Infinite Stratos 学園都市最強は蒼空を翔る   作:パラベラム弾

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ちょっとくらい投稿しても……バレへんか……()


十六話

「凄かったわねー、今日の一夏くん」

 

夜。

 

夕食を終え、ベッドで寛いでいた一方通行の元へ訪ねてきた楯無。部屋主の許可を待たずに上がり込んできた彼女を叩き出そうとするも、巧みな身のこなしでのらりくらりと回避し続けられてしまい結局部屋に居座られてしまう始末である。

 

悲しいかな、現在の身体能力ではどう足掻いても楯無を相手取ることはできなかった。

 

「鬼気迫る、って言うのかしら。あの場の誰よりも勝利に対して貪欲だったのは間違いなく彼だったわ。やる気があるのは大いに喜ばしいことではあるんだけど、空回りしないかちょっと心配になるわね」

 

「そォか。とっとと出てけ」

 

あーんひどーい、とわざとらしく叫びながら身体をくねらせる楯無の姿に、一方通行は溜め息を吐く。

 

 

 

最近、周囲に人が増えた。

 

 

 

セシリア、ラウラ、楯無の三人は言わずもがな、それ以外の面子とも交流することが多くなった気がする。一夏、箒、鈴音、シャルロットの専用機組に加えて、教員である千冬や真耶までも何かと関わるようになった。

 

食事の誘いから勉学の師事、模擬戦の相手に機体整備の話し合い等々。元々他者との交流を避けていた節のある一方通行からすれば、忙しなくて落ち着かない。対応するのも面倒ではあるが、少なくとも嫌な気分ではなかった。

 

「箒ちゃんと一緒に特別な訓練しているって聞いてはいたけど、まさか篠ノ之流剣術の指南までしてるなんて思わなかったわよ。透夜くんも結構驚いたんじゃない?」

 

「……、」

 

言われて、今日の模擬戦を思い出してみる。

 

二対一の変則マッチの後、一夏が再度模擬戦を申し込んできたため承諾した一方通行。『極天』の性能テストもまだまだ不十分であった為ちょうど良いと思っていたのだが、その予想は程なくして裏切られた。

 

一夏の動きが目に見えて変化していたからだ。

 

その前の戦闘で手を抜いていたという訳ではないだろうし、あちらとしても初の実戦投入だったのだろうか。『白式』の高い機動力と零落白夜の攻撃力を生かし、隙を見付けて一点突破する従来のスタイルではなく、此方の動きを誘い出すかのような引き気味の立ち回り。

 

今まで通り、一夏の吶喊に合わせて放ったカウンターに対して更に後出しでカウンターを合わせてくるなど流石に想定外だった。

 

相手の出す手を窺いその場で対応する受動的なカウンターとは性質が異なり、相手の動きを誘導し此方が選択肢を決定させることで成立する、謂わば能動的なカウンター(・・・・・・・・・)

 

今のところ全戦全勝のスコアを叩き出してはいるものの、まともに一撃を食らったのは随分と久方ぶりだった。

 

「私が思うに、透夜くんは観察眼と空間把握能力がとても優れている反面、武術とか格闘術みたいな至近距離での対応や反撃が苦手なんじゃないかなあって思うんだけど、どう?」

 

楯無が口にしたことはまさに、一方通行が現在問題視している事柄そのものであった。物心ついた時から超能力に頼り切った生活をしてきているのだから、基本的な身体能力だけでいえばその辺の男子高校生よりも低い程である。

 

箒や鈴音の戦い方を見れば分かるように、生身の状態で扱える戦闘技能がISに乗った状態で扱えない道理は無い。さらに言えば、二次移行を果たした一方通行のISには明確な近接武装が搭載されていない。主武装である『白翼』を用いれば接近戦もこなせない事はないのだが、機体性能に任せて力押しになっているのは否めないのである。

 

押し黙る一方通行の姿を見て苦笑を浮かべた楯無は、座っていた椅子から一方通行が腰掛けるベッドに歩み寄ると、彼の隣に腰を下ろした。

 

「いざと言う時のためにも、手ほどきくらいは受けておいた方がいいんじゃない? おねーさんでよければ付き合うわよ? セシリアちゃんやラウラちゃんも、頼めば協力してくれるんじゃないかしら」

 

「……、勝手にしろ」

 

「んふふ、りょーかい♪」

 

いつまでも問題を先送りする訳にもいかない。かといって、素直に楯無に教えを乞うのも癪ではあるので凄まじく微妙な表情を浮かべる一方通行。楯無はといえば、先程までの苦笑をイタズラな色に塗り替えて楽しそうに笑っていた。

 

 

 

―――変わったな、と楯無は思う。

 

 

 

学園祭での事件以降、彼の纏う雰囲気が確かに変わってきているのを肌で感じていた。入学当初の、触れれば切れるナイフのような鋭い空気はなりを潜め、僅かずつではあるが彼からも此方に歩み寄ろうという姿勢を感じられるのだ。

 

捨てられていた野良猫が徐々に人に懐いていくかのような錯覚に、楯無の胸の奥がじわりと暖かくなる。彼が敵意と悪意に囲まれて過ごしてきた十数年という歳月、与えられるはずだった愛情の万分の一でも肩代わりしてあげられれば良いと思った。

 

(変わったのは私も、かしら。特定の生徒に対して贔屓しちゃうのは、生徒会長としては失格かもしれないけど……あれだけ発破を掛けたんだから、最後まで面倒見てあげないと。)

 

そうして一方通行を見遣る楯無の視線はどこまでも優しく、慈愛に溢れていた。実妹である簪に向けるものに勝るとも劣らないそれは、彼女本来の気質の表れであると言ってもいいだろう。生徒会長や更識家当主の更識楯無ではなく、ただ一個人の更識⬛︎⬛︎(⬛︎⬛︎⬛︎)として。

 

(……もし弟がいたら、こんな感じなのかしらね)

 

不器用で、無愛想で、無表情で。素っ気ないくせに意外と優しくて、ひねくれているくせに寂しがり屋で。そんな手のかかる『弟』を放っておけないのは、ある意味では自然なことなのかもしれない、と思う。

 

だからこそ、彼女はまだ気付けない。

 

その感情の名前が『⬛︎愛』であることに。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――で? 要件はなンだ」

 

緩んでいた空気を意図的に切り替える。

 

それを感じ取ったのか、楯無も居住まいを正して表情を引き締めた。小さく咳払いをしてから、『裏』の情報について語っていく。

 

「……ついさっき入ってきた情報なんだけど、米軍の特殊作戦基地が襲撃を受けたわ。対応は迅速で、国家代表二名が応戦したみたいだけど……防衛は失敗。僅か二十分で基地は完全に無力化され、パイロットは片方が重傷、更に当該基地に保管されていたISが一機強奪されたわ」

 

銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)か」

 

「ええ。凍結処理待機中の所を狙われたみたい。件の襲撃者達は基地から120kmの地点でシグナル消失(ロスト)。同時に福音の機体反応も消失したわ」

 

「……動かせンのか?」

 

「不可解な点はそこなの。ナターシャ・ファイルスの専用機だった以上、コアの初期化をしなければ動かすことさえ出来ないはずの福音を何者かが弄ってコアネットワークから切断したのよ。システムそのものへの干渉なのか、機体操作なのかまでは分からないけどね」

 

そこで一度言葉を切り、整った柳眉を僅かに顰めた。

 

「……そんな事が出来るのは、篠ノ之博士くらいだと思っているんだけど。あの人のことを知っている貴方から見て、今回の襲撃に関係していると思う?」

 

「ねェな」

 

「あら即答。理由を聞いても?」

 

遅過ぎる(・・・・)。仮にあの女が必要に駆られて動いたとしたら、それこそ一瞬で片が付く。米軍の防衛網なンざクソの役にも立たねェだろォよ。アイツの思考回路はガキと同じだ、自分が欲しいと思ったモンはどンな手段を使ってでも手に入れる。しかもそれを実行出来るだけの能力が有るのが厄介極まりねェ」

 

「……本当に詳しいのね、貴方」

 

「はっ。化け物同士、通じる所があンだろ―――っ?」

 

肩に軽い衝撃。

 

不意打ち気味のそれに流されるように上体をベッドに投げ出した。柔らかく沈み込んだ身体を起こすよりも先に、動きを封じるかの如く楯無が覆い被さる。

 

顔の横に両手をついた彼女のシルエットが照明を遮る。

 

己のそれとは僅かに色が異なる赤い双眸が、真っ直ぐに此方を見つめていた。

 

「透夜くんは化け物なんかじゃないわ。私達と同じ、心ある一人の人間よ。だから……無意味に自分の価値を貶めるのはやめなさい」

 

「…………、」

 

「何度だって言うわ。私は―――私たちは何があってもあなたの味方よ。『気持ちは分かる』なんて言えないけど、透夜くんを大切に思っている人たちのこと、忘れないで」

 

困ったように眉尻を下げる楯無の、白魚のように細い指先が頬を撫でた。むず痒い感触から逃れるように顔を背けるが、不思議と嫌な感覚ではなかった。

 

互いの呼吸が聞こえるほどの至近距離。

 

「ね……さっきの話、覚えてる?」

 

「……あン?」

 

「透夜くんの苦手な、至近距離での対応についてのお話。……ほら、おねーさんが手ほどきしてあげるって、言ったでしょ? 出来ることから始めていかないと、ね―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇

 

 

 

 

 

 

 

学園寮・廊下。

 

足音を殺し、人目を避けるように廊下の角から角へと移動する人影がひとつ。両手に参考書やノートなどの勉強道具を抱え、隠密作戦もかくやという身のこなしを見せるのはセシリアだった。

 

向かう先はもちろん、一方通行の自室。

 

昼間に行った座学の中で、今ひとつ理解が及ばなかった部分について確認したかったのである。また、その後の模擬戦においての戦闘機動についての改善点を聞きたいということも理由のひとつではあった。

 

(『定期試験に向けての対策』に『模擬戦のフィードバック』。部屋を訪ねる理由についてはごく自然なものですわ。そして、夕食後であることを考慮すれば寝巻きであることも当然。透夜さんのお部屋もあまり広くはありませんから、デスクでお互いが密着してしまうのも偶然。そして甘い空気と共にお互いの距離が縮まるのも必然ッ! 流石はわたくし、完璧なプランニングですわね)

 

脳内シミュレート(ガバガバ理論武装)を済ませつつ、音もなく廊下を進んでいく。もしも教員に見つかれば叱責は免れないが、そんなリスクを負ってまで行動に移さなくてはならない理由が彼女にはあった。

 

それは、

 

(最近、透夜さんとお話する時間が取れていません。これは由々しき事態ですわ)

 

ぷくぅっ、と不満げに頬を膨らませる。元の顔立ちが整っているセシリアがやってもただ可愛らしいだけなのだが、彼女は至って真剣に遺憾の意を表明していた。

 

先の学園祭以降、一方通行は楯無率いる生徒会の所属となっている。全校集会で発表した『部活動へ男子を貸し出す』という条件も、学園祭自体がご破算になってしまったため有耶無耶になってしまった。そして、ここぞとばかりに楯無が生徒会長の強権を発動。

 

一方通行を生徒会に引き入れることとし、それによって暴徒と化した生徒たちには予定通り一夏を部活動の助っ人として貸し出すことで沈静化。多少の不満はあるが貸し出し自体が無くなるよりは、ということで落ち着いたのである。

 

これで一方通行は生徒会、一夏は部活の助っ人という、楯無が思い描いていた通りの構図となった。なったのだが―――

 

(ことあるごとに楯無先輩に呼び出されていますし、透夜さんと楯無さんが二人でいる所を見かける頻度も増えました。お仕事が忙しいと言われてしまえばそれまでなのですけれど……、……可能性としては、捨てきれませんわね)

 

セシリアの第六感が告げていた。

 

ともすれば、ライバル(・・・・)が増えるかもしれない、と。

 

そんなことを考えている内に、一方通行の部屋へと辿り着く。小さく咳払いをして喉の調子を整え、手櫛で前髪をセット。服装におかしな所がないか手早く確認。最後にふんすと気合いを入れて、扉をノックしようとしたところで、

 

『―――』

 

(……話し声? 既にどなたかいらっしゃるのでしょうか)

 

扉の向こうから僅かに聞こえる声。くぐもっているせいで声の主までは判別できないが、おそらくラウラか楯無だろう。ラウラであれば特段気にすることもないが、もしも楯無だった場合は―――二人きりで、どんな話をしているのだろうか。

 

そうではないと信じたいのに、思考は悪い方悪い方へと進んでしまう。扉へ伸ばしかけていた手を引っ込めて、かわりにそっと耳を近づけてみる。

 

(だ、大丈夫ですわ……きっと、ラウラさん辺りが遊びに来て―――)

 

『―――ほら、力を抜いて?』

 

『っ、おい……!』

 

『こんなに硬くなってる……大丈夫、おねーさんに任せなさい……』

 

『く、ぁッ……!』

 

「ぶち殺しますわ」

 

セシリアは激怒した。

 

必ず、かの邪智暴虐の生徒会長を除かねばならぬと決意した。セシリアには恋愛が分からぬ。セシリアは、イギリス代表候補生である。ISに乗り、己を律して暮らしてきた。けれども邪悪(負けフラグ)に対しては、人一倍敏感であった。

 

一瞬で腕部装甲を展開し、ドアノブを掴んで蝶番ごと引き千切る。転がるようにして部屋の中へと踏み入り、ベッドの上で想い人を組み敷いている楯無を捕捉。服は着ているのでいかがわしいことをしていた訳ではなさそうだが、それはそれとしてセシリアは普通にキレていた。

 

「ちょ、ちょっとセシリアちゃん!? どうしたのいきなりって危なぁ!?」

 

慌てて身を引いた楯無の鼻先を刃が掠める。洒落にならないくらいに殺意全開の一撃に楯無の顔が引き攣った。背中にドッと冷や汗が噴き出す。対するセシリアは穏やかに微笑んでいるが、その額にはビキバキと青筋が浮き出ていた。

 

「ええ、ええ……お二人はマッサージか何かをされていたのでしょう? わたくしの早とちりであったことは認めます」

 

「だったらそれ(インターセプター)仕舞ってほしいんだけど……」

 

「ですがッ! わたくしを差し置いて透夜さんとの距離を縮めようだなんて言語道断ですわッ! 如何に楯無先輩といえど、そのような羨ま―――羨ましいこと、天が見逃しても私が見逃しません!! さぁ、貴女の罪を数えなさいッ!!!」

 

「言い直せてないしキャラがブレてる!? ああもうっ、透夜くんが絡むとポンコツになるわねこの子!」

 

結局、騒ぎに気付いた千冬が鎮圧しに来るまで小競り合いは続いた。

 

 

 

 

 




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