戦う定め   作:もやしメンタル

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28話《駆け引きと度胸》

勝敗は【ラノス・ファミリア】はキリトを、キリトは【ラノス・ファミリア】の団長であるセノス・チールを戦闘不能にした方の勝利だ。

「ようはキリトは【ステイタス】が戻るまで、基本的に攻撃を避けなくちゃいけないってことね」

「普通のフューマンが、恩恵を授かってる冒険者に一撃もらっただけでもダメージは相当なものだからな」

指を顎に添え言うティオネに、リヴェリアが続いた。

それを聞いたティオナが「えーっ!それってできるの!?」と身を乗り出すのだった。

 

キリトも相手から受ける一発のダメージは理解していた。

流石にキツイ…。

二Mほど離れた相手を見据え、キリトの頬から汗が流れた。背中にある剣を抜く。いつもの剣はアスナに持っていてもらっている。構えるのは、早朝にも使っていた至って普通の片手剣だ。

今はあくまで時間稼ぎ。攻めに入ってはいけない、と心の中で言い聞かせ、敵を待ちかまえた。

 

* * *

 

現在最上階。フレイヤのいる部屋のドアをオッタルは開けた。

太陽の光に照らされ明るくなっているものの、どこか薄暗さがある。壁一面はガラス。調度品の数は少ない。一級のスイートルームを彷彿させる広い室内に似合わないほど飾り気はないが、代わりに品のどれを取っても豪奢に過ぎていた。同時に部屋の内装と品良くあしらえてもある。

巨大な本棚に常識では考えられないほど大きなベット、暗赤色でシックは絨毯。壁には境を挟んだ太陽と月の絵画がかけられている。

その中央に、彼女はいた。

銀髪の女神はこちらに振り向いた。銀の双眸を持つ美貌も、大きな胸やくびれた腰も、一つの動作でさえも、美しい。遠目から見ているにもかかわらず、僕も紅潮してしまう程だ。

あんな綺麗な神、初めて見た…。

そんなことを考える自分に気づき頭を振る。

今はやらなきゃいけないことがあるだろっ!

その時、銀の瞳がこちらを捉える。

フレイヤ様は、じっとこちらを見ていたかと思うと…微笑んだ。

コツ、コツ、と靴を鳴らして歩み出す。

そして間もなく僕達の前で足を止めた。

「ロキの子達がここに来るなんて、珍しいこともあるものね」

「申し訳ありませんフレイヤ様、少々お話ししたいことがございまして」

流石のフィンさんも、少量の汗が滲んでいる。

アイズさんはフレイヤ様から視線を落とし俯いた。

そんな二人に流し目を送り、銀の視線が僕の前に止まる。

吸い込まれそうな瞳にごくりと喉を鳴らしてしまうと、フレイヤ様は笑みを深めた。

「要件は知っているわ、キリト君のことでしょう?」

その言葉が三人の中で確信に変わる。僕達は眼を見開いた。

「目的は何でしょうか、フレイヤ様」

「フフッ、ちょっとした神のイタズラよ」

微笑みを崩さないフレイヤ様は、自然な動作ですっと手を差し伸べ、僕の頬を撫でてくる。

「いいわよ、キリト君を直してあげる…ただし、条件があるわ」

その時、奥から人影が現れた。その格好はあの日の闇討ちで襲われた時と同じ、全身を黒に包んだ姿だった。

僕が眼を見張る中、前の人物はフードを外す、小柄な体から少し予想はあったが、そこから出てきた髪は、緑に輝き肩のあたりまで伸びている。その間から尖った耳が出て、人種を明らかとした。真っ直ぐに向けられた視線は金色に輝いている。

目の前に姿を現したのは、エルフの女性だった。

フレイヤ様が口を開く。

「この子がキリト君の【ステイタス】を無効化した子よ」

そこまで言ったフレイヤ様はすっと眼を細めた。

 

「ベル、貴方があるモンスターに勝てたら、この子が直してくれるわ」

 

『ーっ!?』

僕達は眼を見張る、モンスター?どういうこと?未だに僕は混乱する中、「ベル・クラネル」と声をかけられる。声をかけたフィンさんの方を向くと、その口が開いた。

 

「やってくれるかい?」

 

「っ!」

混乱していた頭が理解する。そう、これは僕がやるかやらないか、勝つか負けるかで全てが決まる状況。アイズさんを見る。その瞳はこちらを静かに見据えていた。

できるわけがない…。

 

アイズさんの前で逃げ出すなんて

 

「やります!」

 

僕は大きく頷いた。

それを聞いたフレイヤ様は、笑みを深め、「オッタル」と僕らから視線を外した。

名を呼ばれた人物は「ついてこい」とまた歩き出す。

僕は覚悟を決め、足を前へと踏み込んだ。

 

* * *

 

突っ込んできた冒険者を、避ける、避ける、避ける。Lv1である冒険者達を必死で眼で捉え、キリトは避けまくった。

この中の大半はLv1、その中にLv2も存在するが、朝の稽古でLv3のベルとやった時より全然遅いっ

流石に攻撃は全て避けられないがなんとか致命傷は避ける。

問題は…

「おりやぁああっ!!」

「ーくっ!」

とっさに構えた剣、そんなものは関係なく五M近く吹き飛ばされた。

そう、問題は…

 

パワーの違い

 

スピードは徐々に眼で慣らしているが、これはどうにもならない。だから全て避ける。その集中力は大幅に精神力を削る。そしてもう一つどうにもならないもの…

 

「はぁ…はぁ…、っ」

 

視界が霞む中、なんとか握りしめていた剣を突き立て立ち上がる。肺が痛いほど苦しい、心臓が破裂しそうだ。

そう、

 

かけ離れたスタミナ

 

苦しい心臓を抑えながら、俺は顔を歪めた。

覚悟はしていたけど

 

めちゃめちゃキツイ…っ

 

呼吸を整える暇も与えず剣が、拳が飛んできた。

 

その光景に周りはざわめく。

「おいおい、やっぱり一人はきついんじゃないのか?」

「ていうかまだ一人も倒せてないぞっ」

「しかも、女の子だっけ?【黒の剣士】って」

そんな中、周りのざわめきを無視し、一同は顔を険しくしていた。

「やっぱりまずいな、これは」

「どないすんねん、そんなもたんやないか?」

ヘルメスが眼を細め、ロキが汗を掻く。

「なんかすっごくヒヤヒヤするよーっ!」

「でも【ステイタス】無しで…すごいわね」

ティオナとティオネもキリトに見入る。

隣に座るベートは無言で戦いを見据えていた。

「はぅっ、だ、大丈夫でしょうかっ!?」

「これは相当に厳しいですね…」

「だが、なんとか凌いでる」

「ダテにここまで来てないということですね…」

呟いたアスフィの隣には、両手でキリトの剣を強く握りしめ、祈るように見つめるアスナがいた。

 

「キリト君…、頑張って」

 

* * *

 

オッタルが止まったのは、何もない大きな空間。そしてそのずっと奥には大きな檻が…

「戦ってもらう子は、あの中よ」

フレイヤ様は、「あとの子は手出ししてわいけないわよ」といい微笑みを浮かべる。フィンさんとアイズさんは一度こちらを向き、頷いた。僕も頷き返し、前へと進む。ちょうど中央に来たあたりで、ガチャ、と檻が開いた。

中から出てきた来たものに、僕は体を強張らせた。

そのモンスターは真っ白な体毛を全身に生やしていた。ごつい体つきの中で両肩と両腕の筋肉が特に隆起しており、銀色の頭髪が背を流れて尾尻のように伸びている。

野熊のモンスター『オルズネビア』は、その瞳をギリギリと見開き呼吸を荒くしながら、歩み出てきた。

Lv4相当。

女神がその銀の双眸を細め微笑む、フィンとアイズは静かに見据える。

咆哮が響いた。

 

* * *

 

「ーくっ!」

向こうの団長はまだ動かない。そんな中、地面が揺れた。

「そこをドケェお前らっ」

出てきた男に俺は、決して余裕がない中その男を”見上げた”。

巨大な金棒を肩に担ぐドワーフ。その巨体がこちらに

突っ込んだ

 

「ーっ!?」

 

その速度に眼を見開く。

 

こいつ、Lv3かっ!?

 

団長の他にもLv3がいたことに驚愕するが、そんな暇はほとんどない。迫り来た相手の動きから次への攻撃を予測、駆け引きし金棒を僅かにかすめながら、精一杯、跳ぶ。

空中でもう一度見た顔は…

 

笑っていた。

 

「ーっ!?」

その瞬間目の前には、一人の団員。

振り下ろされた剣に

キリトが、観客が、ヘルメス達が、アスナが眼を見開く。

 

迫り来る剣

その瞬間

キリトは目つきを変えた。

団員が一瞬怖気ずく。

冒険者さながらの表情とかしたキリトはその一瞬を逃さず、自らの剣を、相手の剣の軌道に合わせ

 

受け流した

 

自分の力で前に吹き飛ぶ団員。

間一髪で攻撃を回避した。

 

『プフーーーーーーーーーっっ』

 

皆が一斉に張り詰めていた息をを吹き出した。

「危なかったーっ!」

「あんなのもろに食らったら今のキリトなら死んでたわよっ」

ティオナとティオネの言葉に、アスフィは手を額に当てながら溜息をついた。

「相手はキリトがLv0のことを知りませんからね…」

「ていうか、なんだ?今のキリトの技は」

「あれは、私もタケミカヅチ様から教わりましたが。『合気道』というものです。相手の力を利用し、自らの力とする武術」

「まったく、ハラハラしましたよ。なんで初めから使わないんですか〜っ」

「今の様子だと一か八かの賭けだったと思います。なんせスピードが違う。それにもし失敗すれば相手の力をまともに受けることになります。それだけは避けたい」

そんな命の言葉を聞きながらアスナはキリトを眺め続けていた。

 

* * *

 

「ーがはっ!」

乱暴な横殴りの拳が炸裂する。

ほんのわずか体を横にずらすことに成功したものの、敵の一撃は僕の脇腹を強打した。

防具の上から受けたにもかかわらず途方もない衝撃が発生し、呼吸を根こそぎ奪われる。

視界がぶれたと思った瞬間、僕の体は弾き飛ばされていた。

「ぅあ!?」

壁に突っ込んだ。無機質な壁は頑丈で硬い。

体をバラバラにするかのような痛みに悶え苦しむことしかできない。僕は拳型に変形した軽装の上から脇腹を抑え喘ぎ散らす。

『フゥーッ…!』

方向転換するオルズネビア。

全身を浸す痛みをはねのけ、体に鞭を入れる。目尻に涙を溜めたまま僕は走り出した。

今、僕の戦いをアイズさんが見ている。信じてくれている。そんな期待に応えられずにやられてたまるか…!!

それに何より、今戦っているであろうキリトを、今度は僕が助けるんだっ!!

「うああああああああっっ!!!」

ありったけの勇気を込めて吠えた。

体の怖気を追い出すように、無理やり全身を勇み立てる。

『ガァァァッ!』

オルズネビアは迎撃を行う。

鎖を連れて空気をえぐってくる相棒のような腕に対し、僕はもう勘に身を任せた。

がくんっと頭を思いっきり下げると、大薙ぎの左拳が首のすぐ上を息空振りに終わる。

短刀を装備する。

千載一遇の好機。

ガラ空きになった敵の左胸に向かって、僕は、すれ違いざま斬撃を叩き込んだ。

「っ!?」

が。

キィンッ、という金属の悲鳴が響き渡る。

武器は、弾かれていた。

電撃が走り抜ける。僕の頬は不細工に痙攣した。

僕の攻撃じゃあ、オルズネビアを傷つけられない!

瞳が移す光景に言葉を失っていると、次の瞬間、僕の体は宙を浮いていた。

「ぎっ!?」

その大きな手で掴みかかったオルズネビアは、振り回すようにして僕を壁へ叩きつける。

背中を強打され呼吸が一瞬止まった。双眸は限界まで見開く。

その瞬間、フィンとアイズは目を見張り、フレイヤは只々ベルを見つめていた。

その体は、意識を失った。

「ベルっ!!」

アイズは力尽きた少年に向かって、胸の底から叫んだ。

 

* * *

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ」

体力が限界に近い。迫り来る攻撃を数発まともに受け、目の前は霞んで、足元がふらつく。今にも倒れそうな体はもう殆ど気力で動かしていた。

自分はあくまで時間稼ぎっ

そう頭で繰り返し、防御に全神経を研ぎ澄ませる。

その集中力はさすがのものだった。

「ーっ!」

突然矢が飛んできた。それを俺は間一髪でよける。

『オラァアアアアアッッ!!!』

「っ!」

直後、回避した場所には複数の団員が…

それを大きく飛び、避ける。なびいた黒髪が少量剣で切れた。今のは危なかった。と

その時

 

「フンッッ!!」

「ーなっ!?」

 

その先には金棒が…

 

三重攻撃っ!?

 

「ーかはっ!?」

次の瞬間、キリトは金棒に

 

 

直撃した。

 

 

『ーっ!?』

全員が息を詰める。それぞれが極限まで目を見開いた。

空中に血しぶきをあげ吹き飛ぶ光景がスローモーションになる。

そのままキリトは盛大に吹き飛んだ。

 

 

何Mも床を転がり、やっとの事で止まる。

しかしその体は

ピクリとも動かなくなった。

 

ヘルメス達が前に乗り出す。

「おいっ今もろだったぞっ!?」

「死んでないよねっ!?」

「死んでいなくとも骨は何本か確実にいっているぞ…っ」

リヴェリアもさすがに今のには汗を流しだす。

その時、

アスナが前に出た。

 

 

「キリト君っっ!!!」

 

 

その叫びに他の観客達もアスナに視線を向ける。

そんなこと御構い無しに、涙目になりながらアスナは叫ぶ。

 

 

「立ってっ!立ち上がってっ!キリト君っ!

 

 

 

勝ってっっ!!!」

 

 

 

体がピクリともしない。身体中が痛い。俺は…

なんで戦うんだっけ…?

血が足りないからかな、思い出せない…

なんだっただろう…

 

 

 

『キリト君っっ!!!』

 

 

 

その瞬間、体が暖かくなる。暗闇が徐々に明るくなっていく。

あ、そうだ…俺は…

仲間のために戦うんだ。自分を信じてくれるアスナ達のため。今俺のためにがんばっているであろうベル達のため。約束したじゃないか、言ったじゃないか、

 

信じるって

 

すると、もう一つ灯がともる。

さっきヘルメス様が言った言葉。

 

『キリト、確かに仲間を守るために生きる、戦かうのはいいことだ。だけど今は

 

 

自分のために戦え』

 

 

あたりが光に満ちた、指が、腕が、足が動き出す。

 

『キリト君、魔法を使わなくても戦えるように、毎日すごく頑張ってた。私ずっと見てきたもん。それは無駄なことなんかじゃない』

 

この手で今までの時間の中で手に入れた力で、魔法になんか頼らずに…

 

ー勝ってみせるっっ!!!

 

 

『おぉおおおおおおおおっ!!!』

 

 

いつの間にか周りはキリトという存在に釘付けになっていた。

 

* * *

 

声が、聞こえていた。

闇の狭間を漂うベルの意識に、一番こんな姿を見られたくない。憧れであり、想い人であるこえは届いていた。存在しない体の感覚の中で、ベルは歯をかみしめた。彼女の叫びに引き寄せられるように、暗闇の中をかきわけ、泳ぐ。

心の炉に、火をくべろ。不滅の炎に、もう一度。再起する意思が傷ついた体を揺らす。暗闇の先にはもう光が見えている、あとは立つだけだ。

闇の先へ。光の向こうへ。

動こうとしない己の体に何度も叱咤し、ベルは力を込める。しかし、動かない。ピクリとも震えもしない。

限界を迎えている肉体に、ちくしょう、動け、と叫んだ

次の瞬間。

 

 

『べルを見たら、まるでローレンみたいで…サクみたいで…。俺…、凄く…、嬉しかったんだ』

闇の中に、その声が響き渡った。

そうだ、言われたじゃないか

あの時に言われた、『頼んだ』と

そして、今回も言われた、『信じてる』と…

今までたくさん助けられてきた。初めてのダンジョンの出会いもキリトだった、僕をミノタウロスから助けてくれた。あの時のキリトを思い出す。どこかオドオドとして、困ってばかりだったが、僕の目には完全にキリトは

 

 

英雄として映っていた。

 

 

今日僕は覚悟を決めたはずだ

守られている側はもう嫌なんだと、言ったはずだっ!!

 

「ッッ!!」

覚醒する。

フィンとアイズは息を張り詰め。フレイヤは愛おしそうにその姿を眺めた。

立ち上がる。

その瞬間、右手が光り始める。

今までのキリトとの稽古が思い出される。

ー迷うな

彼が語り少年が教えられた助言の内容。

ー冒険に大切なのは、駆け引きと度胸

蘇る回想が、頭の中で響き渡る。

ー本当に窮地に立たされた時、それができれば

そう、それは…

ー忘れるな

 

((ー自分の目標を))

 

走り出す。

目標である人が今、近くで見ている。

師である友が、戦っている。

絶対に

 

負けられないっっ!!!

 

貯めたのはほんの数秒、

間合いは約三M

踵を返していたオルズネビアが振り返る

 

 

駆け引きと度胸

 

今が、その時ーっ!

 

 

 

 

「【ファイヤボルトォ】っ!!」

 

 

 

炎の稲妻が炸裂し、爆発した。

 

* * *

 

身体中の痛みに耐える。

こんなもの

あの時に比べれば…っ!!

再び降り注ぐ攻撃の数々。それを全て受け流す。

 

「なんて集中力だ…っ」

リヴェリアが目を見開く。

「まったく、つくづくキリトは予想がつかないな」

ヘルメスが笑う。

「がんばって、キリト君…」

アスナが何度目かわからない言葉を呟く。

振り降りてきた剣をキリトが受け流した…

 

「いい加減くたばれぇやぁぁっ!!」

 

もう一度金棒が振り降りてきた

瞬間

その金棒は、いやそのドワーフの男は…

 

 

一瞬で闘技場の奥まで吹き飛んだ。

 

 

全体が静まり返る。

キリトの周りの砂埃が薄れていく。

吹き飛ばされたドワーフの男は壁に体を食い込ませて白目を向いている。

 

一発KO

 

砂埃が完全に消えたそこには…

 

 

いつもの少年のキリトが立っていた。

 

 

『おっしゃーーーーーーっっ!!!!』

 

 

アスナ達が静寂を破り、歓喜をあげる、次の瞬間には

 

『おぉおおおおおおおおおおおっ!!!』

 

他の観客も歓声を轟かせた。

 

ラノスが口を開ける中、【ラノス・ファミリア】の団員達も今までの勢いはすっかり消え、後ずさりをし出す。

キリトは一度瞳を閉じた

 

やったんだな、ベル

 

そうして一度微笑み、すぐに顔を引き締める。そして前を向いた。

次には恐ろしいオーラを放ちながらニコリと微笑む。

 

「お前ら、散々痛めつけてくれたなぁ〜」

一歩、踏み出す。『ひぃっ!』と一斉に悲鳴をあげる。

キリトは指をボキボキと音を立てながらもう一歩

そして笑いながら告げた。

「覚悟は、できてるよなぁ〜?」

 

 

『ギャアアアアアアアアッッ!!?』

 

 

 

全滅は5分もかからなかったのだった。

 

* * *

 

「キリトくーーーーんっ!!」

「うぐっ!?」

全てが終わりアスナがキリトに抱きつく、力は戻ったものの傷は癒えていないキリトはあまりの痛みに顔を真っ青にするのだった。

 

そんな中、ソロリソロリと逃げ出す影

「ちょっと待てラノス」

「ひっ!?」

逃げ出すラノスにヘルメスが立ちはだかった。

「戦争遊戯、ルール決めの時言ったなラノス。負けたら言うことをなんでも聞くって」

ニヤリと笑うヘルメスにラノスは汗を流しだす。

「ちょっ、ちょっとした遊び心だったんだっ!どうか…っ」

「お前には賠償金をたんまりもらうからな。はっはっはっ」

「うわぁあああっ!!!」

それには一同笑いをこらえるのに必死だった。

 

* * *

 

「ベル」

今度呼ばれた声は、あの鈴のような声ではない。

僕はその少年の方へ振り返った。

現在は、太陽もすっかり落ち、暗闇が街を包み込む。【ヘスティア・ファミリア】で、ただいまみんなでパーティ状態だ。一度外に出た僕に冷たい風が頬を撫でた。

「ありがとなベル。おかげで助かったよ」

「ははは…想像もしてないことだらけだったけどね」

僕は照れ臭くて俯く。顔が熱いのがわかった。そして呟く。

「なんだかんだで、またキリトに救われちゃったな…」

「ん?なんか言ったか?」

首をかしげるキリトにベルは満面の笑みで答えた。

 

 

「なんでもないよっ!」

 

 


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