ゼロの使い魔 虚無の騎士   作:へタレイヴン

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9羽 騎士と喋る剣とお宝と

あらかた買い物を片付けた4人は、最後にプレイヤーの要望であった武器屋を探して歩き回っていた。

こんなに多くの人通りがあるところを歩くのは、何時振りだろう……プレイヤーは考えていたが、どうにも思い出せそうにない。

しかし、こうして城下町を見るのは新鮮なものだ。不死街は入り組んだ場所であり、城下町……とは少し違うような気がする。その入り組んだ地形を巧みに利用して、不意打ちを狙ってくる亡者達には何度驚かされたことか。

大通りの向こう側に、微かに見える城を眺めながら、やはりボーレタリア王城は鉄壁の守りを誇っていたのだと、改めて認識してしまう。

強固な城門を幾つも持ち、険しい山脈と城壁を作り上げ、そしてなにより城そのものを盾としていた。飛竜の回廊から見た景色では、街は城の後ろに位置していたのだ。

多くのものが考える王城とは、周囲に街があり、その真ん中に王城が位置するものだろう。しかし、ボーレタリア王城は真逆。城と城壁で街を囲むように存在していた。

流石は北の大国と言うべきか。近衛騎士団を束ねる王の双剣、三英雄の直属、剣の騎士団、弓の猟兵団、槍の騎兵団。そして、赤の三槍騎士が指揮する屈強な騎士兵団を備え、優れた王の統率の下に築かれた王国。……その王が何故、古き獣を目覚めさせたのかは、プレイヤーにも分からない。

ただ、その屈強な騎士兵団が、守るべき民を蹂躙し、プレイヤーに牙を剥いて来た事は紛れもない事実であった。……思えば、亡者と化した兵士と正気を保った兵士達が戦った後が、城内の至る所で見て取れた。一番の物は、王城の最奥の広間に息絶えていた竜の死骸。あれは、兵士達が王城本丸を守る為に、必死の思いで倒した竜なのだろう。……その王城本丸に、既に守るべき王など居なかった事を知らずに……。そんな事を、取りとめもなく考えている彼の手を、小さな娘――タバサ――がぎゅっと握り締めていた。

どうしたんだ?と視線をそちらに向けると、タバサが心配そうな表情で、こちらを見上げている

 

「……お父様、心が悲しんでいます。何か、あったのですか?」

 

あぁ、分かってしまったか。と苦笑を浮かべながら、なんでもないとプレイヤーは首を横に振る。そうだった、彼女とはソウルにより深く繋がっているのだ。

自分の心の機微が伝わるのならば、気をつけなければいけないだろう。前方では、ルイズとキュルケがなにやら話をしているので、耳を傾ける。

 

「確か、こっちの路地のほうよね?あ、ルイズ、財布は大丈夫?ここら辺って、スリが多いらしいから」

「それなら大丈夫よ。プレイヤーに持たせてあるから、絶対に盗まれないわ」

「……それもそうね。盗む以前に、見つけれないわ」

 

自信満々のルイズに、キュルケもクスクスと笑みを零すしかなかった。彼がソウルを操ると言う事は、タバサからも聞いていたので、驚きはしない。

実際、ソウルに変換して収納すれば、盗まれる心配など皆無だ。まぁ、歴戦のプレイヤーに掛かれば、スリを見つけて撃退も簡単なのだが、無駄に目立つよりは仕舞うほうが確実だ。

そのまま目当ての武器屋を探し、薄暗く狭い路地を抜けると、それらしい看板が眼に入ったのだが……かなりぼろい

なんとなく心配になり……本当にここなのか?とプレイヤーはルイズに問いかけてみた。

 

「えぇ、ここなんだけど……あ、言わなくても大丈夫よ。なんとなく言いたいことは分かるから」

「はぁ……プレイヤー、貴方の満足できる武器はないかもしれないわね」

 

悩んでても仕方がないと言った様子で、ルイズは扉を開けて中に入っていくし、キュルケもため息を零して肩をすくめる。

見た目はぼろいが、もしかすると掘り出し物があるかもしれない。そんな淡い期待を込めてタバサと手を繋ぎながらプレイヤーも中に入るが……

 

「……きたない、狭い、暗い」

 

隣でボソリとタバサが零したように、路地と言う事もあってか、店内は薄暗く、そして物が乱雑に散らかっている。

それには、ルイズとキュルケも同意とばかりに、コクコクと頷いている。……プレイヤーに至っては、屋根と扉があるだけましだろうな……と今までの店――と言うか商人――を思い出してみる。廃教会の鍛冶屋のおっちゃんや巨人の鍛冶屋はまだ立派な店構え――で良いのだろうか――をしていたが、ヴァンハイムの鍛冶屋なんて牢屋の中だった。

珍品売りなんて、何を考えているのか最下層で物売りをしていたほどだ。つくづく、ロードランは変わり者が多いらしい。

 

 

 

「あん?ここはお嬢さんが来る場所じゃねぇよ。冷やかしなら、お断りだ。さっさと帰んだな」

 

店の奥でパイプをくえていた体格のいい親父がチラリと一瞥しただけで、面白くもなさそうに言った。恐らくは店の主人だろう。

 

「一応は、これでも客よ」

「へ?……こ、これはこれは、貴族様でらっしゃいましたか!」

 

先ほどと同じことを言おうとした店主の言葉をさえぎるルイズ。一瞬、呆気に取られた店主だったが三人の容姿を見て態度を改める。

マントに書かれている五芒星は貴族の証。しかも三人も居ればかなりの額を持っていると思ったようだ。

 

「それで、何か御用で?失礼ながら、うちの店は貴族様に目を付けられるような代物は、おいてやせんが……」

「誰もそんな事、聞いてないわ。剣が欲しいんだけど」

「貴族様が剣を?はぁ~、こりゃあ珍しいこって」

「どうしてよ?」

「へい、坊主は聖具をふる、兵隊は剣をふる、貴族は杖を振りなさる。そして陛下はバルコニーからお手をおふりになる、と相場は決まっておりますんで」

「ふーん…まぁ、使うのは私じゃないわ。私のつ……護衛に持たせるの」

「はぁ、なるほど、そうでしたか。……護衛の方は、こちらで?」

 

使い魔と言う言葉を飲み込んで、護衛と言いなおすルイズに、キュルケは笑いそうになるのを必死にこらえていた。確かに、いまやプレイヤーはルイズの使い魔と言うより護衛騎士に等しい。あらあら、随分と羨ましいわね、このお嬢様は。こんな献身的な騎士を持てるなんて。と優しげな眼で彼女はルイズの事を眺める。

プレイヤーを上から下まで眺めると、店主は愛想笑いを浮かべて、納得したように頷いている。

 

「最近では、土くれなんて盗賊もでますからな、貴族様も剣を買い求める方が多いんでさ」

「土くれ?そんな盗賊なら、直ぐに捕まるんじゃないの?」

「違う。土くれはメイジの盗賊。巨大なゴーレムを使うって言う噂」

「ふ~ん。……って、プレイヤー、何を眼を輝かせてるのよ!」

 

タバサの説明に、相槌を打っていたルイズだが後ろで、戦えるのか?とワクワクした様子のプレイヤーに突っ込みをいれる。

巨大なゴーレムという単語だけで、どんな敵なのか、どういう風に戦うべきかと考えているプレイヤーは、心底戦闘狂なのかもしれない。

そんな分けないでしょ!!と返されて、若干、しょんぼりしつつプレイヤーは店の剣などを物色してみるが……どれもこれも期待はずれな代物ばかり。

せめて、北騎士の直剣クラスのものでもあれば言いのだが……そうそうは見つからない。

そうこうしていると、店主が数本の剣を店の置くから引っ張り出してきたが、どれもレイピア等の細剣の類だ。

 

「これなんか如何でしょう、見たところ護衛の方は細身のようですんで、レイピアがおすすめでさぁ」

「確かに、彼は細身だけど……ね」

「うん……これより、大きくて太いのはないの?」

「へ?これよりですかい?まぁ、ある事にはありやすが……」

 

首を傾げつつ、再び店の奥に戻る店主だが、仕方がないだろう。普通は貴族は、見栄えの良い細剣を好むのだが……ルイズ達は違っていた。

一見、細身のプレイヤーだが、その怪力は凄まじく、大斧等の大型武器を好んで使うほどだ。彼の戦い方を知らなければ、細剣を持ってくるのは仕方がないだろう。

ソウルの業とは、肉体を鍛えるのではなく、魂そのものを強化、練成すると言う常識はずれの業だ。肉体的な変化は一切ないのに、怪力なのはその為。

少しの間待っていると、店主は眩い宝石が幾つも散りばめられ、鏡のような美しい両刃の刀身を持つ剣を持ってきた。

 

「こちらの剣なんかどうでしょう。こちらはなんと!!かの高名なゲルマニアのシュペー卿が作り上げた剣。しかも、幾重にも魔法が掛かっていて鉄すら一刀両断する名剣中の名剣!」

「わ、凄いじゃないの。……って、プレイヤー、どうしたのよ?」

 

確かに、美しい剣だが……どうしても月明かりの剣や月光の大剣には見劣りしてしまう。あれこそ、美しいとか、綺麗という物がピッタリの剣だろう。

なにより、徐にその名剣とやらを持ち上げてみるが……ため息しか出てこない。

 

「え、豪華すぎる?それに、手抜き!?しかも、表面はメッキですってぇ!?」

 

コンコンと刀身を叩きながら、鉄を切れると言っていたが、これでは逆に折れるな……と剣をカウンターに戻す。無駄な装飾などより、切れ味を、切れ味より、叩き潰す物を。それがプレイヤーの信条だ。

これこそが剣だ!!と言う事で、叩き潰すクレイモアを店主に見せてやろうか、とソウルから取り出そうとしていると、低い男の声が何処から聞こえてきた。

 

「だぁはっはっは!!んなバッタもんを売りつけようとすっからだ!!」

「!?」

 

誰だ?とプレイヤーが店の中を見渡すが、誰も居ないし、気配を探ると……なにやら生物とは違うソウルを放つものが居る。

 

「おい!こっちだよ!どこみてんだよ!」

「お父様、こっち。この樽の中」

 

タバサが指差すほうには、売り出しセールと書かれた樽で、カタカタと震える刀身が錆びに覆われた片刃の大剣。

 

「あれってもしかして、インテリジェンスソード?」

「へ…へぇ。どっかのメイジが酔狂な事に意志を持たせたみたいでして……けどお客に喧嘩を売るんでさぁ」

「確かに、随分と口が悪いようね。……うわ、錆びだらけじゃないの」

 

困惑しながら、ルイズが聞いてみると、店主は困ったように頭をがりがりとかいていた。どうやら、かなりの問題児らしい。そんな事はお構い無しに。プレイヤーが樽の中かに引っ張り出した剣を見て、キュルケはしかめっ面をしている。少し明るいところでみると、本当に錆びだらけだ。

 

「はん!!錆びだらけでも、そんなバッタもんの剣よりは、使えるぜ!」

「んな、てめぇだけには言われたくねぇよデル公!!いい加減に、溶かしちまうぞ!!」

「やれるもんならやってみろぉい!!こんな世の中、飽き飽きしてたとこだぜ!!」

 

んだとぉ!!と本気になりかける店主を、まぁまぁと言ったようにプレイヤーは押し止めて、ジッと剣を見つめてみる。

 

「んだ、兄ちゃん、俺になんかよう……あん、おめぇさん、なにもんだ?」

 

先ほどまでのうるさい声とはうって変わって、剣は静かに小声でプレイヤーに問いかけてきた。私がただの人ではないと見抜いたか、と言った様にプレイヤーも喉を鳴らして笑う。

どうやら、この剣は握っている者の考えが分かるらしい。実に面白い。

 

「ただの人間にしちゃあ……おかしすぎる。それに、おめぇさん、何処かで会った事がないか?」

 

さて、会った事があっても忘れたな。と返すプレイヤーに、っかしいなぁ、と剣は零す。

 

「まぁ、良いさ。随分と修羅場……いや、地獄を潜り抜けてきたみたいだな。しかも、使い手と来た。……よし、兄ちゃん、俺を買え」

 

ふむ……とプレイヤーは、考える素振りをしながら、店の中を見渡してみる。確かに、この剣以外にまともな物はなさそうだし、見てくれと切れ味は悪そうだが関係ない。用は叩き潰せば良いのだ。いざとなれば、愛用の特大武器もあるし、クラーグの魔剣だって使える。それに、一本ぐらいは喋る剣をコレクションしたい。

名前はなんだ?と問いかけると、剣が自信満々に声を上げる。

 

「おう、俺様はデルフリンガーってんだ!!よろしくな、相棒!!」

「え゛、プレイヤー、そんな剣にするの!?……他にまともなものがないって?……まぁ、あんたがそう言うなら、いいんだけど。あれお幾ら?」

「へ、へぇ、こちらとしては厄介払いができやすんで、お安くしときやすよ」

 

本当ならば、ルイズはもっと綺麗な物とか、立派なものが良いと言うのだが……如何せん、彼の持つ武器を見ては、どれもこれも見劣りしてしまう。

肉斬り包丁はともかく、黒騎士の大斧は質素だが装飾も施されているし、見ようによっては、骨董品の価値があるかもしれない。

ルイズが店主と値段の話をしている間に、とりあえずソウルに変換して収納するか……とデルフを握るプレイヤーだが、違和感を感じて首を傾げる。

それに気がついたタバサは、どうかしたですか?と彼の手をクイクイと引っ張っていた。

 

「お父様、どうしたのですか?……ソウルに変換が出来ない?……そんな事、ありえるのですか?」

「お、おいおい、なんかしらねぇが、妙な事はしないでくれよ?」

 

しかし、タバサ以上に驚いたのは、プレイヤーだ。今まで本や武具をソウルに変換して、所持してきたのに、この剣は変換できない。

面白い、実に面白い買い物をしたものだ。と内心では、満足しつつプレイヤーは眼を細める。

 

「お待たせ、プレイヤー。あれ、どうしてしまわないのよ?」

「ソウルに変換できないらしい。……きっと、特別な術式が施されてる」

「えぇ!?……それじゃ、どうやって持ち歩くのよ?」

「ねえねぇ、プレイヤー、これなんて良いんじゃないの?」

 

手で持ち歩くしかないか……と考えていると、キュルケが皮製のベルトを持ってきた。それをデルフに巻きつけて、プレイヤーに背負わせてみる。

 

「うん、これなら大丈夫よ。ソウルに変換できなくても、少しは頭を使いなさい、勿論、ルイズもよ」

「う……ふ、ふん!!私だって、そうしようと思ってたんだから!」

 

キュルケは自分のコーディネイトに満足げに頷いて、少しは考えなさいよとプレイヤーとルイズをからかっておく。

ふん!!とルイズは照れたように、そっぽを向き、プレイヤーは動きやすいな、とキュルケに小さく頭を下げる。

 

「それじゃ、買い物は以上よね。日も暮れてきたし、そろそろ帰りましょう」

「キュルケの言う通り。……晩御飯、なにかな」

「はぁ、それもそうね。……ん、どうしたの、プレイヤー?」

 

プレイヤーがポンポンと肩を叩くので、ルイズが振り返ってみると、彼は優しげな笑みを浮かべ頭を下げる。

どうやら、自分のわがままを聞いて、剣を買い与えてくれてありがとう。といっているのだろう。

 

「べ、別に良いわよ、そんな事。……その、私の事……ちゃんと、護ってくれるのよね……?」

 

最後の方は、照れたように小さくなるルイズの言葉に、プレイヤーは任せろと答える。

それを聞き、花の咲いたように綺麗な笑顔を見せるルイズであった。

 

 

 

 

 

 

???

 

「ふ~ん、太陽の書と……赤い瞳の宝玉ねぇ」

 

フードを眼深く被った人物は、なにやら考えるように壁を叩き、小さく舌打ちをする。

 

「まったく、この向こう側にあるってのに……こうも強固な固定化だと、骨が折れるねぇ。……まぁ、良いさ、今夜決行だ」

 

フードの人物、巷で噂の盗賊土くれのフーケは、学院の宝物庫の壁から手を離し、周囲に誰も居ないのを確認すると、その場を後にする。

土くれの名を持つ通り、フーケに掛かればどんな壁だろうと、錬金で土くれに変えられてしまうし、巨大な土のゴーレムも作り出す。

大胆不敵でありながら、優れた魔法能力により、これまで多くの貴族達のお宝を盗んできた程だ。

そんなフーケが今回、狙うのは、太陽の書と呼ばれる魔道書。そして、なにやら曰く付の赤い瞳の宝玉と言うお宝。2つとも、学院長が厳重に魔関している物だ。

今まで、狙った獲物は逃がした事ないフーケは、今回も何時も通りに行くだろう……と確信しているのだった。

 

 

 

 

 

 




三英雄の兵団、王の双剣の近衛騎士団というのは独自設定です。
赤の三槍騎士は、ボーレタリア王城3の貫きの騎士の前に居た赤眼の槍騎士の事です。
さて、太陽の書と赤い瞳の宝玉。分かる人には、わかりすぎるお宝ですね。
次回は、プレイヤーVSゴーレム(土)です。フーケ編が終わったら、とりあえずルイズの里帰り的な物を考え中。月の草も持ってますからね。暗はないですが…

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