Infinite Stratos 学園都市最強は蒼空を翔る   作:パラベラム弾

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。


二十四話

「海っ! 見えたぁっ!」

 

眠りに落ちていた意識の外で、そんな歓声が聞こえた。

 

にわかに辺りが騒がしくなり、それに引っ張られるようにして意識が浮上してくる。ぐ、と体を伸ばし大欠伸を一つ。寝起き故の緩慢な動きで陽光を遮っていたカーテンを開くと―――

 

「…………、おォ……」

 

思わず感嘆の声が漏れた。

 

IS学園は海を埋め立てた人工島の上に建設されているために海自体は見慣れているが、その美しさが段違いだった。

 

陽光を乱反射して煌めく広大な海は鮮やかなコバルトブルーに染まり、逆に砂浜は真っ白に輝いている。更に水平線からは巨大な入道雲が立ち上ぼり、一面を青白のコントラストで彩っていた。

 

一方通行たちの乗るバスは一路、実習を行うための宿泊施設へと向かって海沿いの道を走っているところだった。幸いにも、実習中に天気が崩れるということもないようだ。

 

「ふふ……♪」

 

「……先程から随分とご機嫌だな」

 

ふと、通路を挟んだ座席からそんな会話が聞こえてきた。見るからに上機嫌なセシリアと、それを眺めるラウラのものだ。そんなセシリアの胸元には、一つのネックレスが光っている。先日、買い物に行った際に一方通行が彼女に贈ったものだ。

 

細く編み込まれたクリアシルバーのチェーンの先に、彼女の専用機『ブルー・ティアーズ』にちなんで選んだ小さな雫型のネックレス・トップがライトブルーの輝きを放っている。

 

それを、時々思い出すように微笑みを漏らしては大切なものを扱うようにそっと撫でている。千冬からアドバイスを受けなかったら考えもしなかっただろうが、手渡したときの彼女の反応はそれはそれは好評だった。

 

「しかし、アクセサリーか……女性らしさというやつを学ぶためには必要なのか……? いやしかし、相手に掴まれやすいものを身に付けるのは……」

 

顎に手を当てて「匍匐の邪魔に」だの「武器としてなら」だの見当違いな呟きを溢すラウラ。しばらくの間そうしていたが、やがて考えることを諦めたのか備え付けの菓子を漁り始めた。

 

「そろそろ到着だ。全員大人しく着席していろ」

 

千冬の声で、わいわいと騒がしかった生徒達が各々自分の席へと戻っていく。それから数分で、バスは目的地の旅館に到着した。

 

バスから降り、長時間同じ姿勢で凝り固まった体を解すついでに旅館を眺める。建設されてからそれなりの年月が経つのだろう、『味』とでも言える年季の入った建物特有の雰囲気が漂っている。

 

「あら、そちらの子たちが噂の……?」

 

「ええ。今年は男子が二人もいるのでご迷惑をおかけするかと思いますが、よろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします」

 

「……どォも」

 

この旅館の女将、先程清洲景子と名乗った女性に興味深げな視線を向けられ、頭を下げた一夏に続き軽く会釈。一夏に比べたら大分無愛想なものだったが、今の一方通行にはこれが最大限の礼儀だった。

 

女将もさほど気にした様子もなく、穏やかな微笑みを湛えている。職業柄笑顔が絶えないせいか、笑うとより若々しく見えた。

 

「はい、よろしくお願いしますね。では皆さん、お部屋の方へ案内いたしますのでついてきてください。すぐに海へ行きたい方はそのまま更衣室までご案内しますよ」

 

女将先導のもと、ぞろぞろと旅館へ入っていく生徒逹。初日は終日自由時間となっているので、部屋に荷物を置いてすぐに海へと繰り出す者が大多数だろう。

 

「ね、ね、ね~。とーやんとおりむーの部屋ってどこなの~? 一覧に載ってなかった~」

 

聞くだけで眠くなるような間延びした声と共に、クラスメイトの布仏(のほとけ)本音(ほんね)がこちらに駆けてきた。駆けてきた、と言っても速足程度の速度しか出ていない。

 

ちなみに『とーやん』とは一方通行の、『おりむー』は一夏の渾名である。無論、そう呼んでいるのはこの少女だけであったが。

 

さておき、本音が漏らした疑問は一方通行にも答えようのないものだった。なにしろ、本人ですらどこの部屋に泊まるのか聞かされていないのだから。

 

「いや、それが俺たちも知らないんだ。廊下にでも寝るんじゃないか?」

 

「わ~、それはいいねー。それで皆で言うんでしょ~? あ~床つめたーいって~」

 

何故か、一方通行の脳裏に神父服を着た赤髪の青年が思い浮かんではすぐに消えていった。全く面識も見覚えもない相手だった。早くも慣れないバスに揺られた疲れが出てきたのだろうかと二度三度こめかみを揉みほぐす。

 

「ンなワケあるか。そのうち教師から指示があンだろ」

 

「織斑、鈴科。お前逹の部屋はこっちだ。ついてこい」

 

一方通行がそう口にした直後、千冬から声がかかる。一夏は本音に自室へ戻るよう促し、一方通行はそのまま千冬の後を追った。

 

外から見ただけではわからなかったが、旅館の内部は最新の空調設備で快適な温度に保たれていた。板張りの廊下もひんやりと涼しく心地よい。

 

―――ISが世に出てもたらしたものは何も混乱と緊張だけではなく、当時の何十年も先を行く最新の科学技術もその一つだった。未だ記憶に新しい『白騎士事件』に際し、白騎士が運用した荷電粒子砲やエネルギーブレード。その技術の一部を流用した、低コスト且つ高性能な家電や電化製品が山のように出回った。

 

エアコンのない家は殆ど無くなり(エアコンの風に弱い者の為に無風エアコンなるものも開発された)、洗濯はボタン一つですべての工程が自動で行われ、モニターは投影型スクリーンへと形を変えていった。

 

『人類史上最大の技術革新』と称されたのも決して誇張などではない。事実、ISそのものがまだ解明されていないオーバーテクノロジーの塊なのだから。

 

「ここだ」

 

「いや……教員室って書いてありますけど……」

 

張り紙に大きく『教員室』と書かれた部屋の前で、一夏が口許を引き吊らせていた。まさか自分の部屋が教師()と同室だとは思わなかったのだろう。

 

「当初はお前逹二人で一部屋の予定だったんだがな。それだと絶対に就寝時間を無視した女子逹が押し掛けてくるだろうということで、織斑は私と同室。鈴科、お前は山田先生と同室だ」

 

ため息と共に告げられた千冬の言葉に、一方通行は納得するよりも先に少しだけ驚いた。一夏(シスコン)千冬(ブラコン)が同室なのはまあ理解できる。問題は、

 

「山田教諭は同意を?」

 

「ああ。お前だけを一人部屋にするわけにもいかんからな。まあ、お前がそういったことに興味が薄いのは知っているが、念のためだ」

 

人畜無害を絵に描いたようなあの教師にストッパー役が務まるのかとも考えたが、そういえば元日本代表候補生だったなと思い直す。ああ見えて仕事はきっちりとこなすタイプだ。

 

「隣部屋を空けてある。そこを使え」

 

「……了解」

 

千冬と一夏が教員室に消えていくのを見て、一方通行も荷物を担いで襖を開け放つ。い草の香りが漂う畳張りの部屋は二人部屋だというのにかなり広く、海に面する壁は豪勢にも一面ガラス張りだった。

 

窓を開けてみれば、心地よい潮風が頬を撫で、穏やかな波の音が心を落ち着かせてくれる。旅館を建てるには最適な立地だな、と思った。

 

壁にかけられた時計を見れば、短針は十を回ろうとしているところだった。このまま寝ればさぞ熟睡できることだろうが、バスの中で寝ていたため実のところあまり眠くはなかった。

 

―――そォいや、オルコットも海に行くっつってたな。

 

一方通行もセシリアから熱心にお願いされているので、一応行くことにはしている。日除けのパラソルか何かが貸し出しされているだろうし、眺めているだけなら疲れない。

 

ボストンバッグから水着とパーカー、大きめのバスタオルを別のバッグに入れると部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「…………」

 

更衣室へ向かう道中、一夏と箒を見つけたのだが何やら様子がおかしい。険悪な空気ではないことから揉め事や荒事の類いではないらしいが、何とも微妙な雰囲気だった。何とはなしに二人の視線を追い、その先にあるものを視認した一方通行は自分の顔から表情が消えるのを感じた。

 

―――ウサミミが、生えていた。

 

比喩でもなんでもなく、柔らかな黒土の上に機械的なウサミミが二本、『引っ張ってください』の張り紙と共に生えていた。

 

「……な、なあ、箒。これって……」

 

「知らん。私に訊くな。関係ない。一切。微塵も。欠片も。一ミクロンたりともな」

 

関わりたくないのか、箒は全力で否定の言葉を口にするとそのまま歩き去ってしまった。できることなら一方通行も素通りしたかったが、更衣室へ向かう道はここだけだ。

 

加えて、あの動くトラブルメーカーを放置したら何を起こすかわからない。もしあの下に潜んでいるなら、出てきた瞬間半殺しにして千冬に突き出せば大丈夫だろうか。

 

念のためISを準起動状態にしておき、何時でも幻月・VROSを発動できるようにしておく。そうこうしているうちに、一夏が勢いよくウサミミを地面から引き抜いた。てっきり地中に潜んでいるものと思っていたのだろう、腰を落として引き抜いたせいか勢い余って後ろに転がった。

 

もんどりうって倒れた一夏と目線が合う。

 

「お、鈴科か。今このウサミミを―――」

 

「……退いてろ」

 

「え?」

 

困惑する一夏を押し退け、ハイパーセンサーを起動。一瞬にして、超高性能動体感知レーダーが上空から落下してくる巨大な高速飛翔体(ニンジン)を感知。腕部装甲を部分展開し、頭上十メートル地点でVROSを起動。300km/h近い速度で落下してきたニンジンの持つ運動量のベクトルをねじ曲げた。

 

頭上十メートルで方向を変えたニンジンは全く勢いを衰えさせぬまま飛んで行き、遥か遠方の海面で盛大な水柱を吹き上げた。それを確認した一方通行は装甲を消して盛大なため息を吐くと心底面倒臭そうな声で、

 

「織斑」

 

「え、あ、おう。な、なんだ?」

 

「織斑教諭に伝えとけ。(バカ)が一匹侵入してきたってな」

 

「あ、ああ。わかった」

 

一夏が教員室へ向かうのを確認してから、ニンジンを吹き飛ばした方角を鋭く睨み付ける。

 

彼女が自発的にアクションを起こす時は、大抵ろくでもないことが起こる時だと相場が決まっている。自分一人の時ならばまだ良かったが、今回は周囲を生徒逹に囲まれた状況だ。万が一口を滑らせないとも限らない。いや、面白半分に情報をばら蒔くかもしれない。

 

何故。何故今なのだ。

 

―――一体何を企んでやがる。

 

彼の脳裏で、束がニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『―――どォいうコトだ。学園在籍中の接触はしねェっつー話じゃなかったのか』

 

『……私からはなんとも申し上げられません。束様に直接お訊きになってはいかがでしょう』

 

『逆に訊くがオマエ、あの女が俺の質問に素直に答えてくれるとでも思ってンのか』

 

更衣室で水着に着替えながら、個人間秘匿回線を繋いだ一方通行はクロエを問い詰めていた。常に束の側にいる彼女なら、今回のことについて何か知っているだろうと考えたからだ。しかし、束から口外しないよう厳命されているのか口を割ろうとはしなかった。

 

一方通行の心に苛立ちが募る。

 

『……、まァいい。アイツに伝言だ。もしフザけた真似しやがったら躊躇なく叩き潰す、って委細漏れなく伝えとけ』

 

『……わかりました。ですが透夜さん、今回の件―――ザッ、―――もしもしあっくん? 久し振りだねぇ! さっきは熱烈な歓迎をどうもありがとう!』

 

『っ、束……!』

 

クロエの穏やかな声に一瞬ノイズが走り、次いで口調も声音も全く別の―――篠ノ之束のものに変化した。どうや個人間秘匿回線をハックされたらしい。何故、とは思わない。ISは束が造り出したものだ。自らの作品を操ることに何の不自由があろうか。

 

『くーちゃんに訊いたって無駄無駄無駄無駄ァ! ってヤツさ。何せ私の言い付けはちゃーんと守ってくれるからね、えっへん! なんて素直でかわいい子なんだろうね』

 

『……テメェ、今度は一体何を企んでやがる?』

 

声のトーンが一段階落ちた。

 

前回のように無人機を送り込んでくるわけでもなく、束本人が自分から足を運ぶ。そのことが一体何を意味するのかを想像するのは容易い。間違いなく、混乱が起きる。

 

『企むだなんてひどいなぁ。この束さんの体は隅から隅まで真っ白だぜ? 外出しないし。あれ? そういう話じゃないか。ま、いいや。とにかくねぇ、あっくん?』

 

回線の向こうで、束があの人を食ったような笑みを浮かべるのが想像できた。

 

今回の主役は君じゃない(・・・・・・・・・・・)。何せ、そういう台本だからね。……ま、君次第で配役が変わるかもしれないけど、少なくとも君をどうこうしようなんてことはないよん』

 

『信じると思うか』

 

『別に。それこそ君の勝手だよ。そんじゃ、臨海学校楽しみなよ! ばいびー!』

 

それを最後に、通信は沈黙した。

 

忌々しそうに舌打ちをするとISを待機状態に戻し、制服をロッカーに叩き込んで乱雑に扉を閉めた。そうしてから、一方通行は自分が必要以上に苛立っている事に気が付いた。

 

束が自分の情報を漏らすことを恐れている? それもある。面倒を起こすであろうことに怒っている? それもあるだろう。だがしかし、彼が心から恐れているのは『自分のせいで他人が傷付くこと』だ。周囲への被害を懸念しすぎるあまりに、神経質になっているのだろう。

 

一度大きく息を吐き、肩の力を抜く。

 

ロッカーに鍵をかけ、更衣室を後にする。

 

砂浜に出ると、真夏の陽光に熱された砂が容赦なく足裏を灼いた。一瞬顔をしかめたものの、必要量以上の熱を反射することによって事なきを得た。既に大勢の女子逹がはしゃぎ回っており、カラフルな水着が浜辺に彩りを添えている。

 

すると、ちょうど一方通行と同じタイミングで更衣室から数名の女子が姿を見せた。何やら慌てている様子だ。

 

「ちょ、ちょっとアコ! あんたオイルも無しに浜辺なんて出たら死ぬわよ!? 奈々子、捕まえて!」

 

「ほいさー。はーいアコちゃん、おとなしくしててねー? 大丈夫だよー痛くないよー? すぐ終わるからねー」

 

「や、やめてください! セッテさんもしゅーちゃんも、そうやって私を騙して酷いことをするつもりなんですね!? エ〇同人みたいに! エ〇同人みたいに!!」

 

「公衆の面前で何を口走ってんのよアンタ!?」

 

駄々をこねる一人の女子を残り二人が無理矢理更衣室へ連れ戻す。数秒後、艶っぽい悲鳴が盛大に響き渡った。何も見なかったことにして視線を戻すと、何故か今度は自分が注目を浴びているらしい。

 

一方通行は能力の影響で外部刺激が極端に少なく、そのせいでホルモンバランスが崩れている。筋肉や脂肪も最低限なうえに肉がつきにくい体質のため、非常に細身の体型なのだ。

 

しかし、授業内で筋力増強のトレーニングを行ったり(能力の補助付きではあるが)、栄養バランスの取れた食事や規則正しい生活を強いられた結果、うっすらとだが筋肉質な体になってきていたのだった。加えて紫外線の反射によってアルビノの如く白くなった肌は、ともすれば女子逹の理想の肌。

 

様々な点で、注目の的だった。

 

「あ、鈴科くんだー!」

 

「お肌真っ白、羨ましいなぁ」

 

「ねぇねぇ、後でビーチバレーしようよー!」

 

「このクソ暑い中動きたくねェ。他ァ当たれ」

 

「えぇー!? 鈴科くんのいけずー!」

 

群がってくる女子を適当にあしらっていると、見慣れた金髪が目に入った。簡易的なビーチパラソルの下でサンオイルを塗っているようだ。何でもいいから日陰に入りたかった一方通行からすれば幸いだった。

 

「オルコット」

 

「透夜さん。来てくださったのですね」

 

「来ただけだ。泳ぐつもりはねェよ」

 

あら残念、とふんわり笑うセシリアの水着は、青一色で統一されたホルターネックのビキニタイプ。胸元と首、腰の両サイドをリボンで結ぶもので、パレオを巻いているものの露出度はそれなりに高い。

 

豊かな胸のふくらみに、きゅっとくびれた腰。柔らかなラインを描くヒップから伸びる、すらりとした脚線美。バランスの取れたプロポーションは、なるほどモデルを勤めるだけのことはあると思わせずにはいられない。

 

「い、如何でしょうか? 時間がなくてお見せできなかったものですから……」

 

「……まァ、いいンじゃねェの? 似合ってると思うぜ」

 

恥じらうような上目遣いでそう訊ねられても、服に疎い一方通行はそんな月並みな賛辞しか送ることができなかった。……ともあれ、言われた本人が喜んでいるのだから結果オーライである。

 

「師匠! 師匠ー!」

 

「……聞こえてンだよ大声で師匠師匠連呼すンじゃねェ埋めるぞテメェ!」

 

「痛っ!? な、何をするのだ!」

 

小走りで近寄ってきたラウラの脳天に、割と強めのチョップを落とした。突然の不意打ちに頭を押さえて、涙目で抗議の視線を送ってくるラウラ。

 

「ま、まあまあ落ち着いてよ鈴科くん。ラウラは鈴科くんに水着を見せたかっただけなんだってば」

 

「あ?」

 

遅れてやってきたシャルルが苦笑しながらそう付け加えた。そんな彼女の水着はオレンジのスポーティなビキニ。これもまたリボンで結ぶタイプのものだが、セシリアより若干露出が少ないか。そして、

 

「どうだ師匠、似合っているか?」

 

ふふん、と自慢げに胸を張ってみせるラウラは、一見すると下着に見えなくもない黒一色の水着を身に纏っていた。所々にフリルがあしらわれ、そのままではボリューム不足が否めない胸のふくらみを上手く隠している。よく見れば、無造作に伸ばされていた銀髪もツインテールになっていた。

 

「髪は僕がやってあげたんだよ。そのままでも十分綺麗だったんだけど、折角だから、ね?」

 

「だ、そうだ」

 

「……まァ、いいンじゃねェの? 似合ってると思うぜ」

 

「透夜さん……」

 

セシリアが半眼で微妙な視線を送ってきていたが、一方通行は無言で視線を逸らした。それ以外の賛辞が思い浮かばなかったとかではない。決して。

 

「あれ、皆揃ってどうしたんだ?」

 

「あんたらねぇ、海来たんなら泳ぎなさいよ。それか遊びなさいよ。ってなわけで遊ぶわよ! 人数もちょうどいいしバレーでいいわね」

 

そこへ一夏と鈴音も登場。鈴音はその手にバレーボールを抱えており、最初からその気であったことを隠そうともしていない。レンタルしてきたポールとネットを立て、適当にコートを描く。

 

「んじゃチームは俺と鈴とシャル、鈴科とセシリアとラウラでいいか」

 

「決まりですわね。それでは―――」

 

「待て」

 

制止の声がかかった。

 

全員の視線が声を上げた人物へと集中する。五人分の視線を一身に集めた人物、一方通行は眉根を寄せて顔を顰めた。

 

「いや…………、俺もやンのか?」

 

「そりゃ勿論」

 

「当たり前でしょ?」

 

「当然だろう」

 

「勿論」

 

「ご一緒していただけると嬉しいのですが……」

 

一夏、鈴音、ラウラ、シャルロット、セシリアの一斉射撃である。一方通行の目元がひくっ、と引き攣った。が、そこは流石の精神力で平静を装う―――

 

「まさか師匠……運動、出来ないのか?」

 

「ボール寄越せ。叩き潰してやる」

 

真夏の砂浜で、日独英対日中仏の大戦が開幕したのだった。

 

 

 

 

 


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