七丈島艦隊は出撃しない   作:浜栲なだめ

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前回のあらすじ
お姉様になった。


第十一話「あの、提督、私のオムライス、たべりゅ?」

 

「そろそろ、約束通り私に料理を教えてくれ!」

 

 私、大和が七丈島に来てから、一週間が経った。

 当初は七丈島鎮守府の艦娘達に圧倒され続け、落ち着かない毎日を過ごしていた私も大分この鎮守府の空気に慣れてきたのか、挙動に余裕が生まれてくるようになってきた。

 

「え、料理を……?」

「え? 約束しただろう?」

 

 そして、私は現在磯風から突然の身に覚えのない約束を突きつけられておおいに焦っている最中である。

 余裕だと。そんなものなどある訳ないだろう。たかが一週間で鎮守府の空気に慣れて余裕が生まれるなど勘違いも甚だしい。そんな恥ずかしい奴がいるなら、そいつの顔が見てみたい、さぁ一体どこの誰だ。

 そう、私である。

 

「…………」

 

 返答のない私に、磯風はおもむろに服の袖を引っ張ってきて無言で私を見上げる。

 磯風には大変申し訳ないが、その仕草は思わず胸が鷲掴みされる破壊力が内包されており、不安を胸中に渦巻かせる磯風とは対照的に私の胸中は彼女の愛くるしさに非常に癒されていた。

 

「まさか、覚えてないのか……?」

「何言っているんですか。当然、勿論、当たり前に、ばっちり覚えていますよ」

「そうか、なら良かった!」

 

 しまった、なんということだ。今にも泣きだしそうな磯風の表情に私はつい平然と呼吸をするように嘘をついてしまった。

 しかし、私は安心した様子の磯風を他所に、問題の約束をした時の記憶を手繰っていくが、どうにも不思議な事にその記憶だけが思い出せない。

 正確に言うならば、手繰った記憶の糸は初日の夕食までで切れており、それから前は天龍を捕縛した時の記憶になっている。

 要は初日の夕食。確か磯風と初めて会った時のことだったと思うが、その時の記憶が全くないのである。

 これは、初日の夕食の際に恐らくは料理を教える約束をし、その時に何かがあったと見て間違いないだろう。

 

「じゃあ、早速丁度食堂に居る訳だし、今日作る料理のメニューについて教えてくれ」

「え……あ、はい」

 

 私の抜け落ちた記憶の謎を置き去りにして、話はガンガン進んでいく。

 仕方ない。取り敢えずこの場は適当な料理でなんとか誤魔化しきるしかないと、私は咳払いをしてもっともらしく説明を始めた。

 

「じゃあ、今日はハンバーグを――――」

「え、まずはあのオムライスの味を目指すんじゃないのか?」

「――はっはっは、その通りですよ。今のは磯風が私の言ったことを覚えてくれているかどうか試したんですよ、はっはっは」

「な、成程! これは気が抜けないな!」

 

 全くである。危うく開始二秒で墓穴を掘るところであった。

 まさか既にメニューまで決まっていたとは思わなかった。品目まで決めて、あの時の私は何をそこまで張り切っていたというのだ。

 しかし、あのオムライスとはどのオムライスだろうか。私はオムライスならアレンジを加えたものをざっと二十種位は作れるが。

 あの時の私は一体どのオムライスを作ったと言うのだろうか。自身の料理上手が今この時に限って腹立たしい。

 

「えーと、じゃあ、取り敢えず卵とご飯と鶏肉、玉ねぎ、あとはケチャップを出しましょうか。あれ、丁度、ケチャップが切れてますね」

「じゃあ、私が取ってくる!」

 

 そう言って倉庫に走っていく磯風を見送り、私は大きく溜息をついた。

 取り敢えず、磯風の言うあの時のオムライスがなんなのか、その正体を突き止めねばなるまい。

 

「――ふっふっふ、お姉様。お困りのようですね!」

 

 私が食堂の椅子に座り、頭を抱えていると、突然そんな聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 椅子の下から。出来れば聞き間違いであって欲しい。

 

「…………」

「無視しないでください!」

「取り敢えずなんで、私の足元に寝そべっているのか教えてくれますか?」

 

 そう言って、私達の座るテーブルの下で這いずっているプリンツの姿を覗き込んだ。

 一体、何故普通に近づいてこなかったのか、何故あえてテーブルの下から近づくルートを選んだのか、そして何故そんなに鼻息が荒いのか。全てが謎である。

 仮とはいえお姉様としては非常に彼女の将来が心配である。

 

「いえね、少し、お姉様の足置きにでもなろうかと思って」

「真顔でなんてこと言いだすんですか」

「ついでに下からお姉様のスカートの中を覗けたら万々歳でしたよ」

「踏んであげましょう」

「ああんッ! もっとぉ!」

 

 くそ、逆効果だった。

 取り敢えず私は何かされない内に、プリンツを机の下から引っ張り出して椅子に座らせた。

 顔に靴跡をつけて尚、満面の笑みを浮かべる彼女に私は深海棲艦と同等の脅威を感じざるを得なかった。

 

「それで、お姉様。もしかして磯風に夕食を作って貰った日の事ほとんど覚えていないんじゃないですか?」

「なんでそのことを……!」

「あの日は私も一緒にいたので、ばっちり覚えてますよ!」

「じゃあ、教えてください! あの日、一体何があったんですか!?」

 

 プリンツは頷いて一度咳払いを挟むと、物語でも語るかのようにゆっくりと口を開く。

 

「あれは、二日前のことでし――――」

「いや、一週間前ですよね?」

「…………あれは、一週間前のことでした」

「大丈夫なんですか、本当に!?」

 

 そして、数分後。

 

「――――はー、そんなことがあったんですか」

 

 磯風の料理を廻る一連の騒動をプリンツから聞き、私は磯風に料理を振る舞われた日の記憶が飛んでいる理由と磯風に料理を教える手筈となった経緯をようやく理解した。

というか人を昏倒させて記憶まで奪う料理とかそれはもう料理ではないんじゃないだろうか。

 と、きっと当時の私も思っていたに違いない。

 

「大変だったんですよ! お姉様は私よりも沢山の料理を食べていたので記憶の損傷が大きすぎてほとんどの記憶を失ってしまったんですね!」

「成程、補足ありがとうございます、プリンツ」

「勿体なきお言葉!」

「で、私が作ったオムライスに関しては何か覚えてますか?」

 

 ここが本題である。

 取り敢えずこれで磯風に教える予定らしいオムライスさえわかれば万事解決である。

 

「確か……そう、青かったような」

「適当言わないでください」

 

 青いオムライスなんてこの世には存在しない。

 

「じゃあ、黄色ですね!」

「わかりました、覚えてないんですね」

「――半熟のオムレツがのったタンポポオムライスだったぞ、あの日作ってくれたのは」

「ああ! あのオムライスですか!」

 

 気が付いた。二つ気付いた。

 自分が作ったオムライスがどのアレンジであったのかということ。それと、それを教えてくれたのが、いつの間にか私の後ろでケチャップを持って佇む磯風であるという非常に拙い状況であること。

 

「あ……いや、その、これは……いえ、すみません」

 

 何とか弁解しようと、私は必死に二秒ほど考えたが、これ以上何も弁解しようのない事に気が付いた私は大人しく謝ることにした。

 

「まぁ、そんな気はしていたんだ。人を昏倒させる位だから、人の記憶にも障害を与える位はあるかもしれないとな。怖くて聞けなかったんだ。だから大和が覚えているような体で話を進めてしまった。こちらこそ困らせたようですまない」

「い、いえ」

 

 毎回毎回この少女の口から出てくる言葉は大人びていすぎるために私は困惑を隠せない。とりあえず、そこまで怒ってはいないらしいので私としては万事解決である。

 

「さぁ、材料も揃ったし、始めよう!」

「はい!」

 

 ここからが私の本領発揮である。

 人に食べられるどころか人を喰う怪物料理を、私はどれだけ普通の料理に近づかせることができるのか。

 まずは私と同じようにオムライスを作って貰えば流石にどうにかなるのではないかと思い、まな板、フライパンを隣り合わせに二つ用意する。

 

「それじゃあ、今日はタンポポオムライスを一緒に作りましょう!」

「ところでタンポポオムライスってなんですかぁ、お姉様?」

「それはね――――」

 

 タンポポオムライス、とは映画『タンポポ』に登場したオムライスで、チキンライスの上に半熟オムレツを乗せ、それを切り開いてライスを包み込むという独特な手法をとるオムライスである。

 オムレツをナイフで裂くと、半熟の中身がライスを覆っていく所がなんだかとても美味しそうで映画に出て来て以来、数多の人々がこのタンポポオムライスを作りに台所に立ったと言う。

 ただ、チキンライスまでは問題ないのだが、半熟オムレツの火加減の難しさやオムレツの返しに苦戦する人が多く、特に料理経験の浅い者などは卵を無駄にしないようにするために、まずは濡らしたナプキンなどをフライパンの上に置いてオムレツの返しを練習することになる。

 オムライス一つ作るだけというのに、なんというか大変な手間である。しかし、同時にそれだけやってでも習得したいと言う魅力がこのオムライスにはあると言える。

 かくいう私もこのオムライスは二十種類のアレンジの中でも最も好きなものだ。

 うまいこと半熟オムレツが開けた時など思わずニヤリとしてしまう。

 

「美味しそうですね!」

「ふふ、ちょっと普通のオムライスよりも難易度は高いんですけど頑張りましょう!」

「ああ!」

「では、まずは玉ねぎをみじん切りにして――――」

 

 玉ねぎを微塵切りにしたものと一口大に切った鶏肉を、油を軽く敷いたフライパンで中火で炒め、鶏肉に火が通ってきたら白米を加えて馴染ませた後、ケチャップを加える。

 ケチャップが全体に馴染んで来たら塩コショウを振りかけ、チキンライスは完成である。

 ここまでは磯風も問題なく、というよりはむしろ私よりも手際がいい位であった。

 

「凄く包丁捌き上手じゃないですか! 火の通りもしっかり見てるし、むしろ私の方が教わる点が多いくらいです」

「いやいや、味がアレじゃ無意味さ」

 

 確かに味は殺人的ではあるが、非常に料理慣れしている様子であるし、何より今の所は私と同じようにやっているのだから問題はない筈。

 できたチキンライスも美味しそうだし、これはもう私いらないのではないか。

 

「じゃあ、次はオムレツいってみましょうか」

 

 オムレツは一般的な家庭料理だが、その実、中々一筋縄ではうまく行かない料理でもある。

 見ている分には簡単そうに見えるのでつい軽い気持ちで挑戦して大失敗する者も多い。母親に偉大さを感じるメニューの一つかもしれない。

 何故か、それはこのオムレツという料理は数ある料理の中でも『技術』の優劣で完成度の差がはっきり見え易い料理だからだろう。

 大抵の料理はおおよそ材料とレシピだけで誰でも一定レベルの出来にはなる。野菜の切り方や焼き加減に多少の差異が生じてもレシピと材料である程度挽回がきくのである。

 ただ、このオムレツという料理は材料が卵と調味料、レシピなど卵を溶いて焼くだけに等しい。

 つまり、材料とレシピの比重があまりにも小さい。焼き方の練度の差によってその出来が決まるのである。

 その人が如何に料理慣れしているかが見える料理の一つだろう。

 

「まずは卵を二つ割って、塩コショウ、砂糖などお好みで加えて素早く溶きます」

 

 ポイントその1。この時に白身と黄身が完全に混ざり合っていないとオムレツに白い斑点がついてしまう。

 それを利用したマーブル模様のオムレツというのもあるが、今求めるのは黄色のオムレツなので、ここでしっかり白身を切ってやらなければならない。

 

「それじゃ、フライパンにバターを落として、全体に敷きましょう。フライパンは中火で大丈夫です」

「よし」

「じゃあ、溶いた卵を少し垂らしてジュッと音が鳴るくらいまで温まったら、卵を全部入れましょう」

 

 ここからが肝心である。

 

「フライパンを振りながら菜箸でかき回してください!」

 

 ポイント2。半熟オムレツを作るために卵が固まる前に素早くかき回して半熟状態を作る。コツはスクランブルエッグを作るときをイメージするといい。

 ただし、ここで手際が悪いと、本当にスクランブルエッグに路線変更する事になる。

 しかし、逆に考えれば失敗しても二段構えになっているというのは精神衛生上とても良いことだ。

 

「裏面が固まり始めたら、半熟卵をフライパン端に寄せて素早くたたみ、返します」

 

 ポイント3。ここが最大の難関である。フライパンの柄の部分を軽く叩きながら半回転させてオムレツにする。

 文字で書けばこの程度だが、ここはコツを掴むまで一番時間が掛かるところだろう。

 さて、磯風の方はどうなるか。

 

「うん、まぁまぁかな」

 

 そつがない。

 私がオムレツを返している頃にはもう彼女の方は形を整える所までいっていた。

 しかもそのオムレツもふわふわで非常に美味しそうである。

 

「それじゃ、チキンライスに乗せて出来上がりなんですけれど……」

「できた! これをたしか最後に割るんだったか?」

 

 磯風がナイフを取り出してワクワクした表情で尋ねてくる。

 こういう所は年相応である。

 

「じゃ、一緒に割ってみましょうか。余り深く切ると本当に一刀両断しちゃうので表面だけ優しく切るようにやってみてください」

 

 磯風が恐る恐るオムレツに切れ目を入れると、半熟のオムレツが姿を現し、チキンライス全体を包み込む。

 初めてとは思えない程の出来栄えに私もプリンツも、磯風自身まで驚いていた。

 

「できてしまった……!」

「いや、本当に冗談じゃなく完璧ですよ!」

「すごーい! 磯風の方もお姉様の方も区別つかないよ!」

 

 私の方も我ながら上手くできたのでタンポポオムライスは二つとも料理店に出しても恥ずかしくない外見にはなっていた。

 問題は味の方だ。私が横目に見ていた分には恐らく余計なことは何もしていないだろうから美味しい筈だが。

 

「味見は自分でしますか?」

「う、ん……できれば誰かに食べて貰った感想が欲しいな」

「そうですよね」

 

 だが、私もプリンツも正直味見をするのは避けたかった。いや、決して信用していない訳ではないのだ。ただ、私は石橋を叩いて渡るタイプの人間だから、万全な保証が欲しいというか。

 まぁ、詰まる所、食べたくないのである。絶対に言葉には出さないが。

 その時、丁度よく食堂の扉が開き、誰かが入って来た。

 

「丁度よくお昼を食べに来た人がいるみたいですね。早速味見して貰いましょうか」

「ああ!」

 

 厨房から顔を出すと、そこには提督が立っていた。

 しかし、何故か背中に人をおぶっている。そして、それは明らかに磯風より少し年上に見える位の、所謂、幼女という奴に見える。

 

「あの、提督、その子は……?」

「ああ、大和ですか。そういえば彼女のことはまだ知らないんでしたっけ?」

「ついに、攫ってきちゃったんですか……!?」

「うん、大和の中での私ってそんな鬼畜外道なんですか? 結構ショックだったんですけれど」

「自首しましょう! 私も付き添いますから!」

「普段温厚な私とて、そろそろ怒りますよ?」

 

 良かった、誘拐とかハイエースしたとかではないらしい。

 しかし、それではこの幸せそうな寝顔の少女は一体何者なのか。

 う、近づくと酒臭い。

 

「この子は七丈島艦隊(ウチ)の一人ですよ。瑞鳳です」

「瑞鳳……?」

「ん、瑞鳳じゃないか。久々に見たな」

「本当、珍しいですよねぇ。鎮守府前で倒れてたから拾って来たんですよ、ラッキーでした」

「そんな、四葉のクローバーみたいな扱い!?」

 

 確かにレア空母だとは聞いているけれど。

 私達の喧騒に目を覚ましたのか、机に突っ伏していた瑞鳳は目をこすりながらゆっくりと起き上がった。

 そして、酒気を帯びた息を吐きながら辺りを寝ぼけ眼で見まわす。

 

「お腹空いた」

「え?」

「お腹空いたぁ~! なんか作って! 早く作って! はい、あと五秒ね~」

「この人まだ酔ってません?」

「お腹一杯になったら落ち着くと思います。何かありますか?」

「丁度、オムライスを作っていたところだが」

 

 そう言って、磯風がさっきのオムライスを持ってきて、瑞鳳の前に置く。

 瑞鳳はオムライスと磯風を交互に見ると、オムライスの皿を提督の前にずらした。

 

「はい、提督」

「え、私ですか?」

 

 成程、この瑞鳳も酔っているとはいえ、流石に磯風の料理となると警戒しているのだろう。しつこく提督に向けてオムライスを差し出すが、提督もやはり断り続ける。

 

「私はお腹空いてないので結構です」

「え~、じゃあ、特別ね~。提督、はい、あ~ん」

「ぐはぁ!」

 

 瑞鳳がスプーンでオムライスを掬って提督に差し出した。いわゆる、『はい、あ~ん』である。

 これは男子としては憧れのシチュエーション。この女っ気のなさそうな提督なら尚更の筈。提督もこれには苦悶の声を上げている。

 しかし、耐えた。それでも飛びついてはいかなかった。これが恥じらいから来るものであれば、そんなんだからお前は女っ気がないってんだよ、とか言われそうだが、今は命すら懸かっている可能性があるのだから彼を責められるはずもない。

 瑞鳳は頬を膨らませてしばらく考えたかと思うと、可愛らしい笑みを浮かべ、瞳を濡らしてウルウルさせながら上目遣いで言った。

 

「あの、提督、私のオムライス、たべりゅ?」

「はい、喜んで」

 

 提督は殉職なされた。萌え的な意味で。

 これはつまり、今の瑞鳳の一言が彼の命を賭けるのに足るだけの一撃だったということだ。

それでいいのか、提督。

 まぁ、しかし今回は私と全く同じように作っている筈なのだから磯風の料理は心配ないと思うが。

 

「――かはッ!」

「提督!?」

 

 提督は倒れた。何故だ。

 何故全く同じように作ったオムライスでまた同じような被害者が出てしまったのかも謎だが、何故提督は倒れて尚ここまで満足そうな顔をしているのかも同じくらい謎だった。

 それでいいのか、提督。

 

「ふ、艦娘達に囲まれて死ぬ……こんなに幸せなことはない」

「死因、オムライスになっちゃうんですけどそれで幸せなんですか、提督!?」

「わ~、提督~、死なないで~、私泣いちゃう~」

「あなたも食べさせておいてその棒読みやめてくださいよ! せめて笑顔は隠してください!」

「泣かないでください、瑞鳳……!」

「泣く気配、微塵もないですって!」

 

 原因は全く分からないが、取り敢えず今回も磯風の殺人料理は変わらなかった。

 そして、その数秒後。提督は意識を失った。

 尊い犠牲であったが、取り敢えずそこらへんに寝かせておけばその内また起き上がってくるに違いない。

 提督が倒れたのを見て、磯風は大きな溜息をついてから、提督の前で手を合わせると厨房の奥に戻って行ってしまった。

 

「あ~あ、やっぱり駄目ねぇ。ねぇ、あなた大和よね? あなたが作った方を頂戴」

「まぁ、いいですけどよくわかりましたね。私もオムライス作ってるって」

「そりゃ、磯風の様子見てればすぐわかるわよ。あの子、以前はもっと自信をもって料理を出していたわ。だけど、今日の磯風はどこか不安な表情が垣間見えた。つまりは自分の料理の危険性に気がついちゃったのよね? 多分、気付かせてくれたのはあなたでしょ?」

「はい、そうです」

 

 何か不思議な感じがした。

 まるで、目の前の瑞鳳に全てを見透かされているような、彼女の目を見ているとそんな感じがしてならなかった。

 瑞鳳は私の作ったオムライスを食べて満足そうな笑みを見せながらさらに続けた。

 

「まぁ、磯風の性格上、自分の料理の実態を知れば罪悪感ですぐに料理を練習しようとするでしょうね。そんなあの子が料理を勉強するためにコーチとして選ぶとすれば、まぁ新人のあなたでしょうね。今日は二人で一緒に料理を作ったんでしょ?」

「よくわかりますね、そんなところまで」

「あなたの資料は事前に貰ってたからね。プロファイルの結果よ、プロファイルの」

「プロファイル?」

 

 難しい単語に反応する私に瑞鳳は得意げに説明を続けた。

 最早さっきの酔いは影もない。

 

「人の持つ様々な属性を列挙した、その人専用の説明書みたいなものよ。それがあれば、人間関係の未来まで予測できちゃうのよ?」

「はぁ、よくわからないんですけど、凄いですね」

「凄い? 当然でしょ! だって、私は完全無欠の天才美少女、瑞鳳ちゃんだもの!」

「ケチャップ、ほっぺについてますよ」

 

 また、癖のありそうなキャラの人だ。

 私は心の中で嘆息した。

 




更新が遅くなって申し訳ありません。ここの所イベントに熱中してました。
もうイベントも目標は達成したので、次はここまで更新は遅くならないかと思います。

不定期更新故に断言できないのがアレですが。

ちなみにタンポポオムライスは作者も一年前くらいに練習した料理です。未だにオムレツで失敗する事ありますが。お母さんって偉大。

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