艦娘でも提督でもない生まれ変わり方   作:奥の手

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第二十一話 小さな体に小さなコンパスⅤ

叩きつけるようにして頬を雨が濡らしてくる。

相変わらず風も強く、髪の毛が逆らうことなくその勢いに踊らされる。

 

しかし、長門を始めとした戦艦娘である三人は、天候による自身への影響はさして気にしていなかった。

 

「そろそろか」

「そうですね」

 

長門の呟きに大和が答える。

 

砲身がゆっくりと動き出した。

 

雨が艤装の金属面を叩く音に混じり、ガシャンと調子の良い音で薬室に弾が給弾される。

 

弾種、三式弾。

方角、南東。

高度、三千メートル。

距離、四千メートル。

敵反応、二十機。

 

油断なく砲身を向ける。

 

長門、陸奥の四十㎝砲が合わせて十六門。

大和の四十六㎝砲が九門。副砲を合わせれば延べ十五門。

 

――――ここで止める。なんとしても、どうであろうと。

 

長門は胸の前で組んだ両手に力を込めた。

 

仄暗い空の向こうを仰ぎ見る。電探の反応が、もう視認できる距離を示していた。

 

「あれですね」

 

大和の落ち着いた声と同時に、雨音に交じって低く唸るような飛行音が耳に触れ始める。

 

見えた。ちらちらと、その全容が横殴りの雨にかき消されながらも、確かに長門の目には映っていた。

 

「対空戦闘用意」

 

叫ぶことも慌てることもなく、いつもと変わらない声で指示を出す。

出した本人の長門自身、自分が恐ろしいほど落ち着いていると気付いていた。

 

敵の数が少ないから? 違う。 ここまでうまくいっているからか? それも違う。

 

敵がなぜ進んできたのか。その謎が解けないまま、しかし今、もうすぐそこに姿が見えているからだった。

 

そして、怖かった。

 

何をしてくるのか分からなかった。

それゆえに平静を保ち、冷静に判断し、決して取り乱すことのない状況を作る。

 

何が起きてもいいように。

 

――――だからこそ、やってきた機体の半数が、異形の白い化け物でも動揺は微々たるものだった。

 

 

「…………なんじゃ、あの白い機体は」

 

蜻蛉大将が唸りながらモニターを凝視していた。

私の感想も同じである。

 

この世界に来て六十年。今まであんな機体は見たことがない。明らかに新手だった。

 

「分かりませんが、新参の数は十機です。戦艦の上空を通り過ぎるところを外さなければ、問題はないでしょう」

 

そうだ。勝てる。

 

残る敵数はたったの二十機。たったと言ってもこの全てが都市に爆弾を落としたらただでは済まないが、集中した対空装備の戦艦からすれば、心配するような戦いではない。

 

作戦はここまでうまくいっている。

敵側が戦力の八十パーセントを失ったにも関わらず退かない理由は分からないが、もしあの白い機体が敵の奥の手なら、十分に対処できる戦力である。

 

黒い機体が十機。

白い機体が十機。

 

先行しているのは黒い方で、白いのはそのやや後方、そして上空を飛んでいる。

 

「あの白機体がどんな意図で編成されているのかは分かりませんが、たった十機では何も出来ないでしょう」

 

そうだ。それほどに第三防空網には強い信頼を置いている。

一隻で二十機を相手にするわけではない。ガチガチの対空兵装の、それも全艦娘の中でもトップレベルの三人が事を構えた対空砲火だ。

 

たった二十機にどうにか出来るものではない。

 

「…………」

 

そのはず、だよな。

 

東京の町が、防空網から遠く離れていることはすでにバレているはずだ。

そして戦艦が都市に届く前に配置してあるということも。

 

いや、戦艦がいるかどうかまでは分かっていないかもしれないが、どう考えても沿岸部までにまだ対空勢力を用意していることは、敵も簡単に想像がつくだろう。

戦艦だろうが重巡だろうが、なんにせよ〝いる〟と考えが行くはずだ。

 

では。

 

ではなぜ墜とされると分かっていながら、無謀にもたったの二十機でこちらに向かってきているのか。

 

私は何か考え違いをしていないか? 何か大きく大事なことを、見落としてしまってはいないだろうか?

 

鉄砲飴をなめ終わった。

新しいものを取り出そうとしたときに、私の鎮守府から持ってきた端末が光っているのに気がついた。

 

赤いランプの高速点滅。

 

それは私の艦隊に危機が迫っているときのために用意した、緊急事態用の打電だった。

 

ゾクッ――――。

 

氷のような悪寒が全身を駆け回る。

 

すぐに内容を確認しようとしたときに、

 

「ネルソン君ッ!!」

 

蜻蛉大将が唐突に叫んだ。

 

驚きながらも急いでその視線を追う。

 

モニターの中。

 

上空を行く白と黒の艦載機。それを待ち受ける三人の戦艦娘。

 

それ以外に映っていたものは、彼女達めがけて突き進む、無数の白い雷跡だった。

 

 

「なにッ!?」

 

長門は反応が早かった。

 

自分たちを囲むようにして迫ってくる幾本もの魚雷攻撃に、一番最初に気付いていた。

同時に叫ぶ。

 

「大和! 陸奥! 全方位雷撃だッ!」

「え!?」

「ッ!」

 

言われ、一瞬遅れながらも二人は事態を瞬時に掴み、恐ろしく速い対処をした。

 

タービンをフル回転。唸りを上げながら、主機が激しく振動する。

 

三人はそれぞれバラバラの方向に進み、円状に集約してくる雷跡めがけて自ら体を滑り込ませた。

 

スクリューが作った足下の波が激しく巻き上がる。タービンへの負荷が危険域に達している。

 

だが三人ともまったく意に掛けず、速度を緩めず包囲から抜ける。

 

元いた場所に集まった魚雷は、そのうちの何本かが時限信管だったのか、ボガァンッ! とくぐもった音を立てて爆発した。

それに周囲の魚雷が巻き込まれる。

 

辺りの黒かった海面が、一瞬にして白く染まり、海水を山のように舞い上がらせた。

 

「きゃぁぁぁぁぁ!!!」

 

たまらず上げた陸奥の切羽詰まった叫び声が、縦続く爆発と水の落ちる音にかき消される。

 

容赦ない海水のシャワーに、もの凄い水圧で襲われた。頭から足先まで、塩水がくまなく流れていく。

 

「くッ! ちょッ…………!!」

 

直後、隆起しながら激しくうねる海面に、陸奥は足下を掬われた。

 

バランスが崩れる。たたらを踏みながら海面に視界を落としたとき、目に入ったのは二回目の魚雷攻撃だった。

半径三十メートルほどの円状に、自分のいるところを中心にして小さくなりながら集まってくる。

 

――――この範囲だと、お姉ちゃんと大和も巻き込まれてしまう。

 

「第二攻撃よ!! ふたりとも避けてッ!!」

 

出せる限かぎりの声で叫んだ。ふたりの姿は、降ってくる海水のせいで捕らえることが出来ない。

 

それより自分だ。もうすぐそこまで、バランスを崩した私めがけて、命を刈り取る魚雷が近づいている。

 

シュー、と圧縮した窒素をまき散らしながら進む敵の魚雷群は、寸分違わず足元へとやってきた。

身をひねりながらすんでの所でやり過ごす。

だが。

 

一本の魚雷が右足のスクリューにかすった。

 

鼓膜を容赦なく襲う爆音と、骨を砕くような衝撃が足から伝わり、一瞬遅れて陸奥の体は棒きれの如く真横に吹き飛ばされた。

 

海面に二回叩かれる。

 

ゴロゴロと慣性で転がされる。

 

爆心地点からだいぶ離れた場所で、仰向けの状態のまま浮いている。

 

「くふぅ………………」

 

肺にあった空気が漏れる。苦しい。

 

だがまだ、生きている。

 

体の方も大丈夫。腕も足も指も頭も、何も欠損はしていない。外傷は、たぶんない。

 

そして仰向けになっているが、沈んではいかない。ということは艤装もギリギリ大丈夫かな。

 

代わりに耐えがたい痛みが全身に走っている。

起きられない。足がしびれる。体が動かない。

 

耳はキーンと鳴っていて、しばらく使い物になりそうにない。視界も揺れる。今にも意識を失いそうだ。

 

そんな状況に。

 

ぼやぼやと霞む目に映ったのは、例の二十機の爆撃機だった。

くぐもってよく聞こえない耳には、まるであざ笑うかのような低く憎らしい重低音が響いている。

 

私の真上に通りかかる。

 

不快な音をぶちまける二つの黒機が、仰向けのまま動けない私の上空で、その身を翻した。

 

…………あぁ、そうか。

 

私もお姉ちゃんも大和も、そしてネルソン提督も蜻蛉大将も。

 

硫黄島が占領されたから、てっきり空爆が来ると思っていた。

 

でも違うよね。この戦争って、別にあの戦い(太平洋戦争)じゃないものね。

 

歴史に踊らされた。盲目的に信じてしまった。一度だって同じ未来は存在しないはずなのに、私は、私達は、どういうわけか勘違いしていた。

 

あれは東京の空襲が目当てじゃない。私達(・・)の攻撃が目当てなんだ。

 

 

『――――! き――――む――――!!』

 

何を言っているのかわからないわ、ネルソン提督。耳がもう聞こえないの。

 

なにか命令をしているけれど、インカムから聞こえてくる音は、上空の爆撃機にかき消されてしまう。

おかしいな。耳元の音が聞こえないのに、どうして何メートルも離れた音が聞こえるのかしら。

 

もしかしてもう死んじゃうから? あぁ、そう、ね。

いやぁだな…………もっと、やりたいこといっぱいあったのに…………。

 

「どうせ、沈むなら……戦いの中で、沈みたか――――」

「バカなこと言わないで下さい!!」

 

直後、仰向けの視界に様々な光景が映った。

 

空中の敵が二機同時に爆発。空に花火が咲いたように、三式弾の弾子が宙に舞った。

一瞬遅れて視界が反転する。目の前には、緩く隆起している黒い海面が広がった。

お腹が圧迫される。

 

陸奥は、全速力で突っ込んできた大和に抱きかかえられていた。

まるで駄々をこねた幼児を無理矢理連れて行くかのような乱暴な抱え方だった。

 

「沈むなんてさせません! 絶対に生きて帰るんです!!」

「やま……と?」

 

首をなんとか動かして顔を見る。大和だ。間違いない。

 

体がバラバラになりそうな痛みが走ってきた。でもそんな事は思考の片隅に追いやってしまう。

なぜ、私はいま大和に抱きかかえられているのだろう。大和が…………

 

「助けに来てくれたの?」

「当たり前です。大事な仲間が沈みかけているのに、助けない人なんていませんから」

 

言われ、気がついた。

 

無事だと思っていた艤装がない。腰回りに付けていた四十㎝砲の砲塔は、跡形もなく消えていた。

あのとき海面に浮いていたのは、艦娘としての浮力ではなく、ただ、人としてあそこに浮いていたのか。

 

よく沈まなかったものだ。奇跡としか思えない。

 

大和の抱え方は乱暴だった。けれども、もう自分には自力で航行する力が無い。

 

「大和! 陸奥! 撤退だッ!!」

 

長門のその声が聞こえたのを境目に、陸奥の意識は途絶えていた。

 

 

「全艦撤退だ。繰り返す、直ちに撤退せよ」

 

私は至って静かな声で、無線機へと呼びかけた。もう無線封鎖の必要は無い。

 

陸奥が危なかった。大和が駆けつけ、長門があの機体を撃っていなければ、あるいはあれを使うしかなかったかもしれない。

 

だがもう大丈夫だ。とりあえず大和がいる限り、そう簡単には沈まんだろう。

 

モニターの中は、理解不能な光景が広がっていた。

 

突如現れた無数の雷撃。

まるでタイミングを計ったかのような、完璧な円状の包囲攻撃。

 

大和が水中の敵まで感知できるのかどうかは分からないが、まず、あんな出現の仕方は明らかにおかしかった。

 

まるで急に沸いたかのような攻撃だ。恐ろしいにもほどがある。

 

第一、第二防空網にも変化があった。

 

駆逐艦雪風の水上電探に、無数の敵反応が、しかも何の前触れもなく包囲してくる形で出現した。

第二防空網も同じだ。矢矧の電探が、五十隻近い敵水上艦を捕らえていた。

 

戦艦娘達への雷撃とほぼ同時だった。

それは、しかも扶桑からの緊急打電とも被っている。

 

なにか起きている。簡単に見逃せないまずいことが起きている。

 

「雪風、上手く敵の包囲をすり抜けられるか」

『やってみます!!』

「みんなを先導しろ。陣形は単縦陣。必要ならば魚雷での反撃を許可する。だが逃げることを第一に考えろ」

『わかりました! 艦隊をお守りしますッ!!』

 

矢矧にもつなぐ。

 

「矢矧」

『状況は分かっているわ。でもかなり難しいわよ』

「五十鈴と阿武隈以外に被害は?」

『私と鳥海さんが小破、利根さんが中破』

「利根のバックアップを筑摩に、五十鈴と阿武隈は摩耶の護衛で動け。鳥海、長良は矢矧を援護しろ」

『了解だぜ』

『分かりました』

『まかせといて!』

 

摩耶と筑摩、長良から返答。そのまま続ける。

 

「旗艦を矢矧に使命。艦隊を先導、電探の反応が最も薄いところから包囲を突破しろ」

『ん、了解したわ』

「それと、第一防空網の駆逐隊が逃げてくる。どうしても無理だったら雪風についていけ」

『彼女がいると他の艦娘が危険ね。寿命が吸い取られるような気がするわ』

「いや、そういう言い方は…………」

『あら、ふふふ。冗談よ』

「そうか。――――頼んだぞ」

『頼まれたわ。まかせて』

 

無線は終了。第一、第二防空網の全員は、ひとまずこれで撤退を待つ。

 

次だ。

 

「長門」

『なんだ』

「対空戦闘の余裕はあるか」

『私だけなら出来る』

「大和は?」

『陸奥を抱えたままでは出来ん。それと、抱えてなかったとしても彼女は戦力にならんぞ』

「は?」

『前線に出ていなかったからか、敵機への一発目を外してしまった。だから陸奥の上に敵が来ることになったんだ』

「…………」

 

蜻蛉大将を横目で見る。

大将はバツの悪そうな顔で、帽子のつばを下にさげた。

 

「…………すまん」

「えぇ。演習ぐらいはさせてあげて下さい」

「その通りじゃ。猛省する」

 

ちょっと頭が痛くなった。まぁ、うん、でもまぁいいか……いいかな、うん。平常心平常心。

 

モニターを見る。戦艦娘を襲う雷撃はもう見えていないが、代わりに敵の機体を引き連れてしまっている。

黒い機体八機のうち、四機。白い機体十機のうち五機が、速度を上げて戦艦娘達を追い抜いた。

 

「対空戦闘、大和の後方より、長門単艦での迎撃を行え」

『目標は』

「最低でも五機。余力があれば九機墜とせ」

『残りはどうするのだ。鎮守府がやられるぞ』

 

その通りだ。

 

敵は都市部への爆撃が目当てではなく、初めから艦娘の攻撃が目的だった。恐らく鎮守府もその対象だ。

こちらの戦力を削ぎに来ている。硫黄島奪還を遅らせるために。

 

「大丈夫だ、用意はある。だがなるべく迅速に頼む」

『分かった。九機を目標に墜としてやろう……今いる奴らか。いい、三分でケリを付ける』

「頼む」

『まかせろ』

 

無線を切る。

 

「ふぅ…………」

 

敵の意図に気付けなかったのは私のミスだ。

 

第一、第二防空網であれほど数が減らせたのも、敵は、初めからこうなるように仕向けたかったからだろう。

油断か…………いや、そもそも囮か。

あの白い艦載機の説明がつかんが、そうである可能性は高い。

 

本命は沸いて出て来た艦隊だろうか。だがそのわりには最後の詰めが甘いな。

私が同じようにやるならば、第一防空網の時点で航空隊に攻撃させる。そうしなかったのは、深海側に何か考えがあったのか。

それとも、あの急に現れた艦隊は敵の意図するものではないのか…………?

 

なるほど。だとしたらあの残っていた二十機が、敵の本気の攻撃隊か。この線が強いな。

 

なんにせよ、歴史を見て経験とし、作戦を立てている人間側を奴らはまるであざ笑っている。

いい。そちらがそのような態度を取るなら、私ももう容赦はしない。

 

これは奴らの宣戦布告。ならば相手をとってやる。

 

「ネルソン君や」

「なんですか、大将」

「土佐中将からじゃ」

 

無線機を渡された。耳に当て、彼の準備の程を聞く。

 

『こちらはギリギリ大丈夫だ』

「数は?」

『残念だが対空戦闘の経験がある秘書艦は二隻しかいない。今やっとその二隻が海へ出られるようになった』

「他の子達はどうです」

『一応対空装備は持たせている。だが出す準備が間に合わんので、岸壁で高射砲台として動いてもらう』

「わかりました。海に出る二隻は? 時雨と、もう一人は誰なんです」

『…………時雨だと、よく分かったな』

「私の子ですから。状態や出来ることはこの世の誰よりも理解しています」

『ははは、なるほど確かに。もう一人は私の秘書艦だよ。夕立だ』

「ほう」

 

彼女達に直接の接点はないだろう。同じ隊にいたことも恐らく無かったはずだ。

だが、姉妹である。

 

「面白い組み合わせですね」

『息の合う事を祈る』

「私からも」

『ところでだが、彼女達の指揮はどうするかね』

「こちらも少し余裕が出来ました。お任せ下さい」

『うむ、頼む』

 

無線が切られる。

 

扶桑からの緊急通信はいつの間にか途絶えていた。

折り返して連絡しても、応答がない。

まさかとは思ったが、鎮守府そのものが攻撃されたら、その知らせが届くようこの端末には入れている。

それがないので直接的な被害はないはずだ。何より、さすがの私も輸送艦隊の指揮をモニターも見ずに又聞きで指揮できる自信はない。

 

大丈夫だ。それよりこちらの任務に専念せねば。

 

状況は三つ。

 

第一、第二防空網の艦隊を撤退させること。

大和、陸奥を攻撃から守るため、敵の航空機をなるべく早く長門に墜とさせること。

そして、時雨と夕立を海へ出し、沿岸から五キロ地点でギリギリの対空戦闘を行うこと。

 

ここで敵航空隊を足止めにする。

逃したら、練度の低い艦娘達に一縷の望みを掛けることになる。

 

…………今日何度目かの、そうはなって欲しくない、だな。

 

実際なりかけているのでどうとも言えないが、時雨ならば。

そして戦力の程は未知数だが、夕立もいる。

 

夕立の練度はそう高くないだろう。土佐中将のいる泊地は日本海側だ。今までならば戦闘がそう無かった方面。練度は期待できん。

が、対空戦闘の経験があるのは大きい。戦艦である大和ですら経験がなければ外すのだ。

 

長門の到着に間に合うまでの、時間稼ぎで構わない。それだけでも十分だ。

 

モニターに目を落とす。

 

駆逐隊と軽巡、重巡洋艦娘達が合流した。

流石雪風だ。包囲を突破できたようだな。運がいい。

その勢いで第二防空網の包囲も抜けて欲しい。

 

そして。

 

大和と彼女に抱えられた陸奥。その後方、一人振り返り、鈍色の空を仁王立ちで眺める長門がいる。

 

もうすぐそこに敵機が来ていた。数は九機。

 

第一、第二防空網で墜とせていたのがフェイクならば、こちらは本命。本気の飛行隊だ。

敵の練度がどうかは分からない。

だが確実に今までとは違う。

作戦を立てる頭も持っているし、何よりこれまでのようなハリボテ感がない。

 

戦っている。戦えている。

敵もこちらも、これでやっと戦争になる。そんな感じがしているのだ。

 

『提督!』

「時雨か」

 

無線機から突如声がした。

 

『もう出てもいい?』

「あぁ。目と鼻の先まで爆撃機が近づいている」

『数は?』

「長門がどれ程がんばれるかによるが、確実に来ているのは九機だ。増える可能性もある」

『わかった』

「それと、敵の狙いは東京ではない。私達だ」

『え…………』

 

状況を把握していなかったか。土佐中将には先程、蜻蛉大将が連絡していたのだが。

 

「理解出来るか」

『うん。つまり、攻撃はボク達を狙ってくるんだよね』

「そうだ」

『よかったよ。やりやすい』

 

薄く時雨が笑っているのが、無線機越しでも伝わった。

これはいける。

 

「では夕立、時雨両艦の出撃を許可する」

『うん、分かった。駆逐艦時雨、出撃するね』

「夕立も、頼んだぞ」

『はじめましてっぽい?』

「そうだな」

『うん。がんばるっ! 駆逐艦夕立、出撃よ!!』

 

 

 

 

 

 




夕立のぽい度が足りない。

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