エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
俺は『黙示録』の護衛達を引き上げ、すぐさまナザリック地下大墳墓へ帰還した。森の賢王を通して、イレギュラーな要素が浮上してきたからだ。すっごく名残惜しいので、いずれまた、みんなでお出かけするとしよう。
入り口前で、皆となんやかんや話したら一先ず解散だ。ハンゾー達と森の賢王は一緒な。
「皆さん、護衛ありがとうございました。貴方達のおかげで心おきなく査察出来ました。また一緒に外出しましょう」
「ハイ、我ラモアバ・ドン様二同行スル
ほまれとは少々大袈裟じゃなかろうかと思うが、彼らは本気のようだ。青天井の忠誠心であるコキュートスを始めとする、護衛騎士や王騎士達も畏まる。色々と気を利かせてくれた彼らには感謝しかあるまい。それに、勇ましい蟲達の行軍は、見てて本当に壮観だった。ヘラクレスオオカブトやギラファノコギリクワガタって、男のコだよな。
「大森林の万難を排した暁には、またじっくりと散策致しましょうぞ」
「ソノ際ニモ、是非我ラニオ任セヲ」
恐怖公とコキュートスの申し出に俺は大きく頷いた。自分の蟲生にまた一つ楽しみが出来たぜ、へへへ。
「アバ・ドン様の為ならばぁ、たとえ火の中水の中ですぅ!」
俺もだ。
「ふふ、頼もしいですね。では、私とハンゾーさん達は森の賢王さんの一件をアインズさんに報告します。皆さんは休憩後、通常業務に戻って下さい」
「畏まりましたぁ」
「デハ、我々は失礼致シマス」
「我輩もこれにて」
深々と礼をすると、部下達は持ち場へと戻っていった。恐怖公はあの骨格でどうやって礼をしているのか本当に謎だなぁ。黒棺でくつろぐ時にでも聞いてみるか……。
「では、私達はアインズさんの下へ」
「御意」
「お供するでござるよ! 大老!」
大老とは俺のことである。なんかモモンガさんは殿と呼ぶ予定らしい。最初はなんのこっちゃと思ったが、確か戦国時代の幕府だとか藩だとかの地位で言うところのナンバー2だった筈。まぁ変えろと言う程のことでもないのでそのままだ。また、妙な称号が増えてしもーた。
モモンガさん情報によれば、現地人との会話は謎の翻訳魔法的なものが働いて意思疎通が可能になっているそうだが、どういう翻訳でこうなったのやら……。
「大老はとても慕われてるでござるな。あれ程の御仁が全て従うとはすごいでござる」
「至高の御方々の慈悲深さと思慮深さは留まるところを知らない。崇敬すべきは当然のことだ」
とはハンゾーの弁である。いやー、それほどでもー。……ほんとにそれほどでもだよ。
「みんな頑張ってますから。そりゃ優しくもなりますよ」
「ありがたき幸せ……」
褒めるとみんなは心から嬉しそうに恐縮する。ナザリックのシモベ達は、本気で俺やモモンガさんに尽くすことを存在意義としているからな。それがこの短期間で身に沁みたよ……。お給料問題が有耶無耶になってるので、しっかり働いてたらしっかり褒めましょう。
「某も尊敬するでござるよ!殿にお会いするのも楽しみでござる」
「良い人ですよ。それに、私より強いです」
「大老より更に強い御方とは最早想像つかないでござる……」
「アインズ様は偉大なる死の支配者にして最高の知恵者だ。失礼のないようにな」
「気を付けるでござる!」
賢王が結構フレンドリーで助かった。コミュニケーションを取る分に問題なさそうなので、これならモモンガさんと顔合わせしても大丈夫だろう。あの人珍しい物好きだけどどういう反応するかなっと。
あ、そうだ。一応現地で勧誘(?)した部下はこれで2人目だし、1人目のブレインとも顔合わせさせとくか。シャルティアが捕まえてきた青髪の剣士だ。モモンガさんと《伝言/メッセージ》で軽く打ち合わせして集合だな。
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「お前の名は今日からハムスケだ。良いな」
「了解でござる! 皆々様、よろしくでござるよ!」
(えー)
玉座の間で守護者達プラス、ブレインと顔合わせしたら、モモンガさん命名により森の賢王改めハムスケになりました。うーん、このネーミングセンス。ま、まぁみんな普通に受け入れてるからこれでいいのだろう。今日からこいつはハムスケなのだ。
尚、守護者達とは言ったがアウラとマーレは今も森林探索中です。ほんとに頑張ってる模様。プレアデスもといエントマちゃんいないのが寂しい。
「森の賢王、噂には聞いてました。なんと見事な威容……。これをあっさりと手懐けるとは……」
ブレインはハムスケを見てそう言った。威勢のある立派なの方の威容なのか。異様の方だと思ったよ、一瞬。
「至高の御方の威光ならば当然の結果でありんしょう」
「正ニ、アバ・ドン様ノ御力添エガアッテコソ」
「は、はぁ……流石です」
シャルティアとコキュートスに釣られてブレインも俺を称賛する。いや、ほぼなんもしてないっす。まぁ遭遇のきっかけは俺だが。
「アインズさん、先にも言った通り、ハムスケさんのレベルは30強と思われます。ブレインさんの反応からも、異世界基準で言えば、かなりの強者みたいですよ」
「ふむ、ではブレイン君。もしハムスケと戦った場合、どのような結果になるのだ?」
「えーと、その、勝てないです。も、申し訳ありませんでしたぁ!」
ブレインが綺麗な土下座を決めた。責めてる訳じゃないんだけど……。
「止せ、別に咎めてる訳ではないぞ。そう畏まるな」
「は、はい……」
モモンガさんの厚いフォロー。
(ブレインさん、俺らのことめっちゃ怖がってますよ……)
(無理もないでしょう。我々は彼にとって上司の上司ですから。……ああ、ブレイン君からすれば全員上司か)
(身内じゃない分、面接時のルプーさんよりハード……。頑張れブレインさん。やっぱ、縦社会なのはどの世界も変わらないか……)
(まさか自分たちがトップになるとは思いませんでしたがね)
(それな)
「森の賢王の知名度はかなりのものと言って良いのですね?」
「はい、少なくとも、冒険者やワーカーの間で知らぬ者はいないです」
「なるほど……。となると、冒険者モモンのペットとして連れ歩けば良いかもしれません。それだけで名声も確固たるものになりますよ」
「!?」
「!」
ペット、という単語にアルベドとシャルティアが反応し、ハムスケを睨んでいるような気がする。ハムスケが怯えとるがな。あの二人のことだから、モモンガさんのペットとか羨まけしからんとか思ってるのだろう。俺もエントマちゃんに飼われて、キャベツとかアーンって食べさせて欲しい。言ったらやってくれるだろうけどドン引き不可避だろう。……俺は何を言っているのだ。
(え……もしかして、コイツ馬替わり?)
(ハムスケさんが有名なのは間違いないし、部下達からの反応が良ければ乗った方が良いですよ)
(うーん……)
モモンガさんは文字通り乗り気でないが、異世界でネームバリューのあるハムスケを連れ歩くのは有効だろう。利用しない手は無い。ほら、ハムスケもつぶらな瞳でこっちを見てるし。アルベドとシャルティアの殺意に充てられたのか更に小動物みたいになっている。多分、やまいこさんとかあんころさんとか茶釜さんなら可愛いと感じるのだろう。
「ブレインさん、冒険者モモンがハムスケに乗って街をうろついたら、どう思います?」
「乗りにくそうにも感じますが、誰もが英雄の凱旋と見紛うでしょう。自分もそう思います」
「……本当に本当ですね?」
「ほ、本当です!嘘はついていません!」
「えぇ……」
モモンガさんが小声で困惑した。ブレインは本気で言っているようだ。黒騎士がハムスターに跨る姿は俺やモモンガさんからするとアンバランス極まりないが、異世界的には超かっこいいようだ。文化の違いってすごいね!
「……デミウルゴス、お前はどう思う?」
「はっ、私もかの世界の人間に対してアピールになるのであれば、このハムスケに騎乗して行動するのが得策かと思われます」
(マジか……)
(マジかー)
詰んだ。デミウルゴスのお墨付き貰っちまった。という訳で、ハムスケは冒険者モモンの騎乗モンスターになりました。わー、ぱちぱちぱち。……すまん、モモンガさん。
「そ、そうか……。では、ハムスケには私が扮する冒険者モモンへの同行を命ずる」
「御意にござる!殿を背に乗せ、どこへなりとも駆け抜けるでござるよ!」
やる気満々です。頑張れモモン。頑張れセバス&ユリ。
「それと、鍛冶長に伝えろ。ハムスケに騎乗する為の鞍と鐙を用意せよとな」
「畏まりました」
ああ、ハムスケの体型じゃ乗るの大変そうだもんな。間違いなく必要になるだろう。事前に察知するとはさすモモ。
「ブレインさん、中々有効な情報が得られました。ありがとうございます」
「い、いえ。お役に立てて良かったです」
うむ、ブレイン基準で外の世界のTPOを知るのは思いの外有効だ。冒険者モモンと愉快な仲間達の情報収集と合わせれば効率アップだ。今後も役に立って貰おう。
「……さて、ハムスケの処遇は決まったが、もう一つ問題が残っていたな」
気を取り直したモモンガさんが、話を切り替える。そう、ハムスケが本来のテリトリーから逃げてきた経緯について知らねばなるまい。ブレインがここにいるのは、ハムスケが逃走した経緯について何か知っていることは無いか聞くためでもあったのだ。正直、期待薄だけど。
「でしたね。ハムスケさん、貴方の知りうる限りの情報をこの場で話してください」
「承ったでござる」
ハムスケとの質問のやり取りを得て判明した情報を脳内で纏める。
冒険者モモンがズーラーノーンをひっ捕らえた一幕から一週間後ぐらいに、森の奥地で謎のモンスター大移動発生。中には満身創痍のモンスターも居たとか。で、ただ事ではないと思ったハムスケも、テリトリーより更に南方へ避難。ここで俺たちと遭遇。
これがハムスケ遭遇の経緯。
大移動の前日、人間の手のひらサイズの真っ黒な石を持った冒険者らしき男が森の奥地へ侵入。冒険者のランクはタグの色から恐らくミスリル級と推測。装備はあちらの世界基準ではそこそこ良い物、それなりに腕の立つ冒険者だそうだ。その男は、目が虚ろで、正気とは言えない様子だったと。
「ぬう、それはもしや死の宝珠……!」
「知っているのですか!アインズさん!」
いっぺんやってみたかったやり取りだ。
「カジッチャンとやらが所有していたアイテムと特徴が一致している。だが、あの一件でズーラーノーンの幹部から没収したアイテムは、冒険者ギルドが纏めた後にモモンの物となる筈だった」
「まさか……アインズ様の所有物を盗もうとした愚か者がいたでありんすか!?」
「ナンタル不届キ者……!」
シャルティアとコキュートスが怒りに打ち震えだした。あ、ブレインがハムスケに負けず劣らず小動物みたいになってる。
「それが本当に死の宝珠だとしたら……」
「そう、洗脳された可能性が高いな」
カジッチャンから絞り出した情報によれば、死の宝珠は、黒いゴツゴツの石で、意思を持った特殊なアイテムとか。時には所持者を洗脳して死をまき散らそうとする迷惑アイテムらしい。ここまで特徴が一致していたなら、ほぼ確定か。何らかのきっかけで手に取った冒険者が洗脳されてしまったのだろう。
「うーん、わざわざ森の奥地に潜り込んで、何をする気なんでしょう?皆さんはどう思いますか?」
「アインズ様に恐れをなして逃げ出したでありんしょう!」
「一理アルナ。デミウルゴスハドウダ?」
「その可能性は否定出来ないね。ただ、もしそうでなかった場合、死の宝珠にとって有益な何かがあるのでしょう」
「だとしたら碌なことは企んでいないだろう」
逃げるのが目的でなかった場合、宝珠が死をまき散らす為の有効な手立てがあるのかもしれない。これは警戒しといた方が良いな。
「では、アウラとマーレにはトブの大森林奥地の調査を優先させよう」
「モンスターが逃げ出した中心地を割り出すよう連絡しときますね」
さて、吉と出るか凶と出るか。アウラとマーレには世界級アイテムを持たせてはいるが……。
「むむ、殿、良いでござるか?」
「なんだ?」
「……実は、もう一つ心配事があるでござるよ」
「ほう」
話が纏まってきたところでハムスケが言い出した。まだなんかあるのか!
「それが、死の宝珠が森の奥地へ行くよりも前にも、モンスターが大移動をしていたでござる……。四方八方からあらゆるモンスターが逃げ出したのでござるよ。某は心配でござる!」
「……」
それ、アウラが追い立てた方のモンスターです。
今更だけど4巻あんま関係ないね(;´ω`)