いつもよりも長くいたように感じたダンジョンから、やっとこさ出てくると空にはまだ高々と太陽があった。
逆にいつもよりも短かったことに気がつき驚いていると、隣にいるキリトが全く疲れを感じさせない声で切り出した。
「よっし、じゃー俺はギルドに行くけど、ベルは?」
「ぼ、僕も行くよっ!」
そうして歩き出すキリトと並び、僕たちはギルドへ向かった。
* * *
ギルドについてまず、覚悟はしていたが…。
「ーもぉ、どうしてキミは私の言いつけを守らないの!ただでさえソロでダンジョンにもぐってるんだから、不用意に下層へ行っちゃあダメ!冒険なんかしちゃいけないっていつも口を酸っぱくして言ってるでしょう!?」
「ゴ、ゴメンなさいぃ!」
エイナさんに物凄い勢いで怒られ、涙目になりながら謝るのだった…。
まだ言い足りないという感じエイナさんだが、今度はキリトに顔を向ける。
「ほんっとうにありがとうキリト君!世話を焼かせてごめんねー…、だけど!キリト君も全然顔見せないけど、やっぱりまだずっとダンジョンにもぐり続けて無茶してるんでしょ!」
「す、スミマセン…」
気がつくと、今度はキリトへの説教タイムも始まったのだった。
「はぁ、全くどっちもどっちよっ?もっと自分の命を大切にしなさいっ!」
やっとこさエイナさんのお説教タイムが終わり、チラッと隣を見ると、さっきまでちっとも疲れていなさそうだったキリトの顔からは疲労が浮かんでいた。
こんなすごいキリトをここまでにするエイナさんって…。
その後はそれぞれに解金所に向かい、本日の収穫を受け取る。
そうしてキリトと合流した僕だったが、彼のお金の入った袋を見て瞠目した。
相手の稼いだ金額を知ろうなどと考えていなかったけれど、あまりにも大きなパンパンの袋だったので目に入ってしまったのだ。
こんな大きさ、きっと4000万ヴァリスはくだらないだろう。
聞いていいのか迷ったが、ベルは恐る恐るキリトに尋ねる。
「こんな大金、一体何層にどれだけの間…?」
「え?えっと。40階層をウロウロと、1週間程?」
「な…っ、なぁあああああああ!?」
あっさりと告げられた事実に一瞬耳を疑う。
しかし次には驚愕の事実に僕の上げた絶叫が、ギルド中に響き渡ったのだった。
* * *
「まさかそんなにハードな事をしてたなんて…」
「工夫すれば結構居られるもんだぞ」
未だに僕が放心状態でいる中、笑いながらどこか抜けたキリトの返事が返ってきた。
なんか、だんだんキリトの性格がわかってきたような気がする…。
溜息をつきながら2人でギルドを出た、その時。
ギュウゥゥ…。
「「……」」
2人して動きを止める。
なんの音かは分かっている…。キリトは「いやー、まいったなー」と少し照れくさそうに笑っていた。
「あの、キリト。ご飯ってまさか…」
「一日ぐらい、食べてないかも」
「ぐらいって…」
「どっかで食べるかー」
「あ!今日のお礼で僕がおご…」
「駆け出し君は無理しない」
「うっ…」
確かに、今のお金事情はギリギリだ。
神様のためにもここは、引かざるおえなかった。
「でも!いつか絶対に奢るから!」
「べ、別にいいんだけどなぁ」
そう言ってキリトは指で頬をかいた。困った時の癖なのだろうか。
今日はいつものように神様と一緒に夕食は食べるつもりでもいたので、僕らは別れることになったのだった。
* * *
それは突然の出会いだった。
あの輝く金色の髪と瞳をもつ少女との…。
それは、【ガーネー・シャファミリア】が行っている年に一度のフィリア祭でのことだった。
僕は神様から頂いたヘスティアナイフでモンスターを、シルバーバックを倒すことができた。
これで少しは、あれから会えていない一人の少年に近くことができたのかな。
そんな時だった。
歓声を上げる周りの人達から悲鳴が聞こえたと思えば次の瞬間、次なるモンスターが目の前に現れた。
絶望する暇すらも与えられずに、モンスターは僕たちに襲い掛かって来る。
「ーッ、ごめんなさい!!」
「な、ベル君何をっ!?」
僕は謝罪の言葉を叫び、咄嗟に神様を横に放り投げた。
更に迫るモンスター。あのミノタウルスの時のような恐怖が、僕の体を突き抜ける。
「でも…ッッ」
只々怯えて諦めたりなんかしないッ!
神様と約束したんだ!絶対に神様を一人になんてするもんかッ!
ふらつく体を無理やり立たせる。もう意識も気力だけで繋ぎ止めている状態だ。それでも歯を食いしばりモンスターと相対する。
──その瞬間、風が吹いた。
「え…」
そして次に見たものは、切り裂かれるモンスターと、美しくなびく金髪だった。
* * *
ボクらの愛の巣であるファミリアで、現在ボクはベル君のステイタスを更新していた。
その最中、ボクは目を見開く。
「なっ?!これはっ!!」
【憧憬一途】
・早熱する。
・懸想が続く限り効果持続。
・懸想の丈により効果向上。
「なんてこったぁあああッッ!?」
「え!?神様どうしたんですか!?」
ヘスティアの大絶叫にベルは仰天する。
このとんでもスキルが発動し、物語は更に加速度を増して進んでいく──。