戦う定め   作:もやしメンタル

15 / 33
14話《決意》

俺たちは今、あの草原に座っていた。

 

あの後、連絡した大人達が駆けつけ、男どもは捕まった。

その時にはもうマリーはとても助かる状況ではなかった。

放心し、パンパンに泣きはらした目で俯くキリトとサク。そして大量の出血ですっかり青白くなったマリーに、誰もが言葉を失った。

それから二日たった今も、一向に胸の中にあいた穴は埋まらない。埋められるわけがない。

いや、埋めてはいけないのだ。

自分達が犯した過ちを、決して忘れてはならない。

 

「なんでこんなにも無力なんだ‼︎」

「サク…」

 

サクは立ち上がり、俺を見た。

その顔は、深い後悔と悲しみと、怒りに渦巻いている。

涙を流す彼は、こちらに顔を向けた。

 

「キリト、僕決めた」

 

サクの目は泣いているのに、何故そんなにもまっすぐで強い瞳をしているのだろうか。

 

「強くなる。もう大切な人を失いたくない。キリトは僕が守る」

 

その言葉に俺は目を見開いた。

いつだってそう、

いつだって俺の前にいるんだな、サク。

俺も立ち上がる。

 

「俺もサクを守ってみせる」

 

サクは微笑み、目の前の、マリーの墓を見つめた。

 

「マリーも言ってたけど、魔法に頼ってばかりじゃ駄目なんだ。頼った結果がこれだ。自分が強くならなきゃいけない。だから僕は、この魔法の力を……」

 

そしてまたサクは振り返った。

その顔は、笑っていた。

 

「大切なもののためだけに使うよ」

 

そうしてサクは小指を立てた。

 

「キリトもせめてその時は使ってくれないか?」

 

目を見開き、サクを見つめる。

そしてキリトは顔を引き締める。

自分達には、良くも悪くも、生まれ持った魔法がある。

それは時にして今回のように無力成り果てるのかもしれない。

でも、自分達の魔法で守れるものもきっとあるんだ。

なきゃいけないんだ。

そうして俺は、その小指に自分のを結んだ。

 

「ああ、約束する」

 

 

* * *

 

 

「はぁあああっ!」

 

俺たちは今、学校が終わると一緒に稽古をしている。

あの約束からもう3年。俺たちは13歳になった。そしてもう、この稽古が日課となっていた。

 

サクの鞘が真上から振り下ろされる。それを俺は鞘で防ぎ、ガラ空きの腹に蹴りを入れようとするが、それをサクは難なくかわす。

サクの成長は物凄いものだった。その実力は俺と同等か、それ以上もあり得る。

 

その時、街から鐘の音が聞こえてきた。

俺たちは鞘を下ろす。

 

「ここまでだな」

「うん」

「しっかしサク強くなったなー」

「キリトには敵わないよ」

 

そうして俺たちは稽古を終了し、ある場所へと足を向けた。

マリーの墓にへと。

2人で並んで墓の前に立ち、サクが持ってきていた花束をそこに添える。

 

「サクの成長にマリーはメロメロだな」

「そんなこと言うと、またマリーに追いかけられるよ」

「あれから3年間鍛えた俺の足をなめるな」

 

そうして俺たちは笑いあうのだった。

 

 

* * *

 

 

「あれがこの国の…くっくっくっ」

 

ある一人の神が少年を見つめていた。その目は、独占欲にかられた目だ。

 

「いかがいたしましょう。グラル様」

「そうだなァ、……よし。──この国、潰せ」

「かしこまりました」

 

徐々に国に闇が迫っていた。

 

 

* * *

 

 

ドンッと音がする。

 

「はあ……またあの儀式かぁ」

「仕方ないよ、出来るのはキリトだけなんだから」

 

俺は今日何度目かの溜息をついた。

年に一度行われる祭りと称された儀式。

その儀式をするのは、俺の役目だった。

稽古中、愚痴を吐く俺にサクは苦笑いしながらも付き合ってくれた。

ドンっとまた音がする。

もう鐘もなる時間だろう。稽古も、もうそろそろ終了だ。

もうすぐに迫る儀式に再び溜息を漏らす。

 

「「…?」」

 

その時、ある異変に気付いた。

サクも気づいたらしく、2人同時に動きを止める。

 

「ねぇ、キリト」

「ああ、変だ。鐘がならない」

 

鐘は日が暮れる時間帯に決まってなるはずだ。それが今日はならない。

瞬間、俺たちは何か嫌な予感が体を突き抜けた気がした。

 

「街に行ってみる?」

「そうだな」

 

そうして俺たちは、わずかな焦りを見せながら街に駆け出した。

 

 

* * *

 

 

「な…っ」

「そん、な…」

 

街に着くとそこは、荒れ果てていた。

炎が立ち上り、家が崩れている。

 

「うそだろ…」

 

さっきまで聞こえていたのは花火ではなく、爆発音だったのだ。

一体何がどうなっている?

 

「おぉ。そちらから来てくれたか」

「「ーっ!」」

 

突然目の前に神が現れた。

それに反射的に俺たちは後ずさろうとする。

しかし。

 

「逃がしはしない」

「「ーっ!?」」

 

いつの間にか、背後にはエルフの女性が立っていた。

その威圧感にキリト達は立ち竦む。

気づくと今度は男神の隣に、金髪の同い年くらいだろう少年が立っていた。

それと同時に、本能が無意識に警告している。

こいつら、ヤバイ…ッ。

 

「ここの人達は、戦う術が魔法のみでした」

「あんな長い詠唱、狙ってくださいって言ってるようなもんだ」

「「ーっ⁉︎」」

「まったくどうしようもなく無能な連中だったな。そう、他の奴らには興味なんてありはしない。あるのは…、エルフの魔力さえも超えるラウスの宝…」

「‼︎」

「キリト逃げて!」

「な⁉︎止めろサク‼︎」

 

俺たちはすべて悟った。

こいつらの目的は、強大な魔力。

俺だけが女になる理由は一つ、選ばれしものだから。

俺の魔力は国で最も強力だった。

その力は、破滅をもたらすほどのもので、なんでもラウスの言い伝えでは、数百年に一度あわられると言われている。

 

キリトの制止も聞かず、彼と同じ答えに至ったサクは飛び出す。

サクの足元に魔法円が広がった。

瞬間。

 

サクの腹は、金髪の少年によって、切り裂かれた。

 

「ーーーーッッ」

 

深く抉られた背中から、大量の血が噴き出す。

俺は両目をあらん限り見開いた。

 

「サクーーーーーーーッッ‼︎」

 

目をあらん限り見開き、視界が歪む。

あの時と、同じだ。

瞬間的に駆け寄ろうとするがエルフに捕まる。

 

「大人しくしていろ」

「離せ‼︎サク‼︎」

 

俺はまた失うのか。

また何もできないのか。

何も、守れないのか…?

 

いやだっ、それだけは‼︎

 

「「「ーっ!」」」

 

俺の足元に魔法円が広がる。

俺は詠唱を唱えるべく口を開い──

 

「ごめんね、キリト…」

 

血飛沫が、舞った。

 

「──…ぇ」

 

完全に停止する。

俺の足元から魔法円が消えた。

 

「サ、く…?」

 

そのまま膝から崩れ落ちる。

 

「残念だったなぁ。魔法は何も救えない」

 

サクは地面に倒れたまま動こうとしない。

ただ血だまりだけがどんどん広がってゆく。

届かない。

何もかも、届かない。

 

「あ、あぁあああッッ、あぁあッ!」

 

涙が後から後から噴き出してくる。

何もできない。

約束したのに、言ったのに。

サクを守るって。

 

「なにが、なにが…ッ」

 

なにが約束だ…!なにが…っ、なにが魔法だ…‼︎

 

呼吸が荒くなる。視界が霞む。頭がどんどんと白くなってゆく。

キリトはそのまま、意識を手放した。

 

 

* * *

 

眼が覚めるとそこは、馬車の中だった。

 

「大丈夫かい?キリト君」

 

そこには眼を弓のようにして微笑む神と隣に女性。それに、無表情の少女がいた。

 

「あいつらならいないぞ、うまく逃げ出したから」

「まったくヘルメス様は人使いが荒いです」

「まーそういうなアスフィ」

「ラウスはどうなった」

 

キリトの言葉に静寂が訪れる。

ヘルメスという神は笑顔を消した。

 

「全滅した」

 

あの時の光景が頭に浮かぶ。

何もできなかった。何が約束だ。

俺の目から涙が後から後から溢れてきた。

 

その時俺は、決めた。

俺はもう、全てを壊した魔法なんか。

大切な人を殺した魔法なんか。

魔法の力なんかで決して戦わないと。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。