エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
恐怖公とアバドンの会話かと思ったら恐怖公とハンゾー達の会話だったでござるの巻
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エイトエッジアサシン達は無表情であるが、驚愕を隠しきれなかった。心から敬愛する蟲の王、至高の一柱が明かした計画。それは、言うなれば幼い子供なら必ず憧れるような役職。ナザリックの誰もが夢を見るであろうモノだったからだ。
先程の、アバ・ドンが渡したネックレス。至高の御方より授かったマジックアイテムを身に着ける時、常人ならば飛び上がり大声で叫ぶほどの喜びを押し殺して感謝するに留めたが、今回ばかりは興奮を抑えきれぬ。エイトエッジアサシン達と恐怖公は色めき立っていた。
「私の指揮下で動ける者が必要なのです。無論、アインズさんからは許可を頂いてますよ。貴方達さえ良ければ、是非にと思います」
「ハッ!我々も貴方様に尽くし、何処とも馳せ参じたく思います!」
「至高の一柱であられるアバ・ドン様の手足としてお役に立ちたく!」
「何なりとお申し付け下さい!死地であろうとも任務を遂行してみせます!」
「アバ・ドン様の下へ付き従えるならば、これに勝る喜びは二度とありえませぬ!」
「この恐怖公も末席に加えて頂きたく!必ずや、貢献してみせますぞ!」
それはまさに即答であった。ハンゾーの志願を皮切りに、他のエイトエッジアサシン達も付き従い、跪く。恐怖公も例外ではない。黒棺内は、蟲達のやる気で充満していた。物理的な意味でも充満している為、その様子がより顕著に感じられる。
「気合充分ですね、嬉しいことです。この話は近い内に公表します。それまでは暫しご内密に」
(そうしないと、みんな志願する可能性高いらしいしね……)
アバ・ドンは副腕で頭を掻きつつ、まだ内緒話にするよう周りのモノ達に頼んだ。
実際、この懸念は大当たりである。アインズ公認で、表立って直属の配下を募れば、アルベドとデミウルゴスが四苦八苦する程に相当な志願者が出る事は確実だった。ちなみに、実働部隊としてデミウルゴスも参加しかねないので、アルベド一人が苦労する可能性もある。
「承知しました!」
黒棺内にいるシモベ達は皆例外無く、口を噤む事を誓った。恐怖公の眷属達も前肢で口を塞ぎ、内緒にするという誓いを立てている。領域内を埋め尽くす眷属達が全て同様の仕草を取る姿は、微笑ましくも規律ある軍隊を彷彿とさせるものであった。
彼らはその日が来るまで、文字通り死んでも言わない。アバ・ドンの手足となる為の最初の任務だと認識したからだ。
「部隊名も決まってます。私が決めました……。少し恥ずかしいですね」
至高の御方直々に名をお決めになった直轄部隊。その響きは、甘美なものであると同時に、大役であるという重圧をもたらす。しかし、彼らにとっては全てが神の祝福であるかのように感じた。
「さて、残りは……ん?少しこの場を離れます、失礼」
アバ・ドンが黒棺の隅で主腕を耳に当て、何かと交信するような動作をする。ハンゾー達と恐怖公は、
『はい、アバ・ドンです。どうなさいました?アインズさん』
全員に緊張が走った。生憎とこの程度の距離の声ならば耳に届く。果たして二人の会話を聞いても大丈夫だろうか。個人メッセージによる内緒話ではない為、公にしても問題の無い話だとは思うが、彼らの会話を勝手に聞くのは不敬に当たるのではないかと、黒棺内の蟲達は考えた。
『ん? ああ、すみません。近くに部下がいたもので。ええ、ええ、そうですね。別に聞かれても大丈夫ですね』
シモベ達の心配は杞憂に終わった。アバ・ドンがこちらに向けて鷹揚に手を振る。この御方の事だから、我々に配慮して下さったのだろうとハンゾーは確信する。この短期間で、アバ・ドンがどこまでも慈悲深い君主であることを思い知った。ならば、我々がすべきことは主の会話が終わるのを暫し待つのみだ。
『ほうほう、話が……了解です。少ししたら向かいますね、では』
そのメッセージは手短に終了し、すぐにアバ・ドンが戻ってきた。
「すみません、アインズさんと
「畏まりました。それでしたら、我々は恐怖公殿と交友を深めておきます故、指輪をお使い頂いても問題ないかと」
ハンゾー達は、至高の方々が個人的に話をするとなれば、自分達は邪魔になるだろうと判断した。神にも等しい至高の御方、更にその総括直々の呼び出しともなれば、自分達シモベ等よりも遥かに優先すべき事だ。
「本当に気が利きますね。では、私はアインズさんの下へ行きます。準備が済めば招集命令が下される筈です。それまでは、暫しお待ち下さい」
そう言い残し、アバ・ドンは転移した。黒棺に残ったのはエイトエッジアサシンの4人と恐怖公。そして、領域内を埋め尽くす眷属達のみとなった。のみと言っても、黒棺は未だ床もロクに見えない状態であった。
「行ってしまわれたか……」
至高の御方に同伴するというのはとても名誉な事だ。そのせいか、主と離れ離れになったハンゾー達は少し寂しげであった。
「アバ・ドン様は病み上がりであるというのに、よくお働きになる……」
「左様ですな。それを我輩達の手で支えていく事になるでしょうぞ」
恐怖公は、どうやっているのか本当に謎だが両前肢を組み同意している。
「それにしても、ハンゾー殿がアバ・ドン様とよく会話をするのですな」
「……実を言うとリーダーの立ち位置が非常に羨ましく思います」
「ドウジュンよ、それは致し方なき事。チームリーダーが私でなければ、私も同じ気持ちを抱いていたであろうからな」
ハンゾーは、その気持ちは抱いて当然のものだと思った。
アバ・ドンとの会話を交わすのは主にチームリーダーであるハンゾーが多い。
アバ・ドンならば、全員がいちいち話しかけたとしても、きちんと会話を交わすであろう。しかし、常に指示が無い限り付き従い続ける自分達が、幾度となく話しかけたとしたら、それはいらぬ手間になってしまう。
そういった考えから、エイトエッジアサシン達の総意をリーダーであるハンゾーが代表して話す事にした。偉大な創造主から預かった役割分担の為に我慢していたが、ドウジュンとナガトとサンダユウは、ハンゾーのポジションにかなり嫉妬していた。
「お気持ちはよく分かりますぞ。でしたら、定期的に会話役のみを交代してはいかかでしょう」
「ほう?」
「皆様方は能力的に均一とお見受けします。業務に支障をきたさないのであれば、アバ・ドン様の御意志を聞く役目を交代するようにすれば良いのです」
「ふむ……」
「あの御方の事ですぞ、我々とのコミュニケーションも望まれているでしょうな」
「なるほど!」
ドウジュンは膝を叩いて唸る。確かに会話役を交代する程度ならば、チームワークにも綻びは出ない。それに、アバ・ドン様はシモベとの交流に積極的、あの御方の意に合った行動である可能性はある。ハンゾーとしても、公平に役目を分担出来るならば異議は無かった。
「アバ・ドン様がお許しになるならば、今後はそうするとしよう」
「そうだな」
「ところで恐怖公殿、アバ・ドン様が個人部隊を完成させたとして、我々はどう動くべきと見る?」
サンダユウは恐怖公に個人的な疑問を話した。アバ・ドンが直接指揮を執るとなれば、命令次第で護衛以外の役目を預かる事になるかもしれない。ならば、そういった事にも対応出来るように準備をしておくべきだ。しかし、近辺の護衛や監視以外は未知の経験となる。どんな任務であろうともこなす覚悟はあるが、成功率は上げておきたい。
至高の御方々の智謀を理解する。それは、屈指の知恵者であるデミウルゴスをもってしても難しい。それでも、懸念する事柄を早速相談したのは、既に恐怖公の聡明さを高く評価している証左であった。
「そうですな……。まず、アバ・ドン様は個人部隊を作る上で、蟲モンスターを主要にした部隊にするおつもりでしょうな。あの御方は我々に恩恵をもたらすスキルも多数お持ちになっておりますので。とすると、今ナザリックに必要な事であり、我々蟲系のモンスターが得意とする事。すなわち、敵地偵察の可能性が高いですぞ」
「うむ、それならば我々も得意とする所」
「ご命令次第で、どんな所でも」
「潜入ならば容易い」
「頼もしい限りですぞ。更に、あの御方の口ぶりから察するに、恐らくコキュートス殿、エントマ殿、餓食狐蟲王殿にも御声をかけるつもりでしょうな」
「む、コキュートス様まで参列するとなれば、百人力!」
「ナザリックの主要な蟲系モンスターが一堂に会するという事か……」
「アバ・ドン様の御力添えを直接預かる蟲モンスター部隊……」
「その列に加えて頂けるとは、何たる光栄か!」
ハンゾー達は、アバ・ドンを筆頭に集結する蟲モンスター達を想像し、いつか訪れるその素晴らしき光景に武者震いを起こす。普段は静かな彼らにはありえない程に、血が騒いでいた。
「全くですな!非力ながら、我輩も力になりますぞ」
「うむ、共に力を合わせて、アバ・ドン様とアインズ様に貢献しよう」
黒棺の蟲モンスター達は、お互いに連携が取れるよう誓い合った。
ハンゾーは恐怖公に感心する。恐怖公は、ナザリック内にいる主要な蟲モンスターとして、戦闘力はそれほど高くなかったが、決して侮るつもりはなかった。
(……アバ・ドン様の個人部隊。頭脳担当は恐怖公殿になるであろう。我々もそれに負けぬ働きを見せねばなるまい)
エイトエッジアサシン達と恐怖公の交友は順調に深まっていった。