戦う定め   作:もやしメンタル

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キリト過去編です。


13話《幼馴染み》

「おーい!サクー!」

「わかってるよー」

 

草原の中、俺は後ろから歩いてくるサクを呼ぶ。そのブラウン色の髪の少年は呆れ顔で返事をした。とても10歳のする顔ではない。

 

ここは、ラウスという国。

住んでいるのはヒューマンだが、ここの住人はみんな、強さはバラバラだが魔法を使うことができた。

 

「キリトは学校がない時は元気だよねー、いつになったら魔法嫌いが治るんだい?」

「うるさいな、だって女になるんだぞ?絶対ごめんだね」

「女になるのはキリトだけだけどね…」

 

そう、俺は魔法が嫌いだ。

何故だか俺だけが魔法を使う際に女になってしまうのだが、それが嫌で、俺は最低限魔法は使わない。

 

そうしていると、街が見えてきた。その中は相変わらず賑わっている。

ラウスは魔法、しかも人によってはエルフをも超える力が使えるので、国としては栄えている。

そんな都市に向かって歩きながら、俺は拳を上にあげ叫んだ。

 

「いくぞー!美味しいパイを食べに!」

「大声を出さない」

 

ため息をつくサクは無視し、俺達は街へ向かった。

 

* * *

 

 

「おーキリト!サク!ウチのクッキー食べてくかい?」

「いいんですか!おじさん!」

「キリト、パイ食べるんじゃなかったの…」

 

街を歩いていると、いろいろな人からいろんなものがもらえる。サクは呆れているが、もらえるものはもらっておく。

そうやっていろいろなものを食べながら、お目当てのパイがあるケーキ屋に着いた。俺が勢いよくドアを開ける。

 

「おーい、マリー!パイくれー!」

 

そうしてキリトが叫ぶと、少し経ってトントンと足音が聞こえてきた。

そして

 

「うるさいわねキリトは!」

 

鮮やかな赤のスカートに白い上掛けを重ねた姿で、黒い髪をツインテールにしてある少女が顔を出した。

 

「こんにちわマリー。また来たよ」

「いらっしゃいサク、ゆっくりしていってね」

「なんか扱い違くないか!?」

 

サクには笑顔を見せるマリーに、キリトは抗議するが綺麗にスルーされる。

 

「ねっ、今日はパイ、外で食べない?」

「えっ、でもマリーお店は?」

「今日は午前までなのよ」

「ふーん。そんじゃそうするか、天気いいし!」

 

そうしてすぐに三人はパイをカゴに入れ、(強制的にキリトが持たされ)草原に向かうのだった。

 

 

 

俺たちは小さい頃からの幼馴染で、いつも遊んでいた。現に今も暇ができたのでマリーの店にパイを食べに来たのだ。

草原を少し進むと森が見えてくる。そこは丁度日陰があって気持ちがいい。俺たちのお決まりのくつろぎ場だ。

 

「どっこいしょー」

「キリトおじさんみたいだよ」

「まったくだらしないわねー」

「いちいちうるさいな」

 

俺は早速、カゴの中にあるパイを片手で掴み頬張った。蜂蜜の甘い味が口に広がる。

 

「ちょっと、フォーク使いなさいよ」

「別にいらないよ」

「汚いじゃない!」

「まあまあ、僕らも食べようよ」

「はぁ…、そうねっ」

 

サクになだめられたマリーが苦笑いして、自らの分とサクの分をカゴから取り出す。

そうして俺らはパイを食べ始めた。

 

「サクとキリトは学校どうなの?」

 

パイを黙々と俺が食べる中、そうマリーは尋ね、こちらに顔を向けた。それにサクは苦笑いを浮かべる。

 

「僕は相変わらずついていくのに必死だよ」

 

そんなサクに、すぐマリーはブンブンと首を振った。

 

「入れるだけの魔力があるのだけですごいわよ。私たちの誇りだわ」

「えへへ、ありがとうマリー」

 

そんなマリーの言葉に、サクがホワッと顔を綻ばせるすると、マリーの顔が一気に赤くなった。

 

「そ、そんなっお礼を言われることじゃないわよっ」

 

そんなマリーが面白くて、俺はその中に割って入りニヤニヤと笑う。

 

「おーおー、相変わらずのラブラブですなぁ。にししっ」

「うっ!うるさいわねキリト!パイ返しなさい!」

「それは勘弁…うわぁああ!」

「ははは…」

 

そうして、いつものように俺とマリーの鬼ごっこが始まるのだった。

 

その後も俺らはパイを食べながら話を弾ませた。

そんな中、マリーが急に深刻な表情となる。

 

「聞いた?またあったんだって。誘拐事件」

「ああ、女の子が狙われるっていうあの?」

「マリーも気をつけろよ」

「わかってるわよ!あ、それに最近って言えばお父さんが言ってたわ。この国は”魔法に頼りすぎてる”って」

 

マリーがパイを食べながらそう言うとサクがやがて答えた。

 

「確かに、学校でも体術なんて早々やらないな。全部魔法の勉強だ」

「やっぱり。お父さん言ってたもの」

「でも、どっかの誰かさんは逆に魔法を使わずに体術ばっかりだけど」

 

するとサクとマリーの視線がほぼ同時にこちらに向けられる。

その視線に俺はギョッとし汗を流した。

 

「な、なんだよっ、別にいいだろ」

「アンタの魔法嫌いは直らないわねー、せっかくかわいいのに〜ぷぷっ」

「おいマリー、今笑っただろ!」

「べ〜つに〜」

 

そのうち、もうすっかり日が暮れてきていた。俺たちはここでお開きにすることにしたのだった。

 

「マリー本当に送らなくていいの?」

「うん大丈夫。じゃ、またね。サク!」

「うん、また」

「なんでサクだけなんだよ!」

 

そうして俺とサクはマリーと別れた…。

 

 

* * *

 

 

「やっと終わった〜」

「大げさだなキリトは」

 

学校が終わり俺とサクは、帰ろうと支度をしていた。

その時だった。

 

「キリト君!サク君!ちょっといいかしらっ」

「「?」」

 

余裕のない担任の先生に俺たちは職員室まで呼ばれた。するとそこには、マリーの親父さんとお袋さんが座っていた。

嫌な予感が全身に走る。

俺たちに気がつくと、二人は勢いよく立ち上がる。すぐに泣きながらお袋さんが俺の肩を掴んだ。

 

「キリトちゃん達、昨日マリーと遊んだわよね!?」

「は、はい」

「そのあとマリーがどうなったか知っていないか!?」

「「えっ?」」

 

俺とサクは固まった。頭に一人で帰ったマリーが浮かぶ。サクが前に出た。

 

「マリーがどうかしたんですか?」

「帰ってきてないのよ。マリーが!」

「「ーっ!!」」

 

凄まじい衝撃が体をつき向けた。

そうして気づけば、俺たちはあの森にへと走り出していた。

 

 

* * *

 

 

あの時の帰りに何かあったんだ…っ!

事故か?迷子か?

森に向かって走りながら、俺はひたすらに考えを巡らせる。

そんな時、昨日の会話が浮かび上がってくる。

 

『聞いた?またあったんだって。誘拐事件』

 

まさか…っ!?

 

となりのサクも思い出したようだ。顔が真っ青になっている。

自分からも嫌な汗がどっと出だした。

俺たちは、その思いを斬り払うように、そのまま昨日の森に向かった。

 

「マリー!!」

「いないのかー!!」

 

俺たちは大声で叫び続ける。

返事はない。それでも俺たちは走り続けた。

 

「ーっ!」

 

一瞬、視界に入るものがあった。

それは、カゴだった。

 

「おい、サク!」

 

叫びながらカゴに近づく。

間違いない。マリーのだ。

 

「どうかしたっ?キリト」

 

息を切らしたサクにカゴを差し出す。そのカゴに、サクもすぐに気がつき目をみはる。

 

「これは…っ、マリーのっ!」

「やっぱりそうだよな」

「じゃあ、本当にマリーは…」

 

俺たちは絶望に包まれた。

あの時意地でも一緒に帰っていれば、こうはならなかったのだろうか。というかそもそも、あの時にパイを食べに行かなければ。

全部、全部俺たちの……

 

「探そう!」

 

サクが勢いよく立ち上がった。その瞳は真っ直ぐなものだった。

そう、サクは諦めてなんかいなかった。

 

「相変わらず、強いなサクは…」

 

俺も立ち上がる。

もう、迷いはなかった。

 

「行くぞっ!」

 

俺たちは駆け出す。

いつもそうだ。俺はいつも弱くて何もできない。でも、サクはどんな時でも諦めず、真っ直ぐで、強くてカッコよくて。

 

”まるで英雄だ”。

 

そんなサクに俺は、──憧れていた。

 

「「ーっ!」」

 

日が暮れだした頃に一つの洞窟から灯りがついたのを見つけた。

俺たちは顔を合わし、頷いた。

 

音を立てずに、ゆっくりと中に入る。

そしてそこには、酒を飲む男どもと、拘束されたマリーがそこにいた。

 

「いたっ!」

「どうする?大人を呼ぶか?」

「一応報告だけしよう。ここを離れちゃ間に合わない。伝達魔法使えるか?」

「うん。…僕たちでやるしか、ないってことか」

 

サクが深呼吸する。俺と同様、その恐怖は半端なものではないだろう。こんな実戦、初めてなのだから。

そしてサクは目を開いた。

 

「やろうっ!」

 

そうして俺たちは計画を早急に立て始めた。

 

 

* * *

 

 

「サク」

「わかった」

 

まず、サクが魔法を使い霧を生み出す。このぐらいは、詠唱はいらない。

 

「【ロス・セクィトゥル】」

「な、なんだ!?」

 

一帯に霧が包み込み、目の前が見えないほどのものになった。

瞬間。

 

「キリトっ」

「おうよっ」

 

俺は駆け出した。

例え見えなくても感じる、聞き取る。

魔法ばかりに頼らず、それ以外を身につけることは大切なのだと、その時になって俺はしみじみ感じた。

そうして俺はなんとかマリーの場所へ到着した。

マリーは性格通りの芯の強い女だ。この事態に感ずいてくれただろう。以前この魔法はマリーにサクが見せていたし。

目の前まできた俺は、次にマリーを担い……

 

「【ブラスト・オフ】」

「「「ーっ!?」」」

 

その瞬間、いままで張っていた霧が吹き飛ばされた。

体から嫌な汗が吹き出る。目の前のマリーも真っ青だ。

この中に、魔導士がいたのか…っ!

こんな事を考えもしなかった自分に怒りを覚えるが、今はそんな場合じゃない。

 

「なんだこいつ、くそっ!ガキがいっちょまえに助けに来たってか」

「お、なんかこっちにもいたぞ」

「くそっ離せ!」

「サク!」

「くっ!」

 

状況は最悪のものだった。俺は必死にこの場をどう切り抜けるか、頭を回転させていると、一人の男が叫んだ。

 

「魔法が使える女は高く売れるんだよ!体でも、武器としても使えるからなっ!!」

「ーっ!!」

 

俺はその瞬間、武器もなしに突っ込んでいった。

 

「ダメ!キリト!」

 

戦法も何もありはしない、只々怒りに任せてのものだった。

 

「ーかは…っ!」

「「キリト!」」

 

案の定、溝に蹴りを入れられ吹き飛ぶ。

俺は今まで味わったことのない痛みで悶えた。だが、男どもは待ちはしない。

 

「残念だったなぁ、王子様」

 

そう言って振り上げた剣を、振り下ろす。

次の瞬間、目の前が血に染まった。

だがその血は俺のものではなく、目の前に立ち塞がった……

 

マリーのものだった。

 

俺達は限界まで目を見開き、スローモーションとなる光景を。血飛沫をあげ、倒れこむマリーを、只々見ていることしかできなかった。

 

「「マリィイイイイイッッ⁉︎」」

 

俺は痛みなど忘れ駆け寄り、マリーを抱き上げる。

その体はみるみる血で染まっていった。

その大量の血に、俺はどんどん頭が真っ白になってゆく。

するとマリーが薄く目を開けた。

 

「ーっ!おいマリーしっかりしろっ‼︎」

「ごめん…ね…、私の…せいで」

「何言ってんだよっ!全部、全部俺の…っ!」

 

涙がマリーの顔に次々と落ちる。そんな俺の頬にマリーはそっと手を当てた。

 

「キリト…らしくない…じゃん。笑い…なさいよ」

 

そうして笑ったマリーの瞳からも涙が溢れていた。

 

「ごめんね…本当に…ごめん…ね」

「止めろって…‼︎」

 

男達の存在も気にせず、俺はただただマリーから流れる血を必死に抑える。

止まれ!止まれよ⁉︎

 

「止まってくれ‼︎」

 

ボロボロと涙が溢れる。

嫌だ、こんなの嫌だ…!

頭が混乱する中、1つの文字がジワジワと浮かび上がってくる。

『死』というワードが何度も何度も頭を横切る。

もしかして、マリーが死ぬのか?

もう、あのパイが食べれないのか?

もう、笑ったマリーを見る事ができないのか?

限界にまで瞳を開き、停止するキリトに向けて、マリーは力なく口を開く。

 

「キリト…アンタと…話すとね…心が暖かく…なった」

「な…んだよそれっ、止めろよ‼︎」

 

その体はとても冷たくなっている。無力な自分に、血が滲むほど唇を噛み締める。

泣き叫ぶ俺にもう一度微笑むと、マリーはゆっくりと、涙を流すサクを見た。

 

「サク…ずっと……、大好きだった」

 

その瞬間、マリーの手が俺の頬から力なく落ちた。

 

 

 

 

 


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