夜、目を覚ましたリリとヴェルフと一緒に僕は、【ロキ・ファミリア】の皆さんと食事をしていた。その時。
「うわああああっ!」
「ーっ!?」
遠くから響いてくる声に僕は立ち上がった。
この声は…神様!?
僕はそのまま声のした18階層の入り口に走っていった。
* * *
「うぐっ!」
ベルと同じようにヘスティアは地面に顔を直撃させた。
全くひどい目にあった…。
今から数時間前。ベル達が帰ってこないことにヘスティアは青ざめた。
急いでギルドに行き、ベル達の捜索をクエストとして発注した時。
「ヘスティア!」
そう呼ばれヘスティアは振り返る。
そこには二人の子を連れたタケミカヅチが立っていた。
* * *
場所は【ヘスティア・ファミリア】。そのオンボロな教会。
「本当にすまんっ!ヘスティア!」
タケミカヅチは頭を下げていた。
そう、この【タケミカヅチ・ファミリア】こそが、ベル達にモンスターを押し付けた張本人だったのだ。
教会には今、【タケミカヅチ・ファミリア】と、話を聞き駆けつけたヘファイストスがいた。
静寂が包み込む。
それを破ったのは、ヘスティアだった。
「もし、ベル君が戻ってこなかったら…君たちのことを死ぬほど恨む。けれど、憎みはしない。約束する。」
すると、ヘスティアの後ろに光が射した。ヘスティアは手を差し伸べる。その姿は女神そのものだった。
「どうか。ボクに力を貸してくれないか」
その姿に子供達は皆、ひれ伏した。
『仰せのままにっ!』
* * *
「とはいっても、私の子達は【ロキ・ファミリア】の遠征にほとんど出しちゃってるのよね」
「うちからも、中層に送り出せるのは桜花と命。それにサポーター代わりに千草ぐらいだ」
「たった三人…」
また、静寂に包まれる。
「俺も協力するよ、ヘスティア」
するとそこへ、ヘルメスがやって来た。後ろには水色の髪の毛に眼鏡をかけた女性がいる。
ヘルメスの手は発注したクエストを持っていた。
タケミカヅチは顔を歪ませているが、他からは歓声が上がる。
「おーっ!ということは、あのキリト君が加わってくれるわけかっ!これは百人力だっ!」
「いや、今キリトいないんだ」
『えっ?』
「じゃ、じゃあアスナ君かい?」
「いや、アスナもいない。捜索隊には、このアスフィを連れて行く。」
「はっ!?」
突然の事にアスフィは仰天する。そんな中、ヘスティアは彼女に視線を向けた。
「この子かい?」
「ああ、キリトやアスナは確かに凄いが、こいつはウチの団長だ。安心してくれ」
「はあ…もうやだ…」
そうして、ベル達の捜索隊が結成された。
みんなが準備に取り掛かっているとアスフィがヘルメスに近づいた。
「ヘルメス様、先ほど私を連れて行くとおっしゃいましたが…まさか…」
「あー、俺も同行する」
「なっ!?神がダンジョンに潜るのは禁止事項ではっ!?」
「バレなきゃいいのさー。迂闊な真似をするのがまずいってだけでねー」
これにはアスフィも溜息が出た。
「最初からそのつもりで…」
するとヘルメスがアスフィの頭に手を乗っける。
「はっはっは、俺のお守りを頼んだぞー」
「ボクも連れてけ」
「「へ、ヘスティア(様)っ!?」」
いきなりのヘスティアに二人は飛び上がった。彼女はソファーから顔を出してこちらをじっと見つめている。
そんな女神にヘルメス達は汗を流した。
「お、落ち着けヘスティア、神がダンジョンに潜るのは禁止事項でー」
「バレなきゃいいんだろ」
「うっ…!」
「ボクもベル君を助けに行く。あの子のことを誰かに任せることなんてできない。ボクもついていく。いいね」
これにはヘルメスも何も言えず、ただ頭を抱えるだけだった。
そんな中、ヘファイストスが無茶を言うヘスティアに苦笑いを浮かべ、タケミカヅチは申し訳なさそうに首を垂れた。
「あんたねぇ」
「すまんなヘスティア」
「それはもういいんだ」
ヘスティアは手を胸に当て目を閉じる。
「感じるんだ、ボクの与えた恩恵は、まだ消えちゃいない」
その言葉に、皆が微笑んだ。
そんな中、ヘファイストスがヘスティアに歩み乗る。
「ヘスティア。ヴェルフと合流したら渡してほしいものがあるの。私からの伝言付きで、いいかしら?」
「ああ、構わないよ」
そんなことをしているとヘルメス達は外に出ていた。
「アスフィ、俺とヘスティア。一人で守れそうか?」
その問いにアスフィはしばし考える。
「流石に補償し兼ねます」
「だよなー」
そしてヘルメスはニッと笑い言った。
「もう一人連れてくるか」
* * *
アスフィ達の推理から、ベル君達は18階層に行った可能性が高いとなった。
そんなこんなでなんとかついたものの、もうヘトヘトだ。
「あんなでかいのがいるなんて聞いてないぞ…ててっ」
すると何かがヘスティアの前で止まった。顔も見上げるとヘスティアは目を見開いた。そう、目の前には、探していたベルが立っていたのだ。
「神様…」
この世で一番愛おしい声に呼ばれ、ヘスティアは次の瞬間
「ベル君〜〜っ!」
ベルに抱きついていた。
「うぐっ」
勢いでベルは背中から倒れる。それでもヘスティアはその名を呼び続ける。
「ベル君っ、ベル君っ、ベル君っ…」
ベルは優しく微笑んだ。
今度は、ベルの頬を引っ張り始める。
「本物なのかいっ!?」
「か、かみはま…」
その瞬間、今まで張り詰めていた緊張の糸が切れた。
ヘスティアの目にみるみる涙が溜まる。
「よ、よかったぁ…」
今まで見たことのない、そんな弱々しいヘスティアを前にベルは一度目を見開き、次には涙ぐみながら言うのだった。
「心配かけて…ごめんなさい…」
その言葉を聞き、ヘスティアは涙を流しながらも、優しく、微笑んだ。
「いい加減にしてくださいヘスティア様ーっ!」
いつの間に来たのか。いきなりリリがヘスティアをベルから引き剥がす。
「コォラ!感動の再会に水を差すんじゃない!」
「ベル様はリリ達のために怪我をなさって、安静にしていないとダメなんですっ!」
「うぉっ!バレン何某っ!?なぜキミまでここに〜っ!」
その光景にベルはやっと笑みを浮かべる。
「クラネルさん」
その時、聞き覚えのある声に後ろを見ると、豊穣の女亭主のリューさんが立っていた。
「リュ、リューさん!?」
「やー久しぶりベル君」
「へ、ヘルメス様まで!」
今度は、以前あった時のようにひょうひょうとしたヘルメスが話しかけた。すると、助けに来てくれたことを察したのか。ベルは驚きながらもお礼を言った。
「あの、ありがとうございました」
「なぁに、感謝なら。この子達にしてくれ」
そういった先には…
こうなった原因。モンスターを押し付けられた、ファミリアがいた。
* * *
テントの中、僕達は土下座をする女の子の前に立っていた。
「申し訳ありませんでしたっ!」
その土下座に僕と神様は「おーっ」と感動する。
だが、他の空気は全く別だった。
「いくら謝られても簡単には許せません。リリ達は死にかけたのですから」
「ああ、そうすっぱり割り切れるものじゃない」
「本当に…ごめんなさい…」
今度は千草という少女も頭を下げる。すると命が顔を上げた。
「リリ殿達の怒りはごもっともです。いくらでも、糾弾してくださー」
「攻めるなら俺を攻めろ。あれは俺が出した指示だ。俺は今でもあの指示が間違っていたとは思っていない」
命の言葉にそう、桜花が割って入った。そんな彼にヴェルフは目を細める。
「それをよく俺たちの前で口にできるな。大男」
そうしてヴェルフと桜花が睨み合う。
テントの中は嫌な空気で包まれてたが、それは…
「べ、ベルーーっ!」
何故か格好がアマゾネスのキリ子ちゃんバージョンのキリトが突っ込んできて中止となった。
「た、助けてくれっ!アスナ達が俺の服隠しやがってこんな格好じゃ戻れないんだっ!」
涙ながらに言うキリトに僕は。見とれてしまっていた…
ほとんどの部分が露出しており、そこからはあの透き通るような肌が覗いている。体はこれ以上ないくらい綺麗なラインを描いていた。その姿はまるで、妖精。
初めと同じことを思っている僕の隣にいたヘルメス様は「おー!キリト!会いたかったぞー!」とキリトに抱きついた。アスフィさんは「はぁ…」と溜め息をついている。
何気にセクハラしているヘルメス様にキリトは切れた。
「やめんかエロ神ーっ!」
ヘルメス様をまさかの背負い投げ。
とても子がすることではない…。
そうしてヘルメス様の意識が戻ることはなかった…。
そんなどんちゃん騒ぎに、僕らはただ呆然としているとブッ!と神様が我慢できず噴き出した。僕もつられて笑ってしまう。
気がつけばテントの中は和やかなものになっていた。
やっぱりキリトは凄い。僕にはできないことをキリトはやってのけてしまう。
僕は、今回改めて、そう思うのであった。
* * *
次の日、なんとか服を返してもらい元に戻った俺、キリトは今、最後の治療を終わらせた。
「お、終わったァ〜…」
仰向けになる俺にアスナは「お疲れ様」と隣に座る。
【ロキ・ファミリア】は、今日中に帰るのだそうだ。
俺達もそれについて行こうとしたのだが、ベル達と再会したので、ヘルメス様もいることだし一緒に帰ることとなった。と言っても【ロキ・ファミリア】の後ろをついていくだけなのだが。
「おーい。キリトー、アスナー」
しかし、急遽そうできなくなってしまった。
振り返ると、ヘルメス様とアスフィが立っていた。
「あ、おはよーアスフィ。ヘルメス様のお守りお疲れ様」
「そう思うなら、アスナ変わってくださいよ…」
「お断りします」
二人の会話にヘルメス様は苦笑いする。
「で、何ですか?ヘルメス様」
俺が話を戻すと、ヘルメス様が「そうだった」と話し始めた。
「実はね、ヘスティアが攫われたらしい」
「「えっ!?」」
きゅうな展開に驚いているとアスナが口を開いた。
「じゃあ、助けないと!」
「いや、待ってくれ」
「「はい?」」
まさかの引き止めに唖然としているが話は進む。
「それをもちろんベル君が助けに行っているんだが。俺はその彼が目当てだ。もう分かるだろう?」
「……全てヘルメス様の仕業ってことですか」
「まぁそういう事だっ」
またこの神は、訳がわからない。
いつもそうだ、なんでも遊びなんだヘルメス様は…。
「本当に危なくなったら。俺、助けに行くんで」
「私も」
「分かったよ。じゃあ行こうか」
そうしてまた俺らは、ヘルメス様に振り回されるのであった。
今度は戦闘です。
どうなるか…