戦う定め   作:もやしメンタル

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またまた話がぶっ飛びます。


7話《18階層》

 

「あのよーベル…。なんで最近ダンジョンに潜る前からズタボロなんだ?」

「怪しいですねぇ」

「は、ははっ…ちょっとね」

 

リリとヴェルフの疑問をズタボロな笑みで誤魔化す。

ダンジョン探索の集合時にことごとく満身創痍になっている僕に、流石にリリとヴェルフは腑に落ちない顔をしている。

でも打ち明けれない、打ち明けられない。ありえないほど無様な自分を晒したくない…。

 

あれから全く、一向に、ボロボロになることが止められなかった。

すぐに上達するなんてうまい話あるはずないんだけど…これまでちょっと積み上げていた自信みたいなものが、あっさりと崩れてしまった。

 

それに明日から、一週間ほど稽古がつけられないとキリトが言っていた。理由はわからないが何か用事があるみたいだった。

分かっていたけど、本当にまだまだなんだ。

少し気落ちしながらバベルの門をくぐる。

そして僕らはダンジョンに向かった。

 

 

* * *

 

 

『ブグッゥゥ…』

 

低いうめき声の大型級のモンスター『オーク』三体を相手取っていた。

一体はリリとヴェルフに任せ、僕は残り二体を相手にする。

今までもレベルからしてそんな大変なモンスターではなかったが、今はそれ以上に…。

 

「全っ然弱い!」

 

キリトに言われた通り、油断せず、視野を広げ戦う。

動きがノロいオークを置き去りにして、僕はオークの後ろに回り込んだ。

振り返る隙も与えず、床を蹴り、ヘスティアナイフの握りを変え、その大きなブヨブヨの頭を斬り伏せた。

すぐにもう一体から武器が振り下ろされるが、視野を広げている僕は難なくその攻撃を避けた。

今度は勢いに乗ったまま、オークに突っ込む。オークが攻撃しようと武器を振り上げるが、それより早く、僕は仕留めた。

 

ずっとキリトには負けててわからなかったけど。確かに、強くなってる…!

 

それを僕は今になって実感したのだった。

オークを倒し、向こうはどうなったかと振り返ると、どうやらまだ戦いの最中だ。だが、明らかにこっちが押している。オークが倒れるのは時間の問題だった。

 

 

「お疲れ様ですお二人とも」

「いや、チビスケもナイスアシストだったぞ」

「この調子なら余裕があるくらいだね」

 

そんな会話の中、リリは少し考え込んでから言った。

 

「ベル様もLv2になっていることですし。この前話したように中層に行ってみますか?お二人ともサラマンダーウールは持ってきていますよね?」

「あーもちろんだ」

「この前エイナさんに言われたからね、それにもう下の層に降りる許可も取ってあるし」

「それじゃあ行ってみるか?」

「…そうですね、わかりました。行ってみましょう」

 

ということで僕らは急遽、中層に行くことになったのだった。

しかし、それが間違いだった。

 

 

* * *

 

 

「はあっ…はあっ!」

 

僕は今”気絶した”リリとヴェルフを担ぎ”18層”に向かっている。

というのも、中層というのは僕らの想像以上のものだったのだ。モンスターの出現があまりにも早すぎた。でもそこまでは必死に食らいついていたんだ。

そう、モンスターを押し付けられる前までは…。

他のファミリアから大量のモンスターを押し付けられ、僕らは15階層に落とされてしまった。

どうしようもない絶望感に襲われていると、リリから提案があった。

 

「ここから上の層へ向かうよりも、ダンジョンにあるたて穴を見つける方が簡単です。そこから降りて、モンスターが入ってこないという18階層に行く。という方法があります」

「下の層にって、本気か!?」

「…悪魔でも一つの手です。なので、ベル様。お決めになってください。リリはベル様の決定に従います」

「えっ!?」

「そうだな、ベル。俺もお前の指示に従うぞ」

 

汗が吹き出る。心臓がバクバクいっている。

僕の判断で二人の運命は、決まる。

正直逃げ出したかった。でも、二人はまっすぐに僕を見つめていた。その目は、僕を信頼してくれている目だ。

僕は、決断した。

 

「進もう」

 

 

* * *

 

 

今僕は、階層主の部屋の前にいた。

やっとここまで来たが、油断できないのは変わらない。

いま階層主は以前ここを通った【ロキ・ファミリア】。つまりはアイズさんたちによって倒されている。

だがまた出現するのはもうそろそろだそうだ。

僕は重い体に鞭を打ち、一歩、一歩進んでいった。すると…

 

ビキッ

 

そう音がした。

 

「ーっ」

 

階層主だ。

少しずつ壁が崩れていく。

その瞬間、僕は死ぬ気で走った。

 

「はぁっ、はぁ…!はぁ‼︎」

 

無我夢中でひたすら走る。

体が全く言う事を聞かない。しかしそんなことは構わずに引きずるようにして走る。己の体に鞭を打つ。

あたりがグラグラと揺れる中、階層主の腕と思しきものが目に映った。しかしそんなものに構う暇はない。

出口まであと10メートル。

あと5メートル。

その時、背後から手が迫ってきた。止まったらダメだ。

死ぬ。

 

進め!進め!進め!進め‼︎

 

僕は出口に飛び込んだ。

背後でものすごい爆発が起きる。僕はその爆発で吹っ飛んだ。

 

「うわあぁあああっ!!」

 

ものすごい勢いで転がり落ちる。そして暗闇から、光が見えた。

 

「ふぎっ!」

 

顔面を地面に直撃させると、その地面は、芝生だった。

風を感じる。小鳥のさえずりまで聞こえてきた。

困惑し、薄れる思考の中、辿り着いたことを知る。

やっとついた。18階層に。

でもこのままでは終われない。リリを、ヴェルフを、助けてもらわないと…!

薄れかける意識を無視して立ち上がろうとする、その時

 

「大丈夫?」

 

声が聞こえた。

その声に、瞬間僕は必死にその足を握り、頼んだ。

 

「お願いしますっ…!仲間を…助けてくださいっ…!」

 

掴んだ手からは力が抜けて行く。

そして、僕の意識は途絶えた。

 

 

* * *

 

 

誰かに頭を撫でられている気がした。

優しくて、とても暖かい手だ。

これは、まるで……

 

「お母さん…?」

「ごめん、私は君のお母さんじゃないよ」

「えっ…?」

 

聞き覚えのある声。

そして、至近距離には…

 

「ア、アイズさん!?」

 

そう、アイズさんがいた。

そして何故か膝枕をしていた。

僕の体はみるみる赤くなる。

そして勢いよく起き上がろうとしたが、ものすごい痛みに襲われ体を大きく折りまげる。

そうしていると、フッと先ほどまでのことが思い出されてきた。

 

「っ!そうだ!リリとヴェルフは!?」

 

2人を探すため起き上がろうとすると、バランスを崩してしまう。そして次には、アイズさんの胸に顔を埋めていた…。

一気に体温が上昇する。

 

「す、すみませんっ!」

 

僕は高速でアイズさんからはなれる。だがアイズさんは気にしていないように顔を横に向けた。

 

「大丈夫、ここにいるよ」

 

そう言われアイズさんの見ている方を見ると二人はしっかり治療され眠っていた。

 

「リヴェリア達が治療してくれたの。君も、危なかったんだよ」

「す、すみません…」

「…もう、ここまで来たんだね」

「えっ?」

「ううん、なんでもない」

 

何て言われたのか気になったが、僕は辺りを見回す。

どうやらテントのようだ。

アイズさん達は、遠征に行っていると聞いたので、そのテントだろう。

 

「あの、どうしてここに?」

「帰りに、毒を持つモンスターに何人かやられちゃったの。今はその人達の治療中」

「そうだったんですか…」

 

そんな時に転がり込んでしまったことに気づくと、なおさら申し訳なくなった。

 

「あの、本当にありがとうございました」

「いいよ、別に。もう立てそう?」

「は、はい」

「じゃあ、団長ところに連絡するよう言われてるんだけど」

「わ、分かりました」

 

そう言って僕はテントをあとにした。

 

 

* * *

 

 

「フィン、入るよ」

「ああ」

 

アイズさんに続いて入るとそこには、ロキファミリアの幹部、リヴェリアさんにガレスさん。そして団長のフィンさんがいた。

 

僕は正直緊張していた。

第一級冒険者の人達を前に自然と体に力が入る。

そんな僕を見つめ、フィンさんがニコッと微笑んだ。その笑みはとても愛嬌のあるもので、女性に向けでもしたら瞬殺だろうなと内心思う。

 

「ケガの具合は大丈夫かい?」

「は、はい!本当にご迷惑をおかけしてっ、すみませんでした!」

「そんなに硬くならないでいいよ。同じ冒険者同士、助け合うのは当然だ」

「おー、こやつか!中層に進出したその日にもうここまで来おったか!」

「ガレス、声がでかいぞ。すまんな、私達がここに止まっている間は、どうかゆっくりしていってくれ」

「あ、ありがとうございます」

 

僕は頭をさげる中、予想外にとても暖かい彼らに、緊張していた体が和らいでいった。

 

「リヴェリアの言う通り、ゆっくりしていってくれ。もう下がってくれて構わないよ」

「はい、失礼いしました」

 

そう言って僕らは外へ出た。すると…

 

「あー!もう起きたの!?アルゴノゥト君!」

「へっ!?」

 

いきなり声をかけられビクッとする。

そこには目のやり場に困るほど露出の多いアマゾネスの少女が2人いた。顔がそっくりなので双子だろうか。

そして僕は片方の少女が発した【アルゴノゥト】という言葉に目を見開く。

すると隣で腕を組んでいるアマゾネスさんが苦笑いを浮かべた。

 

「ごめんね、私達、君がミノタウロスと戦ってるとこ見てて。その時の君が、この子が言ってるアルゴノゥトに似てたんだって」

「そ、そうですか…」

 

あの戦いを見られていたことに驚愕する中、一瞬、自分のスキルがバレてるのかと思ったが、ホッとする。

だがそれもつかの間、両腕に抱きつかれ固まってしまう。

 

「ねーねー、アルゴノゥト君!君、Lv2になったんだって!?」

「あ、そうそう。その事についていろいろ聞かせてもらえないかしら?」

「ちょっ、あの!」

 

ただでさえ露出の多い格好に苦戦していたのに、腕に密着されてしまったことで、みるみる顔が赤くなっていく。

 

「わー!アルゴノゥト君顔真っ赤ー!」

「ふふっ、可愛らしいことね」

「〜〜〜〜っ!!」

 

助けを求めて視線を向けたアイズさんは、キョトンと眺めているだけだ…。駄目だ、頼れない…。

そうして僕はカチンコチンに固まっていると、聞き覚えのある声が聞こえた。

 

「べ、ベルか?」

 

僕は「えっ?」とそちらに顔を向ける。

 

「あ!キリト!何してんのー!」

 

そう言ってアマゾネスの少女が手を振るのだった。

 

 

 

 




これからいろいろ遊んでいきたいです。

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