいのでしょうか?』って言ったけど、そんなことは他のみんなだってわかってないんだよ」
「みんなとは他のミサカ達のことでしょうか? とミサカは率直な疑問を口にします」
「違う違う。みんなっていうのは、私やこの町の住民たち、この星の住民と言い換えてもいいかもしれない人達のことなんだよ。ほとんどの人は自分が何のために生きてるのかなんて理解してないと思う。少なくとも私は自分が何のために生きているのかわからないんだよ」
実際、私くらい年の人は自分の生きる意味や目的は理解してるのかもしれないけど。
「それにあなたが生まれてから一年もたってないよね? じゃあ生きる意味なんて分からなくて当然だよ」
あんまり納得がいかないような顔だね。無表情だけど。
「生きる意味がどうしても欲しいなら、しばらくは生きる意味を探すこと自体を目的にして頑張ってみるのがいいと思うんだよ」
「わかりました、とミサカは妥協案としてそれを採用します。ですが……」
「ん?」
「生きる意味を見つけるのに協力してください、とミサカは生まれて初めての我儘をいいます」
ふむ。もともとの存在意義を失ったのは私のせいだからかな?
「かわいい女の子の我儘なら仕方がないかも、協力してあげるんだよ」
「ああそうそう。あなたも協力してね、
「あァ?」
たくヲです。
憑依禁書目録「私と友達になって罪を償ってよ!」
夏休みの息抜き的投稿。
これからも『とある主要人物に憑依して最強の魔術師を目指す』をよろしくお願いします。