プロ雀士、日常の記録   作:Lounge

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清水谷竜華・大阪ドミーネーターズ選手兼任コーチ

33才、既婚。本姓は園城寺。妊娠6ヶ月のため、今シーズン限りで休養を予定している。 インターミドルで優れた成績を残し、千里山女子高校に進学。二年生時からレギュラーを務め、三年生時には部長として千里山女子を率いた。 自らの学力を試そうと、プロや大学の推薦を蹴って地元の国立大である服部大を受験、現役合格する。当時関西リーグ12年連続最下位であった同大学麻雀部をリーグ二連覇に導き、卒業後大阪に入団。昨年よりコーチ兼任となり、大阪の次期監督としても呼び声が高い。


4.清水谷竜華(大阪)

 怜竜コンビで決めた!大阪、日本シリーズ初白星

 

 竜華さん最高や!昨日の日本シリーズ第二戦、二日連続で園城寺を先鋒に据えた大阪。 園城寺は恵比寿の他家使いこと小走やえの動きに乗じて横浜と大宮を削り、2位で先鋒戦を終えた。江口→愛宕洋→赤阪と2位のままバトンは清水谷へ。頼れる大将はオーラス、 大宮の福路に倍満を直撃して大宮を叩き落とし、トップ恵比寿をまくって逆転勝ちをおさめた。 お立ち台に立った清水谷は「気分上々~!」 と絶叫。「明日も勝つで!」と意気込んだ。 愛宕雅監督は「上々の出来。園城寺と清水谷がうまいことハマった形やな。ほか3人も順位キープは出来たしまあまあ…洋榎は教育かな?(笑)」と上機嫌。「この調子で勝ち重ねて、リーグ2位からの日本一狙いますわ」 とコメントした。 出産・育児のため今期限りで休養する清水谷。最後まで、チームの要として大阪を引っ張って行ってほしい。(デイリースポーツ)

 

 順位/チーム/得点/得失点差

 1.大阪ドミーネーターズ 1220 +220

 2.恵比寿エンジェルバズーカ 1170 +170

 3.横浜ロードスターズ 850 -150

 4.ハートビーツ大宮 760 -240

 

 

 

「つっかれた~」

「大丈夫?キツない?」

 怜が心配そうに私のお腹をさすってくれる。

「大丈夫大丈夫。無理はしてへんしな」

  ヘラヘラと笑って返すが、実のところけっこう体が重い。二人分の体を抱えているので無理もない。

「もう名前とか決めてるん?」

「や、まだ男か女か聞いてへんしなあ。双子やでーってのしか教えてもろてへん」 「へー」

「うち、もうちょい休んでくわ。怜はもう行き」

「うん、ほな」

  怜が向こうへ去るのを見て、私はふぅっとため息をついた。

 

  最近、これで良かったんやろか、と思うことがよくある。具体的には去年コーチ兼任になった時などだ。監督に呼び出され、兼任コーチ就任を打診されたとき、私はなぜ怜やセーラでなく私なのか、と真っ先に疑問を抱いた。

  ご承知のように、私は怜やセーラよりもプロの経験が4年短い。二人と違って大学に行き、 新たな経験を積んだとは言えそれがプロで活かせるとは思えなかったのだ。愛宕監督にそう伝えると、監督は「でも、大学の経験はあんたには活かされとるし、チーム外を見ても恵比寿の小走なんか高卒のメンツより活躍しとるやろ」と返してきた。 私は返す言葉を失った。監督は千里山女子時代も千里山の監督として私たちを見てきている。私が小走やえに憧れ、彼女の足跡を追っていることももちろん知っている。

 

 

  私が小走やえを見たのは小5の時だった。麻雀の小学生大会、同い年の子が優勝する光景を見て、私もあの場所に立ちたいと願った。 中学時代に麻雀の腕を上げ、近畿大会で彼女と何度も対戦した。はじめ完敗だった対戦成績は回を経るにつれだんだん互角になっていった。たくさんの高校からスカウトが来て、私は地元で最も強い千里山女子に進学した。彼女も地元の強豪・晩成に進んだ。 初めから高校麻雀の本番は3年時だと疑わず、宮永照という化け物を見て怯みながらも私は彼女と戦うことを夢見た。

 

 

 

 しかし3年の夏、晩成は県大会で敗れ、青春の幕を閉じた。 彼女自身は個人戦で奈良1位となり、無事インハイにやってきた。晩成が出場しない大会でも相変わらず化け物達は健在で、晩成の代わりに出てきた奈良代表の阿知賀女子に私は敗れた。

 

 

 

  運命の個人戦、奇しくも宮永照を同卓に迎えて私は彼女と対峙した。結果は僅差で私が2位抜け。彼女は敗退した。 試合を終えて、私は宮永照と小走やえに進路を聞いてみた。皆3年で、今年の大会が最後だ。ちょうど進路に迷っていた私は、二人に聞くことで自らの参考にしようと思ったのである。 宮永照はプロに進むと答えた。小走やえは__彼女は、こう答えた。

「神泉大に…行こうと思っている。もちろん自力でな」

 

  驚いた。彼女は進学に麻雀を使わないと宣言したのである。それは私に、新しい選択肢を与える革命であった。

 

 

  東京の神泉、京都の近衛、大阪の服部。神泉に匹敵する大学で私の学力で進めるところは服部しかなかった。受験して服部大を目指すと打ち明けたとき、プロ行きを決めていたセーラや怜には驚かれ、親には「やめとき」 と止められた。けれど、愛宕監督に話したとき、監督はニヤリと笑って「ふーん、まあ気張り」と言っただけだった。

 

  結果として私は服部大に無事進学した。服部大の麻雀部はそれはそれは弱かったのだが、2年かけて戦えるようにトレーニングして、ついに初のリーグ連覇を成し遂げた。大学卒業を前にして大阪からスカウトが来て、「4年待ったんやから活躍してもらうで」と入団がすぐに決まった。すでに4年プロとして活動していた怜やセーラとの差は広かったが、そろそろその差も縮まってきたように感じている。

 

  けれど、これで良かったんやろか、という自問の声は消えない。高校を出てから今まで、重要な決断においてもうひとりの私が不満を持たなかったのは怜の弟、玲との結婚についてだけだ。いくら否定しようとも、もうひとつあったはずの選択肢のほうが正しかったのではないかと考えてしまう。

 

「おや、清水谷じゃないか」

突然声をかけられて驚いた私が顔を上げると、ベンチ前の自販機を背にして、小走やえがペットボトル片手に立っていた。

「おお、小走やん。今日は怜が世話になったな」

「そりゃどーも、今日のヒロイン様にご挨拶いただき光栄なこった」

「なんや慇懃に。うちも憧れの女王様とサシでお話できて嬉しくってよ」

「なんだ気色悪ィな」

 

  軽口をたたき合う。ふと、抱えていた疑問をぶつけてみたくなった。

 

「なあ小走、今までとってきた進路を後悔したりする?」

 

  彼女はしばらく考えて、

 

「ないことはないな。わりかし間違ったこともしてきたし、結局プロ入りするなら大学に行く意味はあったのかとも思うしな。でも、 やってきたことそのものを否定はしない。失敗は失敗しないと失敗だとは気づけないんだから」

 

引っ掛かっていたなにかが、すとんと落ちた気がした。

 

「なるほど、おおきにな」

「子供はいつ頃生まれるんだ?」

「今6ヶ月やから、バレンタインあたりと違うかな」

「そうか、体大事にしろよ」

「そっちもな。ほな」

「ああ、また明日」

 

 手を振って別れる。さあ、帰ろうか。私はベンチから立ち上がった。

 


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