千冬さんはラスボスか   作:もけ

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戦闘シーンが丸々書き直しなのでちょっと大変でした。
バトル描写苦手なので、楽しめるものになっていればいいのですが。
とりあえず頑張って盛り込んでみました。


クラス対抗戦

「初戦で当たるとはね」

「万全の態勢で戦えるってのは願ったり叶ったりじゃない」

 

 クラス対抗戦当日。

 

 今、僕は鈴と大型モニターに映し出されたトーナメント表を見ている。

 

 ちなみに左から1組、2組と8組まで順番通りだ。

 

 まぁ入学したてじゃ戦力差が未知数で仕方がないんだろう。

 

 早々に専用機持ちが当たったことについて穿った見方をすれば、鈴が言ったように全力同士のデータを取るためというのもあるのかもしれない。

 

「それで秘密特訓は上手くいったの?」

「うん、形にはなったよ。期待してて」

「ふん、こっちにも隠し玉があるんだから。見てなさい」

 

 挑戦的な笑みを浮かべ、八重歯が覗く。

 

 その楽しそうな表情に、もう一つの楽しみなことを思い出し

 

「鈴」

 

 耳元に顔を近付け

 

「デート、楽しみだね」

 

 囁くと、鈴の顔が若干赤くなり

 

「そ、そうね」

 

 モジモジし始める。

 

「行きたいとこ決まった?」

「う、うん。あんたは?」

「僕も決まってる」

「そ、そう。でも、絶対勝ってアタシの行きたい所に連れて行くわ」

「僕だって負けないよ」

 

 視線を絡ませるが

 

「「ぷっ」」

 

 同時に吹き出してしまう。

 

 緊張感はあまりないけど、適度にリラックス出来てるな。

 

「よろしくね、鈴」

「えぇ、いい勝負をしましょ」

 

 拳を合わせて、お互いのピットへ向かう。

 

「うわ~~、凄い人」

 

 ISを纏いピットからアリーナに出ると、満員の観客席とその歓声に圧倒される。

 

「世界で唯一の男性IS操縦者と、専用機持ちの代表候補生との試合だからね。注目度満点なのよ」

「鈴」

「一夏、こんな雰囲気なんかに飲まれるんじゃないわよ」

「うん」

「アタシに集中しなさい」

「了解」

 

 呼吸を意図的に深くしていき、雑念を一つ一つ消していく。

 

 考える事は目の前の鈴の事だけ。

 

 その一挙手一投足に意識を集中する。

 

「それでは両者、試合を開始してください」

 

 そして試合開始のブザーがアリーナに鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 僕はISの戦闘に関しては、まだまだずぶの素人だ。

 

 でもそれがイコールで戦う事に対して素人と言うわけではない。

 

 なぜなら僕には生身での戦闘経験があるからだ。

 

 僕が学んできたものは、広義では合気道に含まれるがその実は古武術であり、スポーツと化したものでも道を説くものでもなく、純然たる戦う力だ。

 

 その継承には技術だけでなく知識も含まれ、その中には相手と駆け引きする術も当然ある。

 

 僕がこの戦いのために用意した手札は『イグニッションブースト』。

 

 これは分かり易く言うと奇襲技だ。

 

 そう何度も通用するものじゃない。

 

 こういう初見のみ効果を期待できる技の場合、出し所は二つ。

 

 一つは、まだエンジンの掛かり切っていない開始直後のファーストアタック。

 

 もう一つは、相手が自分の優位を信じて油断した瞬間を狙ってのカウンター。

 

 しかし後者は、前提条件として『こちらの手札が出尽くした』と相手に誤認させる必要があるため、今回は難しい。

 

 つまり、狙うは先手必勝。

 

 ただし、距離が離れていては急加速も意味がなく、動きながら発動させるには僕の練度が足りない。

 

 よって取れる選択肢は、ファーストコンタクト時に突っ込んできた相手へのカウンター。

 

 必然的に突撃技になるから、自分の武装の中で最適なのはドリルという事になる。

 

 ドリルは練習でも多く装備していた武装なので最初から展開していても警戒される心配は少ない。

 

 意図していなかった事とはいえ、都合が良かった。

 

 相手に何もさせずに一気に決めるつもりで、気持ちの上でギアを上げる。

 

「それでは両者、試合を開始してください」

 

 試合開始のブザーが鳴ると同時にショベルとドリルを展開し、待ち受ける――――――

 

 が、いきなり誤算が発生する。

 

 鈴が仕掛けて来なかったのだ。

 

 盛大に出端を挫かれた形になる。

 

 その一瞬の戸惑いが隙となり、ISのセンサーが甲龍の浮遊ユニットに異常を検知すると同時に銃口の様な部位が発光、とっさに両手でガードするが直後に襲った腹部への衝撃で吹き飛ばされる。

 

 それほど威力が高くなかったのかダメージは軽微で、すぐに体勢を立て直す。

 

「今のが」

 

 鈴の隠し玉。

 

 予想の一つではあったけど、やっぱり射撃武器か。

 

 明らかに怪しい浮遊ユニットだったもんね。

 

 セシリアのブルーティアーズみたいに動くか、肩の上にあるから砲台だとは思ってたけど、まさかあっちも開始直後を狙ってくるとか、嬉しくない所で気が合うな。

 

「今のはジャブだからね」

 

 鈴が攻撃的な笑みを浮かべ、再度、浮遊ユニットの銃口が光る。

 

「ヤバっ」

 

 初撃を見る限り、と言うか見えなかった結果から、何らかの不可視な弾丸なんだろう。

 

 ジャブって事はストレートもフックもアッパーもあるかもしれないけど、とりあえず威力はさっきのあれ以上があると思っていい。

 

 しかし弾速不明、連射速度不明、弾倉不明では分が悪い。

 

 情報を集めるために、もっと撃たせる必要がある。

 

 よって、全力で回避運動に移る。

 

 アリーナを大きく使って逃げ回っていると、地表やアリーナの壁、観客席を守るシールドに連続して着弾する音が聞こえる。

 

「見えないのによく躱すじゃない。これがアタシの隠し玉『龍砲(りゅうほう)』よ。砲身も砲弾も目に見えないのが特徴ね」

 

 鈴は一方的な状況に上機嫌で、得意気に説明してくれる。

 

 サービスいいな。

 

 ついでにスペックも教えてく――――――

 

「でもっ!!」

 

 射撃から一転、鈴が連結させた双天牙月を振り上げて突っ込んでくる。

 

 龍砲に意識が集中し過ぎて、上手く誘い込まれた。

 

「っ!!」

 

 自分の中のスイッチが切り替わる。

 

 瞬時に防御を捨て、両手の武装をキャンセル。

 

 左手を指の先まで真っ直ぐ伸ばし上段に構える。

 

 頭上からの振り下ろされる刃にその左手を合わせ、腕の側面を滑らせると同時に右足を前に出して体を斜に、その流れのまま右手の手刀で鈴の握りを打ち据え、さらに回転するままに左の肘をバックブローの要領で鈴の顎を刈り取る。

 

 とっさに出たのは体に染みついた古武術『柳流』の動き。

 

 普通なら武器の握りを打ち据えるまでで終わりだろう所を、うちではもう一歩踏み込み意識を刈り取る所までやる。

 

 スポーツではない、人の道を説くものでもない、試合は死合。

 

 殺るか殺られるか。

 

 降参した振りをして、後ろを向いた所を斬られるかもしれない。

 

 そういう世界で培われてきた武術。

 

 でも、これは生身ではなくIS戦。

 

 最後の肘は鈴の顎に触れるギリギリの所で絶対防御によって阻まれる。

 

 それは僕の感覚として『防がれ、意識を刈り取れなかった』として脳に情報が送られる。

 

 ――――――危険、危険、危険。

 

 フィニッシュが防がれたのだ。

 

 それは最大級の危機を意味する。

 

 ――――――追撃を。

 

 引くよりも防ぐよりも早くさらなる一撃を。

 

 振り切った左の肘、体が流れない様に踏ん張った左足、右手のパンチでは体重が乗らない。

 

 考えるよりも早く体が動く。

 

 左足を軸に、右肩をその前に倒し、打ち下ろす様に右足で蹴りを放つ。

 

 自分の顔は下を向いているが、360度が視認できるハイパーセンサーと意識が相手に固定されているせいで、蹴りが相手の首にヒットし吹き飛ばしたのが見えた。

 

 蹴られた黒と紫の機体は、そのままアリーナのシールドに衝突し、バウンドして地面に落ちる。

 

 それを認識した所でようやく思考が戻ってきて、一息つく。

 

 と、唐突に自分のISが発光し出した。

 

「な、なにっ!?」

 

 いきなりの事に驚いていると、目の前にウインドウが開かれる。

 

『ファーストシフトを実行しますか』

 

 正直、

 

「あぁ~~、すっかり忘れてた」

 

 と言うのが本音だ。

 

 これは、柳流を使った事で僕本来の動きを認識したって事なのかな?

 

 とりあえず、これは喜ばしい事なので特に悩まず実行を押す。

 

 直後、視界が光に包まれ――――――

 

 後方で、アリーナを揺るがす程の爆発が起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうもうと噴き上がる黒煙。

 

 ざわめく観客席。

 

「僕のせいじゃない……よね?」

 

 呆気にとられるが、とりあえず合流しようと鈴の所まで飛び、立ち上がるのに手を貸す。

 

「大丈夫? 鈴」

「うん。でも、何があったの……って、一夏。あんたその格好は」

「あぁ、今さっきようやくファーストシフトしたんだよ」

「あんた今まで初期状態だったのっ!?」

「うん、お恥ずかしながら」

 

 キュクロープスは、太い手足は変わらないがラインがよりシャープになり動きやすく、かつ洗練された印象を受ける。

 

 そして、白い全身装甲は顕在。

 

 それに気付いて、頭部のみ装甲をパージする。

 

 その直後、オープンチャンネルから姉さんの切羽詰まった声が流れた。

 

「試合中止っ!! 織斑、鳳、ただちに退避しろっ!!」

 

 同時に非常事態のアラームが鳴り響き、アリーナ中が騒然とするが、観客席を守るために下ろされた隔壁によりフィールドには静寂が戻る。

 

「何が起こって」

 

 状況が掴めず判断ができない。

 

「一夏、すぐピットに戻ってっ!!」

「鈴」

 

 続いてISからも警告音。

 

『ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています』

「ロックされている? 敵……なのか」

 

 煙が薄くなり、相手の姿が徐々に見えてくる。

 

 キュクロープスとは真逆の黒い全身装甲。

 

 地面まで届く長い腕。

 

 胴回りはあろうかという強大な手。

 

 そして頭部には赤く光る目が5つ。

 

 その目が一段と輝きを増すと同時に腕が持ち上げられ、砲門がこちらを向く。

 

「一夏っ!!」

「分かってるっ!!」

 

 極太のビームを左右に飛び退き回避する。

 

 ビームの着弾したアリーナ壁面は、溶解し丸い穴が空く。

 

「あっちはやる気満々のようね」

「そのようだね」

 

 威力は高いが連射性の悪いビームを観客席に被弾しない様に上空に上がり回避していると

 

「織斑くん、鳳さん、今すぐアリーナから脱出してくださいっ!! すぐに先生達がISで制圧に行きます」

 

 真耶先生から通信が入った。

 

 一旦敵ISと距離を取る。

 

「真耶先生、この状況で無理言わないでください。もう戦闘に入ってるんですよ。先生達が来るまで継続します」

「でもっ」

「それに避難が終わるまで、あいつを引き付けておかないと」

「それはそうですがっ」

「織斑、鳳、やれるか?」

 

 割って入ってきた姉さんの声に、

 

「「はいっ」」

 

 声を揃えて答える。 

 

「一夏っ!!」

「一夏さんっ!!」

 

 後ろで真耶先生の「きゃっ」と言う悲鳴が小さく聞こえた辺り、マイクを奪い取ったと思われる二人。

 

「箒ちゃんにセシリア? 織斑先生、そこにいるならセシリアに増援をお願いできませんか」

「無理だな」

「なぜですのっ!!」

「今確認したところ、アリーナの遮断シールドがレベル4になってしまっていて侵入も退避もできなくなってしまっています。その上、アリーナ内の扉もなぜか全てロックされていて観客の避難も進んでいません」

「そんな……」

「それって、あいつの仕業ってことですか?」

「……………………そのようだ」

 

 ん? 今、何かタメがあったような。

 

「現在3年の精鋭がシステムクラックを実行中だが、いつになるか分からん。最悪、増援はないものと思え」

「「了解」」

 

 厳しいけど、やるしかない。

 

「一夏、やるわよ」

「おう」

 

 敵はアリーナのシールドを破るほどの攻撃力を持っている。

 

 ここで僕らが抜かれたらどんな被害が出るか分からない。

 

 学園の仲間が、クラスメイトが、友達が、姉さんが危ない。

 

 なんとしても、ここで仕留める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、アタシが龍砲で牽制するわ。その間に突っ込みなさい」

「了解」

 

 試合では使わないと決めていたステルス機能を全開で発動する。

 

「え、あ、一夏?」

「大丈夫。ちゃんといるよ。姿を隠してるだけだから。これで隙を突く」

「便利な機能ね。アタシの甲龍にも付けてくれないかしら」

 

 その軽口を皮切りに鈴の龍砲が火を噴く。

 

 ステルス機能は大きく分けて二つからなっている。

 

 レーダー等観測機器を誤魔化すジャミング機能と、直接の視認を誤魔化す光学迷彩機能。

 

 これで敵ISはキュクロープスを認識できなくなる。

 

 ただし、光学迷彩も装甲が立体である以上完璧に姿を誤魔化す事は出来ず、意識して目を凝らして見れば景色との違和感に気付くだろう。

 

 ただしそれを戦闘中に、しかも2対1で片方から射撃を受けながら実行するのは難しい。

 

 今回はそこを突く。

 

 鈴と敵ISが射撃戦を行っている間に全体を俯瞰(ふかん)できる位置、さらに高い位置に陣取る。

 

 単一の色彩と無限遠の奥行を持った青空がバックなら光学迷彩の効果を最大限に発揮できる。

 

 ハンマーを構え、強襲ポイントを決めておき、敵が入った所でハンマーを打ち下ろ――――――

 

「がっ!?」

 

 

 振りがぶってがら空きになっていた腹部に強烈な衝撃が走る。

 

 次いで、背中への衝撃。

 

 機体制御も出来ずにアリーナのシールド壁面に叩きつけられた。

 

 エネルギーゲージが目減りしていく機械音が頭に響く。

 

「な、なんで……」

 

 あのタイミングで目が合うなんて。

 

「一夏っ!?」

「だ、大丈夫」

 

 通信ウインドウで繋がっている鈴は、敵ISの挙動と合わせて、僕の声と表情で異変を感じてくれたみたいだ。

 

 鈴の声のおかげで少し冷静になれた。

 

 信じられないけど、起きた事実は変わらない。

 

 確かにハンマーを振り下ろそうとした瞬間、こちらを振り向いた敵ISの赤い瞳と目が合った。

 

 ステルス機能を確認するけど、今もそれは十全に働いている。

 

 どういう事だ。

 

 いや、どういう事も何も、相手は鈴との戦闘をこなしながらキュクロープスの動きにも意識を割いていたのだ。

 

 いや、落ち着け。

 

 ジャミング機能の方が破られている可能性も……束さんお手製のものがそんなに簡単に崩せる? 悪い冗談だ。

 

 それなら見えていたと考える方が可能性が高い。

 

 迎撃された事から、相手は意識を分割して鈴と僕を同時に対応できるとしよう。

 

 意味はないかもしれないけど、少しでも相手の負担になればとステルス機能は維持する。

 

 でも、見えないキュクロープスで近接戦を仕掛け、鈴との連携を取るのは難しい。

 

 なら、

 

「鈴、今から下で爆発を起こして敵の注意を逸らした隙にワイヤーブレードで絡め取る」

「了解。こっちもフェイト入れるわ」

「カウント、5、4、3、2、1、」

 

 爆音と共に、炎と煙が地表を覆う。

 

 ワイヤーブレード射出。

 

 鈴の牽制ではない、タメを使った一撃が敵ISを襲う。

 

 意識を逸らす事に成功したのか、回避ではなく腕をクロスしてのガードを選択した敵ISは、威力に圧され上半身を仰け反らせながら後方に吹き飛ばされる。

 

 その両足にブレードが刺さり、ワイヤーで絡め取って地面に叩き付ける。

 

 ――――――追撃を。

 

 両手に巨大なカニのハサミを連想させるガジラカッターを展開。

 

 うつ伏せで倒れている敵IS、操縦者の首の付け根を踏みつけ、強度が落ちる関節部、肘の所を挟み込む。

 

 装甲の表面で強い抵抗を感じるが、切断力に特化したガジラカッターはものともせず一気に切断。

 

 切断面から軽い爆発が起こり、壊れた玩具の様にボディが跳ねるが、スラスターを上向きに放出する事で押さえつける。

 

 全身装甲と言ってもボディからは操縦者の体格は見て取れ、そこから計算して異様に腕の長い敵ISの肘の部分には生身がないだろうと確信しての切断だったので、この反応は機械的なものだろう。

 

 そもそも切断できたのがその証拠。

 

 もし生身部分があったなら、絶対防御が働いていただろうからだ。

 

 鈴との戦闘を見る限り、敵ISの武装は手の甲にあった大型の砲門と、両肩の小型の砲門。

 

 後はその長い腕を振り回すくらいだったので、これで残るは肩口の砲門のみ。

 

 潰しておきたいが、仰向けにした瞬間に撃ってくるかもしれない。

 

 一人では無理か。

 

 ステルス機能を解除して、武装をチェンジする。

 

「鈴」

 

 離れた位置から不測の事態に対応できる様に龍砲を構えてこちらを窺っていた鈴を呼ぶ。

 

「アンタ、さっきの凶悪なハサミは何よ」

「知らない? ガジラカッターって言って、解体作業に使うやつだよ」

「あぁ、テレビなんかで見た事あるかも」

「それより、こいつの肩の砲門をつぶしたいんだけど、協力して」

「了解。アタシは左をやるわ」

「オッケー。じゃあ、いくよ」

 

 腹部に蹴りを入れ仰向けになった所を鈴は連結させた双天牙月で、僕はドリルで肩を貫く。

 

 再度の小爆発。

 

 鈴はそのまま切っ先を相手の首元に突き付ける。

 

「一夏との勝負に水差してくれちゃって。さぁ、あんたの名前、所属、目的、きりきり吐いてもらうわよ」

 

 武器は潰した。

 

 足も拘束している。

 

 さすがにこれで終わりだろうと気を抜いた所で、

 

『警告。敵IS内部に高エネルギー反応。自爆の危険』

 

 突然アラートが表示される。

 

「はっ!?」

「冗談でしょっ!?」

 

 鈴にも同時に警告あった様で、二人同時に飛び退く。

 

 が、直後、視界は爆炎に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一夏、生きてる?」

「一応。鈴こそ大丈夫?」

「一応」

 

 爆発に吹き飛ばされた僕らは、アリーナの対角線上の壁に埋もれていた。

 

 エネルギー残量は……1割ちょっとか。

 

 減り具合から見て、絶対防御働いたんだな。

 

 至近で爆発に巻き込まれて生きてるとか凄いよね。

 

 これなら宇宙でも安心して活動できる。

 

 さすが束さん。

 

「織斑、鳳、大丈夫なら状況を報告しろ」

「姉さん」

「は、はい」

 

 戦闘中は邪魔しない様に切られていた管制室との通信が開く。

 

「鳳、織斑両名は敵対ISの武装を無力化。尋問を始めようとした直後、自爆されたものと思われます」

 

 鈴の初めて見る軍人の様な口調に少し驚く。

 

 でも考えてみれば、中国の代表候補生なら軍籍だろうしおかしな事はない。

 

「そうか。爆発直後、アリーナの遮断シールドと隔壁のロックが解除された。二人ともピットに帰還後、メディカルチェック。事情聴取はその後とする」

「「はい」」

 

 姉さんの事務的な口調に少し残念に思っていたら、

 

「二人とも、良くやってくれた」

 

 通信が切れる前に、そんな言葉が滑り込んできた。

 

 なんとなくウインドウ越しに鈴と目が合い、

 

「「ぷっ」」

 

 同時に吹き出して、完全に気が抜けた。

 

「さてと」

 

 いつまで埋まってても仕方ないので瓦礫から這い出し、アリーナを横断する形で鈴の方に飛んで向かおうとすると、その変わり果てた景観に自然と足が止まる。

 

 真下のクレーターは爆心地。

 

 そこから放射状に残骸が飛び散っている。

 

 そこに至って、考えていなかった自爆がもたらす結果に思考が追い付く。

 

 その一瞬で、スプラッター映画の様な映像が頭に浮かび、血の気が引き、胃からせり上がってくるものを感じる。

 

 が、見たところ赤だったり肌色だったりするものは見当たらず、黒い塊やコードや破片が散らばっているだけだった。

 

 それに安堵の息をもらしていると、いつの間にか隣りに来ていた鈴から驚きの声が上がる。

 

「そんな……ありえないわ……」

「どうしたの? 鈴」

「どうしたって、一夏。アンタ、見て分からないの。自爆したのに死体がないのよ? それって」

 

 そこまで言って言葉を止め、考え込む様にブツブツと独り言に移ってしまう。

 

「いえ、そんな事あるわけないわ。有り得ないもの。なら、どうして……。蒸発する程の熱量だった? いえ、それよりも爆発に紛れて逃走したと考える方が……」

 

 人の体が一瞬で蒸発するなんて核爆弾並みの熱量が必要だろうけど、さっきの爆発はそれ程の規模ではない。

 

 あの爆発の中、逃げおおせた?

 

 ISでも装着してない限り無理があるだろう。

 

 という事は、

 

「無人機だったって線は駄目なの?」

 

 鈴の目が見開かれる。

 

「有り得ないわ。ISは人が乗らないと動かない。それは絶対よ」

「そうだけど。でもあれがISじゃなくて、ISに似たものだったら?」

「え?」

「あの敵IS、ううん、機体は、武器は備え付けで量子変換していなかったし、切断した時や肩の砲門を潰した時も絶対防御が発動していなかった。それってISと既存の兵器を分ける特徴が出てなかったって事じゃない?」

「た、確かに」

「飛ぶのもスラスターの推進力でどうにかなるし、ビームは言わずもがな。つまりアレって、ISに使われてる部品を組み合わせて作ったロボットなんじゃないかな」

「で、でも、あれだけのエネルギーを賄える動力炉なんてないわよ」

「そこだけが問題だよね」

「ほら、無理があるじゃない」

 

 うん、そこだけしか問題がない。

 

 まぁ後は、ISに人間が乗っていると誤認させる方法なんてものがあればだけど、僕なんかには思いつかないしな。

 

「じゃあ、あの爆発の中、逃げ出したって事にしとく?」

「そうね。それが一番座りがいいわ」

 

 じゃあ、とりあえずそういう事にしておこうか。

 

 詳しい事は姉さんだったり束さんに任せておけば大丈夫だろう……し?

 

「…………あぁ、そっか」

「一夏?」

「あ、何でもない。そろそろピットに戻ろうか」

「そうね。早くシャワー浴びたいわ」

 

 後で要連絡だな。

 




死に設定が勿体ないと言うお声をいただいたので、ISに武術の動きを入れてみました。
そして読者の方にお勧めされたガジラカッターの登場っ!! 切るなら無人機かなと思って突っ込んでみました。
ファーストシフト、実はすっかり忘れてましたw
心残りなのは零距離パイルバンカーが出せなかった事ですね。
ラウラは諸事情により無理なんで、シャルにでも使えたらなと思います。

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