エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
人造人間メイド三人組をなんとかなだめ、ちょっと打ち解けた気がする。シクスス達は、食事を終え業務に戻るという事で去っていった。去る時名残惜しそうだったので、一般メイド達は少し心を開いてくれたかな?
この場に残ったのはエントマとルプスレギナ、ハンゾー達と俺だ。ルプスレギナ、エントマちゃん、俺。向かい側にハンゾー達の順番で座っている。全員の平均LV50くらいかな?やだ……俺だけ、レベル浮きすぎ……。
「二人はメイド達と仲が良いのですね」
「そうっすね、みんな慕ってくれるっすよ!」
ルプーこと、ルプスレギナはだいぶ砕けた物言いをしてくれるようになった。よく分からんが、さっきの台詞は効果的だったらしい。やっぱ一緒に御飯食べるってのは大事だね、これからも積極的に交流の場を作るようにしよう。
「あ、そうそう。エイトエッジアサシン達に私が名前を与えたので、今後はそちらの名で呼ぶようにして下さいね」
「了解っす!えーっと……」
「チームリーダーのハンゾーです」
「ナガトです」
「サンダユウです」
「ドウジュンと申します」
「よ、よろしくっす!区別つかないっすけど」
む、やはり、蟲の区別は傍から見て難しいのか。個別にアクセサリーでも与えて差別化してみようか。だが、思ったより良い感じだ。こうして直接話を聞けば、部下同士、仲の良し悪しも分かる。
他にも俺が緩衝材みたいな感じでフランクに接すれば、モモンガさんと他の皆の距離感を計れるという狙いもあったりする。モモンガさんが絶対者として振舞いやすい環境を作るのも、俺の役目の一つだ。いや、勝手に決めた事なんだけどね。
「ほら、エンちゃんも何か喋るっす。いつも通りにっすよ」
「うぅ~……」
ルプーがエントマちゃんを肘で軽く小突きながら発言を促す。いいぞ。
「……アバ・ドン様ぁ、本日もぉ、ご機嫌麗しゅうぅ」
あぁ……。
こ、これはやばい、聞いてて幸せになってくる……。飯食ってる時を超える精神安定化の嵐が吹き荒れてる。しかも本当の声も可愛いんだぜ……最高だろ……。
「アバ・ドン様ぁ……?」
「……失敬。うん、そちらの方がずっと素敵ですよ」
「ッ!ありがとうございますぅ!」
「さ、さて、冷めない内に、いただきましょう」
「はいぃ」
エントマちゃんとルプーが食べてるところを観察する。すごい勢いで肉が減っていくなー。エントマちゃんが食べてる物は、どう見ても人間の腕を揚げ物にしたような代物だ。しかし、今そんな事はどうだっていいのだ。裾越しにフォークを駆使し、肉を上手に掴む。人間的に言えば、顎下から食べてる。顔の蟲は口が動かないもんな。
(……いいか、我々はこのまま空気に徹するんだ)
(承知)
(承知)
(承知)
何かハンゾー達が気配を断ちながら御飯食べてるんだけど……。
それにしても、エントマちゃん本体のみがお肉食べるのか。擬態してる蟲達は栄養を採らなくても良いのかな?それともエントマちゃんに共生してる間は栄養も共有するのだろうか。魔法やらが当たり前の世界で、生物学的又は科学的根拠はほとんど当てにならないが、やはり興味深い。他の蟲はどこから栄養を摂取してるんだろうなぁ。
「……」
「あ、あのぉ。私の顔に何かぁ?」
「いえ、その、よく食べるなと思いまして」
やべ、エントマちゃんの顔ガン見してた。いっぱい食べるエントマちゃんが好きです。
「アバ・ドン様は少食な子の方が好みっすか?」
「そんな事はありません。たくさん食べる必要があるのは、しっかり働いている証拠ですよ。それに、御飯をいっぱい食べる娘も良いと思いますし」
「おー!」
俺がそう言うと、ルプーがエントマちゃんにアイコンタクトらしき事をしている。何のやり取りだろ?アイコンタクトってより満面の笑みでドヤ顔してるように見えなくもない。エントマちゃんがルプーに対してしきりに頷いているので、何かしらの意味があるのは間違いないだろう。
ルプーが満足したのか食事を再開する。む、今食べてるそれ、台に置いてなかったぞ。豚の腸詰めだったかな、昔朝御飯の定番だったとかいう。
「おや、ルプーさんの食べてる腸詰めはどこで用意したのですか?」
「ウインナーっすか?頼めば使用人が焼くっすよ」
その場で焼く!そういうのもあるのか。
作り置きだけじゃなくて、その場で料理してくれるのか。普段が普段だったので今の環境にすごいギャップを感じる……。いや、悪い事ではない。むしろ今までの職場環境を考慮すれば何千兆倍も良くなってるから、頑張って慣れよう。
俺も食事を再開しよっと……やっぱりうめぇぇぇぇぇぇえええ!!このくるくるしてるパンも美味しいぞお!
エントマちゃんとルプーも美味しそうに食事を続ける。ハンゾー達の表情は読み取りづらいが、食べるペースがこころなしか速いので、きっと美味しいのだろう。各々が個性的な食べ方をしてて微笑ましい。
……食事って、こんなに楽しかったんだなぁ。
ああ、そうだ。彼女達に聞いておきたい事があったんだった。今聞いとこう。
「そういえば、お二人に質問があります」
「何すか?」
「何でしょうぅ?」
「例えば、目の前に困ってる人間が一人いるとしましょう。どうしますか?」
「助けるふりして、ゆっくり殺しちゃうっす」
「お腹空いてたらぁ、食べますぅ。いっぱいならほっときますぅ」
「なるほど」
ふむふむ、やはりか。忠誠心のすごさに失念していたが、人間への扱いはそんな感じね。二人ともアライメントがマイナスなので予想はついてた。
ナザリックの外は人間達の天下なのだそうだ。今後、外の調査が本格化する可能性大なので、派遣する部下を選定する必要があるだろう。モモンガさんはまだ、NPC達の性格は把握しきれてないらしいし。俺がなんとかしよう。
そもそも部下達が尊敬するギルメンは皆異形種であり、泣く子も更に泣かすPKギルド。ユグドラシル時代を省みると、人間への扱いが悪いのも当然と言える。確かモモンガさんも昔、理不尽なPKに遭っていたそうなのでその辺も関係してるのかもしれない。
これ、人類の敵になるしか道無いかもなぁ……。うむ、エントマちゃんの為だ。俺も心を鬼にしよう。今の俺は人間ではなく、蟲王アバ・ドンなのだ。
「では、人間の社会に溶け込めと言われた場合、我慢できますか?」
「大丈夫っす!こっそり痛めつけるっすよ!」
「お、お腹いっぱいならなんとかぁ……」
ふむふむ、ある程度我慢は出来ると。それぞれがどういう思惑で動くかも違ってくるようだ。これは注意せねば。恐らく、街に潜入するにはルプーはまだいけるが、エントマちゃんは不向きだ。てことは俺の要望も……フフフ。
……あ!ついでに良いこと思いついた!よし、後でアルベド辺りに頼んでおこう。
「参考になりました」
「アバ・ドン様はぁ、人間がいたらどうしますかぁ?」
「私ですか?アインズさんの役に立つなら利用しますし、邪魔になるなら消します」
「おおーシンプルっすね!かっけぇーっす!」
「はいぃ!」
今のどの辺がかっこよかったのだろうか。でもエントマが同意してくれたので超嬉しい。お世辞かどうかは分からんがそれでも良い。好きな子に褒められるのは嬉しいものだ。
「ふふふ、ありがとう。さて、お肉でも取りに行きますか」
「あ、エンちゃんの分けて貰ったらどうっすか?いっぱいあるし」
「……いいんですか?」
「どうぞぉ」
「ありがとうございます」
という訳で、エントマちゃんのお肉を分けて貰う事に。わーい。
そうそう、こういう関係!こういう気軽な関係が良いのよ!ルプー株上昇中。
もぐもぐ……本当にうめぇ……。肉って、こんなに柔らかいのか……!もっとこう長靴の底みたいな奴じゃなかったっけ?感動的だな、しかも有意義だ。ついつい夢中で食べるが、俺今しれっと人肉っぽいの食っちゃったよ。緑髪の人が本当に食べてしまったのか?とか言いながらニヤリとしてる気がする。
我に返ると、エントマちゃんが口元……じゃないな、顎下を押さえて固まっている。顔の蟲が、目をパチパチ瞬かせてるが……。
「……どうなさいました?」
たっぷり間を置いて、こちらから視線を外しながらエントマちゃんが喋った。
「間接キスぅ……」
「あ」
今しがた自分が食べた物を思い出す。……明らかに食べかけの奴だった!
む、夢中になってついやってしまった!くそっ!大失態だと言うのにすごく幸せな自分が憎い。女にてんで縁の無かった俺に間接キスはレベルが高すぎる!エントマちゃんと間接キスしてしまったぁぁぁぁああ!やったぁ!じゃない!しまったぁ!
ルプーがヒューッと口笛を吹く。ああ、今はその茶化しが逆にありがたいや……。ハンゾー達の方を見ると、気持ち俺とは反対方向を見ながら黙々と食事に勤しんでいる。見て見ぬふりという奴だろう。ルプーもエイトエッジアサシン達も空気読んでくれてるんですね、分かります。
「も、申し訳ありませんね」
「いえぇ……こちらこそぉ、ごめんなさいぃ……汚い物をぉ」
「とんでもない、むしろ嬉しいハプニングです」
「えええぇ!?」
うわあぁぁぁあ、俺何て事口走ってんだぁ!本音でいくスタイルにしても限度があるだろおおおぉおおおお!?これ完全にセクハラだよ!!
ハンゾー達はついに気配遮断に合わせて透明化した。一定レベル以下の奴なら食器が空中に浮いてるようにしか見えないだろう。そこまで気を使われると逆に辛い!ええい、さっさと食べてこの場を去ろう。充分話したしね、うん!
うおおお、やっぱ美味しいぃぃいいいい!……はい、完食!
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでしたぁ」
エントマちゃんとハモった。
部下と一緒にメシ食ってコミュニケーション取れるのはでかいと思います(´ω`)