いきおくれたちが結婚談義に花を咲かせていた頃、隣のテーブルではアラサーたちが咲の惚気話を聞かされていた。
「うちの子はもう卒園近いからそろそろお風呂に一人で入る練習させなきゃいけないんだけど、まだ自分で体洗えないから私が手伝ってるの。だいたい夕方頃にお風呂に入れてるから京ちゃんは夜帰ってきてすぐお風呂に入れるんだけど」
咲はテキーラを煽り、ライムを齧りつつ喋っている。
「京ちゃんったらさあ、お風呂に入るときに『一人はヤダ』って言うんだよね!信じられる⁉︎そろそろ30歳になろうって男が風呂に一人で入れないって!」
テーブルをバシバシと叩き、ゲラゲラ笑う咲。完全に出来上がっている。
「『体洗ってくれよー』とかなんとか言っちゃって結局二人でお風呂に入ったら必ずセッ」
「そこまでっすよ咲さん!」
あわや18禁の域に突入しようとするところで桃子が咲の口を塞いだ。個室とはいえ店で夫婦の床事情なんぞさらけ出されても酒が不味いだけである。
「あははははははははは」
「だ、誰か、なんか他に話ないんっすか?」
笑いっぱなしの咲を抑えながら、桃子は話題を変えようとテーブルを見回すが、他のメンバーは咲の話にあてられてげんなりしていた。
「そうだ、おっ牌のおねえさんは仕事とかどうなんすか?」
「おっぱいじゃありませんッ!」
桃子が話を振ると、和が鋭く反応した。反応するのそこかよ、と桃子は心の中でツッコミを入れる。
「そうですね…牌のおねえさんの本来の仕事は子供達に麻雀の楽しさを教えたり、プロの和了形をわかりやすく解説したりするのが仕事ですから現状は順調だと思いますよ?トッププロの和了はオカルトじみてるものもあって解説が面倒ですけど」
「へえぇ、なるほど。選手の傾向分析とかもやるの?」
和の話に誠子が喰いつく。
「過去の牌譜の解説はできますけど、そこから癖を読み取って対策を練ったりそこからの成長を見込んでそのさらに裏を読んだり、試合中に分析をやりきったりするのは苦手です。そこまでやれてしまうのは恵比寿の赤土監督と小走さんくらいでしょう」
そこまで言うと和はニッコリして、
「ただ、亦野さんの場合はやたらと鳴くので手は読みやすいですよ?」
「…」
「あはは、亦野さんは攻略簡単だってさ」
黙ってしまった誠子を見て淡が笑う。
「スーパーノヴァな淡ちゃんはノドカにだって勝ったもんね!あたしは最強の雀士だもん!」
「前の対戦で衣に捻り潰されたと記憶しているが?」
「發冠戦の準決勝でダンラスで泣いてたような…」
調子に乗る淡に衣と桃子が水を差す。
「う、うるさいうるさい!マグレで大三元位とったくせに!」
「喧嘩売ってるっすか⁉︎表出るっすよスーパーノヴァ(笑)!」
「なんだとこの影薄タイトルホルダー!黒子!」
「黙れオカルトジャンキー!」
「二人とも落ち着いて…」
喧嘩を始める桃子と淡を誠子と尭深が止めようとしてテーブルは大混乱。
「あははははははははははははは」
「はぁ…」
夜はまだ始まったばかりだ。