艦娘でも提督でもない生まれ変わり方   作:奥の手

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注※ 若干の流血表現が含まれます。苦手な方はそんな感じの心づもりでお読み下さい。


第二十六話 月と湯けむりと蜂蜜ワインⅣ

――――…………。

…………――――、…………・・・――。

……・……・・・……。

 

漂うような、流れるような。

まどろみの中で覚醒を待つ意識は、しかしいつまで経っても覚めることはなく、眠りの底に沈んでゆく。

 

ぼんやりと目の前が照らされる。

柔らかな明かりを孕んだ視界は何も映さず、しかしそこがどこかであることだけは感じ取れた。

 

遠くで笑い声がする。

辺りは白いもやがかかっている。

 

あぁ、これはあれだ、夢だな。

私は夢を見ている。ハッキリわかるぞ。

 

じゃあここは…………はは、そうか、これはまた懐かしい夢ときた。

 

公園だ。公園の片隅にあるベンチに、私達は腰掛けている。

 

隣には黒いワンピースにそでを通した、麦わら帽子の女が座っている。フレンダだ。

 

対して私の服装は、彼女とよく似た白いワンピース。頭にも、同じように帽子を被っている。

 

遠くで笑い声がする。

視界の端にもやを追いやる。そうすると見えてきたのは、元気な声の主だった。

 

すべり台で、ブランコで、砂場で、草原で。

連なって滑ったり、立ち漕ぎをしていたり、お山を作ったり、鬼ごっこをしていたり。

 

アパートの真ん前には、大きな公園があった。

ここへよく来た。昼飯を食べるために、私の作ったサンドイッチを持って。ほんのピクニック感覚だった。

 

元気にはしゃぐ彼らの背中を見つめ、サンドイッチを食べ終わると、たまに一緒に遊んだ。

そして転んだ子どもの世話をする。

 

よく転ぶんだよ彼らは。鬼ごっこをした時なんて特にな。

そんで大声で鳴き出す。大粒の涙を流して、口を大きく開けながら。

 

その度に、私の持ってきた絆創膏を貼ってやる。いつもポケットに入れていたが、家に帰るときにはなくなっていた。

 

でも貼ってやったらまた笑うんだよ。そんで〝おねえちゃんさわったから鬼ねー〟などと言ってくる。

 

まったくだ。

 

彼らはよく笑う。泣いていたと思ったらすぐ笑う。それはもう、ころころと音が聞こえてくるほどに。

 

 

あぁ、そうだよな。そのために私は帰ってきたんだ。

ここ(海軍)に、帰ってきた。

 

 

 

――――あの笑顔を守るために。

 

 

 

 

「ン…………夢、か」

 

ゆっくりと起き上がり、窓の外を見ると空が白み始めていた。

良いぐらいの時間だろう。まだ少し早いが、二度寝するような気分じゃない。

 

「…………女神」

『なに?』

「懐かしい夢を見た」

『へぇ、そうかい。わたしは夢の中身までは見られないからな。ぜひ教えて欲しい』

「…………またこんどな」

『は? え、ちょ、話ふっておいてそれはないだろう』

「執務が死ぬほど残っている。サボったら文字通り死ぬ感じの」

『それはそうだが、片手間で教えてくれるぐらい――――』

「終わったらだ。さて、仕事をしよう」

 

ベットから降り、制服に着替え、私は自室を後にした。

 

 

 

 

執務室に入ると、昨晩のフレンダとのやりとりをメモに残した紙がある。

机の上のそれを手に取り、もう充分覚えてはいるが念のため読み返す。

 

今日の午前11時に迎えに来る。

 

使用するヘリはフレンダ研究所所属の輸送機で、権限はフレンダが全持ち。

なんでも研究成果を海軍本部へ送らずに、政府側の組織へこっそり横領させる代わりに奪い取った権限らしく、輸送全般はもちろん、人員の派遣をすることも出来るらしい。

 

なにやってんだあいつぶっ飛びすぎだろ。一人で戦争始める気か。

 

ただ、闘うために送ることの出来る人員は持っていないので、実質動かせるのは輸送ルートだけらしい。

 

私としてはそれで充分だ。少年を安全に研究所まで送れるのならそれでいい。

というより、もしこれで戦闘員まで抱えていたら流石の私も黙ってない。あきらかに目立ちすぎるので釘を刺しているところだが、本人は持っていないというのでそれを信じよう。

 

ともあれ少年の輸送は片付いた。

本来なら、硫黄島の連中とドンパチしながらの同時進行になる計画だったが、思いの外早くに片付いた。より安全でしかも確実だ。本当に助かる。

 

さて、となると横須賀から送られてくる艦娘がいつ来るかが気になるな。

もし鉢合わせるようなことになったら若干だが面倒だ。どう言い訳をすればいいかわからん。

 

と、そこまで考えていると机の上のパソコンにメールを受信したライトが灯った。

 

「この早朝から送られてくると言うことは…………やはりか」

 

開き、読み進めると、予想通り海軍本部からだった。

 

横須賀からの増援についての詳しい情報と、舞鶴についての報告だった。舞鶴の方は別フォルダになっている。

 

「どれ…………」

 

横須賀から送られてくる艦娘は全部で六人。

 

 

戦艦、大和。

正規空母、赤城・加賀。

軽巡洋艦、五十鈴・阿武隈。

駆逐艦、雪風。

 

先の戦いで五十鈴と阿武隈は損傷していたはずだが、これはバケツを使ったようだな。なぜ彼女達を選んだのか蜻蛉(かげろう)大将の意向が掴めない。が、別にそこまで勘ぐる必要は無いか。

 

悪くない増援だ。正規空母を二人も寄越してくれたのはでかい。私の艦隊ではいかんせん航空戦力が薄いから、空の手があるのはありがたい。

 

増援の到着時刻は午後一時。伴って、偵察隊の権限を持つ土佐中将も、同じ時刻を目指して到着するようだ。

フレンダとは鉢合わせない。これで安心できる。

 

そしてやはりここが拠点になるのか。事前通達とか相談とか、何もないあたりがずさんな海軍らしいところだが、まぁいい。

 

「あの二人に会うのは久しいな。元気で何よりだ」

 

私の初陣にも出向いてくれた赤城・加賀の息の合った働きは、今でも覚えている。今回のこの作戦へ従事してくれることを素直に嬉しく思う。

 

懐かしい二人の顔を思い浮かべながら、今度は舞鶴の報告とやらに目を通す。

 

「…………」

 

あれ。

 

ちょっと書いてあることが頭に入ってこない。もう一度読み返す。

 

「………………うそだろ」

 

読み間違いではない。

 

舞鶴が、一晩で敵勢力を撃退したと書いてある。

 

そんな事はあり得ない。どこかから流れて来たデマかと思い、送信してきたアドレスを再度確認するがどう見ても海軍本部だった。

 

「フレンダのイタズラじゃないよな……」

 

おてんばとは言え、この状況で嘘の情報を送ってくるほどふざけたやつじゃない。

だが念のため確認のメールを入れると、

 

『さすがにいくら私でもそんな事はしない。でもちょっと信じられないので本部にハック掛けて調べてくるね』

 

と返ってきた。朝早いメールにこんな早さで返ってきたということは、さてはあいつ寝てないな。朝は弱いはずだ。

 

というか、さらっと本部にハッキングしかけるとかどういう思考回路してるんだ。

 

そのまましばらく待っていると、

 

『その情報の信憑性は高いよお姉ちゃん。データベースにはちゃんと舞鶴鎮守府から直接報告がされてる。詳しい状況はまだ未報告みたいだけど……』

 

海軍のセキュリティ弱すぎだろ…………それともフレンダがおかしいのか。いやどっちもか。

 

とりあえずフレンダからのメールに感謝の返事を入れておき、イスに腰掛けて考える。

 

ちょっと私の認識を大きく超えた事態になっている。

あそこの指揮官がそんな優秀だった話は聞いたことがない。

昨日の連絡では持って一週間が限度などとほざいていたのだろう? それがなんだ、ものの一晩で撃退した?

 

これは一体何の冗談だ。よもや敵が原因不明の撤退を始めたとでも言うのか。

 

いや流石にそれならそうと報告するはずだ。いくらクズ共でも敵の撤退を自分の手柄に――――しないとはかぎらんか。よく考えればその筋はあるな。

 

だとすると一連の説明は付くが、今度は敵側がなぜ撤退したかの理由がわからない。

昨日の空襲は我々の戦力を見るためだと結論尽くが、舞鶴もそうなのか? 本拠地を直に攻撃しておいて?

 

そっちの方がありえんだろう。

 

そこまで考えていると、フレンダから追加でメールが来た。

 

『舞鶴鎮守府は、現存戦力を持って敵を撃滅。現在追撃作戦に移行中だってさ』

 

………………わけわからん。

 

あそこの指揮官がいきなり能力覚醒したとかそんな感じの理由しかもう思いつかんぞ。

 

まぁ、もう、いい。とりあえず現状を受け入れよう。

 

今残っている最大の課題は、これで硫黄島の奪還のみとなった。個人的な問題としては少年を本部から隠すこともある。

 

どちらにしても計画に変更はない。このまま続ける。

 

ふと窓の外を見ると、外はもう明るくなっていた。

 

時計を見ると朝の六時。そろそろ全員を起こした方が良い。

 

私が席を立とうとしたのと、執務室の扉がノックされたのは同時だった。

足の力を抜いて尻を落ち着ける。

 

「入っていいぞ」

「失礼します、提督」

 

扉の向こうに立っていたのは扶桑。

手にはクリップボードを持っており、その表情はどこか嬉しそうだった。

スキップでもしながら入ってきそうな勢いで、執務机の前に立つ。

 

「あの子の名前、今朝からみんなで話し合った結果、決まりました」

 

いつもよりにこやかな表情で机の上に置かれたボードには〝恵〟と書かれていた。

 

「…………〝めぐみ〟?」

「いえ違います、〝けい〟です」

「おお、(けい)くんか。これまた覚えやすいところに落ち着いたな」

「いろんな意見を取り入れた結果、〝恵方巻き〟の最初の文字から取りました」

「めでたい方角に由来し、文字通り艦隊に恵みをもたらす…………いいな。呼びやすいし。食べ物から来ているところにユーモアを感じる」

「流石にコンパス君はダメですからね」

「あれは忘れてくれ」

 

言うなり私も口元がゆるむ。これで少年を呼ぶときにも困らない。(けい)だな。もう覚えたぞ。

 

にこにことご満悦の扶桑を横目に、私はふと、クリップボードの端に書かれていた別の事柄が目にとまった。

鉛筆で小さく走り書きされたそれは、私の艦隊を構成する艦娘の名前が書かれていた。

 

いや、正確には、最上以外のだ。彼女の名前がない。

 

扶桑も私の目線に気付いたらしい。微笑みは一転し、きゅっと口元を結んで私の顔を見た。

 

「扶桑、これは……?」

「今朝集まった子たちの名前を控えたのですが、最上だけ、部屋から出て来ませんでした」

「出てこなかった? 起きていなかったということか」

「いえ、体調不良を訴えていたのですが、部屋に入れてもらえませんでした」

 

おいおい、どういう事だ。

何か胸騒ぎがするぞ。

 

「今は?」

「そのままです。ここへ来る前に一度寄ったのですが、中からは苦しそうな声しか聞こえませんでした。その事について相談しようかと…………」

 

あわてて席を立つ。

まさか、昨日の輸送任務でダメージを負っているのか。

だとしてもそんなそぶりはなかったぞ。疲れているようには見えたがそれだけだ。

それにドックにも入っている。ダメージが残っているなど考えがたい。

 

巡りまわる考えをそのままに、机の引き出しから取り出したマスターキーを制服のポケットへ滑り落とす。

 

「扶桑、医務室から救護箱と、念のためドックからバケツを持ってきてくれ」

「わかりました。すぐに用意します」

 

焦る気持ちを抑えながら、最上の部屋を目指す。その間にも彼女の様子を一から思い起こす。

 

昨日任務から帰る途中のヘリの中ではそれほど疲れていなかった。少なくとも顔に出るほどではない。

 

だが風呂から上がった途端に目に見えて疲労していた。食事の時も、その後の会議でも、いままで滅多なことでは居眠りなどしなかった最上が、最後の方では眠りこけていた。

 

満潮の話ではドックの中でおぼれかけたと言っていたし、様子がおかしくなったのは昨日の日没後となるか。

 

なんだ。どうしたんだ最上。

 

自然と焦りが歩を早め、階段を上った後はもうほとんど走っていた。

 

最上の部屋の前に立つ。ポケットからマスターキーを取り出し、躊躇なく鍵を開ける。

 

「最上!」

 

いいながらドアに手を掛け、間髪入れず開け放つ。

 

部屋に入った瞬間、むっとした臭気が鼻をくすぶった。まるで魚市場にでも立ったかのような生臭さと、そして鉄を濡らしたような臭い。よく知っている、紛れもない血のにおいだった。

 

ほぼ同時に目に入ったのは、ベッドの上で体を横にして転がる最上。

腹を押さえて身を縮こまらせている。

 

目を引いたのはその下半身。

ベッドには斑紋状の真っ赤なシミが広がり、白いシーツを染めていた。最上の寝間着も、はっきりとわかるほどその内股は赤く染まっている。

 

「最上、最上! しっかりしろ!」

 

しゃがみ込んで肩を揺すると、最上は苦しそうに呻きながら、目を少しだけ開けた。

 

「何があった。しゃべれるか?」

「てい……とく。おな、か、痛い…………」

「わかった。今扶桑がバケツを持ってきてくれている。もう少しの辛抱だ」

 

だがそんなものでどうにか出来る気がしない。

腹を押さえる最上の顔は尋常でなく歪んでいた。額には汗が浮き、唇を強く噛んで痛みに耐えているその様子は、どう考えても今まで見たことのない様子だった。

 

「提督! バケ……――――え、最上!?」

 

扶桑が救護箱とバケツを持ってきてくれたが、救護箱の方も正直役に立つかわからん。

だがいま何が起きているのか、何が原因で最上がこんなことになっているのか分からない以上、出来ることと言えば、バケツをひったくって躊躇いなく最上にぶっかけるしかなかった。

 

緑色の液体はベッドのシーツごと最上を包み、纏っている衣服を遠慮無く濡らす。

 

これでどうにか、せめて痛みが治まってくれなければどうしようも無い。

 

私と扶桑のただならぬ声を聞きつけてか、廊下からパタパタと誰かが走ってくる音がした。

 

「扶桑姉様、どうしたんで――――え」

 

山城だった。彼女は一度私を見て、それからベッドでびしょ濡れの最上を見て、最後に血が滲んだシーツと最上の下半身を見て顔を歪めた。

 

「最上、痛みは?」

 

私はしゃがんで最上の顔を覗き込むが、歯を食いしばる彼女の表情から鑑みるに、まったく効果がない。

 

どうすればいいんだ。いやそもそも何が起こっているんだ。

 

内股に血の跡があるということは、赤痢か? だがこの部屋は生臭さと血のにおいしかしなかった。だいたい艦娘が内臓系の疾病にかかるなど聞いたことがない。少なくともこの六十年は。

 

一体どうしたのか。なにがおきている。

全くわからないまま八方ふさがりで、どうしようも無く左手で頭を抱えたとき、おもむろに山城が口を開いた。

 

「提督……? この臭い、もしかして……」

「なにかわかるのか」

「えっと、提督、経験はおありで……?」

 

要領を得ない。山城は怪訝そうな顔で眉根を寄せながら聞いてくるが、何の経験かわからない。

 

いや、まて。状況に飲まれて気が急いている。一度落ち着こう。

深く息を吸って吐き出し、頭の中を切り替える。その間にも、自分の今までの人生で見たことのある状況と最上の現状で一致するものがないか探し続ける。

 

「すまん、山城、何についての経験だ」

「その…………」

 

山城が頬を染めた。やや恥じるように言葉を躊躇っている。

私の横に立つ扶桑がそんな山城の様子を見て何かに気付いたのか、口元に手を当てて「まさか」と呟いた。

 

「山城、教えてくれ。何のことだ」

 

目線が下がり、逡巡しながら頬を染め、小さな声で彼女は言った。

 

「…………生理、じゃないですか。最上の、それ」

 

 

 

 

それからの動きは早かった。

扶桑と山城は艦娘になる前にすでに何年も経験している身なだけあって、〝体を冷やすと悪化する〟と言いながらすぐさま最上を連れてドッグへと入っていった。

 

私は他にも起きている艦娘、というか全員に事情を説明し、出来れば現場を(けい)に見せたくなかったので、部屋を封鎖して時雨と満潮に片付けさせた。最上のためにも、恵のためにもあれを見せるのはマズイ。

 

そしてその間、私と山雲で鎮守府の朝食作り、朝雲には恵を見ていてもらう。

 

山城は本当に頼りになった。

 

こういう時、女性は体を冷やしてはいけず、また暖かい食べ物で血流を良くしたほうが症状に効くらしい。ついでに貧血対策もしたほうがいい。

 

鎮守府全員分の料理を作りながら、最上の分は別で作る。暖かく、飲みやすく、貧血にも効く食材でスープを作った。

 

隣で手際よく山雲が手伝ってくれるのでありがたい。

 

最上の分とは別に作った、鎮守府用のスープをかき混ぜながら、胸で詰まっていた息を深く吐き出す。

 

無性に鉄砲飴がなめたくなった。朝飯前だが……まぁ、いいだろう。

ガマンなどせず制服のポケットから一つ取り出して口へ含む。

 

「…………ふぅ」

 

落ち着いてきた。思考もだいぶまとまってくる。

 

それにしても――――生理だと。

 

そうか。それは確かに納得できる。どうりで私の経験では思い当たる節がないわけだ。

 

私は見てくれこそ女だが、生殖機能は一切無い。女神が必要ないと判断して作らなかったから。

当然生理の経験など無いし、男の体だった頃など言わずもがなだ。

 

だが知識として持っていないわけではない。

個人差はあるが、重い場合は腹がよじれるほど痛いそうだし、全身に倦怠感も来るという。

 

完全に最上の症状に合致する。昨日の様子で疲れていたのはその前兆で、今日ベッドがあのようになっていたのも全て納得がいく説明だ。

 

だがしかし、それでも決定的に、あってはならない矛盾が生じている。

 

「艦娘は一切の生殖機能も身体的成長も無くなる。生理などありえんし年も取らん。それがなぜ…………」

 

山雲の隣でおもわず独りごちてしまう。それほどに訳がわからない。

 

この六十年間、それも私一人の経験ではなく公式の研究でそのことは明らかだ。

 

女神が私に対して、この世界での責務を全うさせるために最適な身体を用意したというのなら、同じ理由で艦娘たちも身体的特徴を変化させる。

 

艦娘となるその日まで月に一回来ていたものは止まるし、もし持病を抱えていたらそれもなくなる。風邪や病にかかることも滅多にないし、深海棲艦からの攻撃を受けても生身の体はある程度無傷で済む。そういった、人間とは違った認識が必要だという意味で〝艦娘〟として彼女たちは呼ばれている。

 

現に、生理が止まっているからこそ艦娘はだれもそのような用品を身につけていないし、だからこそ最上は……言い方が悪いが、ベッドを赤く染めたのだ。

 

数年間、いや艦娘によっては数十年の間アレは来ていないだろう。最上は艦娘になって日が浅いわけではない。そりゃ、付ける必要の無い物は付けないだろう。

 

「まいったな。一体何がどうなっている…………」

 

硫黄島攻略開始、その当日にして不可解な事件が二つも起きてしまった。

 

舞鶴のどう考えてもおかしい反攻戦。

最上のどう考えてもあり得ない現状。

 

頭が痛くなるのを感じるが、ことに最上の方は直接我々に関係のある問題だ。いや、と言うよりは、最上だけの問題ではないかもしれん。

それこそ艦娘の概念そのものをひっくり返すような。

 

…………まさかな。あって欲しくないが、まさか。

艦娘が人間になったなどと、言ってくれるなよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




流血注意と書きながら作者本人がクラクラする始末。

以下おまけ。


――――ドックにて――――

最上「ごめん二人とも……ありがと」
扶桑「気にする事じゃないわ」
山城「最上は、艦娘になる前は重い方だった?」
最上「けっこう…………ここ数年無い痛みだったから。やられちゃったよ」イテテ
扶桑「私達は大丈夫かしら…………」
山城「もし姉様がなった時には、後片付けは私に任せて下さい」キラキラ
扶桑「自分でするわ」ニコニコ

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