戦う定め   作:もやしメンタル

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完全オリジナルです。


11話《迫る闇》

月夜の光だけに照らされた部屋に、一人の男神が座っていた。

その姿は神なだけに美男子であり。背丈は180は軽く超える長身な体だ。

 

そこは、オラリオから南東にあるラルクスという国だ。と言っても、人口は少なく、今いる半分ほどは宿を借りに来た者たちで賑わっている。

そしてその男神もここの住人ではなく、旅の途中に滞在しているだけだった。

そう、旅をしている。

 

ある人物を見つけるために。

 

「ただいま戻りました。グラル様」

 

部屋に凛とした声が響いた。

その声に、男神改めグラルが「入れ」と言うと、一人の少年が入って来た。

歳は15、6くらいだろう。金髪の髪はサラサラとしたストレートで、その瞳はエレラルドに輝いていた。

少年がグラルの前にひれ伏す。

 

「見つけたか」

「はい」

 

その言葉にグラルはニッと口を釣り上げた。

「詳しく話せ」と言うと、少年は話し始めた。

 

「場所はあの大都市オラリオです。まだあのファミリアに所属しているようでした」

「ちっ、あの神め、手放す気はないようだな」

 

そう吐き捨てたがすぐに笑い、呟いた。

 

「待ちわびたぞぉ、キリトぉ」

 

 

* * *

 

 

「──くっ!」

 

キリトの鞘を僕は受け流す。

朝日も登らない中、僕らは市壁でもう日課となった稽古をしている。

もちろん未だ傷が絶えないが、最近では直撃を喰らうことはそうなくなった。

キリトの鞘が右上から迫る。僕はその軌道にヘスティアナイフをぶつけた。

 

「ーっ!」

 

すると足を滑らせたのか、キリトの体が後ろへ傾いた。僕は目を見開く。

 

今しかないっ‼︎

 

キリトに突っ込み、ヘスティアナイフを突き出した。

…だが僕は、溝に蹴りを叩き込まれていた。

 

僕は吹っ飛び壁に激突し、頭をぶつけて悶えるのだった。

そう、キリトはわざと後ろに倒れたのだ。

キリトが鞘を肩に担ぎ、こちらに歩いて来る。

 

「覚えとけよー。敵がスキを見せるのは、”100%相手を攻撃できると思って突っ込んできた時”だ」

「な、なるほど…」

 

僕は涙目になりながら頷いた。こうして身を以て体験するとよく覚えられる…。

すると市壁に光が射した。今ちょうど朝日が昇り始めたのだ。キリトが鞘を下ろす。

 

「じゃーこの辺にしとくか」

「そ、そうだね…」

 

相変わらずボロボロなのは僕だけだった…。

そんな中、僕は考える。

 

「これからどうしよっかなー」

「? ベル、ダンジョン行かないのか?」

「今日は、リリが予定あるみたいで。ヴェルフと話して、折角だし休みにしようってなったんだ」

「へー」

「キリトは?」

「ん、俺か?どうすっかなー」

 

キリトは基本ダンジョンへはソロで行っているらしい。たまにアスナさんと行くらしいけど(ほとんど強引に)。

キリトは少し前までは、ダンジョンにいる時間の方が長かったらしい。大量の食べ物を持って何日もこもってたとか。実際、僕が初めてあった時も、1週間潜りっぱなしだったらしいし。最近やっと落ち着いたんだと、ヘルメス様達が溜息をついていた。

考えているキリトに僕はお願いしてみた。

 

「またキリトの部屋連れてってくれない?」

「うっ!、な、なんでだよ…」

「もちろん、英雄譚だよっ‼︎」

 

稽古中とは、まるで別人のキリトに僕は詰め寄った。

二度目にキリトの部屋に入った際、英雄の本がたくさん置いてあったのだ。それは僕にとってとても魅力的な物だった。

キリトはしばし考えていたが、僕の目を輝かせる様子に観念したのか。

「わ、わかったよ…」と了解してくれた。

 

 

* * *

 

 

ファミリアに着くとアスナさんと会った。

 

「ベル君、どうしたの?」

「えっと、今日休みになったのでキリトに英ゆ、ぶぐっ!」

 

その瞬間赤くなったキリトが僕の口を塞いだ。

 

「わ、忘れ物だよ忘れ物!」

 

そう言い僕の手を引いて、全力で部屋まで走っていく。その姿を見てアスナは「キリト君ってばかわいいんだから」と微笑むのだった。

 

 

「はあ、はあ…ベル、あんま余計なこと言うなよ」

「だからゴメンって」

 

キリトに睨まれて僕は苦笑いした。

確かに僕も、スキルで【英雄願望】が出た時は、顔から火が出そうだったっけ。

部屋に入ると、相変わらず整った部屋だった。というか、あまり物がないという感じだ。

その中で本棚は目立つ物だった。そしてそこには、何冊かの英雄の本が並んでいた。

 

「見ていいっ?」

「…どうぞ」

 

キリトは椅子に腰をかけ、机に肘をつきながら答えた。

僕は一冊の赤い本を取り出す。それは有名なアーサー王の話だった。

僕は英雄に憧れる。

強くて、誇り高く、何と言ってもかっこいい。

祖父が話してくれる英雄に、僕は心惹かれた。

 

「キリトはどの英雄が好き?」

「お、俺!?えっ、えーと…」

 

そう言ってキリトは頬を指でかいた。これはキリトの困った時の癖だ。そして顔を赤くしてポツリと呟いた。

 

「ロ、ローレン…」

「ローレン?ん?それって…泣き虫ローレン?」

 

祖父が話してくれた物の一つだ、でもその姿はとても英雄と呼べる物ではなかった。僕はあまりにカッコ悪くて途中で聞くのをやめたくらいだ。

首をかしげる僕からキリトは「いや、忘れてくれっ」と言って目を逸らした。

意外だった。キリトの強さはまさに英雄のようだから、なんというか、不釣り合いな物だと思った。

だがこれ以上は続けて欲しくなさそうにするキリトを見て、僕はまた本をあさり始める。

すると、ある本の間に三つ葉のクローバーが挟まっていた。

なんで三つ葉?と僕は再び疑問に思う。

 

「ねぇ、この三つ葉のクローバーって何?」

 

そう後ろを向いているキリトに聞いてみた。

瞬間、キリトがバッと振り返った。

その顔は青くなっている。

そんな彼に僕は異変を感じ汗を流した。

 

「キリト?大丈ー」

「しまってくれッ‼︎」

 

キリトの叫び声にビクッと縮こまってしまった。こんなキリトは初めてだ。そんな僕を見てキリトはハッと正気に戻ったように目を見開く。

 

「す、すまん…」

 

次にはそう言い、キリト顔を伏せてしまった。

静寂が部屋を包む。それに耐え切れず、僕が何か言おうと口を開いた時

 

「……親友から、貰ったんだ」

 

そう、キリトが呟いた。

 

「えっ?」

 

いきなりだったので理解が遅れたが、一つ疑問が起きる。

なんで、そんな悲しそうに言うのだろうか。

いつもからは想像がつかないほど弱々しいキリトは、何か過去に、いや、現在も、辛い何かを抱えている、そんな気がした。言ってはいけないと思っても僕は聞いてしまった。

 

「その親友っていまはどこに?」

 

キリトが目を見開いた。

その時──

 

「キリト君!大至急来て欲しいって連絡が!」

 

アスナさんが余裕のない様子で入ってきた。

その声に、キリトは立ち上がる。

その時僕は何故だか、今キリトと別れてはいけないように感じた。

 

「あのっ!僕もついていっていいですか!?」

 

その言葉に二人は驚いたようだったがアスナさんが頷いた。

 

「うん、この連絡はどのファミリアへも行っているはずだから。じゃあ行くよっ、内容は移動しながら言うねっ」

 

そうして僕らは、どうせ馬車より走ったほうが早いので、そのまま駆け出した。

 

 

* * *

 

 

走りながら俺はアスナに聞いた。

 

「で、内容は?この方向だとダンジョンじゃないな?」

「うん、場所はオラリオの外。なんかたくさんのモンスターが、オラリオに向かって攻めてきたんだって」

「えっ!?大丈夫なんですか!?」

「オラリオの外のモンスターは、ここと比べてかなり弱いから、今は被害出てないって。でも、数が多いらしくて。できるだけのファミリアに応援要請を出してるみたい」

 

そうしていると市壁が見えてきた。街の様子を見る限り、ファミリア以外にはパニックを避けて伝えてないらしい。

俺たちはそのまま市壁を出た。

すると外は、さっきの街の様子がありえないほどになっていた。

百はいるというモンスターと冒険者が戦っていて、それはもう戦争のようだ。そこには、あの【ロキファミリア】の姿もちらほら見えた。状況は当たり前だが、こちらが押している。

 

「それじゃ、行くぞっ!」

 

「「了解!」」

俺たちもモンスターへと突っ込んだ。

 

 

* * *

 

 

「やっとるわ、やっとるわ」

 

モンスターと冒険者の戦いの中、それを眺めているものがいた。その形のいい唇を釣り上げながら笑みを浮かべる。

そこは、今戦争が起きている場所から200メートルは離れた場所。

そこからグラルは望遠鏡を使って眺めていた。その周りを、2人の子が囲むように立っている。

 

「キリトはまだ出てきていないようです」

 

グラルの右にいるのは、団長であるレーヌ。

その幼い顔は、まるで全てを見通すかのように冷静で冷たく、サラサラとした金髪は、少年の美しさをさらに引き立てていた。

 

「あの者は私がグラル様へ連れて参る」

 

斜め右にいるのは、女性のエルフだ。その長い髪は緑でストレートだ。肌は白く透き通っている、金色の瞳からは、人種特有の強い信念が見えるフーレ。

彼らは【グラル・ファミリア】の団員だ。

 

「ーっ!」

 

その時、グラルはついにその姿を捉えた。

モンスターを次々と屠る漆黒の少年の姿を。

 

「見つけたぞ〜、キリトぉ」

 

そうして男神は口角を上げ、目を細めた。

 

 

 

 




キリトの過去は少しずつ明らかにしていきたいと思っています!

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