ゼロの使い魔 虚無の騎士   作:へタレイヴン

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ゼロの竜狩り



トリステイン王国。
その王国内にあるトリステイン魔法学院から少し離れた草原で、ある儀式が行われていた。それは、使い魔召喚の儀式。
2年に進級する際に行われる儀式で、これが出来て初めて進級が許される。簡単に言えば、一種の試験のようなものだ。
大多数の生徒達が召喚を終わっている中、1人の少女が未だに召喚できずに居た。
美しいピンクブロンドの髪を持ち、可憐な顔つき。年月が経ち成長すれば、美しき女性と変貌を遂げる顔つきだ。
彼女の名はルイズ。フルネームを言うと、名前の後にフランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと舌を噛みそうなほど続く。
ヴァリエール家の三女であり、学院の1生徒である。
しかし、そんな彼女は焦っていた。ルイズは幾度となく召喚に失敗していたのだ。
このままでは進級も出来ず、下手すると実家に強制的に送り返されてしまう。それは名門ヴァリエール家の娘としては、絶対に避けなければいけない。
そう思えば思う程、肩に力が入り、召喚が失敗し幾度も爆発が起こる。
どの様な魔法を使おうとも失敗して、爆発する。故につけられたゼロの二つ名。
ここに居る担当教師が彼--コルベール--で無ければ、既に打ち切っていただろう。コルベールはルイズが努力家であり、座学がトップだと言う事もあり、今まで見守っていたが、流石にもう時間がない。すでに召喚を終えた生徒たちは、自身の使い魔と戯れて時間を潰していた。
残酷かもしれませんね……と内心で謝罪しながら爆発を起こして、俯いているルイズに声をかけた。

「ミス・ヴァリエール。貴女の努力は認めます。…ですが、これ以上は…。」
「ま、待ってください!!あと一回、後一回だけチャンスを下さい!!絶対に、成功させますから!!」

首を振るコルベールに、ルイズは必死に懇願している。その必死さに負けたのか、コルベールは「後1回だけです。」と短く告げて、距離を取る。
周りから聞こえてくる野次を無視して、ルイズは杖に集中し始めた。次も爆発かも…と不安が頭をよぎる。否、次こそは呼び寄せる。
雑念を払い、ただ只管に願う。

「宇宙のどこかにいる、我が僕よ! 神聖で、美しく、強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさいっ!」

願いを込めて、杖を振るうと突如として雷鳴が響き渡り、天から雷が降り注ぐ。降り注いだ瞬間に盛大に土煙が舞い、ほかの生徒達には失敗と見えたのだろう。
せき込みながら、馬鹿にしたようなささやき声が聞こえる

「げほ…おいおい。どうせまた失敗だろ?」
「無駄な努力だよな。あ~あ、さっさと寮に戻りたい」

しかし、コルベールだけは違う。と確信した。土煙の中から感じる威圧感。圧倒的強者が宿すもの。彼だけでなく、タバサやキュルケと言った才能豊かな生徒も土煙の中に視線を向けていた。

「ほう、なかなかに面白いところに来たようだ」

煙の中から響く声に、全員が視線を向ける。土煙が風に流され、現れたのは獅子の意匠を施された黄金色の鎧を纏った騎士。手に持つのは雷を纏った十字槍。
その姿に誰もが言葉を失う。どこからどうみても、ただものではない。

「さて、私を呼んだのは誰か。声からして、少女だと思ったのだが」

呆気にとられているルイズを、庇う様にコルベールは前に出る。
目の前の獅子騎士に、視線を向けながらも、懐にしまった杖を何時でも出せるようにしていた。
ふっと、獅子騎士がコルベールに視線を向ける。それだけで、彼は額に汗をかく。

(なんだこれは……勝てる勝てないの次元ではない。挑むことすらできない。いや、私には挑む権利すらない……そう思えるほどの、隔絶した実力差がある!!)
「そう怯えるな、人の子よ。私とて、無差別に武威を振るう狂犬ではない。呼ばれたから、それに応じたそれだけの事だ。だが、貴公が私に挑むと言うのならば、話は変わるがな?」

考えが読まれていた事に驚くよりも、挑んでも構わない。そう受け取れる言葉を聞いた瞬間に、コルベールの中の本能が囁く。戦いたいと、この強者に自分の力がどれだけ通じるか、試してみたい!!と
そんな理性と、本能がせめぎ合うのを止めたのは、一人の少女、ルイズ。

「ま、待ちなさい!!よ、呼び出したのはこの私よ!!」
「ほう。貴公が私を呼んだのか。……これまた随分と幼い子だな」
「だ、誰が幼いですって!!これでも私は16歳よ!!」
「ほう、そのような年齢には見えなかったのでは、すまぬ」

小さくだが、楽しそうに笑い声をこぼす獅子騎士にコルベールは緊張を解き、自分の役割を思い出した。

「先ほどは失礼しました、騎士殿。」
「気にせぬよ。貴公も子供らを守ろうとしたのだろう?ならば、責めはせん」
「ありがとうございます。私はトリステイン魔法学院で教師を務めております、コルベールと申します。騎士殿のお名前は?」
「オーンスタイン。それが私の名前だ」
「オーンスタイン殿と呼ばせていただきます。それで、現在の貴方の状況は理解できているでしょうか?」
「ある程度はな。似たような現象を知っているが、それとも多少違う。詳しく説明してくれると助かる」

そうですかと言うとコルベールは簡単に説明を始める。
春の使い魔召喚儀式の最中であった事、オーンスタインは少女--ルイズ--が召喚したと言うこと。そして、使い魔の契約を結ばねば、彼女は進級できず、退学になってしまうと言う事。
それを聞いたオーンスタインは、なんともまぁ。と呆れたようにため息を吐く

「送還も出来ぬと。随分と一方的な契約があったものだな。なぁ、小さき娘よ?」
「し、仕方がないじゃないの!!そもそもサモンゲートは、自分の意思で通るものなのよ!!それを通ったあんたが、とやかく言えないわ!!」
「はははは。まぁ、その通りだな。長く生きると、時には馬鹿をしてみたくなる時もある。それが、あれだったのだろうさ」
「ミス・ヴァリエール落ち着いてください、オーンスタイン殿もあまりからかわれては……」
「くく、いや、すまぬ。この娘が面白くてな。何より、良い目と心を持っているようだ」

オーンスタインはルイズに秘められた力を、意思を見抜いていた。彼女は伸びる。その伸びしろはすさまじいものがある。と

「よかろう、小さき娘よ。貴公の声を聞き、ゲートを自分の意思で通ったのは私だ。使い魔とやらを務めようではないか」
「だから、小さき娘じゃないわよ!!」
「ならば、名乗れ。私は直接、貴公から名を聞いておらん」
「く……あんた、随分と口が回るわね」
「これでも真面目な男だ。と評価は受けておるがな。さあ、名乗れ、小さき娘よ」
「誇り高きトリステインがヴァリエール家三女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。それがあんたのご主人様の名前よ!!」
「ふむ、ルイズか。良き名だ。では、私も改めて名乗ろう」

我が名は四騎士が一人、竜狩りオーンスタイン。これより、貴公の槍となろう。








「で、契約を済ませたわけなのだが、ルイズ。何時まで赤面している?」
「うううう、うるさいわね!!だって、仕方がないじゃない!!私のファーストキスだったんだし!!」
「ほう、それはありがたいものを頂いたものだな」

無事に契約を終えた二人だが、その時に色々とあったのだろう。からかうオーンスタインに、ううーと悔しがるルイズを尻目に、ほかの生徒たちはそれぞれが杖を振るい、フライを唱えると空中へと飛び立っていく。

「ふん、ルイズは歩いてこいよな!!」
「飛べもしないゼロは歩くのがお似合いだよ!!」

口々に、バカにしたような言葉を吐く生徒たちに、悔しそうに俯きながらも、ルイズは立ち上がり学院に向かって歩き出す。

「ルイズよ、ほかの者たちは飛んでいったようだが、貴公は飛ばぬのか?」
「……私は飛べないのよ。ほか、そんなこと良いから、歩くわよ」

ふむ……とオーンスタインは、少し小さくなった主の背中を眺め、やはり幼いな。と内心で笑みを浮かべる。

「ならば、ルイズよ。跳んではみぬか?」
「え?」






「竜狩りオーンスタイン。見ただけでわかるすさまじい実力。いったい何者」
(あああああの人すっごく怖いのね!!私より長生きしてるし、竜狩りなんて物騒なお名前なのきゅいきゅい!!)

契約した使い魔であるドラゴン、シルフィードの背中で思い出すのは獅子騎士の事。
なにより、竜狩りと名乗ったからには、ドラゴンを倒したことがあるのだろう。しかし、ただの人がドラゴンに勝てるとは思えない。そんな取り留めのないことを考えていると、何かが彼女達の横を跳び越えていった。

「す、すごいすごい!!とっても高いわ!!」
「はははは、喜んでもらえたようで何よりだ、ルイズ!!さぁ、もっと高く跳ぶぞ!!」

目に映ったのは、ルイズをお姫様抱っこして、笑いながら跳躍を繰り返して、フライで飛ぶ生徒たちに追いついてきたオーンスタインの姿。それに生徒たちは唖然とする。
まさか、ただの跳躍がそこまであるとは思えないのだろう。
ルイズはルイズで、初めて見る景色に大はしゃぎの様だ。そして、一度地面に降り立ち、何故か先ほどまでの飛距離はなく、フライで飛ぶ生徒達の横に並ぶ。
そして、オーンスタインは一言

「随分とまぁ……遅いのだな。ただ、跳んでる私たちの方が速いとはな」

そう言って、着地し、再び跳躍。それだけで、一気に生徒達を引き離してしまう。
一瞬、戸惑う生徒達だったが、一際大きな羽音が響き我に返る。
怯えるシルフィードに喝を入れて、タバサが速度を上げたのだ。次に情熱的な笑みを浮かべたキュルケが。そして、ほかの生徒たちが速度を上げる。
絶対に追いついてやる!!!それが全員に宿った思いであった。




ゼロと呼ばれた少女が呼び出したのは、偉大なる騎士。竜狩りオーンスタイン。
二人にどのような物語が待ち受けているのか、その先は誰にもわからない。








書いてて楽しかった。オーンスタインのキャラがブレブレだけど楽しかった。






2話

響き渡る轟音、悲鳴、怒号。砦の前の広場は、凄まじい戦いの場へと変貌を遂げていた。

本来、砦とは壁の役割にして、迎撃するための物。ましてや劣勢のドラモンド達が攻撃に出ることなど合ってはならない。砦にこもり、増援を待つのが得策である。

しかし、それは人の人との戦争の場合。だが、いま戦っている相手は海を越えてやってきた巨人。その一体一体が攻城兵器並みの破壊力を持ち、素手でさえ、容易に人を屠るのに、岩の棍棒や呪術まで使ってくるのだ。砦に籠っても勝てるわけがない。

だからこそ、ドラモンドを筆頭にした砦の兵士達は攻勢に出た。

無謀な攻勢。と、今までは言われたであろう。しかし、彼らの目の前で巻き起こる奇跡。

 

「凄まじい……真にすさまじい!!」

 

ドラモンドの兜の下から漏れ出る感嘆の言葉。数人の兵士を犠牲にして、ようやく一体に致命傷を与えるのが限界であった巨人達を、彼らは、プレイヤーと呼び出した白霊達はいとも簡単に葬り去っていく。

プレイヤーは無骨な大剣。クレイモアを振るい、巨人の頭らしき部分を切り飛ばす。返す刃で、背後から襲ってきた岩の棍棒を盾ではじきあげ、がら空きになった胴体へクレイモアを突き刺すと、地面に押し倒す。パリィと呼ばれる技術であり、相手の武器をはじき、強制的に無防備な状態にしたのだ。

開戦直後、彼一人で葬った巨人は既に十に届くほどだ。倒した巨人に目もくれず、次の巨人に走り出す。目の前に二体。呪術で生み出した火球を投げつけてくる。瞬時にクレイモアを収納して、右手に斧を取り出す。かつてセンの古城を守護していたアイアンゴーレムのソウルから作り出した武器ゴーレムアクス。それを振るえば、秘められた力である空気の刃が、火球を切り裂く。そして一切の勢いを殺さずに飛び上がり、唖然とした様に見上げる巨人の一体を頭から真っ二つに両断し、着地した瞬間に身体を一回転させて二体目の巨人の下半身と上半身を断ち切る。

ふむ。とプレイヤーは先ほどの斬った時の感触を思い出す。筋肉とは違う。さりとて鋼鉄の様な感触ではない。どちらかと言えば、木のような、詳しく言えば年代を経た樹木の様な感触である。呪術で自分は燃えないのかという疑問もあるが、感触であり木と言うわけではないのだろう。

奮闘する兵士達を一瞥しながら、プレイヤーは再びクレイモアを取り出すと、巨人へと走り出す。

 

 

 

砦城壁

 

「バリスタ発射準備整いました!!」

「まだ撃たないで、もっと引き付けてから撃ちなさい!!ああ見えて巨人の動きははやい!」

 

壁上では、聖女の装束を纏いながらも、エレオノールが砦の兵士や、自身の護衛としてついてきたアスノに指示を出していた。最初こそ、聖女様が前線に出るなど!!と砦の兵士達に止められたが、彼女とて、名門ヴァリエール家の長女。見知らぬ土地での戦いだろうと、何もせずに見て入れるわけがない。この誇り高き心こそ、ルイズが尊敬する彼女の姿。

 

「どうにかして足を止めなければ……っ!!メイジの二人は広場に入ってくる巨人の足元を錬金して油に変えなさい!!オストは、そこに火矢を!!」

「無茶を言いますね、お嬢様!!ここからじゃ、届くがわかりませんよ!!」

「いいからやりなさい!!誇り高きヴァリエールに仕えるメイジでしょう!!」

「それを言われると私たちも弱いもんですね!!オストぉ、しっかり狙えよ!!」

「わ、わかりました!!」

 

エレオノールの指示により、メイジ二人が詠唱を開始。オストもすぐに火矢を弓に装填し、狙いを定める。

そして巨人達は、砦前の広場に進んできたとき、足元に違和感を覚えた。雨が降ったわけでもないのに、地面が湿っている。否、踏みしめたはずの土がなくなり、水分へと姿を変えていく。それを考える前に、地面に打ち込まれる火矢。それが瞬く間に広がり、業火となって巨人を焼く。

 

「今よ、バリスタ放てぇぇぇ!!!」

 

エレオノールの号令を合図に、砦に備え付けられていたバリスタから巨大な矢が撃ちだされ、我先にと火から逃れようとした巨人達を貫き、地面へと縫い付けた。

逃げようにも、巨大な矢で縫い付けられ、動けない巨人達を業火が焼き尽くす。

 

「やった……俺にもできた。戦えた!!」

「やったわ……!!次弾装填急いで、これ以上増援を越させないように、広場前で止める!!」

 

喜ぶオストを尻目に、エレオノールは次々に指示を出す。ヴァリエール家に軍教育を受けたのが、こんなところで役に立つとは。内心、苦笑いを浮かべ、眼前の広がる光景に視線を移す。

 

「本当。すごいわね……あの人。誰よりも強くて、誰よりも前にいる」

 

前線でクレイモアを振るい、並み居る巨人を葬り去るボロボロの甲冑を纏った騎士、プレイヤー。今までエレオノールが出会った男性達にはなかった圧倒的な力。そして。全てを包み込み、見守ってくれる火の暖かさ。少女の如く高鳴る胸の鼓動に、これが恋なのだと彼女も気が付いていた。

 

「お嬢様、あいつに見惚れるのは無理もないですが、今はこちらに指示を」

「み、見惚れてなんていません!!次弾装填後、広場入り口に照準あわせ!!」

「了解しました!!……オスト、あぶねぇ!!」

 

アスノの叫び声。ハッとして、オストが視線を上に向ければ、遥か彼方より投げつけられた岩が、自分目掛けて襲い掛かってきた。

 

「オ……しっか・・・!!」

「負……すぐ・・・手・・・!!」

 

自分がどうなったか、わからない。自慢の目が全く見えない。聞こえてくる声も途切れ途切れだ。このまま意識を手放してしまいたい……その意思の通り、オストは深い闇へと沈んでいった

 

 

 

 

 

 

???

 

 

何かを削る音がする。一定のリズムでシャッシャッと。何かの刃物で、木材を削っているのだろうか。オストは目を開けようとするが、あかない。いや、開けれなかった。

そうだ、自分は投石の直撃を食らい、意識を手放したのだった。ならば、ここは死後の世界と言う事のだろうか。だが、それにしては暖かい。見えないが、日差しがあたっているのだろうか。

 

 

「ほほう、この様な場所に人が来るとは、珍しいこともあったものだ」

「だ、誰かいるのか?」

「うん?目の前に、こうしているではないか。貴公にはこの図体が見えんと言うのか?」

 

声の主らしき人物は、訝し気にしながらも、目のあかないオストを見て、ああ。と納得したような雰囲気を出した。

 

「貴公、眼をやられておるようだな。それでは、見えんのも当然か」

「ここはどこなんだ……?俺はさっきまで砦で巨人と戦ってたはずなんだが」

「ほほ、巨人と戦っていたというか。して、どのような巨人だ?」

「どのようなって……顔の部分に穴が開いていて、灰色の肌をした巨人だよ」

「ふむ……あやつらか。闇の忌み子め……あやつらも利用したのか」

「な、なあ。あんた、ここは死後の世界なのか?俺は死んでしまったのか?」

「いや、ここは死後の世界ではない。そうさな、この老兵の領域と言ったところか」

 

老兵と名乗った人物は手に持っていた木材を削りながら、オストを観察して、何か納得したように何度も何度も頷いていた。その姿はオストには見えない筈なのに、何故か鮮明に浮かんできた。そこにいたのは、覗き穴の部分を、樹脂で隙間なく埋められた兜を被っている年老いた巨人。傍らには、巨大な弓が置いてあった。

 

「あ、貴方も巨人……なのか?俺が戦っていた巨人達とは見た目が違うが……」

「巨人にも種類がある。と言う事にしておこう。なに心配するな、危害は加えぬ。それに貴公には、我らが王の火の欠片が見える。どうやら、共に戦っていたのだろう」

「王って言うのが誰かはわからないけど……確かに、俺は戦っていた。しかし、もう……眼を潰されてしまった。自慢の弓も使えない・・・・・・!!」

「眼が見えぬから、もう弓が使えぬ。か。ふむ、若者よ、そのようなことはない」

「そのようなことって……目が見えなければどうやって獲物を狙うと言う!!戦うことはおろか、生活だってまともに出来ないだろう!?」

「そう思うか。しかし、貴公、私の姿が見えておるのだろう?」

「それは……なんで、見えてるのかわからないけど」

「貴公には優れた才がある。良いか、狩人と言うものは、眼で射るのではない。心が狙うのだ。眼はただの補助にすぎん」

「眼はただの補助って、いきなり言われても……」

「ふふ、いきなり言われても仕方がないか。ならば、私が宿す火を少し分け与えよう。我が王の仲間ならば、オーンスタインも文句は言わぬだろう」

 

その言葉を聞き、オストはハッとしたように目の前の巨人を見上げた。

自分はこの巨人を知っている。自分だけではない、誰もがこの巨人の名前を知っている。

巨大な弓を持ち、樹脂でつぶされた兜を被った巨人など、一人しかいない。

 

「おっと、そろそろ目覚めの時だ若者よ。貴公に火の導きがあらんことを」

「まって……待ってください!貴方は、貴方のお名前は!!」

 

 

偉大なる四騎士が一人、鷹の眼のゴー

 

 

 

それが薄れゆく意識の中で、最後に発した言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

砦城壁

 

 

オストが気が付くと、城壁の陰に横たわっていた。どうやら、意識を失った自分を誰かが、ここまで運んでくれたようだ。相変わらず視界は闇の中。それなのに、何故か彼には周囲の様子が鮮明に感じ取れた。そして、右手に感じる弓の感触。それは、あの巨人、ゴーが携えていた巨大な弓であった。大きさこそ違えど、それでも人が使うには大きすぎる弓。

だが、今のオストには自由自在に使いこなせる自信があった。いまだふら付く足に喝を入れ、弓を持って城壁へと昇る。相変わらず、城壁上では眼下の巨人相手に戦いを繰り広げていた。そこに上ってきた彼に、アスノが気が付いて声をかける。

 

 

 

「オスト、大丈夫か!!」

「アスノさん・・・・・・はい、大丈夫です」

「そうか……投石を受けたときはやばい思ったが命に別状はなくてよかった」

「俺はどの位意識を失っていたんですか?」

「10分程度だ。しかし、お前、そんな身体じゃもう戦えないだろ?それに、その弓どうしたんだ?」

「いえ、俺も……いや、私もまだ戦おう。眼が見えぬとも、弓は使える」

 

突然の変化に戸惑うアスノを気にせずに、オストは巨大な弓を構え、自身のソウルから矢を取り出す。それはプレイヤーと同じソウルの業。あの偉大なる弓兵から託された力の一端。この世界で最も人気のある童話。火の英雄の物語。そこには、のちに火の英雄に仕えるようになった偉大なる騎士たちの姿も書かれていた。その中の一人、巨人の弓兵、鷹の眼のゴー。

ハルケギニア中の弓兵や狩人はこの存在に憧れを抱き、上級弓兵の中には鷹の眼を紋章にしている者すらいる。トリステインでも年に一度、鷹の眼杯と言う弓兵での競技大会が行われるほどだ。

自身が宿したのは、そんな大英雄の力。今ならばわかる。彼こそが、プレイヤーこそが火の英雄なのだと。ならば、自分が成すべきこそ、それは……

 

「我が王に、この弓を捧げるのみ。獲物が、王の敵が存在するのならば、猟犬は再び目覚めるのだ」

 

巨大な弓を軽々と引き絞り、装填された矢を一射、二射。バリスタにも匹敵する轟音を立てて撃ちだされた矢は、プレイヤーに襲い掛かっていた巨人を射ち貫き、絶命させる。

その光景に壁上で戦っていたアスノは驚き、突然の援護射撃にプレイヤーは振り返り、オストの姿を視界に収めて、兜の下で口元に笑みを浮かべる。それが意味するのは、どういうことなのか。知るのは、プレイヤーと、その配下となったオスト、否、ゴーのみぞ知る。

 

鷹の眼のゴー。今ここに人の身として再誕する。

 

 

 

 

 

 

「隊長、もしかするとこれは」

「うむ、勝てるぞ、この勢いあれば押し切れる!!誉れ高きドラングレイド兵よ、今こそ力を振り絞れ!!巨人どもを倒すのだ!!」

 

おおおおおおおおおおお!!!!!!

 

ドラモンドと兵士達は雄たけびを上げ、巨人達に襲い掛かる。攻め込まれ続け、勝ち戦など一つもなかった。ボロボロになりながらも、死守するだけであった彼らだが、目の前で戦う騎士の、プレイヤーの背中がとてつもなく大きく感じる。巨人の暴力を上回る、純粋な力。しかし、攻撃を受け流す隔絶された技術。歴戦どころではない。生涯を戦いに捧げても到達できぬほどの高み。そこに彼はいる。その背に抱く思いは、自分もそこに……自分も隣に立ちたい。男なら誰もが一度は夢見る称号、最強。それが目の前にいるプレイヤーなのだと。みなが認識している。

 

雄たけびを上げ、突撃するドラモンドを尻目に呼び出された白霊、岩のような鎧、ハベルの鎧に身を包んだ戦士は、振り上げた大竜牙で、巨人を頭から叩き潰す。彼の戦い方は至ってシンプル。巨大な盾で攻撃を受け止め弾き飛ばし、相手が怯んだところを叩き潰す。

それだけかと思えば、凄まじい脚力と腕力を持って大きく振り回した大竜牙で、纏めて薙ぎ払う。斬るとか突くとかより、最もシンプルな戦い。叩き潰す。それだけだ。

振るわれた岩の棍棒を、大盾で防ぎ、巨人の胴体目掛けて一振り。嫌な音を響かせながら、巨人は倒れ伏し、その頭にもう一度振り下ろし叩き潰す。

その姿に、巨人達は恐怖しながら後ずさろうとするも、戦士の背後から結晶に包まれたソウルの矢が放たれ、一体の巨人を串刺しにする。周りにソウルの矢を浮遊させながら、手当たり次第に攻撃していた魔法使いの攻撃であった。

点での攻撃を戦士が、そして面制圧の担う魔法使い。彼女の杖が一振りされると、浮遊していた矢が巨人に殺到する。身体を貫き、抉り、消し飛ばす。

肉体的は強くないが、その魔力は強大な物。重装の戦士が前線で攻撃を引き受けて、魔法使いが後方から強烈な一撃を見舞う。単純な戦い方だが、その効果は大きい。

先に魔法使いを仕留めようとしても、戦士が邪魔をする、かと言って戦士を叩こうにも魔法使いの強烈な一撃が来る。

別の場所では化け物騎士、プレイヤーが大暴れし、彼の援護の為に巨大な矢まで飛んでくる。圧倒的優位を保っていたはずなのに、なぜ自分達はここまで追い込まれているのだ。攻め込んでいるはずなのに、なぜ。それが巨人達の頭によぎる。

そんな考えなどお構いなしと言った様子で、魔法使いは杖を振りかざす。そこに集まるのはソウルの光。それを見た瞬間、あれはまずい。と巨人の本能が叫ぶ。あれを放たせてはいけない。呪術を宿した巨人達が一斉に火球を生み出して、魔法使い目掛けて投げつける。

戦士はチラリと後ろの魔法使いを一瞥すると、大竜牙を背負い、両手で大盾を構え、地面に突き立てる。全てを受け止める構えだ。

盾に火球が突き刺さる。耐える。投石がぶつかる。耐える。木が投げつけられる。耐える。耐える耐える耐える耐える。

一切の攻撃を耐えきり、圧倒的な防御力を見せた戦士。その守護の後ろでは、魔法使いが詠唱を終えて、杖の先に宿した光を解き放つ。ソウルの奔流。まばゆい光と、轟音と共に放たれたそれは、巨人達に炸裂。光が収まれば、跡形もなく巨人を消し飛ばしていた。

 

 

 

ぼぉぉおぉお!!

 

その雄たけびは突如として鳴り響いた。森の奥、聞こえてきた声を聞いた巨人達は、攻撃をやめ、次々に森に引き返していく。

 

「攻撃をやめた?日没だから、引いたとでもいうの?」

「いや、違う。森の奥に何かいる。あれは……!!」

 

戸惑うエレオノールだが、オストの指さした方を見て絶句する。森の奥に佇む一体の巨人。だが、その大きさは今までの巨人の比ではない。まさに塔。その姿を見れば、誰にでもわかる。あれが、あれこそが。

 

「巨人の王……ついにここまで来たか」

 

ギリッとドラモンドが歯が鳴る。ほかの砦を破壊しつくし、遂にこの最後の砦まで攻め込んできたのだ。しかし、攻め込んでくる気配はない。遠目から砦を眺めるだけで、巨人の王は足音を響かせて、生き残りの巨人を連れて引き上げていった。どうやら、今日は攻めてくる気はないらしい。引き上げる巨人達を見て。ドラモンドは肩から力を抜く。

未だに先の見えない戦いだが、今はこの勝利を喜ぼう。

 

「我らの、我らの勝利だぁぁぁ!!!!」

うおおおおおお!!!!

 

兵士達は天に向かって槍を、剣を掲げて勝鬨をあげる。壁上で、それを見たエレオノールも口元に小さく笑みを浮かべて勝利を喜んだ。

そして、プレイヤーは役目を終えて、消えかけている白霊に一礼。それを見た戦士は座り込み、何かを手に持ち乾杯する様にし、魔法使いは丁寧な一礼するとそれぞれの世界に戻っていった。

 

 

 

 

日没を迎えた砦内では、簡素ながら勝利を喜ぶ宴が開かれていた。負傷しながらも、皆が勝利の喜びを分かち合っていた。プレイヤーは、火にあたりながらそれを楽しそうに眺めていた。人の営みを見るのが、彼にとっては何よりも楽しいことなのだろう。自分が守りたかった人の営み。暖かく、心安らぐ光景。

 

「貴公、楽しんでおるようだな。この様な端ではなく、中央にいけば良いものを」

 

プレイヤーに声をかけたのはドラモンド。厳めしい表情を少し崩し、柔和な笑みを浮かべて隣に腰掛ける。プレイヤーは小さく首を振り、自分はここでいいと言う様にしていた。その姿に、そうかと言う様にして同じように目の前で喜び合う部下たちに目を向ける。

 

「負けに負け続け、絶望的だと思った戦い。しかし、国の盾である我らは逃げるわけには行かぬ。ここで巨人を食い止める。と誓いながらも、心が折れそうになる時もあった」

 

彼の父も、祖父もこの巨人達での戦いで命を散らしていった。自分もここで死ぬのだと覚悟も決めていた。

 

「そんな時に、まさか異国の聖女様と貴公の様な勇敢な騎士に出会った。ふふ、人生何があるのかわからぬものだな」

 

この絶望的な戦いに、差し込んだ一筋の光。見慣れぬ異国の魔法に、巨人を圧倒する騎士。そして兵士達を鼓舞してくれた聖女、エレオノールの姿。その姿にどれほど助けられたことだろうか。

 

「助かった、貴公たちのお陰で、まだ我らは戦える。まだ、国の盾として役割を果たせる」

 

深々と頭を下げるドラモンドに、気にするなと言う様にしながらも、プレイヤーは一本の大剣を取り出す。それは、先ほどまで巨人を切り伏せていた大剣、ただのクレイモアと侮るなかれ。ロードランの鍛冶師が鍛え上げた剣。そしてプレイヤーのソウルを分け与えられ、今日、巨人を多く葬ったことにより、巨人特効を刃に宿していた。

その剣をドラモンドに、使え。と渡してきたのだ。

 

「これは貴公の剣か。……ありがたく、使わせてもらおう」

 

そう言って、ドラモンドは立ち上がり、部下たちの元に向かうのであった。

 

負傷者の手当てを終えたエレオノールが宴に出たときに、歓声が響く。その全てが聖女として名乗った彼女への感謝の声。

それに驚きながらも、一つ一つに丁寧に答えながら、目当ての人物、プレイヤーを探していた。そして、感謝の声が収まり、人の輪から外れた彼を見つけると、傍に近寄り途中のテーブルから貰ったホットワインが入れられたカップを手に、彼の隣に座り、差し出した。

 

「本当、貴方には驚かされることばかりよ。私も聖女なんて名乗らされましたけど」

 

小さく笑みを浮かべて、ワインを一口飲み込む。確かに、聖女として名乗らせてしまったな。と困ったように頭をかくプレイヤーに、気にしてないといったように彼女は首を振る。

 

「気にしてないわ。確かに聖女と言う肩書で、色々と話も聞けたもの」

 

確かに、異国の貴族。より、異国の聖女と言う肩書の方が何かと便利だろう。どこの世も聖女を軽んじる国はない。しかも、その聖女が優れた才知を見せたのならば、なおさらだ。

 

「この国を襲っている巨人。そして、あれが巨人の王。どれもこれも、ハルケギニアでは存在してないし、伝承も確認されてない。やはり、私たちのいたところとは別の所なのかもしれないわね」

 

王立研究所で研究者を務めるエレオノールの頭脳に驚かされながらも、その考えにプレイヤーは賛同する。おそらく、あの霧は世界を渡った時の物。そして、あの猫、シャラゴアから貰った猫の尻尾の形をしたお守りが、この世界に導いたのだろう。

ならば、何かしらの役割があり、それを達成すれば、元の世界に変えれるはず。そして、恐らくそれは、巨人の王の討伐なのだろう。塔の騎士に匹敵する巨体。どの様な攻撃手段を持っているかは大体が想像つく。最も、戦ってみないとわからないことには変わらないのだが。

ふと、そんなことを考えながら、隣を見るとエレオノールが小さく震えていた。

 

「……まさか、今頃になって怖くなるなんてね。震えが止まらない」

 

森での惨劇、巨人との戦争。どれもこれもが非日常の出来事であり、その場は乗り越えたとはいえ、落ち着いて思い返せば、どれもが恐怖を心に植え付ける。

それが今になって出てきたのだろう。カタカタと小さく震えるエレオノールを見て、プレイヤーは、その小さく細い肩を抱き寄せると、自身の胸に彼女の顔を埋める。

 

「ちょ、いきなりなにをしてるの!!は、離しなさい、こら、プレイヤー!!」

 

突然の出来事に慌てるエレオノールだが、プレイヤーは火の瞳に暖かな光を宿し、幼子をあやす様にポンポンと背中を叩く。安心しろ。と。私が守り抜こう。と言う様に。

 

「貴方は……本当に罪な男です……ね」

 

その瞳の暖かさに、抱きしめられた胸板の力強さに。そして耳に届く彼の鼓動にいつしか、エレオノールの震えは止まり、身体を任せていた。自分でも、いきなりすぎるとは思っている。しかし、それでも止まらないので。彼に対する思いが、プレイヤーに恋する気持ちが。ただの女性として、初めて恋をした彼女であった。

今はこの暖かさに身を任せてしまおう。

明日は、今日以上の激戦なのだから。と。

 

 

翌日、巨人の王、襲来。

 

 

 

 

 

 

 









巨人狩りの大剣

ドラモンド、代々、砦の司令官を勤めていた一族の者である。彼の代に、巨人達は圧倒的攻勢を開始。砦は陥落寸前かと思われるほどの損害を被る。
しかし、どこからか聖女と護衛の一団が現れた。その中には、巨人を軽々と葬り去る一人の騎士がいたそうだ。その圧倒的武力に、巨人たちでさえ恐怖を抱いたという。
その騎士からドラモンドはひと振りの大剣を譲り受けた。その大剣を手に、彼らは力を振り絞り、巨人たちに抵抗し、戦い抜いたそうだ
数多の巨人たちを葬り、戦い抜いたドラモンドの手には、終始、その大剣が握られていたという。
彼はこう語った。もしあの者が、力を貸して欲しいと言ってきたのならば、私は喜んで力を貸すであろう。













本気を出した時間制限なしのプレイヤーと白霊に勝てると思うなよ巨人。
チョロイン、エレオノール。可愛いじゃない
プレイヤーは(活動報告で)白霊を探しているようだ




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