Infinite Stratos 学園都市最強は蒼空を翔る   作:パラベラム弾

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何番煎じかもわかりませんがとにかく始まります。


序章
天才と天災


とある薄暗い研究室の一角で、一つの影が忙しなく動き回っていた。

 

巨大な金属の塊に向かい片手の指の間に挟んだ様々な工具を繰りつつも、もう片方の指は空間に浮かび上がったディスプレイのキーボードを超高速でタイピングしている。

 

その驚異的な速度もさることながら、プログラミングしている内容もまた一般人では理解出来ないような高度なものである。しかし、それを行っている張本人はあろうことか鼻歌混じりに作業を進めていた。

 

凡人が幾ら努力しようとも手に入れることのできない文字通り神の如き頭脳。その思想を実現させることができる、数多の技術者を鼻で笑うどころか眼中にすら入れないほどの技術力。その二つを併せ持って生まれてきたからこそなし得る業であった。

 

「うんうん、理論上では成功するって結果も出てるし、ISの技術を流用すれば余裕だよね余裕。この私に出来ないことなんてないのさっ!」

 

 

 

IS(アイエス)

 

 

 

それは、この世界最強の兵器にして世界最高の技術の結晶であるマルチフォームスーツ―――正式名『インフィニット・ストラトス』の呼称である。

 

その存在が全世界に露見してから、その凄まじい戦闘力や機動力に目をつけた各国が挙ってその開発者を追った。しかし、その開発者は行方を巧妙に眩まし、足跡ひとつも掴ませなかった。

 

何故、世界を激震させるほどの開発をしておきながらそうまでして世間から身を隠すのか。それを本人に訊ねたら恐らくこう答えるだろう―――『五月蝿いし邪魔だし面倒臭いから』と。

 

確かに、たった一機で戦局をひっくり返す程の戦闘力を持つIS、その開発者を手中におさめ、有用に使いたいという気持ちは理解できよう。だが、如何せん相手が悪かった。

 

本人曰く細胞レベルでオーバースペックである上に、そもそも他人と関わることを嫌っているのだから仕方ない。強行手段に出ようにも居場所すら掴めておらず、執拗にメールを送り付けてもウイルス付きで返信されてくる。

 

それでもコンタクトを取ることを諦めてない各国の政府は流石と言うべきなのか、それとも唯の学習しない馬鹿と呼んでやるべきなのか。

 

 

 

「―――うん。出来た♪」

 

 

 

ッターン、と、軽い音を立ててenterキーを弾く。直後、表示されていたウィンドウが一斉に閉じ、代わりに『The program was completed』の文字が表示された。

 

「後はここをこうして微調整。あれをあーして……ほいしゅーりょー」

 

ふぃー、と額の汗をぬぐう動作をするが、実際は汗の一滴もかいてはいない。この程度の作業など片手間で完遂できる、ということだろう。

 

「あーやっぱ(たばね)さんは天才だね! ふと思い付いたものを三日で完成させるなんて」

 

自らのことを『束』と呼んだ女性。

 

睡眠不足による隈を目の下につくり、腰まで届く薄紫の髪は伸ばし放題。童話の少女が着るような水色のドレスのような服を身に纏い、それを内側から押し上げる豊満な胸部装甲。極めつけは、頭の上に乗っているウサギの耳を模した機械。

 

現実味のないアンバランスな格好だが、本人の容姿が標準を大きく上回っているため特に気にならないのは不思議なものである。

 

「さてさて、誰が飛んでくるのかは束さんにもわからないから楽しみだよね。飛ばされた人にはご愁傷さま、とでも言っておこうかな♪」

 

心底楽しげな声音で何やら呟きながら、その装置の起動スイッチを押し込んだ。低い音を響かせながら光を発生させていくその光景を眺める女性。

 

 

 

彼女の名は篠ノ之(しののの)(たばね)―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ISの産みの親にして、世紀の天災科学者である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ビルとビルの隙間に生まれた、不良学生御用達の路地裏。まだ昼間だというのに薄暗く、そこはかとなく不気味な雰囲気を醸し出している。

 

別段命の危険がすぐそこに潜んでいる訳ではないし、入ったらダメだと言われているわけでもないが、好き好んで入っていく者は少ないだろう。

 

『少ない』ということは、入っていく例外もいるということ、だが。

 

人の多い大通りから路地裏へと足を踏み入れ、右に左に幾度も曲がり、更に奥まった通路を進む。そうなるともう完全に大通りの喧騒は消え、人の目も全くと言っていいほどない。

 

逆に言えば、路地裏からの音は大通りへは届かないし何かをしても見つかる可能性が低い、ということになる。

 

「ひっ、た、助けてくれっ……!」

 

そう、例えばこんな光景でも。

 

大柄な複数の少年が手に手にナイフやバット、警棒などを持って一人の少年を囲んでいる。対して囲まれている少年の手には何も無い。どちらが強者か、言うまでもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――無論、囲まれている少年が『強者』である。

 

 

 

確かに、囲んでいる少年達は武器を手にしていた。しかし、地面に倒れ付し呻き声を上げている状態でそれがなんになるというのか。先の助けを求める声も、残り一人となった不良の情けない命乞いである。

 

(……ン、終わったか)

 

最後の一人が戦意を喪失したのを感じ、囲まれていた少年はスタスタと歩き出す。ついでに不良を弾き飛ばして気絶させながら。

 

戦闘中―――勝手に挑んで勝手に自滅していったものが戦闘と呼べるのかは甚だ疑問だが―――ずっと閉じていた目を開く。血液をぶちまけたような赤い瞳。そして、それと対を成すかのような白い髪。

 

「しっかしまァ……毎日毎日よく飽きねェよなこのスキルアウト(バカ)ども。何億回やろォが結果は同じっつゥのがわかンねェのか?」

 

独り言のようにそうぼやく。

 

彼がこのように襲撃を受けるのは、これが初めてではない。何回も何回も、それこそ数えることすら億劫になるほど挑んできては、後ろで延びている少年達と同じ末路を辿っている。

 

そして―――彼が溢した『スキルアウト』という言葉。それが、連日彼を襲いに来ている少年達の総称だ。

 

『この街』では、特殊なカリキュラムと薬品の補助を受けて、事象に何らかの影響を及ぼすことのできる人間を育てている。育てている、と言えば聞こえはいいが、その裏では黒い陰謀が渦巻いているという話は珍しくもない。

 

そうして、見事そのチカラを開花させた者達を『能力者』と呼ぶ。無論能力に強弱はあるし、得意不得意もある。それらを0~5までのレベルで括っているのだが。

 

たった数度の『能力検査』で低いレベルの判定を受けたからといって、自分の能力を見限る馬鹿が大勢いる。毎日たゆまぬ努力を行えば、決して届かないとも限らない『超能力者(レベル5)』という栄光。

 

事実、そうして『超能力者』まで登り詰めた人間が一人、この街にはいるのだから。

 

 

 

 

 

―――しかし、才能のみで『超能力者』の座に就いている者も、いる。

 

 

 

 

そんな者を、無能と自分で決めつけたスキルアウトが妬み、羨望し、自身が上だと証明したがるのは必然なのか、それとも唯の馬鹿と呼んでやるべきなのか。どちらにせよ、少し能力が使える程度の能力者が『超能力者』に勝てる道理は無いのだが。

 

その超能力者達の中にも、序列というものはある。超能力者クラスになれば、そのチカラは能力の域を超えて軍事的、経済的な利用へと転換可能だ。その点を踏まえての『序列』なのだが―――

 

先に述べた、努力の結果『超能力者』まで登り詰めた少女の序列は『第三位』。

 

その上に、更に二人の超能力者が鎮座している。

 

しかし、超能力者序列『第一位』『第二位』と『第三位』との間には、大きく開いた差がある。その差は、努力しようとも決して埋められない程の差。文字通り『次元が違う』のだ。

 

そして、序列第一位を冠する者は、畏怖と尊敬を込めて『最強』と呼ばれる。

 

「……まァ、最強ってのも案外つまンねェモンだがな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

そう小さく呟き、路地裏を抜ける少年。

 

 

白き少年の名は一方通行(アクセラレータ)―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

科学の街、学園都市最強の超能力者(レベル5)である。

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

スキルアウトの襲撃をいつも通り無視し、コンビニへと立ち寄り好みの銘柄の缶コーヒーを大量に買い込む。一方通行には、気に入ったコーヒーならば水のようにがぶ飲みし、一週間もしないうちに飽きてまた別の銘柄を探す、という癖がある。

 

コンビニのレジ袋を内側から押している大量の缶コーヒーを片手に、自分が暮らす学生寮へと帰るべく足を踏み出した瞬間だった。

 

「一方通行、だね?」

 

唐突にかけられた声。首だけ振り向けば、そこには黒いスーツにサングラスをかけた、『いかにも』な男が立っていた。一方通行はため息を吐くと、心底面倒くさそうな表情を浮かべて口を開いた。

 

「で、テメェは何処の研究所の所属だ。俺と関係持とうとする奴等なンざ能力の研究が目的か、おこぼれに預かろうとか考えてる馬鹿どもだろォが」

 

「話が早いね。察しの通り、私は―――」

 

「興味ねェな。サッサと消えろ」

 

名乗りを聞くまでもなく、一蹴して踵を返す一方通行。こういうのは話を聞かず、早急に切り捨てるのが得策だ。そもそも自分と話がしたいのなら責任者直々に出張ってこいというものだ。

 

しかし、彼の歩みは一歩目で止まることとなる。

 

「『最強』のその先に……興味はないかね?」

 

「……、何?」

 

「キミは現在『学園都市最強』などと呼ばれているそうだが、その最強は無能なスキルアウト達が気軽に挑める程度のものでしかない。先程も絡まれていたようだが……この先もそんなことを延々と繰り返すのかね?」

 

一方通行は黙して語らない。しかし、その赤い瞳には思案の色が見てとれた。黒服の男は続ける。

 

「『最強』から『絶対』へと昇華すれば、その退屈な日々も変わると思うが……我々の計画に乗る気はないか、一方通行」

 

最強の、その先。

 

手に入れたこの『最強』の称号も、今や意味を持たない唯の飾りだ。

 

 

 

―――チカラを手にすれば、誰も傷つけることはないと思っていた。そう信じていた。

 

 

 

しかし、現実は違った。

 

『最強』程度では駄目だった。

 

 

 

 

 

 

―――ならば。最強を超える『絶対』のチカラならば。

 

 

 

挑もうと思うことすら許されない程の、絶対になれば。

 

 

 

もう、誰も―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………、俺は―――」

 

何かを決意した瞳で、言葉を紡ごうとする一方通行。

 

しかし、次の句が告げられることはなかった。

 

突如発生した光が彼を包み、一瞬で収まる。光が消えた後には―――誰もいなかった。

 

「は…………?」

 

残されたのは、呆けた声を上げる黒服のみ。

 

 

 

 

 

 

 

この返答をしなかったことが、一方通行を救ったということは―――誰も預かり知らぬ事である。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

―――篠ノ之束が初めて一方通行を見たときの感想と、一方通行が初めて篠ノ之束を見たときの感想は一言一句違わなかった。

 

束は頭部にウサギの耳を模した機械を乗せている。

 

一方通行は白い髪に赤い瞳。

 

((…………兎?))

 

どっちもどっちである。

 

そうして、最初に動き出したのは束だった。

 

「はじめましてかな別の世界の誰かさん。日本語しゃべれるー? 言葉わかる? どぅーゆーあんだすたん?」

 

「……誰だオマエ」

 

「ほうほう日本人だね。しかも声からして男性! 丁度よかった、ちょっとやってもらいたいことがあるから待っててね!」

 

そう言い残し、束はどこかへと引っ込んでいった。残されたのは、恐らく人生で一番混乱しているであろう一方通行。表情にこそ出してはいないが内心は焦っていたりする。

 

(なンだ。一体何が起こった? 反射は展開してたっつーのに何故空間転移の能力を喰らった。……やったのはあの兎か?)

 

彼の持つ能力は、名前と同じ『一方通行』。自身の肌に触れたあらゆるベクトルを変換できる能力だ。簡単なものであれば、攻撃のベクトルを反対に変換すれば攻撃を放った相手に攻撃が向かう、という仕組みだ。

 

それは、11次元演算による空間転移による干渉も例外ではない。もっとも、空間転移を反射するというのは言葉で書いても意味不明であるし、彼とて距離をものともせずしっぺ返し……なんていう芸当はできない。

 

しかし、だからといって空間転移で彼を動かせるわけでもないのだが。

 

(物理攻撃なら問題ねェが……一応、警戒だけはしとくか)

 

改めて反射を設定し直した彼は、ぐるりと周囲を見渡してみる。

 

雑多な部屋だった。

 

見たところ研究室か何かなのだろう、用途がわからない大きな機械がところ狭しと立ち並んでおり、目を引くのは升目状に区切られた無数のディスプレイ。

 

一人ですべてを操るのは不可能な気もするが、と思いながらディスプレイの一つへと目を向けた。そこには少し背が高めの、黒髪をポニーテールに括った少女が写っていた。

 

しかし、なぜかそれはかなり高めの角度からの撮影らしく女性が撮影に気付いている様子はない。だとすると監視衛星だろうか。他のディスプレイも同じく、高角度からの映像。

 

……何者なのだろうか、あの兎は。

 

「おーまーたーせっ! これが『IS』。私が発明したマルチフォームスーツだよ」

 

先程の女の声に、ディスプレイから視線を戻す。女が押している台座の上には、重厚な金属の輝きを放つ鋼の塊が鎮座していた。

 

それを楽々と押してくる女も大概だが、彼の視線はその『IS』に向いていた。学園都市でも似たようなパワードスーツを見かけたことはあるが、あれはもっと小さくシャープなフォルムだった。

 

対してこれはかなり大きく、翼のようなものまで付属されている。

 

「いろいろ質問したいことがあるだろうけど、それには後から答えてあげる。でも条件が一つあるよ。キミにはこのIS―――インフィニット・ストラトスを起動してもらいたいんだよね。でも、ISってのは素質のある人しか乗れない。一応触るだけで起動処理は勝手にやってくれるけど、人によっては起動しないこともある(・・・・・・・・・・・・・・・・)。だから、キミが見事このISを起動させることができたら、キミの質問には包み隠さず答えてあげるよ」

 

「……一つだけ訊かせろ。『別の世界』ってなァどォいうこった?」

 

「言ったでしょ。質疑応答は、ISを動かしてからだよ」

 

「チッ。……触るだけでイイのか?」

 

「うん。それだけでキミに素質があるかどうかわかるから」

 

と、どこか黒い笑みを浮かべてそう言う兎。

 

何やら裏がありそうだが、罠だとしても彼には意味がない。スタスタとISに近付き―――手を、触れた。

 

瞬間、頭の中に様々な情報が流れ込んでくる。

 

 

 

皮膜装甲展開(スキンバリアオープン)―――完了』

 

 

 

 

推進機(スラスター)正常作動―――確認』

 

 

 

 

『ハイパーセンサー最適化―――終了』

 

 

 

『起動処理、完了。コアNo.051、起動します』

 

 

 

 

 

 

「……ン、おォ」

 

これが起動させた恩恵なのか、視野がぐんと広がり、得られる情報の量が跳ね上がった感覚を覚える。ひとまず、これで起動させたということでいいのだろう。情報を聞き出さねば。

 

「オイ、起動ってこれでいいンだな? なら―――」

 

振り向いた彼は、ウサギの顔を見て若干のけぞった。

 

幽霊でも見たかのような視線でこちらを見つめ、口は半開き。

 

数度口をパクパクさせた後―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんで動かせるのぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおお!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――これが、天才と天災のファーストコンタクトだった。

 

 

 




如何でしたか?
感想などでアドバイスをくださると嬉しいです。


世界を超えて転移

束さんパネェ。



一方通行がISを起動

テンプレ乙。




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