ゼロの使い魔 虚無の騎士   作:へタレイヴン

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初期型60GBのPS3がご臨終しました。しかも、ダークソウルのディスク入れたのまま。300時間以上遊んだデータががが。


8羽

「よし、プレイヤー。街に行くわよ!!」

「……?」

 

朝食も終えて、部屋に戻ってきてゆっくりしていたときの一言。文字の練習をしていたプレイヤーが、紙から眼を外して、いきなりどうした?とルイズに視線を移す。

 

「今日は虚無の曜日で、授業は無くてお休みなのよ。だから、この機会にあんたの服を買いに行こうと思ったの。何時も鎧だと窮屈じゃない?」

 

そうでもないんだが…と思いつつ、徐に放浪者のコートを取り出してみる。

 

「却下。明らかに部屋着じゃないでしょ。けど、あんたって何時も、その黒い手甲付けてるけど、外さないの?」

 

確かに、ルイズに召喚されて以降は水浴びと食事以外で手甲は外していない。常時戦場と言った生活を送ってきたプレイヤーにとって、これが普通であった。

完全に装備を解除できたのは、楔の神殿やクラーグの住居など数えるしかない。徐にプレイヤーが、右手の手甲を外して、持ってみるか?とルイズに差し出してみた。

 

「ふ~ん、結構立派な手甲ね…って、なによこれ、重いじゃないの!?」

 

軽い様子で差し出してくるので、重量はそこまで無いのだろうと思っていたようだが、決してそんな事は無い。

片手で受け取り、落としそうになった手甲をルイズが慌てて両手で抱かかえた。ズッシリとした感触と、かなり硬質な物で作られているのが、手触りでわかる。

 

「あんた、何時もこんなの付けてるなんて……これどんな素材で出来てるのよ。……ふ~ん、黒鉄って言う特殊な鉄で、火に強いのね」

 

黒鉄は、強度も高く火に強いので防具には持って来いの素材なのだが、重たく火に強いと言う優秀な性質が災いして、加工が難しく中々普及していない。

黒鉄のタルカス等、異名を持つ者が好んで使う辺り、優秀さは折り紙付だ。現にプレイヤーも、手甲と脚甲は黒鉄の物を使用している。

 

「脚甲も同じ素材なのね。……はぁ、だったらますますあんたの服とか買わないと駄目じゃないの。ついでに筆記用具も買いましょう。何時までも私の道具、使われるのもね」

 

それに関しては、う……とプレイヤーも言葉を詰まらせた。確かに、文字の練習ということで、ルイズのペンやらノートやらを拝借している。

筆談と言う手段を手に入れたものの、まだまだ字に間違いも多く、書くスピードも遅いので練習が必要だ。

 

「ほら、そうと決まったら出かけるわよ。書き損じた紙は、ゴミ箱に捨てておいてよね」

 

早くしなさいという感じのルイズに、プレイヤーも慌てて書き損じた紙やらペンやらを片付け始める。

そして、一通り片付けたのを確認すると、ベッドからピョンと降りて出て行くルイズの後を追いかけると、丁度、と言うか、ぴったりと言うか、2人が廊下に出ると同時に、隣の部屋のキュルケも部屋から出てきた。大きく欠伸をしつつ、ルイズ達を確認するとあら……と小さく笑みを浮かべる。

 

「おはよ~、ルイズ。それに、プレイヤーも」

「はいはい、おはよう。そんなに大きな欠伸するんじゃないわよ、はしたない。」

「だって、眠いんだから仕方がないじゃないの~。それより、2人してどこかに出かけるのかしら?」

「プレイヤーの日用品の買出しよ。何時までも鎧姿じゃ、窮屈でしょうからね」

 

最近では、キュルケに対してもトゲトゲした雰囲気は無くなっており、こうして会話ならする位までルイズも変化していた。

キュルケ本人も、会話できて楽しい反面、からかう機会が減ったので、そこは残念に思っているらしい。

 

「ふ~ん、なんか面白そうね、私も付いていこうかしら♪」

「はぁ!?なんで、あんたまで付いてくるのよ!?」

「だって、暇なんですもの。それに、服なら2人で選んだものより、3人で選んだものの方が、色々な種類があって楽しいわよ?そ・れ・に・男の服を選ぶセンスなら、私の方があるわよ~?」

 

なんか良く分からない理屈を言いながら、キュルケはニコニコと楽しそうに笑みを浮かべているのに対して、ルイズは嫌そうな表情を浮かべている。

しかし、服のセンスに関しては、その通りだ。男のものなんて選んだ事のないルイズより、キュルケのほうが詳しいだろう。……実に悔しいが。

後ろのプレイヤーも、別に良いんじゃないのか?と言っているので、断るのも気が引けるようだ。ルイズにとって、プレイヤーの意見は重要項目となっているようだ。

最終的に、ルイズは額に手を当てて、ため息を零していた。

 

「はぁ……まぁ、別に良いわよ。ただし、馬で行くから、少し時間かかるわよ?」

「あ、それなら大丈夫よ。プレイヤーの娘も誘えば良いんだから」

「はぁ!?プレイヤーの娘!?ちょ、ちょっとそれって誰よ!?」

「あら、貴女知らなかったのね。もう、ずいぶんと噂になっているのに」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……お父様の服、私も選びます」

「きゅ~い~」

 

プレイヤー達が街に行くと言うことで、移動手段はタバサの使い魔の風竜、シルフィードを頼ることになった。

タバサが彼のことを、お父様と呼んでいるのは学院の一部では噂になっており、それまでの彼女から考えられない変貌振りに疑問に驚く者も少なくない。

現に、キュルケも最初は驚いたが、親友と呼べる間柄の彼女が、こうして誰かに甘え、控えめだが笑みを浮かべているのを見るのは、嬉しい。

プレイヤーの膝の上に座り、暇つぶしの本を読んでいるタバサの姿は、本当にかわいらしい。……その後ろでは、ルイズのジトッとした視線がプレイヤーの背中に突き刺さっている。

 

「私には何も言わないって、どういうことよ、プレイヤー?……え、言うのを忘れてた?あんたねぇ…!!」

「はいはい、シルフィードの上で暴れないのよ。プレイヤーだって悪気があったわけじゃないし……ほら、見なさい。タバサだって、嬉しそうにしてるんだから」

 

ガルルルと噛み付きそうな勢いのルイズを、キュルケはしょうがないわねぇといった様子で、嗜めていた。ルイズはルイズで微妙な独占欲が出てきたらしい。

自身の使い魔を慕われるのは嬉しいが、取られたような気がして、悔しいのだろう。そんなルイズも可愛いわねぇ、と手間のかかる妹を見ているようでキュルケはクスクスと笑みを浮かべていた。

 

「う……う~。なによ、使用人にも好かれてるし、あの娘も懐いてるし。あ、あんたのご主人様は私なんだからね!!」

 

分かってる。と念を送ってるプレイヤーに、ルイズはふん!!と小さく言って背中合わせで寄りかかる。2人の少女に挟まれながらも、プレイヤーはやれやれといった様子で、空を見上げた。

幾度と無く竜とは戦ってきたが、こうして乗るのは初めてだ。王の飛竜もヘルカイトも手ごわく、強大な敵であった。なにより、竜として思い浮かぶのは、竜の神だろう。

竜でありながら、閉ざされた地底に存在し、火炎を吐く以外に己が拳で攻撃してくるという、竜でありながら竜らしくない存在だった。

もし竜の神と、開けた大地で戦えたら……恐らく、死闘所の騒ぎでは済まないだろう。いや、もしかするとプレイヤーは、そこで命尽きていたかもしれない。

 

「日用品と服に、筆記用具ねぇ。……プレイヤーの鎧とかは良いの?結構、ボロボロになってるわよ?」

「……要らないってさ。何でも、これの方が動きやすくて良いって」

「多分、ハルケギニア中を探しても、これを越える鎧は無い」

 

タバサは短く言うと、再び本に視線を戻した。深淵歩きの友と聖銀で作られたアルトリウスの鎧。巨人の鍛冶屋が作り鍛え上げた鎧は、軽くてすこぶる丈夫。

見た目はボロボロだが、無限のソウルの力と最初の火の加護を受けたので、防御力はとても優秀なのだ。

顔を見合わせて、タバサは何故そう言い切るのだろうと、首を傾げるルイズ達だがタバサは何事もなかったかのように本を読んでいるので、理由を聞くのはむずかしいだろう。

 

「武器は……あぁ、色々と持ってるものね。…え、もし武器屋があるのなら見てみたいの?」

 

無限のソウルを持つが故に、プレイヤーは多数の武具を所持できる。だからこそ、こうして古今東西の珍しい武器を収集する癖が付いてしまったのだ。

そう言われたルイズ自身も、別に良いかなと軽い気持ちで、良いわよと答えている辺り、やはり彼に対する評価は高いらしい。

 

 

 

 

帰りたい……それが、現在のプレイヤーの心境であろう。

トリステインの城下町に到着し、ルイズ達が真っ先に向かったのは、やはりと言うべきか洋服店であった。

貴族の服から、平民の服まで幅広く扱っている店のようで、それなりの種類がある。……まぁ、女性という物は、服を選ぶのが楽しくて仕方がない生物らしい。

自分の服であれ、他人の服であれ、色々と時間を掛けて選ぶし、1人でも時間が掛かるのに、3人だと余計に時間が掛かる。結局、何が言いたいのかと言うと……

 

「やっぱり、プレイヤーには白よ!!ほら、清潔感溢れてて、綺麗じゃない!」

「白は在り来たりで駄目よ。やっぱり、ここは情熱の赤ね。……うん、私好みでかっこいいわぁ」

「逆に派手過ぎる……お父様には黒が似合う。あと、青色」

 

現在進行形で、プレイヤーはルイズ達の着せ替え人形として化しているのだ。まともな洋服なんて、何年も――下手すると何千年――も着た事もないし、常に鎧姿だった彼にとって、この状態は非常に暇なのである。まぁ、目の前で楽しそうに服を選んでいる彼女達の顔を見れるのならば、別に良いかと考える辺り、流石は偉大なる父――太陽の火――だ。

結局、埒が明かないようなので、プレイヤーが選んだ白いシャツと黒のズボン、皮製の指貫グローブなど他数点を購入し、洋服店を後にする。

 

「どう、プレイヤー?……軽くて落ち着かないって?」

「ふふ、あんな鎧姿だったんだから、慣れないのも仕方がないわね。けど、似合ってるわ」

「シンプルで良いと思います、お父様」

 

確かに、3人の言うとおり、シャツとズボン姿のプレイヤーは、優しげな青年にしか見えなかった。最も、腰には北騎士の直剣を下げているので、貴族の護衛役位には見えるだろう。

次は何処に行こうか?と問いかけると、ルイズは少し考える素振りを見せると、目の前のカフェを指差した。

 

「そろそろお昼時だし、少しお茶しましょ。みんなも、それで良いわよね?」

「……おなか、すいた。何か食べれるのなら、寄りたい」

「そうね~。そろそろ小腹も空いてきたし、なにか適当にたべましょう」

 

 

 

 

・カフェ・

 

 

 

「……はぁ、2人とも、良く食べるわね」

「ふふ、本当。あ、タバサ、ホッペにクリーム付いてるわよ。ほら、とってあげるから」

 

カフェではバイキング形式のケーキフェスティバルを行っていたようで、山盛りに積んだケーキを、プレイヤーとタバサは黙々と食べ続けている。

そんな2人を見ながら、ルイズは紅茶とベリーパイを食べつつも、苦笑を浮かべているし、キュルケはタバサのホッペについたクリームをふき取ってあげていた。

 

「それで、次は何処に行くの?」

「ん~、次はプレイヤーの筆記用具を買わないとね。後は、日用品かしら」

「あぁ、彼、文字を書く練習をしてるんだったわね。あ、日用品なら、櫛も買ってあげないと」

 

こんなに綺麗なんだものね~と、キュルケはプレイヤーの髪を一房掴むと、自分の頬に擦り付けてみる。

大した手入れをしていない銀髪なのだが、柔らかく指先を滑るほどに綺麗なもの。若干、嫉妬を覚えながらも、キュルケは楽しそうに指でくるくると遊ぶ。

 

「プレイヤーの居た所では、銀髪って珍しくなかったそうよ。まぁ、ここでも探せば良そうだけどね」

「それはそうだけど、彼の場合、ほら、こんなに指の間を滑るじゃないの。これでキチンと手入れをしたら、もっと綺麗になるわよね」

「お父様の髪、とても柔らかいです」

「い、言われると確かに。……う~、すこし悔しいわね」

 

キュルケに習ってか、タバサとルイズもプレイヤーの髪に触れて、その感触を楽しみつつ、少し羨ましいと言った表情を浮かべていた。

実際、プレイヤーにとって、ルイズの桃色の髪やキュルケの燃えるような赤、タバサの湖のような青の方が新鮮なのだ。

柔らかな髪といえば、クラーグだろう。彼女の髪は柔らかく、白蜘蛛姫が楽しそうに梳いでいたのを思い出す。

くすぐったいと言った様に身じろぎすると、触っていた3人娘達はごめんねと言いながら、彼の髪を手放す。

そうして、自分の髪はどうだとか、手入れの仕方がどう等という話に、花を咲かせ始めた。

なんとなく、微笑ましいなとプレイヤーも笑みを浮かべ、改めて、暖かな日常に眼を細める。

殺伐とし、死ぬ事のない身体でありながら、死に続けた。斬られ、焼かれ、叩き潰され、貫かれ……多種多様な敵と戦い、多種多様に死んだ。

それでも、諦めなかった、くじけなかった、負けなかった。1撃で殺さたら、次は2撃で。その次は3撃。死ぬ度に、学習し、対策を考えた。

旅路を続け、多くの友にも恵まれた。何度、助けた事か、そして、何度助けられた事か。彼ら、彼女達が居たからこそ、自分は火を継げたのだと思っている。

プレイヤーにとって、亡国の王子は、暗く銀色の騎士は、太陽の戦士は、優しき聖女は、混沌の蜘蛛姫達は心の支えであったのだ。

彼らの加護、願い、想いがあるのならば、きっとプレイヤーの心は朽ちぬだろう、折れぬだろう。彼に灯る火は、決して消えないだろう。

 

「どうしたのよ、プレイヤー。さっきから、こっちの方をじっと見て」

 

そして、目の前で首を傾げる桃色の少女も、自分にとって大切な存在となるだろう。いや、彼女だけではない。この世界でも、多くの友に出会えるだろう。

そんな予感を抱きながら、天に輝く太陽を見上げる。

我が太陽よ。願わくば、我らが旅路に光りあれ。我らが旅路を暖かく、照らしたまえ。

 

 

 

 

 

 

 

 


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