戦う定め   作:もやしメンタル

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16話《大切なもの》

「はぁ…はぁっ…!」

 

目の前が霞む。

立っているのもやっとだ。

他のみんなも、もうボロボロだった。

先ほどティオナさんとベートさんが決着をつけて帰ってきてくれて大分持ち返したが、戦況は厳しいままだ。

でも戦う。

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に風を巻け】」

 

リヴェリアさんの魔法が完成するまでっ!

 

「せぁあああっ‼︎」

「フッ!」

 

アスナさんとアスフィさんの獲物がモンスターの足を切り裂く。

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地】」

「せーーのっ‼︎」

「フッ!」

 

ティオナさんとティオネさんがさらに切り裂く。

モンスターが跪いた。

その顔面ににベートさんが蹴りを叩き込んだ。

 

「オラァアアアッ‼︎」

 

モンスターが大きく傾く。

そこに、フィンさんが腕をつたり駆け上った。

その獲物がモンスターの目をとらえる。

 

『ガァアアアアアアアアアッッ⁉︎』

 

悶えるモンスターめがけ、ヴェルフが魔剣を振りかざした。

 

「らぁああああああああっっ‼︎」

「【吹雪け、三度の厳冬ー我が名はアールヴ】!」

 

その瞬間、光が駆け抜けた。

 

「おぉおおおおおおっ‼︎」

 

その漆黒の剣は、モンスターの胸元を深くえぐった。

そしてその瞬間、僕も駆け出す。キリトの攻撃に大きく体を仰け反らせたモンスターに突っ込む。瞬間、モンスターのハウルが連射される。僕はそれを一気に突っ切りやり過ごす。

地を蹴る。

片目を失った相手に向かって、僕はあらん限り二本の短刀を振りかぶった。

再び繰り出されたハウル。

そのハウルを、

キリトが斬った。

 

「行けっ!ベルッ‼︎」

「おぉおおおおおおおおおっっ‼︎」

 

僕は振りかざした短刀をモンスターに突き刺した。

 

『ガァアアアアアアアアアッッ⁉︎』

 

そのまま下に落ちながら体を引き裂いた。

 

「【ウィン・フィンブルヴェトル】‼︎」

 

三度の吹雪。

キリト達が離脱する中、大気を凍てつかせる純白の細氷がモンスターに直撃する。やがてその体が凍結されていく──はずだった…。

 

「ーっ⁉︎」

「ふざけろ…」

 

モンスターはなおも起き上がった。

あのリヴェリアさんの魔法が効かなかった。

一気に絶望に包まれる

 

「あんなの、どうすればいいの…」

「ダンジョンでだってあんなのいないわよ…」

 

みんなが崩れ落ちる。

 

「ハッハッハッ‼︎どうする気だキリト!諦めるなら今のうちだぞ‼︎」

 

勝ち誇ったかのようにグラルが笑った。

みんなが歯を食いしばった、その時キリトが立ち上がった。

 

「?、キリト?」

 

するとキリトは、振り返りこちらを見た。

その顔は、微笑んでいた。

 

「俺さ、ずっと一人だって思ってた。だけど違ったんだな。こんな近くに…サクとマリーにも誇れるような。大切な人達がいたんだ。もう、俺は、迷わない」

「キリト…」

 

すると、キリトの体が光りだし、その姿は少女になっていた。

そしてその目は、強くまっすぐなものだった。

 

「みんな、時間稼ぎを頼みたい」

 

その言葉にそれぞれが目を見開く。

それはキリト自身の覚悟だった。

 

「やっと腹くくりやがったか」

 

そう言ってベートさんが口を釣り上げる。

 

「分かった」

 

アイズさんが頷き、歩き出す。

 

「キリトの事だ、何か策があるんだね」

「やってやろうじゃねぇか!」

「いっちょやりますかー!」

 

みんなもそれに続く。

アスナさんはキリトを見つめ、微笑んだ。

 

「キリト君。信じてるよ」

 

そういいアスナさんはモンスターへ足を向けた。

僕とキリトが向き合う。

 

「俺さ、ベル。前にも言った通り、泣き虫でも必死に戦うローレンが大好きでさ。みんなには笑われたけどやっぱり変わらなかった。俺にとっては、ずっとローレンが……サクが…英雄なんだ。それでな、この前の18階層でのベルを見たら、まるでローレンみたいで……サクみたいで…。俺…、凄く、嬉しかったんだ」

 

そう言って笑ったキリトの瞳から涙がこぼれた。

 

「頼んだ」

「うんっ!」

 

僕はそう言って駆け出した。

 

 

* * *

 

 

俺は目を閉じる。

 

『大切なもののためだけに使うよ』

『キリトもせめてその時は使ってくれないか?』

 

うん、約束したもんな。死んでも守る。

今こそが、その時。

 

今もみんなが戦うモンスターを見据え、キリトは詠唱を開始した。

 

「【その力は怒り、裁きを下す雷鳴】」

 

いつも一緒にいて、なんでも分かり合えた。

この上なく大切な存在だった。

 

「【その力は悲しみ、うち萎れていく心】」

 

でもすべて消えていった。

何度後を追おうと思ったか。

ずっと思ってた、生きる意味などないと。

 

「【その力は愛、包み込む暖かさ】」

 

でも、やっと気づけたんだ。今ある幸せに。

 

「【どうか力を与えて欲しいー愛する者を守る力を】」

 

もう、失いたくない。失わせない。

逆流する血を飲み下し、キリトは歌う。

 

「【すべてを受け入れ、請け負おう】」

 

何もできないままなのはもう十分だ。

その体はボロボロで、見窄らしいものだろう。

でも、ローレンは戦った。

マリーは戦った。

サクは戦った。

ベルは戦った。

だから自分は歌い続ける。

 

「【轟き、降り注げ】」

 

魔法円が金色に輝き拡大する。

あたりからは風が巻き起こる。

その姿はまさに──精霊。

 

「キリトっ!」

「っ!?」

 

莫大な魔力にみんなが気付く。従って、今もハウルを打ち放っていたモンスターも、強力な魔力の源へ振り返った。

全員の瞳は驚愕に見開かれる。

 

俺は、少しでも近づけただろうか。

たとえ笑われようとも、必死に戦った英雄に…。

俺を自分の身を顧みず助けた少女に…。

どんな絶望にも、前を向き続けた少年に…。

決して諦めず、憧憬に追いつこうとする少年に…

 

「しまった‼︎」

 

モンスターがキリトめがけハウルを打ち込んだ。

 

「キリト君ーーっっっ‼︎」

 

それは直撃し、大爆発する。

それぞれが限界にまで目を見開いた。

そしてその先、その爆炎の先にキリトは

 

立ち続けていた。

 

血反吐を吐こうとも。

骨が折れようとも。

キリトは歌を届ける。

そしてその唇が、魔法を紡いだ。

 

「【レビン・エアレイド】‼︎」

 

空の雲に穴が開き、そこからモンスターを包むほど巨大な稲妻がふり注いだ。

 

『いっけぇえええええええっっ‼︎』

「はぁあああああああああっっ‼︎」

 

次の瞬間、稲妻はモンスターを──打ち抜いた。

 

爆発が広がり、大地が揺れる。

叩き落とされた稲妻は辺り一帯を輝かせた。

そして最後には…、何も残っていなかった。

落とされた大地は深く抉れ、空は雲ひとつ無くなっていて、星空が瞬いていた。

 

グラルは、今の爆風で頭をぶつけ気絶していた。

離れて見守っていたヘスティア達にまで、その力は伝わるものだった。

すべてを滅ぼし、すべてを従えす.

これが…。 

 

「これが、ヒューマンで唯一、生まれ持って魔力を持つ一族からの選ばれし──アルマティアの力」

 

 

 

 


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