ゼロの使い魔 虚無の騎士   作:へタレイヴン

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1羽 虚無と騎士

---友よ---貴公はすべてを捧げるのか---霧を払い、闇を退けた英雄よ--

あぁ--火の時代--終わらせることはできない--なにより--遠き過去の友が--待っている--

そうか--友よ--俺の太陽よ--貴公の偉業--必ず聖女と混沌の娘達に--伝えよう--貴女達の英雄は誰よりも熱かった--と

友よ--我が最高の友よ--しばしの別れだが--また会えるさ--空には常に--

--我らが太陽があるのだから-----

------あぁ--古き友よ--久しいな--北の大国を駆けた事も遠き過去--

 

ボロボロの鎧を身に纏った騎士の右腕に炎が燃え移る。騎士の全身を覆い尽くした炎は、周囲に広がる闇を焼き払う如く広がり続ける。

かつて北の大国が霧に包まれた時代があった。霧より生まれしデーモンが跋扈し、ソウルを失い亡者と化した人間達。

世界は霧に包まれ拡散し崩壊するかと思われたが、とある青年が霧を払いのけた。亡国の王子・暗き銀色の騎士を友とした。

かつて火の時代があった。暖かく栄華を誇った時代は、始まりの火が消えかけたことにより翳りを見せ始める。

人々には不死の呪いが浮かび上がり、理性を失った亡者と化した。人々は、ヒトであったそれを忌み嫌い、北の地に閉じ込めた。

その中にいた一人の不死の化け物--不死人--が古き王達の地にたどり着いた。そこで出会った太陽の戦士を友とし、不死の使命の為に戦った。

旅路の先に出会った混沌の娘達から加護を受け、聖女から寵愛を受けた彼と友は、古き王達を倒し、その魂をもって消えかけた始まりの炎を灯したのだ。

誰も知ることが無い物語。知る必要の無い物語。

 

燃え盛る炎の中、不死人の青年を背中から、誰かが優しく抱きしめる。それは、青年に最初の導きを与えてくれた女性。

 

--あぁ、黒衣の火守女よ--まだ戦い続けよと言うのか--それも良いだろう--私は所詮、無限のソウルを抱く化け物なのだから--

 

声にならぬ声でつぶやいた青年に、黒衣の女性は違うと首を振り、前を指差した。

そこには炎とは違う光が、青年を包み込むように広がり始めている。

誰かの呼び声が聞こえる。泣きそうで、必死な呼び声だ。兜の下で、青年は口元に笑みを浮かべ、手をさし伸ばす

 

--まったく--そんなに泣きそうな声を出されたら--行くしかないだろ--

 

 

 

 

ハルケギニア、トリステイン王国。

その王国内にあるトリステイン魔法学院から少し離れた草原で、ある儀式が行われていた。それは、使い魔召喚の儀式。

2年に進級する際に行われる儀式で、これが出来て初めて進級が許される。簡単に言えば、一種の試験のようなものだ。

大多数の生徒達が召喚を終わっている中、1人の少女が未だに召喚できずに居た。

美しいピンクブロンドの髪を持ち、可憐な顔つき。年月が経ち成長すれば、美しき女性と変貌を遂げる顔つきだ。

彼女の名はルイズ。フルネームを言うと、名前の後にフランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールと舌を噛みそうなほど続く。

ヴァリエール家の三女であり、学院の1生徒である。

しかし、そんな彼女は焦っていた。ルイズは幾度となく召喚に失敗していたのだ。

その回数は、既に10を超えている。もし、ここに居る担当教師が彼--コルベール--で無ければ、既に打ち切っていただろう。

実は、召喚だけでなく、彼女の行使する魔法は全て失敗する。何の魔法を使っても爆発してしまうのだ。物を浮かそうとしても、爆発。鍵を開けようとしても爆発。

故に彼女は勉学に励んだ。原因を突き止めるために、そして誇り高き貴族となる為に。

その努力の結果、座学の成績はトップではある。しかし、彼女は魔法成功率ゼロであるために【ゼロのルイズ】と、不名誉な称号を付けられていた。

それでも挫けずに、諦めずに努力を続けていることをコルベールは知っていた。だからこそ、彼はルイズに成功して欲しいと願っていた。

しかし、既に周りの教え子達は召喚を終え、各々の使い魔達と戯れている。それに、時間も無い。

残酷だが…と心の中で謝罪しながら、コルベールは、また失敗の爆発を起こし、俯いて悔しがるルイズの肩を叩く。

 

「ミス・ヴァリエール。貴女の努力は認めます。…ですが、これ以上は…。」

「ま、待ってください!!あと一回、後一回だけチャンスを下さい!!絶対に、成功させますから!!」

 

首を振るコルベールに、ルイズは必死に懇願している。その必死さに負けたのか、コルベールは「後1回だけです。」と短く告げて、距離を取る。

周りから聞こえてくる野次を無視して、ルイズは杖に集中し始めた。次も爆発かも…と不安が頭をよぎる。否、次こそは呼び寄せる。

雑念を払い、ただ只管に願う。

 

「宇宙のどこかにいる、我が僕よ! 神聖で、美しく、強力な使い魔よ! 私は心より求め、訴えるわ。我が導きに応えなさいっ!」

 

願いを込めて、杖を振るうと前方で今まで以上の大きな爆発が起こった。盛大に土煙が舞い上がり、周りの生徒達が咳き込む。

 

「げほ…おいおい。どうせまた失敗だろ?」

「無駄な努力だよな。あ~あ、さっさと寮に戻りたい」

 

 

彼女を嗤う声、しかしルイズにはそんな声など耳に入らなかった。

 

(お願い…なんでも良いから居て…!)

 

ルイズが眼を閉じ、祈るように胸の前で杖を握りしめる。口では大仰な事を言っていたが、本心では何でも良かった。

犬でも猫でも…この際大嫌いなカエル…は少し嫌だが、仕方が無い…けど、やっぱり嫌だ。

そうこうしていると、少しずつ土煙が晴れていき、うつ伏せに倒れている人影が見えた。

 

「人?…ぶははは!!おいおいおい、まさか使い魔で人を召喚したってか!?」

「流石はゼロのルイズ。俺たちとは桁が違うぜ!!」

 

周りの生徒達はゲラゲラとルイズを笑っているが、当の本人はそれどころではなかった。使い魔召喚で人を呼び出した記録など無い。

それはつまり、自分は進級できずに落第であり、実家に強制送還…そして、待っているのは…。

悔しさと、恐怖で泣き出しそうになるが何かの錯覚だと、少しばかりの希望を込めて、もう一度爆発の中心部を見つめる。

 

「なんど見たっておな…じ?」

「…お、おい。なんだ…あの馬鹿でかいの…?」

 

人影の傍らに突き刺さっている巨大な何か。土煙が完全に晴れると、その形ははっきりと見えた。

黒く両刃の巨大な斧である。その隣には、これまた大きく、質素ではあるが装飾の施された立派な盾が転がっている。

2つの武具に挟まれる形で倒れている人も、よく見れば鎧を身に纏っている。

誰かが小さく「…騎士?」と呟くと同時に、倒れていた人物も静かにだが起き上がった。

フルフェイスの兜をかぶり、群青色の布切れが巻かれたボロボロの鎧だが、何処か神聖な銀で作られている。だが、それに反して、手甲と脚甲は黒い鉄で作られた無骨なもの。

誰がどう見ても平民--ではなく、騎士そのものである。呆気にとられているルイズを、庇う様にコルベールは前に出る。

目の前の騎士に、その視線は注がれていた。

 

(ボロボロですが、随分と立派な鎧。おそらく、戦い続けてそうなったのでしょう。そうすると、この騎士はかなりの高位の者となりますね。)

 

立ち上がり、何もする訳でもなく騎士は、キョロキョロと周囲を見渡しては、しきりに首を傾げている。どうやら、状況が把握できていないようだ。

その行動が少しおかしく笑みをこぼしながら、コルベールは騎士へと歩み寄った。

 

「失礼、騎士殿。どうやら、混乱しているようですな」

 

敵意など無いと行った様子で、友好的に話しかけるコルベールだが、何時でも杖を抜ける体勢にしている辺り、抜け目が無い。

騎士はじっとコルベールを見つめ、コクリと小さくうなづいた。

 

「まずは名乗りから。私はトリステイン魔法学院で教師を務めております、コルベールと申します。騎士殿のお名前は?」

 

静かに頭を下げながら名乗ったコルベールに、騎士は優雅に一礼を返した。その姿に、ルイズだけでなく生徒達も見惚れてしまう。

優雅にして、気品に満ちた一礼だ。…彼らは知らないだろうが、かつて亡国の王子と暗き銀色の騎士に叩き込まれただけあり、礼儀作法は心得ていた。

礼を終えた騎士は、どうしたものかと考えるそぶりを見せ、最初に喉を指差し、次に残念そうに首を横に振る。

 

「喉、首を振る?…もしや、貴方は喋れないと…?」

 

コルベールの問いに、騎士は困ったように頷いた。それに、喋れたとしても、名前など、とうの昔に忘れてしまっている。

 

「これは失礼しました。…では、騎士殿と呼ばせていただきます。…それで、現在の貴方の状況は理解できているでしょうか?」

 

騎士はまたもや考えるそぶりを見せて、首を横に振る。そうですかと言うとコルベールは簡単に説明を始める。

春の使い魔召喚儀式の最中であった事、騎士は少女--ルイズ--が召喚したと言うこと。そして、使い魔の契約を結ばねば、彼女は進級できず、退学になってしまうと言う事。

所々、騎士は首を傾げる素振りを見せたが、概ね理解は出来たようで、再びどうしたものか…と天を見上げる。

自分は確かに、最初の火の炉でソウルを燃やして、薪となった筈。その自分が、どうしてこんな所にいるのか。

第一、彼はトリステインと言う国をまったく知らなかった。ボーレタリアを初めとする国々を旅して、最終的には古き神々の都まで踏破した自分が知らない国。

拡散した世界のどれかなのだろうか…と考えつつ、騎士は兜の下でワクワクとした表情をしていた。

詳しい事はわからないが、自分は生きて、来た事も無い所にいる。持っていた数々の武具やアイテムも、しっかりと魂--ソウル--に刻んであるので、取り出すことが出来る。

それに、唐突に召喚されたり、どこかに連れて行かれるのは日常茶飯事だった。なら、今回もその1つだろう。

 

「それで、如何でしょうか騎士殿。彼女と契約を交わしていただけないでしょうか。伝統であり…なにより送還は出来ぬのです」

「先生!!人間を使い魔にするなんて、聞いたことがありません!もう一度だけ…」

「ミス・ヴァリエール。先ほどが最後と約束した筈です。…彼にも言いましたが、伝統なのです。例外は許されません。それに、彼を召喚したのは貴女です

召喚した者を責任を持って扱うと、授業で教えたはずです。」

「そ…そんなぁ…。」

 

ガックリと項垂れるルイズを見ながら、騎士も少し落ち込む。そこまで嫌がらなくても良いだろうに。…第一、彼はそこら辺の使い魔なんかより強いのだが…知る由も無い。

 

「ああもう、良いわよ。やってやろうじゃないの!!ほら、あんたも何時までも首を傾げていない!!か、屈みなさいよ。あと、ヘルメットも上げなさい!!」

 

完全に開き直ったルイズは、騎士に屈む様に指示を出した。小柄な彼女だと、長身の騎士の事を見上げてしまう。

騎士はキョトンとしながらも、ヘルメットを取り去る。風に銀髪が揺れ、暖炉のように暖かい瞳がルイズを見つめていた。

故郷では珍しくも無かった銀髪だが、ここでは珍しいようだ。ルイズも一瞬だが、見ほれてしまった。

しかし、それを見ていたコルベールは若い--という感想と共に、騎士の外見と雰囲気の違いに戸惑いを隠せない。

 

(老齢の様な雰囲気を持ちながら、若い。しかし、それなりの武勲を挙げたから、あの様な鎧を纏っているのだろうか。)

「かかか感謝しなさいよね!?貴族にこんなことされるなんて、普通は一生無いんだからね!!」

 

感謝も何も、サッパリわからないのだが…と思っていると、ルイズは小さく契約の呪文を唱え、意を決して自分の唇を騎士の唇に重ねる。…まぁ、キスだ。

初めて…と言う訳ではないが、突然の出来事で呆気にとられた騎士だが、左手に激痛が走る。

焼き鏝を当てられたように痛む左手の手甲をはずすと、見慣れぬ紋様が刻まれているではないか。

 

「コントラクト・サーヴァントはきちんとできましたね。…ほお、珍しいルーンですね。すいませんが、少し書き写させてください。」

「…うう、私のファーストキスが…。って、なんであんたが慰めてんのよ!!」

 

とりあえず、落ち込んでいるルイズの肩を、ポンポンと叩いてみるが、噛み付かれそうになったので騎士は慌てて手を引っ込める。

コルベールがスケッチが終え、生徒達に学院に戻るように指示を出した。それぞれが杖を振るい、フライを唱えると空中へと飛び立っていく。

 

「ふん、ルイズは歩いてこいよな!!」

「そんなボロボロの騎士なんか、何処からからつれてき…た…」

 

何時もの様にルイズを馬鹿にしようかと思った生徒が見たのは、彼女の後ろで軽々と大斧を右手で持ち上げ肩に乗せて、左手で大盾を持っている騎士の姿だ。

それには、流石のルイズやコルベールも驚きを隠せなかった。明らかに、大斧は片手で持てる大きさではない。

騎士はそんな事を気にもせずに、ルイズの後ろに控えていた。まるで忠誠を誓った騎士のようだ。フルフェイスの兜から覗く目は、静かにルイズの事を見つめている。

 

「…え、あ。何処に行けば良いのかって事ね。…良いわ、付いてきなさい。…あんた、その斧、重くないの?」

「…?……?」

 

騎士がポンと肩を叩いて、どこに行けば良いんだ?と言わんばかりに首を傾げていた。

ルイズも気を取り直して、学院に帰ろうとするが…なんとなく騎士の持っている斧に目が行ってしまう。

持ってみるか?と騎士は斧を差し出そうとするが、ルイズが慌てて持てないから!!と首を横に振る。

 

「怪力で、どっかの騎士…ねぇ。まぁ、平民よりはまし…だと思いましょう。うん。」

「?」

「なんでも無いわよ。…けど、喋れないのよね。せめて名前くらい知らないと、呼びにくいんだけど。」

 

隣を歩く騎士を見上げて、ルイズはポツリと言葉を漏らす。それに騎士も大斧を担ぎなおして、確かに不便だと思っていた。

しかし、自分の名前なんて覚えてないし…いっその事、自分の主--で良いのだろうか--のルイズに決めてもらえば良いのではないか?

何か思いついたのかと自分を見上げてくるルイズに、騎士は最初に自分を指差して、次にルイズを指差した。

 

「え、なによ?…自分…私?…あ、私に名前を決めろって事?」

 

大正解と言わんばかりに、騎士はコクコクと頷いていた。

 

「いきなり言われてもね。ああもう、わかったから、そんなに期待した眼でみないの!!」

 

フルフェイスの兜から、ドキドキワクワクと言った眼で見てくる騎士に、ルイズは若干呆れながらも名前を考え始めた。

そして、ほんの少し考えて、これが良いわね。と小さく呟くと、騎士と再び眼を合わせる。

 

「決めたわよ。今日から貴方はプレイヤー。古い言葉で自分自身って言う意味よ。」

 

騎士--プレイヤー--は嬉しそうに頷くと、片膝を付いて、頭をたれる。

 

「え、プレイヤー?…私に忠誠を誓う…って言う事で良いの?」

 

当然だ、と言う様にプレイヤーは、大盾を置いた右手で胸を強く叩く。

この少女が自分を呼んでくれたから、こうして生きているのだろう。彼女の為なら、戦うのも悪くは無い。

 

「…と、当然じゃないのに。使い魔はご主人様に、忠誠を誓うものなの!!」

 

えっへんと胸を張るルイズだが、その眼には涙が溜まり、頬は赤く染まっている。

なんとなくだが、プレイヤーは絶対に自分を裏切らないと、側にいてくれる。そんな気がしたのだ。

 

「これからよろしくね、プレイヤー」

 

 

 




名前 プレイヤー

頭 上級騎士の兜
体 アルトリウスの鎧
腕 黒鉄の手甲
脚 黒鉄の脚甲
武器 叩き潰す黒騎士の大斧
盾 アルトリウスの盾

誓約 虚無の騎士

先生…叩き潰す黒騎士の大斧が使いたいです…ノウキンノオウゴンノジダイヲ。

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