たくっ、何なんだヘルメス様!俺の部屋でなんて聞いてないぞ!別に散らかってるから嫌だとかじゃなくて、問題はこの…。
「入るぞキリト〜」
ドアが開き、ヘルメス様達がいきなり入って来た。
ノックぐらいしろよ!?と心の中でツッコミを入れるが、まぁ”例のブツ”は隠したから良しとしよう…。
「お〜ここがキリトの部屋か〜。なんや綺麗に整頓されとるな〜」
「どうも…」
「よっしゃ。ほな、話してもらおうか?」
そう言ってロキ様は、どかっと俺のベットに座られた。アイズもその隣にちょこんと座る。なんで当たり前みたいに座ってるんだ?
ヘスティア様とアスナは部屋に置かれていた2つの椅子に座り、残りは椅子もないので立ったままだ。
俺は溜息をつきながら本棚にもたれ掛かると、正面のヘルメス様は一度息を吐き出し話し始めた。
「みんなももちろん知っているとは思うが、レベルが上がると比例して起こることがあるだろう?」
「起こること?」
「ベル君も体験したはずだぜ?傲慢な神による勧誘だよ」
首をかしげるベルにヘスティア様がそう答える。
ロキ様は足を組み頬杖をつくと、渋い顔で「むー」と唸った。
「なるほど、そーいうんが嫌で。キリト大好きなヘルメスは、レベルを秘密裏にしとるっちゅうわけか」
「でも、ボクだってできることならそうしたいんだ。そんなのズルイじゃないか!」
ヘスティア様の意見はもっともだ。
ということで、全部ヘルメス様に任せて俺は無視しておくことにする。言っておくが、俺はあらかじめ主神には忠告しておいたんだ。
「そうなんだが。ここまでくるともう、今更後に引けなくなってしまったというか…」
「ほー。そこまで言うほどキリトのレベルは高いっちゅうんかー?」
「言うじゃないかヘルメスゥ」
「は、はははは…」
まるで喧嘩を売ったかのような感じになってしまい、二人に絡まれるヘルメス様。ベルがアタフタしながら止めようとしているがまず無理だろう。
「そこまで言うキリト君のレベルって、一体いくつなんだい?」
「そ、それはー…」
「「さあっ!さあっ!さあっ‼︎」」
後退りするヘルメス様を追い詰める二人の神様。なんだか言動が芝居じみて見えてしまうのが何とも言えない…。
それに張本人が同じ部屋にいるのに無視ですか?
するとヘルメス様が助けを求めるように此方を見つめてきた。アスナもどうする?っという目だ。俺はもうどうにでもなれって感じなので、一度溜息をつき頷く。それを見たヘルメス様はやがて観念したように口を開いた。
「レ、レベルは…7だ…」
束の間静寂が起こる。そして…。
「「「えっ!えぇええええええ⁉︎」」」
そのカミングアウトに、ベル、ヘスティア様、ロキ様の叫び声が響き渡るのだった。
* * *
一瞬、ヘルメス様が何を言っているのか分からなかった。確かに、こんな事が公になれば、他の神様は黙っていないだろう。
僕らが驚くなかで、何故かアイズさんは驚いていないようだ。
「ア、アイズさん知ってたんですか?」
「ううん、知らなかったよ」
「じゃあ、なんで…」
「遠征の時の、あの身のこなしからして、それくらいだって思ってたから」
アイズさんの言葉に僕は顔を引き攣らせる。
とてもこれは、僕のついていける次元じゃない…。
「まぁそういう事だ。ほらっ、もうこんな時間だぞー!見んな帰ったほうがいいんじゃないかっ?」
これ以上長居されたくないというようなヘルメス様の言葉に、神様達は了解したようだ。というよりまだ信じられないといった感じで呆然としている。
「そ、それじゃあ。お世話をかけましたー!」
「さようなら」
そんな神様達を僕とアイズさんが背中を押していったのだった。
* * *
帰り道。僕らはまた馬車に揺られていた。
するとそこで、今まで口を開けなかったロキ様がポツリと呟いた。
「どうなってんねん。アイズたんだってこの前Lv6になったばかりやっちゅうんに」
(えっ?)
その瞬間僕は、しばらく心ここに在らずな状態が続いた。
「Lv6……?」
必死に追いかけている相手に、また霞むほどの距離を開けられてしまったという事実が、僕に衝撃を与えた。脳の奥が沈んでいくような感覚に襲われる。
遠い。遠すぎる。
僕と目の前に座るこの人との距離は、一体どこまで離れるんだろう。目指さなくてはいけない高みには、本当に手が届くのだろうか。
圧倒的な現実というものに、僕の心は静かに押しつぶされていく。
でも…ッ‼︎
「すみません神様!ぼく、ちょっと忘れ物をしたので先に帰っててください!すみません、降ろしてもらえますか⁉︎」
「えっ?ちょっ、ベル君⁉︎」
降りる瞬間にアイズさんと目が合った。キョトンとしているアイズさんに僕はその瞳で伝える。
待っていてくださいと──。
僕はそのまま元来た道、【ヘルメス・ファミリア】へと走り出した。
* * *
「なんか、すごいお客さんだったね」
ベル達が帰っていくとアスナはそう言って伸びをした。
確かにすごいお客さんだった…。まぁ話したのはヘルメス様だけど。
「キリト君は人気者だね〜」と少し違うような気のする感想をアスナが微笑みながら言い、座ったままの俺の背中に優しく抱きついてきた。俺はアスナが回してきた手を片手で握る。
「キリト君、”あれ”見られなくてよかったね〜。ふふっ」
「バ、バカにしてるだろ…」
「してないよ〜」
そう言ってアスナはまたふふっと笑う。これは絶対バカにしてるな…。
「えっと、俺達もそろそろ寝たほうがいいんじゃないか?」
「そうだね。あーあ、いつになったら一緒に寝られるんだろうね」
そう言って頬を膨らませるアスナに俺は苦笑いを浮かべる。というのもあの自由人なヘルメス様が一々俺たちの動向に首を突っ込んでいるから、おちおち同室にもしていられないのだ。
「じゃあ、また明日ね、キリト君。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ。アスナ」
そう言ってアスナは部屋から出て行った。そうしてそのあと、俺は誰もいなくなったので、今まで隠していた”あれ”を取り出した。
──その時。
「あのっ、キリト‼︎」
勢いよくドアが開いたかと思うと、ベルが汗だくで入ってきた。
「なっ⁉︎」
「えっ?…キリト、そ、それは?」
いきなりの訪問に、俺は”あれ”を見られてしまった。
そう。何冊もある《英雄譚》を──。
俺はどうしようもない羞恥に襲われ、なんとか言い訳をしようと考えていたが途端、ベルが目を輝かせて詰め寄ってくる。
「キリトも好きなのっ!?英雄の物語!」
「えっ、あ、ああ」
あまりの勢いに否定することができず答えると、ベルは「僕も好きなんだよ!」と、嬉しそうに答えてきた。
正直バカにされると思った。だが、まさかの展開に唖然としてしまう。すると、ベルは正気に戻ったようだ。
「ってそうじゃなくて!あのキリト!僕に、稽古をつけてくれない!?」
「ええっ?な、なんでまた急に…」
ベルの真剣な態度に、たじろぎながら俺は尋ねた。するとベルは、一度言い淀んだものの、己の胸の内を話してくれた。
俺と出会ってから少し経って、アイズに救われたこと。そのアイズに恋したこと。そしてその彼女に追いつきたいということ。
正直誰かに稽古をつけるなんて柄じゃない。というより、苦手だと思う。だが、ベルのそのルベライトの瞳はとても真っ直ぐだった。そう、俺のできない目だ。出会った時からそうだった。ベルは俺が持っていないものを、いくつも持っている…。
純粋に興味が湧いた。何故そんな目ができるのか。何故、そんなに真っ直ぐなのか。
「……分かった。俺なんかでよければ、協力するよ」
「…っ、ホントに!?」
「ああ。でも、基本的に他のファミリアどうしのこういうのはタブーだからな。早朝でいいならどうだ?人が滅多に来ない場所も知ってるし」
「ありがとうキリト!」
「いいよ。ただし、手加減なんかしないからな」
「うん!そうだっ。また今度英雄の話もしようね!」
「う…!?」
こうして、俺はベルの【自称師匠】となったのだった。
これからいろいろ動かしていきたいと思っています。
他のロキファミリアの団員も出したいです。