Infinite Stratos 学園都市最強は蒼空を翔る   作:パラベラム弾

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完結まで何年かかるんですかねコレ


二十一話

ラウラと一夏が激闘を繰り広げる傍ら。

 

勝るとも劣らぬ程に鎬を削り合うのは、必殺の間合いへ踏み込むために攻め立てる箒と、安全圏を維持する為に防戦に徹するシャルロット。

 

箒が右手を閃かせれば、鮮やかな紅色の攻性エネルギーが虚空へと収束。小刀の形を取ったそれらは箒の斬撃に一拍遅れ、空を斬り裂いて飛翔する。

 

唸りを上げて迫る刃の群れに対し、シャルロットの対応は至極冷静なものだった。展開装甲の攻撃に合わせて距離を詰めようとする箒を牽制射撃で足止めしつつ、瞬時に呼び出した物理シールドで紅の刃を受け止める。

 

瞬く間に針山となったシールドを切り離し(パージ)と同時に蹴り飛ばせば、突き立っていたエネルギー刃が炸裂。特大の手榴弾と化したそれは、大量の破片と爆風で周囲一体を蹂躙した。

 

たまらずバックブーストをかけて被害を防ぐ箒だが、結局エネルギーを浪費したのみで距離は詰められず。残心の構えを取ったまま、絞り出すように細く息を吐いた。

 

視界の端に映るエネルギー残量は、致命的な被弾はしていないにも関わらず既に3割を切りかけている。高い性能を誇る代償として、動作ごとにエネルギーを消耗する展開装甲の唯一の弱点であった。

 

(まずいな……ここまで徹底的に待ちの姿勢を崩さないとは。持久戦はこちらが圧倒的に不利な以上、何処かで攻勢に出なくてはならないが)

 

狙うならば短期決戦。

 

それで仕留め切れなければガス欠となり箒は脱落、残る一夏が二人を相手取る形になってしまう。あちらの戦況は一夏に傾きかけているものの、決着するまで箒のエネルギーが持つという保証もない。

 

仕掛けるか否か。

 

試合の分水嶺となり得る選択に、箒が意識を僅かに割いた刹那。

 

「―――考え事なんて随分と余裕だね?」

 

「ッ!?」

 

響く柔らかな声は眼前から。あれだけ遠かった間合いを1秒足らずで食い潰したシャルロットが、二丁のショットガンを此方へと突き付けていた。

 

どうやって、とは思わない。瞬時加速(イグニッション・ブースト)という基本的な技能を彼女が習得していないはずが無かった。そしてその基本的な技能は、ここぞと言う時に真価を発揮する。

 

逃げ続けていた動きから一転、懐へ潜り込むための超加速。動作の緩急を思考の隙間へ差し込まれれば、いかに箒といえども対応は一瞬遅れてしまう。そして、シャルロットにとってはその一瞬で十分だった。

 

耳を劈くような轟音が三度。一粒弾(スラグ)から散弾へと換装されていた連装ショットガン『レイン・オブ・サタディ』から、その名の通り無数の鉛玉が豪雨のように降り注ぐ。

 

エネルギーシールドを編み上げる暇はなかった。そして、点ではなく面として迫る散弾を全て弾き返すのは物理的に不可能。破城槌のような衝撃が横っ腹を叩き、紅い装甲が砕け散る。シールドエネルギーが激減し、遂に総量が1割を切った。

 

(しまった……っ!)

 

墜とされる(・・・・・)

 

明確な敗北のビジョンが脳裏を過ぎり、しかし抗うことだけは止めない。すぐさま体勢を立て直し、来るべきシャルロットの追撃に対して全霊で回避行動を取った。展開装甲は使えない。残り僅かなエネルギーをこれ以上消耗するなど自殺と何ら変わりない。

 

シャルロットの右手に握られたショットガンが虚空へと消え、新たな武装が出現する。やや小振りのライフルは、最早虫の息となった箒を倒すにはいささか威力過多であり―――彼女の狙いを理解した箒が反射的に叫ぶのと、銃口から弾丸が放たれるのはほぼ同時。

 

「避けろ一夏ぁぁああッ!!」

 

 

 

 

 

 

幼馴染の声に反応できたのはもはや奇跡だった。

 

一挙手一投足も見逃すまいとラウラへ注いでいた意識をぶった斬るかのような叫び。何がと思うより先に身体は回避行動を取っていた。が、音速を超えて飛来するライフル弾を後出しで躱せというのが土台無理な話である。左へサイドブーストをかけた瞬間、右肩装甲部分が耳障りな音を立てて吹き飛んだ。

 

「うぉ、お……ッ!?」

 

動き出しを潰され、衝撃を受けたことで錐揉み回転する機体をなんとか制御して体勢を整える。揺れる視界の中で、エネルギー残量が3割を切ったことを愛機が知らせてくれていた。

 

シャルロットからの援護射撃によって、掴みかけていた『流れ』が途切れる。

 

その好機を逃してくれるほど、眼前の少女は甘くない。

 

攻撃を誘発し迎撃にて仕留める篠ノ之流剣術。そこに宿る理念術理こそ分からないが、ラウラは培ってきた戦闘勘によりおおよその仕組みに当たりをつけていた。

 

(恐らくは迎撃に特化した戦闘スタイル。此方の動きを誘導し、後の先を取る能動的なカウンター。攻め込む程に疑心暗鬼になるという訳か)

 

隙だと思ったそれが仕組まれたものであり、待っていたのは痛烈な反撃。一度でも経験してしまえば、無意識に躊躇いが生まれる。例え本当に攻め入る隙だったとしても、それを判別する術はこちらにはない。

 

だが、あくまでそれは互いの得物が刀剣だった場合の話だ。

 

シュヴァルツェア・レーゲンの非固定浮遊武装(アンロック・ユニット)に搭載されたワイヤーブレード六基と大型レールカノン。そこにAICを組み合わせて退路を絶てば、構築されるのは逃げること能わぬ絶死の領域。

 

攻めてくるのを待っているなら逆に攻めてこさせれば良い。白式のレンジ外から一方的に封殺すれば、高威力のカウンターだろうと意味をなさない。しかし、ラウラのエネルギーも残り少なく、出力次第だがAICも撃てて1、2回だろう。

 

故に、この場における最善手は一夏を仕留め切ることよりもシャルロットの援護を受けられる位置取りを崩さないこと。零落白夜がある以上、一撃でひっくり返される可能性は捨てきれない。

 

ラウラは一夏の動きを注視し、シャルロットの位置関係を脳内に浮かべ。シャルロットはラウラに目を配りつつ、援護射撃を行う機会を窺っていた。

 

 

 

―――満身創痍の箒を差し置いて。

 

 

 

(私は、何をしているんだ)

 

荒い呼吸を整えることもせず、どこか色褪せた視界でゆるりと周囲を見渡した。相手を任されたシャルロットを削ることも満足に出来ず、いいようにしてやられた。挙句の果てには一夏への加勢まで許してしまう体たらく。

 

一夏の力になりたいと、都合よく姉を利用してまで最高性能の機体を手に入れたというのに。これでは力になるどころか、ただの足枷に過ぎないではないか。

 

挫折して。絶望して。それでもと前を向いて歩み続ける彼の心を守りたいと、彼の涙を受け止めたあの日に誓ったではないか。血反吐を吐くような一夏の想いを、こんな軽々しく反故にして良いのか?

 

(あの言葉を嘘にはしたくない。一夏の枷になるような真似はしたくない。だが、私の……私だけの力(・・・・・)では不足なのだ)

 

心のどこかで過信していた。

 

自分ならば出来ると。ありとあらゆる悪意や障害から彼を守ることができると、何の根拠もなしに信じ込んでいた。

 

事ここに至ってようやく理解できた。彼を『守る』などという傲慢な考えではなく、同じ目線に立ち、彼の背を支える為に必要なもの。それはきっと、彼と同じ高みへと羽撃く翼なのだ。

 

刀を握る手に力が籠る。

 

(だから―――頼む、紅椿。不甲斐ない主ですまないが、私と共に戦ってくれ。私に力を貸してくれ。私が勝つ為じゃない。あいつを……一夏(だいすきなひと)を助ける為の力を―――ッ!!)

 

エゴも私欲もない純粋な感情の発露。

 

故に、願いは届く。

 

 

 

主の想いに呼応して、椿が花開く(・・・・・)

 

 

 

四肢の装甲と、背部のバインダーが大きく展開した。エネルギーを放出する為の機構が組み込まれたそれらから、見たことの無い黄金色の粒子が立ち上る。荘厳でありながらも暖かさを感じさせる、春の陽射しのような光。

 

装甲表面を滑るように広がっていく光はやがて全身を包み込み、紅い機体を眩い黄金へと染め上げた。鉛のようだった身体に活力が漲り、視界が拓けていく。

 

明らかな変化―――否、進化の徴候。

 

管制室で機体状況をモニターしていた真耶が、箒の身に起こったことを理解して目を剥いた。

 

「し、シールドエネルギーが回復!? 装甲の破損箇所も修復されています! 外部からのエネルギー供給もなしに、こんなことって……!」

 

エネルギー回復能力、あるいは自己修復機能(オートリペア)。どちらもISの能力としては凶悪の一言に尽きる。何故ならば、ほぼ負けないから(・・・・・・)だ。

 

相手が幾ら強力な武装を積んでいようと関係がない。エネルギー切れによる敗北がない以上、相手のガス欠を待っているだけで勝敗は決する。シャルロットが箒に対して取った戦法のスケールを極端に大きくすればこうなるだろうか。

 

無論、何かしらの制限はあるだろう。しかし、煮詰まってきたこの戦況においては。4人が4人とも消耗していたこの状況においては、盤面を全てひっくり返す文字通りの切り札となり得る。

 

(単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)『絢爛舞踏』……これが、紅椿(おまえ)の力なのだな)

 

どくり、と脈打つような高揚感。

 

元よりこの機体に備わっていたものなのか、それとも箒の感情に呼応して発現したものなのかは分からない。いちISに備わるものとしては間違いなく破格の能力。

 

扱い方は、まるで最初から識っていたかのように頭の中に入っていた。エネルギー残量も展開装甲を用いた戦闘が十二分に可能なレベルまで回復している。スラスターに火を入れ、箒は勢い良くスタートを切った。展開装甲は既に機動特化へと役割切替(ロールチェンジ)されている。

 

「っ、シャルロット! 織斑を狙えッ!!」

 

「了解―――!」

 

箒の身に起きた変化こそ理解出来なかったが、自分たちにとって喜ばしくない何かが起きた事だけは理解できた。ラウラの思考をダイレクトに読み取ってAICが起動。不可視の鎖で以て一夏の身体を虚空へと縫い止めた。

 

ラウラの大型レールカノンとシャルロットのライフルが同時に火を噴く。箒のカバーが間に合うよりも早く殺到した弾丸が白い装甲を撃ち抜き、白式のエネルギーがゼロへと落ちる。

 

 

 

「―――ああ、今度は間に合った」

 

 

 

そのはずだった。

 

放たれた二発の弾丸は、都合四つに分かたれて地面に転がっていた。鏡のような断面が、秋晴れの空を映していた。

 

「すまない一夏。無様を晒したな」

 

間に合わなかったはずの迎撃を間に合わせて見せた幼馴染の背中を呆然と眺めていた一夏。優しく肩に置かれた紅椿の武骨なクローから、黄金色の粒子が白式へと流れ込む。視界の端でエネルギーが半量程度まで回復したのを見て、一夏は思わず顎を落とした。

 

「箒おま、なんっ……はぁ!?」

 

「説明は後だ。まずは勝つぞッ!!」

 

「っああもう、ちゃんと後で説明しろよ!」

 

疑問はあれど、今は彼女の言う通りだ。雪片弐型を構え直し、憑き物が落ちたかのような顔の相棒と共に、三度戦場へと飛び込んだ。

 

「気が早いな、もう勝ったつもりか……ッ!」

 

「甘く見ないで欲しいなッ!」

 

明らかに形勢が傾いた事を感じながらも、ラウラとシャルロットの戦意は衰えるどころか更に勢いを増していた。この程度の逆境を跳ね除けずして何が代表候補生か!

 

極限まで研ぎ澄まされた集中力が思考を加速させる。世界の流れが遅滞し、神経がスパークしている。相手の手札と此方の手札から勝利への筋道を逆算し、打つべき手を導き出す。

 

迫り来る二機に向けてシャルロットが放り投げたのは、今しがた呼び出したグレネード。流れるようにライフルを構え、ベルトに繋がれた内のひとつを撃ち抜けば爆煙と共に視界が埋め尽くされた。

 

ハイパーセンサーがあるとはいえ、目で見えないという事実は想像以上に戦術的効果を生む。相手の連携を乱すため、初手で視覚情報を遮断するのは当然だった。

 

しかし、彼らの進撃はその程度では止まらない。黒煙を切り裂いて現れたのは鮮烈な紅。全身にシールドを展開した箒が矢面に立ち、その後ろに一夏がぴったりと追従している。

 

そのまま弾かれたように二手に別れ、シャルロット目掛けて突撃してくるのは箒だった。その機動は鋭く、到底試合終盤のものとは思えない。十全にエネルギーを使える紅椿とは違い、燃費の良いラファールも流石に余裕はない。数分前と比べれば飛翔速度が落ちているのが目に見えて分かるはずだった。

 

ここに来て初めて、シャルロットは迎撃を選択した。

 

振るわれる刀を物理シールドで受け止め、予め呼び出しておいたショートブレード『バレット・スライサー(弾斬り)』を、装甲の薄い首元目掛けて突き立てる。絶対防御の発動による大幅なエネルギー消費を狙いつつも、長刀での払いが間に合わない箇所を選んでいた。

 

防御が間に合わないと見るや、箒はそこから更に一歩を踏み出す。シャルロットが振るったブレードの更に内側へ入り込むように、自らの肩を腕へと叩き付けて斬撃の勢いを殺した。刀剣を用いた近距離戦闘において、こと彼女の右に出る者は居ない。

 

(まだ、だ!)

 

パシュッ、という軽い炸裂音と共に物理シールドが切り離された。その衝撃で受け止めていた刀を弾き飛ばしつつ、シャルロットが切ったのは正真正銘最後のカード。

 

鈍色の光を放つ、六九口径連装型パイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)』。

 

単純な攻撃力ならば第三世代をも凌ぐ無敵の矛に必殺の意志を乗せ、左腕を全力で突き込んだ。炸薬が爆ぜ、鉄杭が装甲を打ち抜く感触が伝わり。

 

 

 

エネルギー切れを知らせるブザーが高らかに鳴り響いた。

 

 

 

「……ようやく、届いたか」

 

シャルロットの放った一撃は、箒が展開したシールド六枚のうち五枚を貫通した所で止まっていた。『盾殺し(シールド・ピアース)』の異名が示す通り高密度のエネルギーシールドさえも穿ってみせたが……最後の一枚を突破するよりも僅かに早く、箒の一太刀がラファールのエネルギーを削り取っていた。

 

刺し違えるような格好であれど、その実明確に勝敗は決していた。

 

シャルロットの戦闘不能を確認した箒は、一夏の援護に向かうためすぐさま転身する。その背をぼんやりと眺めながら、シャルロットはおどけたように肩を竦めた。

 

「はぁ……土壇場でパワーアップなんてズルいよ箒。漫画やアニメじゃないんだから。…………ゴメンね、ラウラ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

箒とシャルロットの戦いが決着したことを意識の端が捉えていた。

 

切り結び、無数の火花を虚空へ散らしながら二人は笑う。紛れもない強敵であると互いを認めているからこそ、打ち倒し糧にせんと喰らいつく。

 

そんな夢現のような時も、終わりを迎えようとしていた。

 

「そろそろ、決着(ケリ)つけようぜ……ッ!!」

 

「良いだろう、来い……ッ!!」

 

箒からの回復を受けた一夏のシールドエネルギーは既に三割程度まで減少しており、恐るべきは劣勢でありながらもそこまで削ってみせたラウラの技量であった。

 

白式の武装は、第一形態から増設されているとはいえ『雪片弐型』と左腕の『雪羅』の二つのみ。ラウラの操るワイヤーブレード六本とレールカノン、両手のプラズマ手刀とAICを潜り抜けて一発ぶち込むことができれば一夏の勝利だ。

 

スラスターを激発させ、爆音と共に白が加速する。

 

同時に展開されるのはワイヤーブレードによる包囲網。行く手を阻み逃げ道を塞ぐ、一夏の行動を制限するための空間制圧術。ひとたび飛び込んでしまえば抜け出すのは容易ではないが、そんな考えは既に一夏の思考から消え失せていた。

 

「シィィ―――!」

 

鋭い呼気。

 

銀閃が奔り、一本のワイヤーブレードが半ばから断ち切られる。僅かに生じた空白地帯へ身体を捩じ込むようにして、包囲網を突破した。雑技団のような機動に、アリーナ中が総立ちになる。

 

ワイヤーを巻き取っている暇は無い。間合いは詰められる。

 

牽制の88mmレールカノン(アハトアハト)はコンパクトなバレルロールで躱した。身体に掛かる猛烈なGを、奥歯を噛み締めて耐える。駆動系統をぶち壊すかのような無理な機動に、機体が悲鳴を上げているのが分かった。

 

(砲撃の間合いは抜けた! あとはプラズマ手刀とAIC……!)

 

彼我の距離は50mを残すのみ。

 

どんな動きに対しても反応出来るよう構えていたラウラの知覚が、飛来する投射物を感知した。そこそこの大きさだが質量はない。片手のプラズマ手刀で弾き飛ばし―――飛んで来たものを見て驚愕した。

 

(雪片弐型!? 自らの得物を手放すなど、奇を衒ったつもりか! だが、甘い……ッ!!)

 

予想外のブラフ。彼とその機体を知るものであれば少なからず効果はあるだろうが、それでも意識を逸らし切るには足りなかった。刀を投げ放った一夏は、ラウラの懐へ潜り込むために更に加速している。

 

その手には、瞬時に量子へ返して再度呼び出した『雪片弐型』が握られていた。

 

胴を狙った突き。機体の加速と速い初動を組み合わせた一撃は鋭いが、ラウラはもう片方のプラズマ手刀を振るって撃ち落とす。それこそが一夏の狙いだった。二の太刀を仕込んだ左手を突き出し、守る手段を喪ったラウラへと叩き込む。

 

「―――二度は、喰らわんさ……ッ!!」

 

だが、それは一度見た技だ。

 

四肢は動かずとも意識は残り、意識が残ればAICは発動する。物体の有する運動量を強制的にゼロへと落とし、動きを縛る不可視の停止結界。元より痛手を受けた技、警戒しない道理は無かった。

 

開いた指先が停る。

 

伸ばした腕が停る。

 

身体が停る。

 

脚が停る。

 

「これで―――!」

 

 

 

 

この距離なら、外さねぇ(・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

え、と声が漏れた。

 

展開されたAICによって一夏の動きは停められている。右手の雪片は振るえない。伸ばされた腕も、零落白夜の性質を有する左手の五爪も沈黙している(・・・・・・)。だというのに、ラウラの本能は煩いほどに警鐘を鳴らしていた。

 

一体何が、と疑問を浮かべ―――左掌にある砲口と、目が合った。

 

燃費の悪さと命中率の低さから、模擬戦ですらほとんど使われていなかった白式唯一の遠距離武装・荷電粒子砲『雪羅』。雪片と零落白夜をもブラフとして組み込み、こうしてAICを使わせることで初めて有効打になり得る、謂わば第三の太刀―――!

 

回避も防御も間に合わない。

 

「俺達の、勝ちだ……ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タッグマッチトーナメント第一回戦

 

勝者・織斑一夏&篠ノ之箒ペア

 

 

 


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