記念投稿しようとしたんですけどプロット作るの完璧に忘れてたしいざ作ろうとしても上手いことできないままで…ああー…。
宮永照は鉄面皮ではない。団体戦シーズンを翌週に控えているのに練習試合で惨敗すれば焦るし顔色だって悪くなる。
シーズン入ってないし今日の負けは気にしなくていい。山瀬監督はそう言うけれど、それを真に受ける選手はそもそもプロになっていない。状態が上がらないままシーズンに突入しスタートダッシュに失敗でもしようものならその先に待つのは地獄のM2行きである。
ロッカールームで一人ため息をついていると、ギィと軋んで扉が開き、見慣れたクワガタ頭が見えた。
「おや、照さん!今日はあんまりすばらくなかったですね」
「煌って私にだけえらく当たりキツいよね…」
「気のせいでしょう」
入ってくるなり気にしていたことに触れてくる煌。他人に親切な彼女は、なぜだか照には気を使ってくれない。
絶対気のせいじゃないよ。ブツブツ呟く照をよそに、煌はちょうどよかったと手を叩く。
「照さん、このあと暇でしょう?ご飯に行きませんか」
「いいけど…私だって用事あるときはあるよ」
「ご飯に誘ってくれるお友達がいらっしゃるんですか?」
「いるよ!ゆみとか、…ゆみとか」
「加治木さんだけじゃないですか」
「ち、違うもん。遠征に行けばいっぱいいるもん」
「まあ、いいですけど。いやー、実は今日試合後に姫子と白水先輩とご飯に行く約束してましてね?店も予約したのに今日神戸があんなザマになっちゃって、今からミーティングなんですって。でもせっかく押さえた店を断るのももったいないし…と思ってたら折よく照さんが」
「え、私埋め合わせなの」
「いいじゃないですか、押さえたのリストランテ・フィオレですよ?なかなか予約取れないんですから」
「フィオレ!?…行く」
「でしょ?じゃ、予約19時なのでさっさと行きましょう」
「うん…あれ?でももう一人誘わなきゃいけなくない?」
「そこは店に一人来れなくなったとか言えばいいですよ」
どうも釈然としないが、おいしいイタリアンが食べられるなら別にいいかな。照は素直に煌の誘いに乗ることにした。
ロッカールームを出て二人、出口に向かって歩を進める。
出口前のロビーにさしかかり、これまた特徴的な髪型の女がソファーに座り携帯を弄っているのが目に入った。
「小走さん。何してるの?」
「夕飯をどこで食べるか探してるんだ。遠征先の飯には疎くてな。どこか良いところを知らんか?」
「うーん…予算はどのくらい?」
「実は今日が誕生日でな。残念ながら誘ってくれるチームメイトはいなかったから豪華にいこうと思っている」
「そうなんですか!私たち今からイタリアン食べに行くんですけど、予約の枠が一つ空いてるんですよ!ご一緒にどうです?」
「いいのか?それならお言葉に甘えよう」
突然煌が話に割り込み、夕食は予定通り三人でいただくことになった。煌が寄ってきて照に耳打ちする。
「お誕生日ですって!…わかってますよね?」
頷くしかなかった。食費が1.5倍である。ウー。
元々の予定ではやえが来るはずではなかったので、フィオレのお誕生日サービスは付けることができなかった。が、煌が店員に「この人今日が誕生日なんです」と話したところ、なんとやえに追加でスペシャルケーキが出てきた。さすがは予約の取れない人気レストラン、気遣いが細かい。
「二人ともごちそうさま。おかげでいい思い出になったよ、本当にありがとう」
「このお返しはシーズンの勝利にしてもらおうかな」
「まさか!試合は真剣勝負するぞ?」
「ところで小走さん、今日見てて気になったんですけど、恵比寿が先鋒で出してきたあのルーキーはどういう子なんですか?照さんが苦戦してましたけど」
煌が単刀直入に聞いた。実は照もちょうど聞きたかったところである。鏡が無効化されることは珍しいからだ。
「ああ、彼女な。ご馳走してもらったお礼にざっと話そうか。宮永はわかったと思うが、彼女は鏡が効かん。理由は私もわからん、フィルターの能力持ちと当たりをつけてるが」
やえの説明によれば、彼女は照の鏡を受け付けず、また大阪との練習試合では園城寺の未来視も妨害したという。
「打ち筋はいたって一般的だがな。これから赤土監督が読みの技術を叩き込んで私の枠を奪わせるつもりらしい」
「なーるほど…完成形は能力無効化持ちの小走やえか…」
「厄介だろ?自分で言うのも何だが私の分析力はプロでもトップクラスのつもりだ、その分析力に能力が乗ればまあ最強だろうさ」
つまりは理論上花田をトバすことも可能な雀士なのだ、と小走は笑った。
「それじゃ、彼女とシーズンで対戦するのを楽しみにしておかないと」
「そう悠長なこと言ってるとタイトル奪われるかもしれんぞ?今日のお前は能力無効化の状況を鑑みても明らかに不調だったしな」
図星だ。今日の照は明らかにおかしかった。いつもなら引ける有効牌が引けない。切らないはずの牌を切って当たっていたこともあった。しかも、理由は不明である。
「不調なお前を倒したところで満足できるプロなんていない。とりあえずさっさと原因見つけて立ち直ってくれよ?心理的な問題なんだろうと思うが」
それじゃ、今日はごちそうさま。そう言ってやえは去っていった。
よく見てるなあ。照はやえの分析力に驚くしかなかった。
はっきり言って、照は怖かったのだ。年も重ねてきて、この先微妙な読み違えで今いる立場から滑り落ちるかもしれない、ということが。今日当たった彼女に地位を脅かされるんじゃないか、ということが。そこまで見抜かれていたのか。
「照さんは余計なこと考えすぎですよ。年齢とか地位がどうこうから離れて、高校の時みたいにただ麻雀をやってればいいんだと思います」
煌の言葉は、数年前の照自身の考え方だったはずなのに。どうして変わってしまっていたのだろう?
もう一度、プロの初心に立ち返るのもいいかもしれない。
「そうだね。ありがとう」
「いえいえ。出すぎたことを言ってしまいました」
礼を言うと、煌は照れ隠しか唐突に謙遜しはじめた。
さあ、帰って次の対策を練らないと。
団体戦シーズン開幕まで、あと一週間だ。