地中の奥深く、紫に輝く階層で
ビキッ、と
新しいモンスターが生まれようとする。
初めは腕から順にビキリ、ビキリと壁面に亀裂が入り出てきたのは
サラサラとストレートなピンクの髪は腰まで伸び、何も身にまとっていない肌は透き通るよう。スカイブルーの大きな瞳をした、見た目は完全に少女の姿だった。
そしてポツリと呟いた。
「すぐに行く」
* * *
「今日はだいぶ稼げたんじゃないか?」
「そうですね。最近はとても順調にいけています」
「はぅー、疲れました」
「もう少しの辛抱です、春姫殿」
現在4階層、荷物も一杯になったのでベル達は地上へと帰ろうとしていた。その時
「あれっ?」
「?、どうしたベル?」
「あそこに倒れてるのって…」
『えっ?』
Lv3の視力で捉えた先には、何かが倒れていた。みんなで視線をかわし、そこへ走っていっていくと……
「うぐっ!」
「なっ!」
「ベル様!見てはいけません!」
「えっ?何がって…うわっ!目隠ししないでよ!」
「ダメだベル。お前には速すぎる、見るな」
一番後ろにいたのでまだ見ていなかったベルの目をヴェルフが隠す。そしてベル以外が視線を落とし、倒れている少女を見つめた。
見る限り普通の少女だが、問題はその姿だ。
何も着ていないのだ。
防具どころか服さえも来ていない姿に、流石にヴェルフも視線をすぐにそらす。
「モンスターにやられたのか?」
それにリリはしゃがみこみ少女の体を見るがモンスターにやられた後はない。
「違います。マインドダウンでしょうか…」
「というかその前に、その格好はどういうことでしょうか」
命が顔を赤らめる言うと「えっ?格好?」とベルが言うがみんなもちろん答えない。確かに、ダンジョンで防具どころの騒ぎじゃない姿は説明がつかない。
それぞれ固まっていたがヴェルフが前に出る。
「疑問は絶えんが、まずはダンジョンから出ないか?」
その言葉にみんなが正気に戻った。
「そうですね。4階層にまで来たら余裕がありますし」
「じゃ、じゃあ。私のコートを」
「では私が運びます」
「すまんな、春姫、命」
春姫のコートを羽織らせ命がおんぶをし、ベルはやっと解放された。
「女の子…って、もしかして裸だっの!?」
「あっ!ヴェルフ様、まだ早いです!」
コートを羽織っただけの少女にベルが顔を赤くする。そんなベルをリリは「何赤くなってるんですか!」と睨みつけた。
* * *
『はあぁぁ…』
いくつもの視線を我慢し、やっと【ヘスティア・ファミリア】についたベル達は一斉に脱力しへたり込んだ。
そんな子達の帰還にヘスティアは何事かと驚くのだった。
「……。つまりこの子はダンジョンで倒れていたのかい?」
「はい、一人ででした」
ソファーに寝かせた少女をヘスティアはまじまじと見つめた。
「うーん。これは本人から聞かないとわからないな」
「そうですよね…」
ヘスティアもベル達と同じように頭を傾げ全くわからない様子だった。ひとしきり考えた後、ヘスティアは表情を変えベルに迫る。
「ところでベル君。まさかとは思うけどこの子の体は見なかっただろうね!?」
「っ!は、はい!」
「ふーん。それならいいんだ」
神の前では嘘をつくことはできない。ヘスティアはベルは本当のことを言っていると判断した。
「でも、裸だと知って興奮していましたけど」
「なっ、リリ!?」
「なんだってぇ!ベル君っ、詳しく聞かせてもらおうか!!」
「ち、違います神様っ!!」
後ろに黒いオーラのようなものを出し髪をウネウネと逆立てるヘスティアにベルは涙目で抗議した。
そうしていると、ピクッと、少女の瞼が動いた。
「う、うぅん…」
「あっ!みなさん!気がついたようです!」
瞼がゆっくりと開き、スカイブルーの瞳があらわになる。まだ意識はもうろうとしているが、フラフラと上半身を起こした。
「まだ危ないですよっ」
そうして命が寝かせようとすると、少女はこちらに顔を向け、言った。
「65階層まで10人、一緒に来て」
『えっ?』
突然の言葉に一同は混乱した。
「65階層って、ダンジョンのかい?」
「そう」
「というか、こっちは色々聞きたいことがー」
「お願い」
少女はまっすぐな瞳を向け続ける。
みんなが困り果てる、理由は簡単、行けるわけがないからだ。
【ロキ・ファミリア】でも遠征では58階層までしか行けていない。それなのに65階層は幾ら何でも無茶苦茶だ。
「すみませんが、それはできません」
リリがそう告げると少女はまた
「お願い」
と頼み続ける。ヘスティア達は目を合わせどうするかと弱っている中、ベルが前に出た。
「何で行きたいんですか?」
「会いたい者がいる」
『えっ⁉︎』
まさかの返しにまたまた驚いてしまった。
「ありえない。そんなとこに人がいるわけがねぇ!」
「で、でも。本当だとしたら一刻を争いますよっ⁉︎」
「はぅ!助けなくてはっ!」
「待ってください」
その中、リリが少女を睨みつけた。
「いるかいないかの前に、まず罠だと思うのが妥当です」
「ちょ、ちょっとリリっ」
ベルが反論しようとした時、ヘスティアが前に出た。
「サポーター君、子は神に嘘をつけないよ」
「…っ!そうでした」
「ということは…」
「本当って事か?」
全員の視線が少女に向く。少女はまっすぐな瞳を向けていた。みんなの表情が変わる。
「大変な事になったな」
「しかし、リリ達の力では行けるはずがありません。第一人数が足りませんし」
「僕たちだけの、力じゃ…」
そこまで言ったベルは何かを決意したようにヘスティアを見た。その視線にヘスティアは一度目を閉じ「分かった」と頷く。
「まさかベル」
「うん、みんなに頼んでみよう」
「それしかないね、頼みに行こう。自体は一刻を争う」
「はいっ!」
そうして、春姫だけは少女の看病をし。残りは思い当たる場所へ足を向けた。
* * *
「初めはやっぱり、気は乗らないがロキのところだな。タケのところは流石に今回は無理だろうからな」
「…すみません」
「なに、命君が謝る事じゃないさ」
そうしていると、【ロキ・ファミリア】が見えてきた。
「なんで入れてくれないんだ!ボクは神だぞ!」
「そう言われましても、ダメなものはダメです」
ヘスティアが抗議するが、門番は入れてくれない。そうしてなにもする事もできず追い出されそうになっていた。
「う〜〜っ!こうなったら仕方がない!ベル君!やるんだっ!」
「なに言ってるんですか神様⁉︎」
「ちょっと、離してくださいっ!」
「何してるの?」
その時、聞き覚えのある声が聞こえた。全員が振り返る。そこには
「ティオネさん!」
首を傾げるティオネがそこにいた。
「どうしたの?」
「こちらの神がロキ様にお話があると…」
「ふーん、すみませんがヘスティア様、お引き取りになってください」
「っ!ティオネさん!は、話を聞いて…」
ベルはティオネに頭を腕で挟まれ外まで連れて行かれる。ベルが抵抗しようとしたその時。
「門を出たら右の角を曲がって」
「えっ?」
口をベルの耳元に近ずけたティオネは小声でそう告げた。
ベルは何かを悟り、次には振り返る。
「みんな、帰ろう」
「なっ!ベル!?」
「何を言っているのです…」
「待ってくれ」
命の言葉を遮りヘスティアはベルを見つめた。それにベルは頷く。ヘスティアはだいたいを悟った。
「分かった、帰ろう」
この二人の様子にヴェルフ達も何かあると気づき、従うことにした。
門を出て、みんながベルを見る。
「みんな、ついてきて」
そういい右へ足を向けた。
角を曲がるとそこには、ティオナ。そしてアイズまでもが立っていた。ポカンとする中ティオナがピョンと前に跳ぶ。
「なんか騒がしくて覗いてみたらアルゴノゥト君達がいるからさ。一芝居打ったの!」
「うまくいったわね」
後ろからの声に振り向くとティオネが歩いてきていた。そしてアイズが口を開く。
「じゃあ、行こうか」
* * *
『65階層!?』
ヘスティアの話にロキ、ティオナ、ティオネが大声を上げる。アイズも目を見開いていた。
フィン達は今留守なため、今はロキの部屋に先ほどのメンバーとロキがいた。
「何を言うとるんやこのドチビは」
「頼む!ボクらでは到底できないことなんだ!」
「そんなこと知っとるわ!てかウチらでもまだできてへんわ!」
ヘスティアは頭を下げるがロキは子が危険に晒されるのがわかっていながら、手を貸すつもりはないと拒否する。そんなロキにヘスティアは切り出した。
「じゃあ、こういうのはどうだい?」
「は?」
「ダンジョンでの進み具合が順調にトントンと進んだら、そのまま65階層まで一緒に来て欲しい」
その提案にロキは一瞬固まった。他のアイズ達もキョトンとしている。
「アホか、行けへんから頼みに来たんやろ。何か?アイズ達に頑張ってもらうっちゅうことか?大体そんな階層まで行くような人数貸すわけにはいかへんで」
「そういう意味じゃないさ」
そう言ってヘスティアは得意げにニヤリと笑った。
「キリト君が一緒に来てくれる…予定だ!」
「ーっ」
大きな胸を張って、得意げに言うヘスティア。
それを聞き、考え込んだロキは、少し経つと溜息をついた。
「はあぁぁ…。わかったわ…、でも、行かすんはこの3人だけや」
「お、恩にきるよ」
三人なのは少々キツイが。かなりの戦力だ。感謝しなくてはと全員で頭を下げ。次に向かう。
「よーし、キリト君達にもお願いに行くぞー!」
「って、まだ決まっとらんのかい!」
ロキから逃げるように走って向かうのだった。
* * *
「こうなるとボクたちからは全員参加だな、みんなくれぐれも気おつけてくれよ」
Lvと不釣り合いだが、人数的に行かないわけには行かない、これでのこりは二人だ。そうして【ヘルメス・ファミリア】が見えてきた。
「そう少女に頼まれたのか?」
「ああ」
そうしてヘスティアがすべて説明した後、ヘルメスは考えるそぶりを見せた。キリト達は嫌な予感がしていたが。ヘルメスは顔を上げ笑った。
「うん、面白そうだ」
「またあなたは…」
「キリトとアスナと…」
「はあぁぁ…、生きて帰れるかなぁ…」
「ははは…」
「それとアスフィも」
「なっ⁉︎ヘルメス様⁉︎人数的にはー」
「保険だよ、保険」
「ほっ…⁉︎」
「という事だヘスティア、力になるよ。キリトの件で借りがあるしな」
「おお!理由はどうであれ助かるよヘルメス!」
アスフィが溜息をつく中、今度はトントンと話が進んだ。
「いやー、助かったよ。ロキにはキリト君がいるから65階層なんてあっという間さって言ってあったからねー」
「なっ⁉︎」
「そうですね、頼んだよキリト君っ」
「アスナまで⁉︎」
「よーし、【黒の剣士】がいれば百人力だー‼︎」
「だから止めてくださいってば‼︎」
そうして食料やら何やらで今日はもう日も落ちているので結構は明後日となった。