千冬さんはラスボスか   作:もけ

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初めまして、お久しぶりです、ご贔屓にどうも。
現在こちらで『リリカルなのは』『H×H』で連載させてもらっている、もけです。
この作品はにじファンに掲載していたものの再投稿になりますが、ちょこちょこ手直しを入れたいと思っています。
コミケの企業ブースでISのレーベル移動&新刊予告を見たら、このまま消してしまうのが残念になりまして……。
良かったらお付き合いください。


ありきたりなプロローグ

「疲れたぁ~~」

 

 着替える余裕もなくリビングのソファーに倒れこむ。

 

 連日の検査と警護という名の自由のない生活により僕のライフゲージはレッドゾーンで絶賛点滅中だった。

 

 高校受験の日、会場を間違えた先で興味本位で触れた、本来女性しか動かすことができないはずのロボット、ISことインフィニット・ストラトスがなぜか起動してしまい、僕は世界でただ一人の男性IS操縦者となった。

 

 なぜ動かせたかは分からない。

 

 ISの生みの親、篠ノ之束さんでも解らないそうなので、きっと誰にも解らないだろう。

 

 と言うか、僕が動かせた理由はこの際どうでもいい。

 

 そんなのは束さんなり何処かの偉い学者さんなりが解明すればいい事で、僕としては早く姉さんの役に立ちたいと考えていた人生設計が粉々に砕け散ってしまった事の方が問題だった。

 

 なんて愚痴をこぼした所で、現実は非常だ。

 

 この問題は僕がどう思うかなんて極小なスケールの話ではなく、文字通り世紀の大ニュースになってしまったのだから。

 

 まさに青天霹靂。

 

 そして驚天動地。

 

 個人の感情なんて人権ごと無視される様な巨大な流れに飲み込まれ、あまりの事態に未だに混乱しているし、あの時のうかつな自分の行動に後悔もしている。

 

 だけど、姉さんに少しだけ近付けたことが嬉しかったりする自分は単純なのかもしれない。

 

 僕たち姉弟は親に捨てられ、姉さんは自分もまだ中学生だと言うのに女手一つで僕を育ててくれた。

 

 家事は壊滅的に苦手な人だけど、ISの世界大会で優勝するほど強く、立ち姿は弟の目から見ても見惚れるくらい格好良く、そしてすごく優しい。

 

 そんな姉さんが僕は大好きだ。

 

 だから少しでも早く恩返しができるように就職率の良い高校に行こうとしたのだけど……。

 

 あぁ、疲れてるせいか思考がループしそうだ。

 

「これから、これからか……」

 

 もう普通の生活は望めないよね。

 

 最悪、人体実験の日々が待っているかもしれない。

 

 どうにかどこかの研究機関に就職みたいな形にできないかなぁ。

 

 調べた所によると国の代表やその候補生になると公務員や軍の所属になって給料が貰えるみたいなんだけど……。

 

 世界でただ一人の男性IS操縦者なら貴重価値からいって高く売りつけられそうだけど、貴重すぎて非売品て感じかも。

 

 そもそも僕に決定権があるか非情に怪しいところだ。

 

 そんなことを意識を半分手放しながら考えていると玄関の鍵が開く音が聞こえた。

 

 うちは二人暮らし。

 

 帰ってきたのは姉さんしかありえない。

 

 瀕死状態だったのもなんのその、僕は飛び起きて玄関に向かう。

 

 その様は僕が犬であれば耳をピコンと立ち上げ尻尾をパタパタさせていたことだろう。

 

「姉さん、おかえり」

 

 満面の笑みで迎える。

 

「あぁ、ただいま一夏」

 

 笑顔で応えてくれる姉さんからバックを受け取る。

 

「僕は食べてきちゃったけど、姉さん夕飯は? 何か作ろうか?」

「いや、私も食べてきたから大丈夫だ」

 

 ジャケットを脱いでソファーに身を沈める姉さん。

 

 僕はそのジャケットが皺にならないようにハンガーにかける。

 

「お風呂はタイマーかけといたから沸いてるはずだけど先に入る?」

「そうだな……いや、その前にちょっと話がある」

 

 なんだろう?

 

 とりあえず姉さんの隣りに座って聞く体勢をとる。

 

「突然だが一夏、お前にはIS学園に入ってもらうことになった」

「えっ?」

「悪いがこれは決定事項だ。拒否権はない」

「どういうこと? 姉さん」

「うん、ここ数日で嫌というほど実感していると思うが、お前は今とても特殊な状況にいる。世界で唯一の男性IS操縦者。その存在は良い意味でも悪い意味でも世界中が注目している」

 

 悪い意味、危険ということか。

 

 今現在、女性だけがISに乗れるという事を起因にして世界は女尊男卑という価値観が占めている。

 

 その社会構造が都合の良い人達にしてみれば男性でもISに乗れるという可能性を示す僕は邪魔でしかないだろう。

 

 もちろん良い意味では、女性に虐げられ、肩身の狭い思いをしてきた男性たちの希望の星という事になる。

 

「それだけじゃない。今、国際機関でお前の所属について議論されている」

 

 所属?

 

 所属って何?

 

「お前は日本国民じゃなくなるかもしれない」

「よく分からないんだけど」

「もしかしたら国際IS委員会の所属になって自由国籍で世界を飛び回るといった生活になるかもしれんという事だ」

「それはまた」

 

 スケールが大き過ぎて実感が湧かない話だ。

 

「それだけお前の存在が特殊だということだ。正直、一国の手に余る」

 

 これは最悪の予想の通りモルモット扱い決定なのか?

 

「だがな。各々の国が自分たちに都合の良い主張ばかりするものだからなかなか答えが出ない。だからお前にはとりあえずIS学園に入ってもらって三年間の時間稼ぎをさせてもらおうということになったわけだ。あそこはどこの国の干渉も受けない治外法権な施設であると同時に外部からの侵入を防ぎやすいからな。都合が良い」

 

 どうやら僕の意思は考慮されず大人の都合だけで僕の進路は決められてしまったようだ。

 

 そりゃあ「どうしたい?」て聞かれても良い案なんてすぐには思いつかないけど、せめて選択肢を提示して欲しかった。

 

 この流れで行くと、この先も僕には決定権が与えられないかもしれない。

 

 それはマズい。

 

 僕はどうにかして早く自立して姉さんの負担を減らしたいのだ。

 

 少しでも早く、少しでも多く恩返しがしたい。

 

 最悪のケースとか言ったけど、国際機関か……給料良いかな?

 

 でも姉さんと離れ離れになるのは嫌だな。

 

 そりゃあ今だってあまり一緒にはいられてないけど、それでも月に何回かは会えてるわけだし……。

 

 と思考に没頭していると、ふいに暖かな温もりに包まれた。

 

「心配するな、一夏。どういう風になろうと私がお前を守る」

「姉さん……」

 

 正直不安は尽きないけど、姉さんの腕の中にいると自然と大丈夫だという気持ちが湧いてくる。

 

 でも「守られてばかりはそろそろ卒業したいんだけどなぁ」と思いながらも今だけはもうちょっとだけ姉さんの匂いに包まれていようと甘えてしまう僕だった。

 

 

 

 

 

――――――――――おまけ――――――――――

 

「よし、じゃあたまには一緒に風呂に入るか」

「何が『じゃあ』なのっ!?」

 

 爆弾発言だよ。

 

「嫌なのか?」

「嫌じゃないけど、恥ずかしいよ」

「何を言っている。二人だけの家族じゃないか」

「これでも思春期の男子なんだから察してよっ」

 

 ホント勘弁してください。

 

「なんだ、お前はそういう目で私を見ているのか?」

「なっ!? そ、そんなことないけど、姉さんは美人だしプロポーションも抜群だし、何と言うか色々と不都合が……」

 

 主に下半身的な意味合いでっ!!

 

「ふふふ、褒められて悪い気はせんな」

「自慢の姉さんですから」

 

 はい、やけくそですよ。

 

「お前だって自慢の弟だぞ?」

「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、僕なんて姉さんに守られてばかりで……」

「何を言う。私はお前がいるから頑張れるのだぞ」

「姉さん……」

「それに私は家事が、まぁ、苦手だからな。助かっている。お前の作る食事は美味いよ」

「ありがとう、姉さん。じゃあもっと喜んでもらえるように腕を磨かないとね」

「それは楽しみだな」

「ところで、姉さん」

「なんだ?」

「そろそろ離してくれないかな」

 

 実はずっと抱かれたままでした。

 

「ダメだ」

「な、なんでっ!?」

 

 よりギュっとされました。

 

「一夏分を補給中だからな。まだ足りん」

「なにアホみたいなこと言ってるのっ!?」

「アホとはなんだ。重要な事だぞ。切れると死んでしまう」

「死んじゃうのっ!?」

「風呂は断られてしまったからな。その分も補給しなくては」

「うぅぅぅぅ……」

「一夏?」

「嬉しいけど、恥ずかしい」

 

 こっちが死にそうです。

 

「ふふふ、可愛い奴め」

 

 姉さんには敵わないな。

 

 でも幸せだ。




一緒にお風呂に入ればいいのにと思った人、僕もそう思いますw
まぁ、気長に待っていていただければそのうちきっとそんな事もあるかもしれないです。
原作でもシャルと入ってるくらいだから実姉と入って何の問題があろうか。
いや、ないw

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