千冬さんはラスボスか   作:もけ

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後で手直し入れるかもしれませんが、とりあえずどうぞ


暴走in男子更衣室

 土曜日、第三アリーナ。

 

「さぁ、一夏。今日は私が相手をしてやろう」

 

 日本製第2世代型IS『打鉄』を装備した箒ちゃんが、やる気満々で剣を抜く。

 

 打鉄の鎧武者のようなフォルムが、剣道少女の箒ちゃんによく似合っている。

 

「ちょっと待ちなさいよ。一夏、近接戦ならアタシがまた相手してあげるわよ」

「いいえ、この前は近接戦からだったのですから、今日はわたくしが先でしてよ」

「何を言っている。お前たちはもう一夏と訓練しているのだから今日は私の番だ」

「何で順番なのよ。一夏の訓練の事を考えたら専用機持ちが相手した方がいいに決まってるじゃない」

「そうですわ」

「うるさい。クラス対抗戦、専用機持ちは8人中一夏含め2人だけ。つまり訓練機に当たる可能性の方が圧倒的に高いのだから、私とやった方がいい練習になる」

「いや、クラス代表になるような奴はラファールを使うと思うわよ?」

「そうですわね」

「そ、そんなことはない。防御に特化し、銃弾を防ぎながら間合いを詰め一刀のもとに切り伏せる。打鉄は優秀な機体だ」

「まぁ、否定はしないわ。ラファールは何でもできるオールラウンダーだけど、技巧派向けだし、射撃に慣れてないと話にならないからね」

「一つの事を極めるのに向いている方は打鉄の方がおススメですわね」

「うむ、私は剣一筋だからな」

「うん、まぁ、あんたがそれでいいなら何も言わないわ」

「それで結局どうしますの?」

「一夏、お前が決めろ」

「そうね。まっ、アタシを選んでくれるって信じてるけどね」

「一夏さんさえよろしければ、わたくし何でもしてさしあげますわよ」

「なっ!?」

「ちょっと、セシリア。何言ってるのよっ!!」

「あら、わたくしはそれだけの覚悟があるとお伝えしただけですわ」

「絶対うそ。色仕掛けなんて卑怯よっ!!」

「そうだ。破廉恥だぞっ!!」

「それは言い掛かりというものでしてよ」

「くっ、そ、それなら私だって。一夏、接近戦なら私のむ、胸もよく見えるぞ」

「なっ!? 喧嘩売ってんのっ!! いいわよ、買うわよ」

「鈴さん、落ち着いてください。見苦しいですわよ」

「ア、アタシのどの部分が見苦しいですってぇぇぇぇっ!!」

 

 とまぁ女三人寄ればかしましいを地で行く状況に放置を決め込んでいたけど、アリーナの使用時間がもったいないので沈静化に着手することにする。

 

「鈴」

「あぁん、何よっ!!」

 

 もはやチンピラ状態の鈴。

 

 こういう時は下手になだめるより爆弾投下が効果的だと経験から分かっている。

 

 耳元に顔を近付け

 

「僕は鈴のプロポーション”も”好きだよ」

「きゃうっ!?」

 

 奇声をあげ、一気に茹蛸(ゆでだこ)になる、鈴。

 

 よし、鎮圧完了。

 

 確かに大きいのは好きだけど、鈴の小柄だけど元気いっぱいに動くネコ科のようなしなやかな無駄のないボディも好きだ。

 

「箒ちゃん」

「な、なんだ。やっぱり私の胸が見たいのだな。は、破廉恥な奴め」

 

 おぅ、いきなり謂れのない中傷を受けたよ。

 

 まぁ、事実無根じゃない辺りどうしようもないんだけど。

 

「いやいやいや、否定しづらいけど、それは一旦置いといて。近接戦は後に取っておいて、まずはセシリアから一緒に機動の指導をしてもらわない?」

「うん?」

「あら、わたくしですの?」

 

 急に名前を呼ばれてキョトンとするセシリア。

 

「うん、この中で高速軌道が1番上手いのはセシリアだからね。先生になってもらえないかな」

「ふふふ、一夏さんの先生ですか。ちょっといい響きですわね。まぁ個人指導じゃないのが残念ですが」

「私もなのか、一夏?」

「うん、箒ちゃんの訓練にもなるし、それこそ対抗戦に向けて打鉄のスペックも見ておきたいしさ」

「そうか、分かった。セシリア、お願いする」

「分かりましたわ。このセシリア・オルコットにお任せください」

 

 という感じで、ようやく話がまとまり訓練スタート。

 

 基本の動きから丁寧にやっていく。

 

 セシリアの教え方は若干細かすぎる感じもするが、そこは代表候補生。

 

 見本を交えながら的確な指導をしてくれる。

 

 途中、茹蛸から復活した鈴も加わり、ワンランク上の動きで僕たちに発破をかけ、いい見本になってくれた。

 

 みっちり1時間ほど飛び回り、さすがに動きのキレが悪くなってきたので少し休憩を取る。

 

「鈴もセシリアもやっぱり凄いな」

「当ったり前よ。これでも代表候補生だからね」

「ふふ、当然ですわね」

「ほ、惚れ直した?」

「うん、二人とも凄くカッコイイよ」

 

 二人とも真っ赤な顔になり照れている。

 

「こほん、一夏、この後は私との接近戦だな?」

「うん、お願いするよ。でもちょっと、そうだな、5分くらい時間くれる?」

「構わないが」

「ありがとう。セシリア、ちょっといいかな」

「は、はい。なんでしょう」

 

 箒ちゃんと鈴から離れ、アリーナの端の方に行く。

 

「セシリアに教えて欲しいことがあるんだけど。瞬間加速(イグニッションブースト)の注意点とかコツとかあったら聞かせてくれないかな」

「瞬間加速ですか? あれをやるおつもりですの?」

「うん、手数や速度で敵わないなら突破力に活路を見出そうかと思ってさ」

「そう、ですわね。選択肢を増やす意味でも有効だと思いますが、制御の難しい技術ですわよ?」

「そうみたいだね。映像教材で失敗例見たけど、あらぬ方向に飛んで行ったり、バランスを崩して大変なことになってたよ。でも、今のままじゃ鈴に勝つのは難しいから、奇襲技くらい用意しておかないと」

 

 僕の覚悟を量るように見つめてから

 

「ふふ、それでこそわたくしが認めた殿方。いいでしょう、わたくしが対抗戦までにみっちり仕込んで差し上げますわ」

「ありがとう、セシリア」

「いいえ、一夏さんのためですもの。わたくし何でもいたしますわ」

 

 セシリアのちょっと頬の赤くなった微笑みに思わずドキッとする。

 

 やっぱりセシリアは美人さんだな。

 

「やっぱりセシリアは美人さんだな」

「えっ」

 

 驚いた顔のセシリア

 

「えっ」

 

 それに驚く僕。

 

「一夏さんたら、いきなり何を」

「ご、ごめん。口に出ちゃってた」

 

 二人で照れまくる。

 

 ま、まずい。

 

 話題を変えないと。

 

「そ、それで、瞬間加速のアドバイスとかあるかな?」

「え、えぇ、そ、そうですわね。やはり何と言っても注意するのは機体制御ですわね。スラスターのエネルギーの吸収、圧縮、再放出。それ自体は難しくありません。ですが、その急加速ゆえの問題としてバランスを取るのが大変困難ですわ。PIC任せではなく、自身の身体操作技術が問われます。分かりやすく言うと、加速に耐える筋力、慣れ、勘が必要ですわ」

「勘?」

「えぇ、勘です。出来る人は出来るし、出来ない人は出来ない。もちろん修練で何とかなる方もいらっしゃいますが、そもそもが近接戦闘の技術ということもあって、無理してでも覚えようという方自体が少ないのです」

「そうだね。射撃がメインだと必要性薄いよね」

「ですから、正直に言わせていただくと、わたくしもちゃんと出来るわけではありませんの。でも、練習はしていたのでお役には立てますわ」

「ありがとう、セシリア。鈴にバレないように練習したいから頼れるのがセシリアしかいなくてさ」

「わたくしだけ……。で、では、対抗戦まで2人だけの秘密特訓ですわね」

「うん、月曜日からよろしくお願いします。先生」

「せ、先生っ!? いい、いいですわ~~」

 

 セシリアがそのまま自分の世界から帰って来なくなっちゃったけど、箒ちゃんをずっと待たせとくのも悪いので、申し訳ないが放置して戻る。

 

「お待たせ、箒ちゃん」

「あぁ、アレはもういいのか?」

「うん、月曜からの秘密特訓の打ち合わせをしてたんだ」

「秘密特訓て、何よ」

「このままじゃ鈴に勝てないからね。少しでも武器が欲しくてさ」

「へぇ、そんな付け焼刃でアタシに勝てるとでも思ってんの?」

 

 挑発的な笑みを浮かべる鈴。

 

 八重歯が覗き、小さな虎のような印象を醸し出す。

 

「やるからには勝つつもりでやるさ。それに」

 

 鈴に再度近づき、耳打ちする。

 

「鈴にも惚れ直してもらいたいからさ」

「きゃうっ!?」

 

 鈴、再度の撃沈。

 

 積極的なくせに意外と照れ屋さんな鈴を愛でていたいけど、我慢してISを展開。

 

「それじゃあ、始めようか」

「うむ」

 

 箒ちゃんが剣を、僕はハンマーを構える。

 

「では、いくぞっ!!」

 

 剣道全国優勝の実力にISの力を加えた踏み込みからの面打ち。

 

 それに対して僕は箒ちゃんの掛け声に合わせて、バックステップ。

 

 スペック差を感じさせない踏み込みだったが、柄の部分で受け止め押し返す。

 

「いきなり後退とは、臆したか、一夏」

「いや~~、これは見(けん)と言って欲しいな。ISを装着した箒ちゃんの初見をどうにかするなんて無理だし」

「ふん、お世辞のつもりか?」

「いや、事実だよ」

「そうか。では次はどうかなっ!!」

 

 箒ちゃんが再度踏み込んでくる。

 

 胴を狙う横薙ぎの一閃。

 

 同じ要領で受けるが、今度は単発ではなく畳み掛けるような連撃がくる。

 

 鈴の叩き潰す様なパワフルな攻撃とは違い、切り裂く様な箒ちゃんの鋭い斬撃。

 

 鈴との模擬戦の反省を生かし、勢いに乗せないために今度は足を止めて受ける。

 

 10撃目で放たれた突きを躱し、その流れのまま体を反転させ、初撃となるハンマーの一撃で弾き飛ばす。

 

 ガードされてしまった様だが、距離が離れた事で一息つく。

 

 見ると、何やら箒ちゃんが手を握ったり開いたりしている。

 

「どうしたの? 箒ちゃん」

「うむ、ISの反応が少し悪いようなのだ。タイムラグが気になる」

 

 おぅ、あれで遅くなっていると仰いますか。

 

「ま、まぁ、訓練機だからね。箒ちゃんに合わせて調節すれば少しは良くなるんじゃない?」

「そうか。しかし今は時間が惜しい。続きをやるぞ、一夏」

「うん」

 

 今度はこっちからと上空に飛び上がり、肩から2本のワイヤーブレードを撃ち出す。

 

 複雑な軌道を描きながら襲ってくるブレードを一つは剣で弾き、もう一つは上空に回避する事で躱した箒ちゃんだけど、飛ぶ事にまだ慣れていないため、1、2、3と躱した4撃目で足を絡め取られる。

 

 それを思いっ切り引っ張り、今度こそハンマーで打ち据える。

 

 吹き飛ばされ、地面にクレーターを作る箒ちゃん。

 

 僕は新たに爆弾を展開し――――――

 

「本番ならここで追撃っと」

 

 確認した所で戻し、様子を見に行く。

 

「大丈夫? 箒ちゃん」

 

 頭を軽く振ってから、何でもない様にすぐに立ち上がる箒ちゃん。

 

「ISの絶対防御と言うのはやはり優秀なのだな。これだけの衝撃を受けてあのくらいで済むのか」

 

 心配はいらないみたいだね。

 

「エネルギー、どのくらい減った?」

「今の一撃で4分の1くらいだな」

「ふ~~ん、絶対防御が働くとやっぱり消費が大きいんだね」

「さすがパワー型と言った所か」

「ワイヤーブレードはやっぱり避けにくかった?」

「あぁ、あの複雑な動きは厄介だな。あれは一夏が操作しているのか?」

「ううん、ターゲットロックは任意だけど後はプログラムが勝手にやってくれるんだ」

「それはズルいな」

「僕としては便利でいいよ」

 

 撃ち出してしまえば、後は僕も自由に動ける所が特に。

 

「あの後は本当だったら、セシリアの時に見せた様に爆弾を?」

「うん」

「つまり、こちらは吹き飛ばされ動きが止まった時点で詰みというわけか」

「どうなんだろう? 地面や壁を背にした状態だと爆発は前面に限定されるから、防ぐ手段は色々あるんじゃないかな」

「そう言われるとそうだな。すぐ思い付くのは盾か」

「後は相殺するだけの火力があれば」

「どちらにしても訓練機では難しいな」

「そうだね。申請すれば後付け装備でお願いできるかもしれないけど」

「まぁ、ない物ねだりをしても始まらん。それに今は一夏の訓練だからな。続きをするとしよう」

「うん、お願いします。次はショベルとドリルで行かせてもらうよ」

「うむ、では、いくぞっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 箒ちゃんとの訓練後、鈴とも模擬戦をして本日の訓練は終了。

 

 更衣室に下がりベンチに寝転ぶと「つっかれた~~」自然と声がこぼれる。

 

 箒ちゃんの攻撃は、剣道と篠ノ之流剣術の混合でありながら、それでも正統派の太刀筋をしている。

 

 対して鈴の攻撃は、武器が変わる事もそうだけど、回転を多用したトリッキーとも言うべきスタイルをしている。

 

 それに対して僕はと言うと、正直まだ自分のスタイルを決めかねている。

 

 生身の僕のスタイル、古武術が使えないせいもあるんだけど、武器の選択肢が多くて使いこなせてないというのが痛い。

 

 こういう場合は多くのパターンをシュミレーションして、後は実践と反復でモノにしていく事が大事だ。

 

 感覚としては飛び道具の使い方が鍵になると思う。

 

 そんな一人反省会をしていると、

 

「一夏~~入るわよ~~」

 

 鈴がノックもなしに男子更衣室に侵入してきた。

 

 その無警戒っぷりに少し呆れる。

 

「鈴、着替え中だったらどうするんだよ」

「今更あんたの裸見たってなんとも思わないわよ。一緒にプール行ってたじゃない」

「いや、これ直に着てるから本当に裸になっちゃうんだけど」

「へっ!?」

 

 みるみる鈴の顔が赤くなっていく。

 

「バ、バカ!! エッチ!! 変態!!」

「いや、ここは男子更衣室で、入ってきたのはそっちなんだけど」

 

 さすがに理不尽だろう。

 

「ふ、ふん、知らないっ!!」

 

 腕組みをして、そっぽを向いてしまった。

 

 と、その手にタオルとボトルが握られていることに気付く。

 

「鈴、もしかしてタオルとスポーツドリンク持ってきてくれたの?」

 

 それは僕が稽古している時に、よく目にした光景だった。

 

「そ、そうよ。感謝しなさい」

 

 タオルが顔に投げつけられる。

 

「サンキュー、鈴」

「ふん」

 

 手渡されたボトルに口を付ける。

 

「うん、温くて美味しい」

「アタシは冷たい方が美味しいと思うけどね」

「温い方が体にいいんだよ」

「知ってるわよ」

「鈴も飲む?」

「へ?」

「ボトル、僕の分だけみたいだし」

「あ、あぁ、そ、そうね。喉渇いちゃったから、も、もらおうかしら」

 

 なんか急に慌てだしたな。

 

「それじゃあ、はい」

 

 とりあえず、手渡す。

 

「う、うん……」

 

 なぜか緊張したようにボトルを見つめた後、意を決したように口をつける。

 

 いや、なんなの?

 

 ……………………はは~~ん♪

 

「どう?」

「温いわ」

「いや、間接キス」

「な、なななな何言ってんのよっ!! そんなの全然気にしないわよっ!! バカじゃないのっ!!」

 

 おぉ~~、正解だったみたいだ。

 

 いや、照れるのは分かるけど慌て過ぎでしょ。

 

「じゃあ、僕ももう少し飲みたいからちょうだい」

「えっ?」

 

 途端、固まる鈴。

 

「ほら」

 

 手を伸ばす。

 

「で、でも」

 

 ボトルを後ろに隠してしまう。

 

「ダメなの?」

「そうじゃないけど」

 

 俯いてモジモジし始めた。

 

「鈴」

「うぅぅぅぅ」

「ちょうだい」

「…………はい」

 

 観念したようだ。

 

 受け取り、ふたを開け、口をつけようとすると、鈴が上目使いでチラチラこちらを見ていた。

 

「鈴、飲みにくい」

「だって」

 

 まぁ、いいか。

 

 僕は間接キスとか気にしない方なので、特に意識せずに口をつけて、一口。

 

「あ……」

 

 鈴が赤い顔で呆けたような表情をしている。

 

 間接キスより、その顔に照れるよ。

 

 そのまま、しばし沈黙が流れ――――――

 

 気まずい。

 

 なに、この甘酸っぱい空気。

 

 意識し過ぎだって自分。

 

 ただ男子更衣室と言う密室で、普段はいるはずない女の子と二人っきりになってて、その女の子が差し入れてくれた飲み物で間接キスして、しかもその相手が意識し合ってる鈴だってだけじゃないか。

 

 えぇ、自爆ですね、分かります。

 

 動揺を隠しながら改めて鈴に視線を向けると、自然とその柔らかそうな唇に注目してしまい「ゴクリ」と喉を鳴らしてしまった自分にまた動揺する。

 

 このままじゃ良くない。

 

「えっ?」

 

 いつもの感じに戻るために鈴の頭に手をやる。

 

「え、あ、な、なに?」

 

 鈴もそれで我に返ったのか、ちょっと慌てている。

 

「いつものスキンシップだから気にしないで」

 

 答えになっていない僕の答え。

 

「ぷっ、なによそれ」

 

 でも鈴はいつもの様に笑ってくれた。

 

 その笑顔にさっきまでの動揺はなくなり、代わりに温かい物が胸に拡がる。

 

 なんて、気が抜けた所で、

 

「い~~ちか~~♪」

 

 いきなり抱きつかれたっ!!

 

「ちょ、ちょっと、鈴っ」

 

 鈴は頭をグリグリ押し付けてくる。

 

 状況のアップダウンに頭が上手く回らない。

 

「まだシャワー浴びてないからっ、汗臭いから離れてっ」

「大丈夫。一夏の匂い好きだから」

「いや、こっちが恥ずかしいからっ」

「えへへ~~♪」

 

 鈴はご満悦のようだ。

 

 僕はよく解らない、よく解らないけど……。

 

「きゃっ」

 

 鈴を抱きしめ返す。

 

「い、一夏っ!?」

 

 腕の中で慌てた声が聞こえるが気にしない。

 

 鈴の頭に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。

 

「ちょ、ダメ、一夏。私もシャワー浴びてないんだから」

「大丈夫。鈴の匂い好きだから」

 

 そのまま返してやった。

 

「あ、あぅぅぅぅ」

 

 鈴は観念したのか、ただテンパっただけなのか大人しくなる。

 

 なんだろう、これ。

 

 どうしたらいいんだろう。

 

 頭は相変わらず茹っている。

 

 ISスーツ越しに鈴の体温と柔らかい感触を感じる。

 

 気持ちいい。

 

 その感覚に溺れそうになった瞬間、鈴の腕にギュッと力が入る。

 

 そして、

 

「一夏のバカバカ。恥ずかしい、恥ずかしいよーー!!」

 

 鈴が壊れた。

 

 前にも増して頭をこすり付けてくる。

 

 でも離す気はないらしい。

 

 僕の腕にも自然と力がこもる。

 

「鈴が悪いんだぞ。無防備に抱きついて来るから」

「だって、だって」

「だってなんだよ」

「一夏が好きなんだもーーーーんっ!!」

 

 う、うわ~~~~。

 

 可愛い、可愛い、可愛い、鈴が可愛い。

 

 胸の鼓動が早くなる。

 

 顔に熱が集中して、さらに頭が回らなくなる。

 

 鈴を抱きしめている腕を離したくなくて、さらに力がこもる。

 

「鈴、鈴、鈴、」

 

 無意識に鈴の名前を呼ぶ。

 

「いちか、いちか、」

 

 鈴も名前を呼び返す。

 

 暴走状態の男女が密室で抱き合ってる現状で、何の間違いが起こっても不思議じゃな――――――

 

 こんこん。

 

「「っ!?」」

 

 突然のノックの音に、心臓の鼓動までも一緒に動きを止める二人。

 

「一夏さん、いらっしゃいますか?」

 

 次いでかかるセシリアの声で、自分たちの状況を理解する。

 

 ガチャ。

 

「一夏さん?」

 

 ドアノブの回る音と同時に、超人的な反応速度で2mほど飛び退く二人。

 

「あ、あぁ、セシリア。どうしたの?」

 

 何とか声は裏返っていない。

 

「いえ、お部屋にいらっしゃらないようでしたので、まだこちらかもと思いまして……って、何で鈴さんがいますの?」

 

 そのまま鈴に詰め寄るセシリア。

 

「べ、別にいいじゃない」

 

 鈴もいつもの勢いはないまでも何とか平静を装えている。

 

「よくありませんわ!! 殿方の更衣室に入るなんて破廉恥なっ!!」

「あんただって入ってきてるじゃない」

「わたくしは一夏さんを探しに来ただけですわ。一夏さんの格好からするとあれからずっと一緒にいたのでしょう? 白状なさいませ!!」

「そ、そうよ。悪い」

「まぁ、開き直りましたわね!!」

 

 このままヒートアップしていきそうだったので仲裁に入る。

 

「あぁ、セシリア。鈴はタオルとスポーツドリンクを持ってきてくれたんだよ。それで今まで話し混んでたんだ。1年ぶりで再会したって言うのにまだまとまった時間、話す機会が作れてなくてさ。セシリアはどうして僕を?」

 

 口から出まかせだけど何とか会話の方向をズラす。

 

「わたくしはディナーをご一緒にいかがかと思いまして一夏さんを探していたところですわ」

「そう、探させちゃってごめんね。今から急いで部屋帰ってシャワー浴びるから、もうちょっとだけ待っててくれるかな?」

「えぇ、では、お部屋までご一緒いたしますわ」

 

 そう言って僕の腕に自分の腕を絡ませてくる。

 

「ちょっ、いきなり何してんのよっ!!」

 

 さすがに鈴が吠える。

 

「あら、女性をエスコートするのは殿方の努めですのよ?」

「いいから、一夏から離れなさいよっ!!」

 

 激しく同意する所だけど、自分の事は棚上げですねと思わなくもない。

 

 とりあえず埒が明かないので、打開策を講じる。

 

「鈴」

「何よ。あんたは黙ってなさい」

 

 「口答えしたら殺すわよ」という目で睨まれる。

 

 それに対して、セシリアが絡んでいるのと逆の腕を出す。

 

「鈴も」

「えっ」

 

 一瞬キョトンとするが、すぐに意味を飲み込み、

 

「ほら」

 

 僕の催促で、渋々といった様子だが腕を絡めてきた。

 

 そのまま両手に花状態で部屋まで戻る。

 

 仕方なかったとはいえ、周りの視線が痛かったです、はい。

 

 途中で自室に戻る鈴にセシリアも付いて行ってもらって一人で部屋に戻り、シャワーを浴びながら考える。

 

 あのままだったらどうなっていたか。

 

 腕の中にいた鈴の感触を思い出す。

 

 自分の理性に自信は……今は微塵もない。

 

 でも鈴は幼馴染で、友達以上で、意識してる特別な女の子で、とても大事な存在だ。

 

 だから、さっきみたいなその場の流れでどうこうって言うのは良くない。

 

 しかもここには姉さんもいるわけで。

 

 もっとしっかりしないとな。




鈴ちゃんが可愛過ぎて書くのが辛いw
と言うか、甘すぎて辛いですorz

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