Infinite Stratos 学園都市最強は蒼空を翔る   作:パラベラム弾

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六話

「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット。試しに飛んでみせろ」

 

四月下旬。

 

IS学園グラウンドにて、一方通行の所属するクラスである一年一組の授業が行われていた。

 

一夏の専用機『白式』は、クラス代表決定戦終了後に無事フィッティングを完了させ、ようやく織斑一夏の専用機として機能するようになったようだ。

 

ようだ、というのも、一方通行が周囲の会話から聞いただけであって実物を見たことはないからだ。そもそも興味がなかったこともあるが。

 

「早くしろ。熟練したIS操縦者は展開に一秒とかからないぞ」

 

一夏の右腕に視線を送る。

 

そこには白を基調色とした無骨なガントレットが嵌められており、一夏がそれを掴んで何やら集中している。数秒後、彼の体を光が包み、光が収まった後にはその純白の機体が顕現していた。

 

白式の名を冠するだけあって、やはり基調色は白。その他に青、黄などのラインが入り、目を引くのは後背部に付属する二機の大型ウィングスラスター。機動力特化型の機体らしく、装甲もシャープなものだ。

 

一方通行が静かに観察を続けていると、蒼天の機体ブルー・ティアーズを既に展開していたセシリアが手をあげる。

 

「織斑先生? 透夜さん(・・・・)は飛行操縦の実践は行わないのですか?」

 

彼女の言うとおり、一方通行はラファールに搭乗して待機している。しかし、先程千冬が実践をしろと言ったメンバーは一夏とセシリアのみ。そこに一方通行の名前は含まれていなかった。

 

更に言えば、彼の専用機がようやく届いた(ということになっている)というのに、使っているのはラファール。これも千冬が指示したことだ。

 

「鈴科はお前ら二人の後に実践してもらう。まずはお前らからだ。さっさと飛べ」

 

言われて、セシリアは一方通行をちらりと見てからスラスターを噴かして急上昇。あっという間に地上二百メートルまでたどり着いた。

 

遅れて一夏も続くが、その速度はセシリアに比べひどく鈍い。出力スペックは白式のほうが上だろうが、如何せん操縦者の技量が足りていない。あれでは正に宝の持ち腐れというものだ。

 

空を仰いで一夏の操縦に呆れていると、千冬から声がかかる。

 

「次、鈴科。やることはあいつらと同じでいい」

 

「……了解」

 

短く返答―――刹那、加速。

 

一夏の速度を軽々と上回り、セシリアすらも抜いて瞬時に目標高度に到着。相も変わらず驚異的な速度だ。

 

「流石ですわね、透夜さん。織斑さん、あなたも透夜さんを少しは見習ったら如何ですの? 」

 

「う、そう言われると返す言葉もねぇ……」

 

(……前から思ってたンだが)

 

回線を通じて聞こえてくるセシリアと一夏の会話を聞きながら、一方通行は内心首を捻った。

 

クラス代表決定戦以降、どうもセシリアの性格というか態度が変わった気がする。初対面のときには敵愾心むき出しだったのにも関わらず、最近は何かと話しかけてくるようになっていた。

 

あのときの人を見下すような態度は一変、視線にどこか尊敬や羨望が混じっているのは気のせいではないはずだ。恐らく―――というかまず間違いなく楯無の仕業だろう。

 

何を吹き込んだかは知らないが、直接的に害がなければ問題はないので彼もとやかく言うことはしなかったものの、対応に困る。冷たく突っぱねるのは簡単なはずなのだが―――

 

「あ、あの、透夜さん。その、よろしかったら、今日の放課後、模擬戦を行っていただけませんか? 予定が空いていたらで結構ですので」

 

「……、構わねェが」

 

「ほ、本当ですかっ? ありがとうございます!」

 

ぱあっ、と表情を輝かせるセシリアを見て、再び首を捻る。

 

何故断れないのだろうか。クソのような研究者達の誘いを一蹴するのは簡単だったのに、楯無をはじめセシリアや一夏、他人の頼みを断ることに心のどこかで僅かに抵抗を覚える。

 

理由はわからない。

 

似合わない、と自分でも思う。

 

しかし―――それでいいのかもしれない。ここは学園都市ではないのだ。今は、この世界では、それで咎められることもないのだから。

 

(……俺も思ったより人間らしいってことかよ)

 

ふっ、と口許を自嘲気味に歪ませた。

 

すると、千冬から通信が入る。

 

「よし。次は急下降と完全停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ」

 

「了解です。では透夜さん、お先に」

 

言って、直ぐ様地上へと降りていくセシリア。それを追うように一方通行も地表を目指す。ぐんぐんと近づく地面の三メートル程上空で上下半回転、スラスターを噴かして姿勢制御。見事に十センチ丁度でその動きを停止させた。

 

沸き上がるクラスメイト達を横目に、停止した場所から五メートル程横にずれる。直後―――

 

 

ズドォォンッ!!

 

 

一方通行が立っていた場所にクレーターが出来上がった。勿論落下物は白式を纏った一夏である。

 

「馬鹿者。誰が地上に激突しろと言った。グラウンドに穴を開けてどうする」

 

「……すみません」

 

呆れ顔の千冬と、くすくすと笑うクラスメイトに居心地の悪そうな様子の一夏。というよりも、別に一夏が特別下手くそだというわけではなく、単純に一方通行とセシリアの技術が高いだけなのだ。

 

しかし、周囲のレベルが高ければ低い者はより目立ってしまうものである。ある意味災難な一夏だった。

 

姿勢制御を行い、地面に降り立った一夏の前に千冬が立つ。

 

「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」

 

「は、はあ」

 

「返事は『はい』だ」

 

「は、はいっ」

 

「よし。でははじめろ」

 

再び右腕を前に突き出し、左手で手首を掴む一夏。そして、右手から溢れ出した光はやがて像を形作り、一振りの刀として実体化した。

 

以前見たときとは若干デザインが異なっている。恐らくは白式の専用装備だろう。ハイパーセンサーをフォーカスし、解析を行う。

 

 

―――近接特化型ブレード 名称『雪片弐型』

 

 

(雪片……確か、織斑千冬の武装だったヤツか)

 

『世界最強』織斑千冬。

 

現役時代の彼女の専用機である『暮桜(くれざくら)』の武装、『雪片』。恐らくはその改装型か、技術を流用したものだろう。

 

雪片の特殊能力、バリアー無効化攻撃『零落白夜』。白式の雪片弐型にも同じ機構が備わっていると見てまず間違いない。しかし、零落白夜は自身のシールドエネルギーを攻撃に転換する諸刃の剣だと聞く。初心者の一夏には少しばかりピーキーすぎるのではなかろうか。

 

「遅い。0.5秒で出せるようになれ。次、オルコット、武装を展開しろ」

 

「はい」

 

左手を横へと突きだすセシリア。一瞬だけ光が溢れ、スターライトmkⅢが展開された。彼女がそれに視線を送れば、ロックが外れて後はトリガーを引くだけのスタンバイ状態になる。一方通行との一戦で手酷く破壊されていた武装だが、新品同様の輝きを放っていた。

 

手慣れたもので、かかった時間はきっかり半秒。千冬の課したノルマを難なくクリアーしていた。

 

「さすがだな、代表候補生。だが、そのままでは戦いには勝てん。―――鈴科、理由を言え」

 

「……、銃身を横に展開すンのは止めとけ。そこから前に向けるまでの時間が隙になンぞ」

 

なンで俺が、という反論を飲み込み、とりあえず目についた欠点を指摘する。この人外教師に一つだけ言いたいことがあるとすれば、何かにつけて指名してくるのは勘弁してほしいところだ。

 

「必ず直しますわ!」

 

「やる気なようでなによりだ。次は近接用の武装を展開しろ」

 

「えっ。あ、は、はい」

 

スターライトmkⅢを粒子変換し収納(クローズ)、そして新たに近接用ショートブレード『インターセプター』を展開(オープン)。しかし―――

 

「くっ……」

 

「まだか?」

 

「す、すぐです。―――ああ、もうっ! 『インターセプター』!」

 

スターライトmkⅢを展開したときと比べ、その速度はかなり遅かった。それどころか、武器の名前をコールしなければ展開できないという初心者のような恥態を晒す羽目になっている。

 

「……何秒かかっている。クラス代表決定戦のときの展開速度はどうした」

 

「あ、あれは、その……なんというか、夢中で……」

 

「ふん。まあいい、あの時の展開速度に達するまで訓練しておけ」

 

二人の会話の通り、セシリアと一方通行の戦いの時、彼女はスターライトmkⅢを失いインターセプターを構えて突撃した。そのときの速度は申し分のないものだったのだが、どうにも近接戦闘の訓練を軽んじている節があるようだ。

 

本人曰く『近接戦闘の間合いに入らせませんから大丈夫ですわ!』とのことだが、武装を破壊されたら結局は近接戦闘に持ち込むしかないとわかって言っているのだろうか。

 

「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」

 

鐘が鳴り、千冬の一言で生徒たちが解散していく。

 

一方通行も使っていたラファールを片付けるためにピットへ向かおうとしたとき、不意に一夏と目が合った。その目は『片付け手伝ってくれ』とでも言いたそうな目だったが―――無情なるかな、彼は生憎とサービス精神旺盛などこぞのツンツン頭の少年とは違うのだ。

 

一瞥をくれた後、そのまま飛んでいく一方通行の後ろから感じた落胆の気配は無視することにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――くっ!」

 

「……、」

 

蒼い光線が縦横無尽に走る。

 

しかし、暗緑色のその機体には焦れったいほど当たらない。いつ何処から攻撃が来るのかわかっているのか、目線を向けることもなく簡単に避けていく。

 

機体の名が冠する疾風(ラファール)の如く、アリーナ内を風となって駆け抜ける。

 

それを仕留めるべく弾幕が一層苛烈になるが、まるで意に介していないかのように複雑な軌道を描いてすり抜けていく。そして、弾幕の嵐を抜けた瞬間―――その姿がブレた。

 

爆音と僅かな空気の歪みだけを残し、最高速度で距離を食い潰す。コンマの世界でブルー・ティアーズをその射程に収めると、弾倉が空になるまで引き金を引き絞った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――どうして勝てませんの!?」

 

「知るか。オマエが弱ェからだろォが」

 

第三アリーナ。

 

彼女の頼みで模擬戦に付き合っていた一方通行。結果は言わずもがな、彼の完勝である。セシリアの射撃を回避し、ビットから放たれるレーザーを掻い潜り、無駄弾ゼロでの圧倒的な勝利だ。

 

隣で悔しそうに試合映像を見直しているセシリアを横目に、視線をずらす。

 

「ええい、何度言ったら理解できるのだ! 覚える気はあるのか!?」

 

「あるに決まってんだろ! っていうか、箒の説明が分かりにくすぎるんだって! なんだよ、『きゅっとしてどかーん』ってよ! 瞬時加速をどう表現したらそうなるんだ!?」

 

「だからだな、エネルギーをきゅっとして、どかーんと爆発させるのだと言っている」

 

「それがわからないと言っている。―――うぉぉぉお!? 待て箒、落ち着け! おい!?」

 

「三途の河の渡し守と会ってみるか……!?」

 

箒から瞬時加速について享受されている一夏だが、どうやら難航しているようだ。竹刀を振り回している箒の説明が分かりにくいらしいのだが、仮にも天災の妹だというのにそれでいいのだろうか。

 

(……着替えるか)

 

我関せずを地で行く一方通行なのだった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

同時刻 IS学園正面ゲート前

 

 

「ふうん、ここがそうなんだ……」

 

そう呟いたのはボストンバッグを片手に提げた小柄な少女。

 

快活そうな瞳に、ちらりと覗く形のよい八重歯。彼女の動きに合わせて揺れるツインテールがその容姿と相まって非常に馴染んでいた。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 

上着のポケットから取り出した紙には、『本校舎一階総合事務受付にて転入手続き』との文字。しかし、それ以外に地図もなければ道案内も書いてはいない。出迎えてくれる人もいないので、結局は自分で探すしかなかった。

 

しかし、IS学園の敷地は文字通り無駄に広い。歩いて探すのにも一苦労だ。

 

(―――ったく、出迎えがないとは聞いてたけど、ちょっと不親切過ぎるんじゃない? 政府の連中にしたって、異国に十五歳の女の子を放り込むとか、なんか思うところないわけ?)

 

心中文句を垂れ流しにしつつも、歩く足は止めない。ただし文句も止まらないが。

 

少女の母国は日本ではなかった。海を跨いだ隣の国、中国である。しかし、彼女にとっては日本も思い出深い大切な故郷なのだ。そして―――彼女の初恋もまた、この地で始まった。

 

(誰かいないかな。生徒とか、先生とか、案内できそうな人)

 

しかし、既に時計の針は八を回っており、目につく建物は大抵消灯している。生徒も寮にいる時間のため、そうそう人影も―――

 

「あ、いた」

 

見つかったようだ。

 

電灯に照らされるベンチに座る、一人の女子。こちらからでは後ろ姿しか見えないが、とりあえずわかることはショートカットということと、

 

(へー、白髪(・・)なんて珍しいわねー)

 

髪の色が白髪だということ。アルビノだろうか、色素の抜けた白い髪は夜の風にさらさらと靡いていた。小走りに近付き、脅かさないように小さく声をかける。

 

「あの、ちょっといい?」

 

声に反応して、肩越しに首だけこちらを向く白髪の少女。吸い込まれてしまいそうな赤く深い瞳が自身の顔を写していた。しかし、次の瞬間少女は心底驚くことになる。

 

「……なンだ?」

 

「(声低っっ!?) え、えーと、ここに行きたいんだけど、どこにあるかわかる?」

 

あまりの驚きに一瞬固まるが、なんとか再起動して道を訪ねる。少女(?)は渡された紙をちらりと見ると、道の先にぼんやりと見える大きな建物を指さした。

 

「アレだ。行きゃわかる」

 

「あ、ありがと……。そうだ、あなた名前は? もしかしたら同じクラスになるかもしれないし」

 

「……鈴科透夜」

 

「鈴科透夜……? 鈴科透夜、鈴科、鈴科……?」

 

なにか最近聞いたことのある名前だ。一体どこで、と記憶を探っていると、中国を発つ前に見ていたニュースを思い出して得心した。

 

「―――あっ! もしかして、あんたが噂の二人目ってやつ?」

 

「嬉しくねェコトにな」

 

ややげんなりしたような反応を返す一方通行を見て、少女はおやっ? と思った。現在の女尊男卑の世界では、男の地位はかなり低い。そんな中でISを動かせるともなれば、権力を回復できるチャンスでもあるというのに。

 

「へー、あんたって結構変わってるのね。私は(ファン)鈴音(リンイン)。鈴でいいよ。よろしくね、透夜」

 

「ン」

 

鈴音と名乗る少女が差し出した手を握る。どうやらかなり人懐っこい性格らしく、しかもそれを嫌だと感じさせないのはこの活発さ故か。初対面の相手を名前で呼ぶのにはそれなりに勇気がいるものなのだが、彼女には全く関係ないらしい。

 

「それじゃ、私行くから。今度なんか奢ったげるわよー!」

 

「そりゃどォも」

 

後ろ手に手を振りながら走っていく鈴音の姿を眺めながら、一方通行もベンチから立ち上がる。そろそろ寮に戻らねばならない時間だ。子供っぽいヤツだったな、と本人が聞いたら激怒しそうな事を考えながら、寮へ続く道を歩いていった。

 

 

 

 




はい、というわけでファンには嬉しい鈴ちゃん登場回でした。凰だけに(ry

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