戦う定め   作:もやしメンタル

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21話《仲間》

「フッ」

『ギャァアアアッ!』

 

その漆黒の剣が人食花のモンスターの茎のような胸元を深く抉った。モンスターは血しぶきをあげ倒れる。するとすぐに後ろから触覚が襲ってくる。それを目の前の相手を踏み台に蹴り上がり壁に移る。すぐさま触覚が迫るが壁から壁に移り変わる。そのまま止まらず左右に移動、その速度はとても目で追えるものではない。7度目の蹴りつけで人食花に迫る。咄嗟に飛ばした触覚を空中で回転し回避するという、でたらめな避け方をする。それにはモンスターも『ギェ?』と固まった。その一瞬を逃さず真上から人食花を真っ二つに切り裂いた。

 

 

その間、約十秒。

 

 

「ふー」

片手に持つ剣を左右に払い、剣士キリトは鞘に収めた。

 

「さ、流石キリト…」

「助けなんて全くいらないね…」

 

合計で十体一気に倒したキリトはクルクルと腕を回しながら帰ってきた。

「いやー、戦った戦った!」

『この戦闘マニア…』

満面の笑みのキリトに僕らは呆れ果てた。

 

現在51層。すっかり僕達には別世界で動揺が隠せないが、キリトというLv7がいることで、他のアイズさん達【ロキ・ファミリア】とアスナさん達【ヘルメス・ファミリア】は十分に体制を整えられた。

ここまで来るのに驚くほどスムーズだ。やはり【ロキ・ファミリア】と【ヘルメス・ファミリア】の幹部がいると今まで経験したことのない安心感がある。僕達【ヘスティア・ファミリア】の一同はまるでランクが違うことを改めて思い知ったのだった。

「ここまできましたね…」

「他が見たらただのバカに思われるわね」

リリとティオネさんの言葉にみんなが苦笑いした。

こんな無謀のようなことをやる日が来るだなんて思ってもみなかっただろう。周りに警戒しながらもそんなことを思ってしまう。この辺りになると普通は何十人もの人数で拠点を置き、陣形を作って進む。それをたったこれだけだ拠点も何もない。

「しっかしスゲーな、春姫の妖術は」

「前にも経験しましたが流石です、春姫殿」

ヴェルフと命さんが心底感心しながら体を見渡した。

「はぅっ!もう精一杯ですっ」

「キリト君もこんなことできないでしょー」

「よ、妖術までできるわけないだろ…」

今も僕達がついていけるのは(守られる側だが)、春姫さんの妖術《ウチデノコヅチ》のおかげだ。これほどの階層になると鉢合わせる冒険者達は滅多にない。その事もあり遠慮なく使えているのだ。

 

「…っ!来るぞっ」

するとキリトがいち早くモンスターの気配に気づいた。そして、前からは

集団のモンスター。アレシアさんと僕ら【ヘスティア・ファミリア】を囲んだ陣形の状態で、それぞれ獲物を構えた。

「キリト、アスナ、【剣姫】で一気に崩しにかかってくださいっ」

「ガッテンっ」

「わかった」

「了解」

「我々はそのまま陣形を崩さないように」

「わかったわ」

「あーっ!私も行きたいー!!」

「わがまま言わない。…ったくクズどもがぞろぞろ集まりやがって…」

「ティ、ティオネさん。本性出てきてます…っ」

後衛のティオナさんとティオネさんは少しご機嫌斜めだ。

指揮は全てアスフィさんが行っている。「フィンがいないから心配だったけど、大丈夫そうだね〜」とティオナさんが言っていた。それに答えたアスナさんの言葉だと、いつもダンジョンでの指揮はアスフィさんらしい。たまにキリトが受け持つこともあるがほとんどそうなのだそうだ。

アスフィさんの的確な支持のおかげもあり、進みは順調だと思う。

 

その時、前方から衝撃音。前を向くとキリト達が一気にモンスターへ突っ込んでいた。一瞬めまいが起きそうになる…。ダメだ、ついていけない…。

『グルァアアッ!』

「ーっ!」

「ベル様っ!」

だがそんなこと考えていられるほど余裕はない。たたでさえレベルが違いすぎるんだ、一瞬の隙も抜けない。実のところリリもサポートで倍働いているだろう。ヴェルフも魔剣を一本使うことにもなった。命さんも苦しそうだ。

高速で迫ったヒズメに何とかヘスティアナイフで受け止める。キリトとの稽古のおかげで防ぐのは鍛えられている。

「うわっ!」

だが力に押され吹き飛んだ。すぐに襲いかかってくるモンスターに目を見開く。その瞬間

 

「ーっ!?」

 

見開いた目には恐ろしい形相のモンスターと

 

 

アレシアさんが……

 

 

「なっ!?逃げてっ!!」

 

僕がそう叫んだ時、アレシアさんは、スッと片手を前に突き出した。そして

 

『グルァアアッッ!!!』

 

大爆発が起こった。

そして次にはモンスターが丸焦げになっていた。

 

何も言えず僕はただ呆然と座り込んでいた。

 

「大丈夫っアルゴノゥト君っ!」

周囲は片がついたようだ。ヴェルフ達のところにもティオネさんが助けに入ったらしい。

「は、はい…なんとか…」

そう言いながら僕は、パニックを起こしている頭で必死に考えた。

 

今のは魔法?でも詠唱も何も無い。かと言って詠唱無しの魔法でもなかった。ただ構えた手から何の前触れもなく炎が噴き出したのだ。

 

「アレシアさん…今のって…魔法、ですか…?」

かすれ気味な声で尋ねる、その声にアレシアさんは振り返り言った。

「違うよ」

僕が言葉を失う中、他のみんなは見ていなかったのか首を傾げていた。

 

 

今日はここまでとなった。

僕はモンスターにビクビクしながらも隣に座るアレシアさんを見つめた。

「なに?」

「うへっ!?」

一度もこちらに視線を向けていないはずのアレシアさんは、今もなお、前を向きながら尋ねてきた。僕はどうしたものかと焦ってしまう。

「え、えっと…その…アレシアさんって冒険者ですよね?」

「違うよ」

「……えっ?」

話を切り出すために言ったことがあっさり否定されフリーズしてしまう。

「えっ、だってダンジョンで倒れていたじゃないですかっ?」

するとアレシアさんが僕に顔を向けた。なぜだかこの人と目が合うと、ドキッとしてしまう。ほとんど目が合わないというのもあるが、アレシアさんのスカイブルーの瞳はとてもまっすぐで何かみんなとは違うものを感じる。

「冒険者は服を着ている」

「へっ?そ、それは…っ」

この人には羞恥心がないのかと僕が赤くなってしまう。倒れていた時にアレシアさんは確かに衝撃的だった…。でもっ最近ギルドで見た掲示板に『冒険者の防具を奪っていくモンスターがいる』って(あくまで噂だが)あったし、有り得ないわけじゃないし…。

と、往生際が悪い僕の隣でアレシアさんは上を向いた。

「つき、見えない」

「へっ?そ、そうですね、ダンジョンですし…」

「ほしも、そらも…」

その時、何か引っかかるものを感じた。

 

『あの大きな光はなに?』

 

上を向くアレシアさんを見つめる。この人は、もしかして…

 

 

 

ずっとダンジョンにいた…?

 

 

 

あまりにもありえない考えが浮かび上がった。でも…

 

 

 

考えているとアレシアさんはコロンと寝転がった。

そうして会話は途切れてしまった。

 

* * *

 

現在55階層。全員は全力で走り続けいた。

前衛のティオナさんとキリトがモンスターの群れに向かい打つ。と言っても進路に割り込んでくるモンスターを弾いているだけだ。とにかく走り続ける。僕達のモンスターは中衛のアイズさんとアスナさんとティオネさんが対応していた。

キリト達の話によるとこの階層から一気に激しいものとなるなしい。今僕は只々必死に前に食らいついていた。

「止まらず走り続てくださいっ!」

アスフィさんの支持が後ろから飛ぶ。そう、今は決して止まってはいけない。何故なら、ここに入る前にキリトが言っていたことだが、なんでもここからは気をぬくとすぐに”狙撃される”らしい。

リリ達の足では到底ついていけないスピード。このままではついていけないので、スピードが落ちる。

「キリト、一度下がって防御魔法っ、急いでくださいっ」

「【吹き荒れる炎、凍える吹雪ー】」

アスフィさんの支持にキリトは返事をするのも惜しみ姿を変え、詠唱を開始する。

足を引っ張っていると感じているヴェルフ達は顔を一層歪めた。

「ーっ!?」

突然地面が揺れだした。

「ーっ!もう少しスピードを上げられますかっ!?」

アスフィさんの焦る声が後ろから聞こえた。

前のキリト達もチラリとこちらを見てきた。

「ーっ、リリスケと春姫をどうにかできないかっ!?」

「…、【怒蛇】春姫さんを背負えますかっ?ここのモンスターはアスナ、一人でお願いします」

「わかったわ」

「了解」

ティオネさんは春姫さんを、アスフィさんはリリを背負った。そのまま、加速する。アスナさんはさらに剣筋がはやくなった。流石は【閃光】。

そして、キリトとアイズさんが呟いた。

「「きた…っ」」

瞬間、背後でものすごい熱を感じる。

大爆発。ダンジョンの床を突き破って炎が舞い上がり、一同の顔を赤く染めた。まるで地雷。

第1級冒険者が必死に逃げる威力。僕も死に物狂いで食らいついた。休む暇なんてない。今まで以上に頻繁に出てくるモンスター。息がままならない中、走る、走る、走る。これはまさに”地獄”。

その時、竜の咆哮が聞こえた。しかし、それらしい姿は見られない。この声は…下から…?

 

 

 

ビキッ

 

 

 

その時、後ろの壁にヒビが入った。みんなの表情が厳しくなる。

「ふ…っ、ふざけろ…っ!」

 

今まで二十体以上いたのが一気に十体近く増えた。いきなり押し寄せてくる。

そして自分にも襲いかかってくるモンスターが…

 

瞬間光が走った。目の前のモンスターが一気に切り刻まれた。そして代わりに金色が煌く。

「大丈夫?」

「は、はいっ!」

あまりの速度に頭が半分ついていかないが、獲物を構え直す。

今は完璧に【ヘルメス・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】に守られる形だ。春姫さんの妖術も”戦うために”かけてもらったのではない。”生きるために”だ。それほどに次元が違いすぎる。

 

その時、ピンクの輝きが視界に入った。

「ーっ!?アレシアさんっ!」

前に出たアレシアさんにモンスターが襲いかかる。そしてアレシアさんが片手を上げ。瞬間ー

 

紅蓮の炎を巻き上げ爆発した。モンスターが一気に吹き飛ぶー。

 

『グルァアアッッ!!!』

「ーっ!?」

 

爆炎の中から、突如一匹飛び出してきた。そのままモンスターの拳が襲いかかる、気がつくと僕はそこにー

 

 

 

突っ込んでいた

 

 

「ーかはっ…!」

「!?ベル様!?」

「なっ!?ベルーーーっ!!!」

 

そのまま僕は吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

誰かに頭を撫でられている。まるでこれは…ってあれ?これ、前にもあったような……

 

「大丈夫?」

「どわぁああああっ!!?」

 

またまた目の前にはアイズさんの顔があった。

「キー!なに膝枕なんてしているのですか!ベル様から離れてくださいーっ!」

「ひ、膝枕なら私が…っ!」

「そういう問題ではないのでは、春姫殿…」

僕は顔を真っ赤にするのだった。そしてすぐに高速で頭を下げる。

「あのっ!すみません止まらせてしまって!!」

「別に気にしなくていいよアルゴノゥト君!」

「ええ、命は第一優先よ」

ティオナさんとティオネさんに頭を撫でられまた赤面してしまった。

「ホントにもう平気か?ベル」

「う、うん。何ともないよ」

「こいつは驚きだな」

汗を掻くヴェルフに首をかしげるとリリが答えた。

「まともに受けていたら即死でしたが、キリト様の魔法で間逃れたんですよ」

「そっか…」

「もうっ!あまり無茶なさらないでくださいベル様っ!!」

「ご、ごめん…」

「改めて凄いなキリトの魔法は…」

周りを見渡すとキリトはアスナさんと一緒に周囲を見張っていたが、チラッとこちらを振り向き軽く手を振ってきた。どうやらここはセーフティポイントのようだった。僕も振り返していると、目の前に影が。

 

「…アレシアさん?」

 

するとアレシアさんはしゃがみこみ、目線が同じになる、しかも顔がとても近くなる。

僕が顔を赤くしているとアレシアさんは口を開いた。

 

「なんで助けたの?」

「えっ?」

 

アレシアさんはまっすぐに見つめてきた。僕はその目から視線をそらさず、さして迷うこともなく答えた。

 

 

 

「仲間だからです、けど…?」

「…なか、ま?」

 

 

 

 

まるで理解できないという風にアレシアさんは首をかしげる。僕はこの前アレシアさんに色々と教えた時のように笑う。

「大切な人のことを言うんです。アレシアさんにはいませんか?」

アレシアさんは硬直した。

「たい、せつ…」

「すみません、難しかったかなー」

「近いっ!近いですアレシア様っ!」

突然のリリの乱入で話は途切れた。アスフィさんが立ち上がる。

「治ったのでしたら進みましょう。あまり長居したくないので」

そうして、まだ考え込むアレシアさんを連れて立ち上がりキリト達の元へ。

「助かったよ、ありがとうキリト」

「おー、もう大丈夫か?」

「うん、バッチリ!」

「じゃあ、行こっか」

「はいっ」

そうして僕らは、また次へと進むのだった。

 

 


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