艦娘でも提督でもない生まれ変わり方   作:奥の手

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今話は本編と少し離れた「間話」となります。
あの娘の話です。



間話 彼女が装備研究員

――――日本領海域防衛軍本部(略称〝海軍本部〟)付属研究所支部――――

 

 

「長すぎるよね。厨二くさい名前もいい加減にして欲しい」

「正式名称なんだから仕方ないよぉ。文句言わないで早く書くでち」

「わかったわかった」

 

出来上がった試作装備に油性ペンで証明欄を書く。

アホみたいに長くなるのでもういっそ〝海軍〟とだけ記せばいいんじゃないかと思ってしまう。

 

「これで、あとは本部の研究所に送るだけ」

「そうだよぉ。でも送るのは明日でいいと思うでち」

「まぁそうかな。もう日もくれるし、そうしようか」

 

窓の外を見る。ここ――――装備開発研究所から見える海は、少し見下ろす位置にある。小高い丘の上に建っているので眺めがいい。

 

太陽はそろそろ海の中に入るだろう。水面に反射するオレンジ色の光が、よりいっそうここからの眺めをよいものにしてくれる。

 

私は白衣のポケットにペンをしまい、先程出来上がったばかりの試作品をもう一度見た。

 

試製四十一㎝三連装砲。

 

こいつにはロマンが詰まっている。あの四十六㎝砲が出来るまでは世界最強だった四十一㎝砲。

その三連装なのだ。もうロマンの固まりだ。なかなかカッコイイデザインだし。

ちょっとでかいのが気になるけど。

 

「でもこれ、どうやって運搬するでち?」

「輸送任務の発注をかけておいたから、回収部隊が今晩中には来ると思う」

 

このロマン・オブ・ロマンは本部まで海上輸送となる。したがって艦娘に輸送船の護衛をしてもらいつつ、これを本土に送り届ける。

他にも出来上がったサンプル品や装備をいくつか運び込みたいので、そこそこの戦力と船を依頼した。

 

きびすを返し、研究室から出る。ゴーヤが後ろから付いてきた。

 

「どんな艦娘達が来るのぉ?」

「わからない。どの程度の数をよこしたのかもわからない」

「なにそれぇ!? 規模の説明もしないで本部は艦娘を派遣したの!?」

「受注した戦力は満たしているとか言ってた。詳しい艦種や人数は言わなかったなぁ」

「もちろん問い詰めたんだよね?」

「当然したよ。なんて返ってきたと思う?」

「………………〝一研究所に教えることではない〟とか? 教わる必要があるから聞いてるのに」

「まったくそのとおり。ほんと嫌になるよあの無能集団は。秘匿が美徳とか考えてんのかね」

「お、ちょっとうまいでち」

 

真っ白な廊下に靴がコツコツと床を叩く音が響く。

いくつか角を曲がり、スライド式の自動ドアの前に建つ。パスコードを入れて、プシュッと空気の抜ける音と共にドアが横に開く。

 

「今日はありがとう、ゴーヤ」

「いいよぉ。これが仕事だもん」

「孤独な女の愚痴や相談に付き合うのが仕事か。そんな艦娘は君しかいないだろうね」

「立派な仕事でち。あと、護衛もそこに入るでち」

ここ(研究所)じゃほとんど意味がないよ」

「まぁその通りだねぇ」

 

ケラケラと二人で笑う。

 

「あ、今日の晩ご飯はどうするぅ?」

「そうだな……ゴーヤチャンプルとか食べたいな」

「狙ってる?」

「いや、純粋に食べたい。甘めでお願い」

「わかった。鉄砲飴溶かして流し込んでやるでち」

「やめてそれは食べられない」

「あやまるでち」

「ごめんなさい」

「ゆるすよぉ。それじゃあ一時間後に持ってくるでち!」

「あぁ、お願いする」

 

去っていったゴーヤの背が見えなくなるまで見送って、私は自室に入ってスライドドアを閉めた。

パスコード付きの小部屋。特に見られて困るようなものはないが、見られて恥ずかしいものならいくらかある。

そう言う意味では、もともと重要書類置き場だったここを私の自室にしたのは正解か。

 

ふかふかのベッドと書類だらけのワークデスク。

ヘルニアにやさしいお値段高めのワークチェア。でも別に私はヘルニアではなくて、単に座り心地が気に入っているから座っているだけ。

 

くだらない事を考えながらそのイスに座る。ふと見ると、机の上のパソコンにメールを受信した表示が出されていた。

 

「珍しいね……誰からかな」

 

開いてみる。

 

 

〝親愛なる我が妹へ。私の艦隊の半数以上がそちらに向かっている。特に問題ないと思うが約一名が恐ろしく元気がないだろう。あまり気にせず、そして絶対に構わずたんたんと仕事を伝えてやってくれ。いいか、絶対に相談には乗るなよ。意味もなしに徹夜するハメになる〟

 

 

元気がない? なら元気を出せるようにしてあげた方がいいんじゃないの?

 

「お姉ちゃんは何を考えてるのかよくわからないや…………」

 

まぁいいか。任務に支障が出そうなくらい落ち込んでたら、私の徹夜の一つや二つぐらい、その娘のために使ってもいい。

だいたいどの子か予想が付くし。

でもお姉ちゃんの艦隊なんだから、任務に支障が出るようなことはないでしょう。あの子達強いし、優秀だから。

 

「それにしても、輸送任務の護衛ってお姉ちゃんの艦隊がやるんだね。ちょっと意外だなぁ。無能な本部もたまには気を回してくれたのかな?」

 

私はメールを〝お姉ちゃんからのメールフォルダ☆〟に保存して、ついでにプリントアウトする。

 

プリンターから出て来た紙を丁寧に折りたたんで、机の中の〝お姉ちゃんからの手紙箱☆〟にそっとしまう。

 

これらを見られたら私はきっとショックで死ぬだろう。

見るような人物がここにはいないから別に心配することではないかもだけど。

 

「はぁ……でも、お姉ちゃんの艦隊じゃなくてお姉ちゃん本人に会いたいなぁ」

 

叶わない願いではないが、なかなか実現は難しい。もう五年近く会っていない。

 

「会いたいなぁ、会えないかなぁ」

 

ベッドに倒れ込んでゴロゴロする。白衣がシワになるけどかまうもんか。どうせ洗濯したらシワシワだし。

シワシワの白衣姿でも、見るのは鏡とゴーヤだけ。ぶっちゃけどんな格好で過ごしたって何も変わらない。

 

あぁ、でもお姉ちゃんがいきなり現れたりとかしたら恥ずかしいな。やっぱり身なりはちゃんとしてよう。嫌われたら傷つくし。

 

なんて考えているとあっという間に一時間が経った。

スライドドアを何者かがノックした。

 

「フレンダちゃん、ごはん持ってきたよぉ」

「ありがとうゴーヤ。今開けるね」

 

今夜はゴーヤチャンプルだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




フレンダが亡くなる? んなわけないでしょ!
ってことでフレンダはちゃんと生きています、安心してください。

次回はちょっと昔の話になります。

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