ゼロの使い魔 虚無の騎士   作:へタレイヴン

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--ソラール様--何をかいているのですか?--
--おぉ--シア--いや--我が友の伝記を残そうとな--
--ふふ、あの方のですか--そうですね--いつかこの子にも聞かせてあげましょう--
--うむ--ところでシアよ--いつまで俺はソラール様なのだ?--結婚してから随分経つというのに--
--あ--すいません--癖が抜けてないようで--あなた--



4羽 青銅と騎士と決闘騒ぎの始まり

教室の片づけを終えた2人は、少し遅めの昼食を取るために食堂に向かうことにした。

 

「それじゃ、私はこっちで食べるから。…調理場の場所は覚えてるわね?…そう、それじゃ食べたらね。」

 

大丈夫と頷くプレイヤーと別れて、ルイズは食堂に入ると、適当にあいている席に座った。

重い物はプレイヤーが片付けたとはいえ、教室の掃除は結構大変で、彼女のお腹の虫も抗議の声を上げている。

 

「あれ、ルイズさま。今日はお昼遅いんですね。」

「ちょっとね。シエスタ、何かお願いできる?」

「はい。直ぐに持ってきますから。…プレイヤーさんは調理場の方ですか?」

「えぇ。あいつの分も、よろしくね。」

 

分かりました!!と笑顔で、答えるシエスタにルイズはホッと一息つく。同じ女性だが、こう…シエスタの笑顔は、なんだが安心するのだ。

確か、聞いた話では大家族の長女と言っていたし、姉の貫禄--で良いのだろうか--と言うのだろう。

そんな事をぼんやりと考えていると、パタパタとシエスタが小走り気味で大き目のトレーを持って駆けてくる。

 

「お待たせしました。シチューとパン、後はベリーのジャムとお野菜のサラダ、で大丈夫でしたよね?」

「ありがとう。…そう言えば、プレイヤーって今朝は何を食べたの?」

「えっとですね、お鍋1杯分のシチューに、パン1籠とサラダ1ボウル分に…。」

「ちょ、ちょっと待ちなさい!?あいつ、そんなに食べたわけ!?」

 

他にも食べましたよと言うシエスタに、ルイズは頭を抱えた。そんなに大食漢だとは思わなかったのだろう。

まぁ、コック達も気にしてない、むしろ沢山食べてくれて喜んでいたとシエスタが言ってくれたので、良いのだが。

 

「…あいつ、力持ちだから、何か雑用で使って良いからね。私からも言っておくし。」

「大丈夫ですよ。今朝、ワインの樽を1人で運んでくださいましたし!!」

「…どんだけ怪力な訳よ…。」

 

改めて、自分の召喚した使い魔に驚くルイズなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

図書館

 

 

お昼時だというのに、図書館に篭る人物達が居た。

1人は、青髪の少女、タバサだ。彼女はルイズと同じクラスであったが、例の如く失敗する彼女の魔法から、逃げる為に教室を出た生徒の1人。

早めに昼食を取り、午後の授業までの間、図書館で本を読んで過ごそうとしているのだろう。

もう1人は、頭髪の少し寂しくなった教師、コルベールである。彼は彼で、先日ルイズが召喚した騎士に刻まれたルーンの事を調べていた。

最初こそ、珍しい紋様のルーン程度だと思ったが、よくよく考えると非常に古いルーンであったことを思い出したのだ。

ただ残念な事に詳細は忘れてしまい、こうして朝から図書室に籠り調べているのだった。

しかし、何時までも調べているわけにはいかない。昼食の時間になり、午後からは彼の授業もある。コルベールは、今見ている資料で終わりだ、と小さく呟いて本を開く。

 

「ふむ、ブリミルの使い魔ですか。これで最後にしましょう。…ん、この形は…!?」

 

ガタガタと音を立てて、椅子から立ち上がり、本に書かれている内容--ルーンの形--と自分がスケッチした物を見比べて、驚いた表情を浮かべた。

そして、ドタバタと出て行くコルベールをタバサはうるさい、と言葉を漏らしながら、読んでいた本を閉じて、魔法で浮かせると近くの本棚にしまった。

そして、次のを…と積んであった本の山から1冊取ると、その表紙を見てタバサは一瞬動きを止めた。

何処か愛嬌のある太陽のホーリーシンボルが書かれた一冊の童話。彼女が幼い頃、父親が良く聞かさせくれた、火の英雄の物語だ。

誰が書いたかは分からない。ただ…彼女はこの物語が大好きだった。

 

--この火の英雄と、私達の遠い遠いお父さんは一緒に戦ったんだよ--

--いっしょに?けど、ひのえいゆうさまのせかいは、とおいばしょってかいてあるよ?

--はは、そうだね。けどね、遠い遠いお父さんは、火の英雄と最後まで一緒に戦ったんだ。ほら、見てごらん、空に太陽があるだろう?--

--うん!!わたし、たいようがすきだよ!あったかくてぽかぽかしてておとうさまみたい!!--

--火の英雄は、太陽になったんだよ。太陽は偉大だ。まるで父親のようにね--

--それじゃ、たいようになったひのえいゆうさまは、もうひとりのおとうさまなんだ!会って見たいなぁもうひとりのおとうさまにも!!--

--ふふ、会ってどうするんだい?--

--えっと、たくさんたくさんあまえるの!!いつもぽかぽかにしてくれて、ありがとうっておれいもいいたい!--

 

 

昔の事を思い出したが、タバサは頭を振るう。もう、父は居ない。母も居ない。今更、思い出してどうすると言うのだ。

自分の心は、孤独の闇の中にいる。…それでも、これだけは捨てることが出来ない、とタバサは、ポケットから1枚のメダルを取り出した。

僅かに熱を帯びた、太陽のホーリーシンボルが描かれたメダル。父親から貰った彼女の宝物だ。代々、彼女の家に伝わる古い物らしい。

孤独といっても、これは心の拠りどころだ。そして、それは童話も同じ。なんとなく、開いてしまった。

 

--火を継いだ英雄は、巨大な黒い斧で並み居る亡者を吹き飛ばし、旅を続けた--

 

巨大な黒い斧。なんだか、最近見たような気がする。そこには、黒い大斧を振るい骸骨や亡者、果てには巨大な鉄の巨人と戦う英雄の姿が描かれていた。

 

--その巨大な盾で、襲い来る敵を退け、英雄は戦った--

 

巨大な盾。そう言えば、あの騎士も持っていた。黒い質素な装飾の盾で、蛇の化け物が振るう大剣や、火炎、雷を防ぐ英雄が描かれている。

 

--英雄は、群青色のマントを身に着けた立派な鎧を着ていたが、幾たびの戦いで鎧はボロボロになってしまった。しかし、それでも神聖な銀は英雄を護り続けた--

 

「…群青のマント…?ボロボロの…鎧?」

 

あれ、先日、クラスの彼女が…ルイズが召喚した騎士もボロボロの鎧だったような…。

 

--英雄は輝く銀の髪を靡かせ、暖かな火の瞳を持つ騎士である--

 

ガタっ!!と、今度はタバサが大きな音を立てて、椅子から立ち上がる。すべてが、すべてが一致しているのだ。

黒い巨大な斧・巨大な盾・ボロボロの鎧。それに巻きついていた群青色の布は、マントではなかったのか?そして、兜の下は銀髪で暖かい火の瞳を持っていた。

 

「まさか、彼が…火の英雄様…?」

 

そんな訳がない。あれは物語だ、ただの童話だ。しかし、完全に否定が出来ない。一致する事が多すぎる。

 

「火の英雄は太陽になった。そして、太陽は偉大な父親の様な存在。彼が…もう1人の…お父様…?」

 

窓から差し込む光に眼を細めながら、タバサは太陽を見上げる。その光は、ほんの少しずつ彼女の心の闇を、払いのけ始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

コルベールが向かった先は、本塔最上階に位置する学院長室。

息を整え扉を叩くと同時にゴシャッ!!と鈍い音が響く。それを聞いて、冷や汗を垂らしながらもコルベールは扉を開ける。

 

「し…失礼します。オールド・オスマン。って、何をやってるんですか。」

 

正面には、立派な白髭を蓄えた老人が座り、その傍に緑色がかった金髪の美女が控えていた。

白髭の老人が学院長であるオールド・オスマン。300年の時を生きていると言われるメイジだ。傍らに控える美女はロングビル。オスマンの秘書だ。

だが、ロングビルは額に青筋を浮かべ、手にはオスマンの使い魔であるハツカネズミのモートソニグルが握られていた。オスマンの机には椅子らしいものの破片が散乱している。

その光景に、コルベールはまたかと溜め息を零した。どうせ、使い魔でオスマンがロングビルのスカートの中を覗き、彼女に椅子で殴られたのだろう。

 

「学院長、セクハラで訴えられますよ?」

「かぁーー!!訴えられるのが怖くて学院長が務まるかい!!」

「威張らないでください。と言うか、即刻王宮に突き出してやりましょうか。」

 

 

何故か威張るオスマンに冷静に、そして殺気を出しながら突っ込みを入れるロングビル。

女性が出すにはあまりにも強大な殺気に固まるオスマン。

小声で「だから婚期を逃すんじゃ」と言った途端に、強烈なアッパーが彼の顎に炸裂した。

 

「き…君は雇い主に尊敬の念を持たんのか?」

「正常な雇い主なら持つのですがね。そして、それでもめげずに、お尻を触ろうとしないでください。」

「ミス・ロングビル。わき腹の肝臓辺りを狙って拳を当たれば、かなり苦しいらしいですよ。」

「なるほど。…こうですか?」

「げっふぅぅぅ!!??か、肝臓はまずいのじゃ…り、りばーぶろーはまずい…。」

 

回転をかけたロングビルの拳が、オスマンのわき腹--肝臓の辺り--に突き刺さる。リバーブローは物凄く苦しいのだ。

苦しむオスマンを尻目に、ロングビルは自分の席に座ると、何事もなかったかのように書類を片付け始めた。

コルベールにいたっては、サッサとたてよセクハラジジイと言う感じの冷たい眼で見下している。

本当に敬意をどこにすてたんじゃ…と涙目になりつつ、オスマンは座りなおすと、小さく咳払いした。

 

「ごほん。所でミスター…ゴルバット君。急いできたようじゃが、何か用事かの?」

「っと、そうでした。…学院長。これを見ていただけますか。…後、私はコルベールです。」

 

コルベールは、持ってきた本をオスマンの机に広げた。…勿論、名前はきっちりと訂正している。

 

「ほっほっほ。すまんのお。それで、この本がどうしたんじゃね。…ブリミルの使い魔のぉ。また古い物が出できたもんじゃな。」

「このページを。…始祖の使い魔のルーンに関してです。」

「ほうほう。ここがどうしたのかね?」

「先日、私の生徒が召喚した使い魔に、これとまったく同じルーンが刻まれたのです。」

「なんじゃと?…思い過ごしではあるまいな?」

「これを。その時にスケッチしたものですが、寸分違わず、同じものです。」

 

コルベールが差し出したスケッチと、本を見比べたオスマンの顔から、飄々としたものが消え、険しい顔つきになっていた。

先ほどとはまるで別人のような彼に、ロングビルは驚いていた。威圧感が、まるで違うのだ。

 

「ミス・ロングビル。席を外しなさい。今から、少しの間ここの立ち入りは禁ずる。…用があるときは外から声をかけるように。」

有無を言わさぬ圧倒的威圧感を感じ取り、ロングビルは2人に1礼して出て行くしかなかった。

彼女が出て行くのを確認すると、オスマンは視線をコルベールに向けた。それは、まさに大メイジと呼ぶに相応しい物だ。

 

「詳しく説明するのじゃ。コルベール君。」

 

 

 

 

 

 

「ルイズ様。紅茶とベリーパイは如何ですか?」

「いただくわ。…う~ん、相変わらず、シエスタの入れる紅茶は良い香りね。」

「ふふ、がんばっていますから。」

 

昼食も終え、シエスタの入れてくれた紅茶を飲みながら、ルイズはゆっくりと休んでいた。

目の前にあった食器もシエスタが片付けて、代わりのベリーパイがテーブルに運ばれてきている。

 

「はい、どうぞ。…それでは、私は配膳に戻りますね。ごゆっくりどうぞ、ルイズ様。」

 

切り分けたパイをトレーに載せて、シエスタは姿勢を正して一礼すると、配膳に戻っていった。

大好物のベリーパイを食べながら、ゆったりしているとルイズの耳に、男子生徒達の少し大きめの声が届いてくる。

男子生徒達の塊の中心は、金髪でフリルの付いたシャツを着たキザな少年が1人。しかも薔薇を口にくわえていた。。

彼の為ではないが、ここで言っておこう。彼は決してナニカサレテシマッタヨウダの人ではないし、狂って旅の靴のみを装備し、突撃してくる変態でもない。

正常な思考の持ち主である。ただ、その思考がズレているだけである。

 

「なあギーシュ!お前、今は誰と付きあっているんだよ!」

「今は誰が恋人なんだ?あの娘か?…いや、もしかすると隣のクラスの?」

「減るもんじゃないし、教えてくれよギーシュ。」

 

ギーシュと呼ばれた少年は口に咥えていた薔薇を右手へと持ち直した。

もう一度言うが彼の思考は正常である。多分、おそらく…きっと。

 

「何を言ってるのだね君たちは?僕は美しい一つの薔薇だよ。薔薇と言う花は、皆を楽しませる為に自分を美しく咲かせるものさ。。そんな僕が特定の女性と付き合うなどと言う事はないんだよ。はっはっはっ!!」

 

ある意味で物凄い発言をするギーシュは、明らかに自分の発言に酔いしれていた。そんな彼の発言でも、周りの男子生徒達は沸きあがっていた。

うわ~と言った視線で眺めながら、ルイズは2切れ目のパイに手を伸ばす。そう言えば、プレイヤーはまだ食べているのだろうか。

そんな時だ、ギーシュのポケットから、紫色の液体が入った小瓶が転がり落ちる。それを丁度近くで配膳していたシエスタが見つけて、拾い上げた。

 

「あの…貴族様。こちらを落とされましたよ。」

 

話しかけられたギーシュはその小瓶を一瞥した後、すぐに友人達との会話に戻った。

シエスタも邪魔をしてはいけないと、失礼のないように一礼して小瓶をテーブルにおいて立ち去ろうとするが、それがまずかった。

彼女がテーブルに置いた小瓶を見て、生徒の一人が大きな声を上げる。

 

「ん?それは…モンモランシーの香水じゃないか?その色は彼女以外には出せない!!」

「そうだ!彼女の香水だ!!モンモランシーが、自分の為に調合した香水だ!そう言えば、その小瓶と同じものを彼女が持っていたな。」

「つまり君の彼女はモンモランシーということだ!なんだよ、もったいぶらずに教えてくれよな!!」

「お…おいおい、君たち何を言って…。」

 

騒ぎ出す生徒達を見てギーシュは、何故か冷や汗をたらして、動揺していた。彼女が特定された位で動揺するのは如何なものだろう。

そんな騒ぎの中、一人の少女がギーシュの前に出た。マントの色が違うので恐らく下級生であろう。

 

「ギーシュ様…。その小瓶は、ミス・モンモランシーの物ですよね…。」

「ケ…ケティ…違うんだ。これは…」

 

ケティと呼ばれた栗色の髪をした大人しそうな少女の眼には大粒の涙が溜まっていた。

それを見て、ギーシュが何か言う前に彼女の平手打ちが炸裂した。

 

「ひどい…私の事は遊びだったんですね…。遠乗りの時に言ってくれた言葉は嘘だったんですね!!?」

「そ…そんな事はない。僕の心には君だけ…」

「いや!!もう何も聞きたくない!!さようなら!!」

涙を流しながらケティは泣き崩れてしまった。そんな彼女を友人らしき女子生徒達が慰めながら、連れて行った。

それと同時にギーシュの元に歩み寄る巻き髪の女子生徒。額には特大の青筋、背後には紅い飛竜の姿が見える。

 

「何が違うのか、説明してもらおうかしら、ギーシュゥゥゥ?」

「モ…モンモランシー。か…彼女とは遠乗りに行っただけで…ぼ、僕の眼は君以外写っていないんだよ!!」

「へぇ…それで?何を言ったのかしら?」

 

明らかに眼が据わっているモンモランシー。そしてギーシュの頭にワインボトルの中身を頭にかける。

そのまま、ボトルを床に投げ捨てると、絶対零度の視線でギーシュを射抜く。

 

「やっぱり何も言わなくていいわ。金輪際、私に近づかないで。虫唾が走るわ。」

そう言い残しモンモランシーが立ち去った後には、ワインをかけられたギーシュと呆気に取られている男子生徒達だけが残された。

 

「ふ…か…彼女達は薔薇の意味を理解してないようだね。」

 

芝居がかった言い回しで周囲の友人に話しかけるが、キザの雰囲気を捨てていない所は評価すべきか。

そんな彼を気にしつつ、シエスタはデザートの配膳に戻ろうとしたが…。

 

「待ちたまえ。そこのメイド。」

「は…はい。なんでしょうか…?」

「君が軽率に香水の壜なんか拾い上げたおかげで、二人のレディの名誉が傷ついた。どうしてくれるんだね?君が機転を利かせさえすればこの事態、避けられたのにね。」

「わ…私は拾っただけで…。」

「へぇ…口答えかい?平民の癖に。貴族である僕に、口答えするのか。」

「も…申し訳ありません!!」

 

逆恨みとしか言えない行為だが、平民である自分が逆らえる訳がない。平民など貴族の気分一つで殺されてしまう。そう思うと震えと涙が止まらない。

貴族がみんな、ルイズの様に優しい訳がないと知っているが…それでも、こうなると怖くて仕方がなかった。

 

「申し訳ありません。何卒お許しを…」

 

 

「いい加減にしなさい。」

 

 

静かにだが、明らかに怒りを含んだ声の主は、シエスタの敬愛する貴族--ルイズのものだ。

呆れたようにして立ち上がると、ルイズは頭を下げているシエスタの肩をポンと叩いて庇うように前に出た。

 

「自分のミスを他人に押し付けるなんて、あんたそれでも貴族?第一、シエスタは落とした物を拾っただけじゃない。」

「誰かと思ったらゼロのルイズじゃないか。君には関係ない話だ。出しゃばらないでもらおうか?」

「そうもいかないわ。シエスタとは顔見知りだしね。それに、あんたが二股なんて馬鹿な事しなきゃ良かった話でしょ。馬鹿じゃない?」

「そうだぞ!ギーシュ!!お前が悪いんだ!!」

「モテナイ男の気持ちをわかりやがれチキショォォォォォ!!!」

 

ルイズの言葉に続き、ギーシュの友人たちが面白おかしく騒ぎ始めた。

 

「…魔法も使えない貴族如きが…!高貴な貴族である僕に…!!」

 

自分の言い分に反論するルイズを見て、小声で忌々しげ呟くギーシュ。

2人の女性に振られ、騒ぎ立つ友人達に彼の怒りは、はちきれんばかりに大きくなっている

その矛先は、ルイズへと向けられた。

 

「ふん…所詮は魔法を使えない貴族。平民と大差ないか!魔法が使えない者同士仲良くと言う訳か!!」

「っ!?」

「ふん!今日の授業も失敗してたじゃないか!!君はどうせ【ゼロ】なんだよ!」

 

容赦なくギーシュは言い放つ。形勢が逆転し、今度はルイズが唇をかみ締め下を向く。そんな彼女をシエスタは心配そうに見つめている。

しかし、怒りで何も見えなくなったギーシュは、そんな事はお構いなしに続ける。

 

「魔法が使えない貴族なんて存在価値……な…い…か…はっ!?」

 

言葉を続けようとしたが…何も出てこない。先ほどまでうるさかった友人達も、固まり口をつぐんでいた。

肌に、何か纏わり付くような異様な雰囲気。背筋に刃を押し付けられたそれを、人は殺気と言うのだ。

カチャリと金属音が聞こえてきた。その音の主は、食堂の入り口に佇んでいる騎士--プレイヤー。

カチャリ、カチャリと音を立ててプレイヤーは、歩を進める。その彼の雰囲気の変貌振りに、主であるルイズも戸惑っていた。

暖かな火の雰囲気は消え去り、暗い暗い--言うならば深淵だろうか--の殺気を振りまいている。

プレイヤーはルイズとシエスタを庇う様に立ちふさがると、ギーシュを視線で射抜いた。先ほどのモンモランシーの比ではない。

その眼は、それ以上、2人を傷つけ侮辱することは許さないと雄弁に語っている。

しかし、ギーシュも一応は貴族だ。ただの騎士に威圧されることは、プライドが許さなかった。

 

「ふ…ふん!!主人も主人なら使い魔も使い魔だ!!礼儀を知らないようだな!!」

 

それがどうした、貴様に礼儀を言われる筋合いはない。そんな風に肩をすくめて、プレイヤーは呆れて見せた。

子供のギーシュと、オスマン以上の時を生きたプレイヤーでは、余裕の格が違うのだ。

だが、ギーシュは悔しさと怒りで顔を真っ赤に染めていた。明らかに馬鹿にされて頭にきたのだろう。

 

「ただの騎士の分際で、僕を馬鹿にするのか…!!良いだろう、決闘だ!! ヴェストリの広場に来ると良い!!」

 

私はかまわない。と言った様子で勝ち誇ったかのように笑うプレイヤーに、ギーシュはギリっと歯を鳴らすと、食堂を後にした。

周囲では決闘だ!等と生徒達が騒ぎ始めていた。しかし、プレイヤーは周りの騒ぎを無視して、振り返りルイズ達に大丈夫か?と言う視線を送っていた。

 

「え、えぇ。大丈夫よ、プレイヤーのお陰でね。けど、あんた決闘って…。」

 

先ほどとは一転して、優しく自分を庇ってくれたプレイヤーが少しおかしくて、ルイズは笑みを浮かべるが、先ほどの決闘と言う言葉を思い出して、額を押さえる。

しかし、シエスタはまだ恐怖で身体が震えていた。

 

「ルイズ様…プレイヤーさん。本当にすいません、私なんかを庇ったから…。」

「良いのよシエスタ。あんたが謝ることじゃないわ。全部、ギーシュが悪いんだから。」

「け、けど!!それでプレイヤーさんが、決闘するなんて事に…。」

「それは…はぁぁぁ、プレイヤー。あんた…大丈夫なの?」

 

如何に怪力の騎士とはいえ、ランクは低くてもギーシュはメイジだ。勝てる訳がない。…もし、プレイヤーで無かったらそう思っていただろう。

しかし、何故かは分からない。目の前の騎士は…そんな事は問題ないと言わんばかりに、笑みを浮かべている。

まるで子供の様に笑うプレイヤーに、ルイズも静かに笑みを浮かべた。

 

「良いわプレイヤー。あんたを信じるわよ。」

「ル、ルイズさま!?けけけ、けど相手は貴族なんですよ!?幾らプレイヤーさんだからって…」

「大丈夫よ。…こいつなら、きっと大丈夫。ほら、シエスタも信じなさい。こいつは…プレイヤーは、私の使い魔なのよ。」

 

当然だ!!とプレイヤーは胸を叩いて見せた。…あの程度の小僧に負ける様では、ルイズの使い魔など勤まるわけが無い。

不敵な2人に唖然としたシエスタだが、頭を横に振り、涙を拭うとプレイヤーを見上げた。

 

「信じます。私も信じます。ですから、プレイヤーさん…頑張って下さい!!」

「ほら、いくわよプレイヤー。ギーシュなんかとっちめてやりなさい!!」

「!!!」

 

 

 

 

 


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