エントマは俺の嫁 ~異論は認めぬ~ 作:雄愚衛門
携帯等で見ると改行がおかしかったそうなので、全編修正しました!
さて、思わぬ所で直近の部下を得られる事となった。これは幸先がいい!とりあえず目下の目的である飯を食いに行くとしよう。
「ハンゾーさん、食事が出来る場所で最寄りの所はどこでしょうか?」
ユグドラシルの時、ながら飯とかザラだったから腰を据えて御飯食べるのは珍しい。
「ハッ、それでしたら、あちらに従業員用の食堂がございます」
「じゃあそこで食べましょうか。一緒にどうです?」
「「「「え゛ッ!?」」」」
エイトエッジアサシン達が落ち着いた佇まいからは外れた声を上げた。
え、俺なんか変な事言った?
「勿論、ナガトさん、サンダユウさん、ドウジュンさんも一緒ですよ。もしかして、もう食べてしまったとか?」
「い、いえ、そういう訳ではありませんが……」
従業員用の食堂。つまりは、社員食堂みたいなものだ。平たく言えば俺もハンゾー達も此処の従業員な訳だから、利用したって良かろう。
「私の知ることわざに"同じ釜の飯を食う"と言うものがあります。
これから私達は苦楽を共にするのですから、交流の機会に丁度良いのですよ」
一緒に御飯食べるのは部下との交流にうってつけだ。緊張させないように配慮する必要もあるけど、気さくに振舞えばなんとか……。
「お気遣い、痛み入ります……」
「大げさですねぇ、一緒に食べるだけですよ」
俺は副腕で頭を掻きながら、ちょっと困惑する。滅茶苦茶畏まってるんだけど、やっぱ忠誠心半端無いのね。俺もそれに応えられるようにならなきゃな。
とりあえず一緒に御飯は食べてくれるみたいなので、
言われた通り従業員用の食堂へレッツラゴー。
入ってみると、白を基調としたシンプルな造りの食事スペースが設けられている。
ほー、良いじゃないか。こういうのでいいんだよ、こういうので。
食べ放題方式というのも嬉しい。飾ってある時計を見るに、お昼時のようだ。こういう感じの食堂って英語で洒落た感じの名前があった筈だけど何だっけ?
食堂では、結構な数のメイド達が食事を楽しんでいる。全員
……奥の席が素材不明の謎肉の山になってる。随分大食漢な従業員がいるようです。
「……!?」
暫く間を置いて、俺の存在に気づいたメイドさん達が即座に立ち上がろうとする。
「はいストップ!」
俺が慌ててそう言うと、立ち上がろうとする姿勢のままメイド達が固まった。こうなる事は予測付いてたもんね!社員食堂へ二番目に偉い人とその護衛が乗り込んできたらそりゃビビるだろう。俺のせいで食事を中断させてしまうのは申し訳ない。
「私はあくまで、一従業員として食事に来ただけです。どうぞ、御気になさらず食事を続けて下さい」
努めて穏やかな口調で一言だけ残す。全員着席した事を確認し、適当な席を探す。
五人分座るのに丁度良い場所は……。
はっ!?
俺は周囲を窺っている最中に固まってしまった。さっき目に付いた肉山テーブルにおわす少々風変わりなメイドが二人。
「アバ・ドン様!?」
え、え、エントマちゃんだー!今日も可愛いぞぉ!従業員用の食堂とは言え、遭遇できるとは何という幸運!一緒に御飯を食べてる褐色シスターなメイドは姉のルプスレギナだな。二人とも食いしん坊系だから何かと気が合うのかもしれん。
よ、よーし、ここはさりげなーく近くの席へ……。俺だってやるときゃやるぜ!適当に台にある食べ物を掻っ攫い、置いてあった箸を取っていざ出陣。すいません、どれが何の食い物かよく分かりません。箸も置いてあるって事は和食もあるのかな?
「プレアデスの二人がいますね、あちらで食べましょうか」
「ハッ!」
俺とエイトエッジアサシン達は各々で好きな食べ物を取り、お盆に乗せる。勿論、邪魔にならないようにきちんと一列で、お盆を運ぶ。言わなくても分かってくれるハンゾー達に感心感心。そして、エントマちゃんの近くの席へ。
エントマちゃんの隣にいる眼鏡金髪のメイドが空いた席から椅子を持ってきてくれた。わざわざ俺がエントマちゃんの隣に座れるように配慮してくれた気がする。気持ちは超ありがたいが飯に集中してもええねんで?
エントマちゃん、ルプスレギナの他、金髪ショートのメイドと、長めな金髪のメイドと、さっき席を用意してくれた眼鏡ミディアム金髪メイドの3人がいる。
金髪率たけぇな!ホワイトブリムさんは金髪派だったのだろうか。それともク・ドゥ・グラースさんの仕業か。AI担当のヘロヘロさんの差し金という線もある。
「失礼、ご一緒してもよろしいですか?」
「は、はい、どうぞ!」
「どうぞ!」
二人は快く了承してくれた。……断りづらいって線もあるけど、賽は投げられた、進むしかない。俺達のせいで蟲率が大幅に上がった。他のメイドが完全にアウェーである。
「いただきます」
手を合わせてきちんと挨拶。ハンゾー達もきっちり手を合わせている、よかよか。にしても適当に取ってきちゃったけど……なんて旨そうなんだ!! あっちの世界じゃ、何の飾り気も無い固形物が主食だったから感動もひとしおだ。味も禄に無かったし、食の楽しみという概念が今此処で蘇った気分です。
とりあえず黄色いスープを飲んでみよう……旨ァァァァァァ!?!?
何このスープ!甘い!でもしつこくない!中の粒々を噛み締めると芳醇な味が広がる!後味が素敵な余韻をもたらす。俺は今猛烈に感動している!具体的に言うと、スープが喉を通る度に精神が安定化してる!
あっと言う間に飲み干し、次に手を付けたのは、豚肉をかりかりに焼いたヤツだ。ベーコンだっけ?昔食ったことあるけど、あれ味しなかったし妙に固かったしで良い思い出が無い。しかし先程のスープのおかげで期待度は高い。何か分厚いし。
早速、口奥に閉まってる牙で咀嚼する。
お味の方は……ゥンまああ~~~~~いっ!!!!
外側のカリカリがたまんねぇ!肉は柔らか!適度にスパイシー!どうやら、俺が昔食ったベーコンはただのプラ板だったらしい。
……危ねぇ。傍から見れば、黙々と食事を続けてるだけなので問題ないが、精神安定化してなかったら昔懐かしの料理漫画みたいに、全裸になったりお城になったり、空の彼方へ消えてたかもしれん。つーか俺、ほぼ全裸じゃね?まぁいいや。
もうちょっと楽しみたかったが、会話もしなきゃな。最悪食べながら……行儀悪いか。
「遅ればせながら、席を用意して下さってありがとうございます。貴方のお名前は?」
「は、はい! リュミエールと申します! お話しする機会を頂けて光栄です! 至高の一柱であられるアバ・ドン様におかれましては……」
「あはは、そんな緊張しなくても大丈夫ですよ。お二人の名前も教えて下さい」
「はい!シクススです!」
「フォアイルです!」
「シクスス、フォアイル、リュミエールですね。覚えておきましょう、よろしく」
三人と軽く挨拶を交わす。よく分からんが、メイド三人がとっても嬉しそうだ。まあ喜んでるなら良いか。結果オーライ。
「ルプスレギナです!」
「エントマです!」
「お、おう」
知ってるよ!つーか、エントマちゃん散々話したでしょ!慌てんぼさんめ、だがそれがいい。あ、ルプスレギナは会話するの初だから良いのか。
プレアデスはともかくとして、実を言うと、俺はNPCの名前を覚え切れてない。これからはNPC達が俺の部下としても活動する訳なのだから、彼女達の名前も全て覚えねばならない。記憶力はそこまで悪くないので頑張ろう。
えーっと、長め金髪がシクスス。ショート金髪がフォアイル。眼鏡金髪メイドがリュミエールだな。よし、覚えた。
「どうせなら、もっと気軽に接してくれても良いのですが」
「そんな、アバ・ドン様に畏れ多く……」
シクススが申し訳なさそうな様子で話す。あー、あれか。俺のファイトスタイルがえげつなかったから恐怖感が……。
「うーん、私としましては、貴方達の有りのままで接して欲しいのです。緊張を強いてしまうというのは、私としても申し訳ない」
「め、滅相もございません!」
困ったなぁ。どうあがいても緊張を強いてるよねこれ。
「個室にて使用人を呼びつければ、御食事の用意が出来るのではないかと愚考致します!至高の御身にわざわざお手を煩わせる等……」
とはリュミエールの言だ。そうだったのか、自分の部屋で使用人呼べば良いのね。何という上流階級。かつて叩き付けられるように配給されたクソマズイ飯が遥か彼方だ。
「それは利用しないでしょうね」
「その理由も……お聞かせ願いますか?」
今度はフォアイルがすごく不安そうに尋ねてくる。別にそんな怒ってる訳じゃないんだが……。さっきから、緊張させまくりのようだなぁ。よーし、俺の今世紀一番の優しさに満ち溢れた穏やかボイスで理由を説明するぞ。
俺はしばし間を置き、語りかけた。
「だって、貴方達と御飯食べられないですもの」
途端、空気が凍りついたような気配を感じた。え、何この空気。
ありのままの理由言ったのがそんなにまずかったの!?更に、食堂全体がシーンと静まり返っている。ちょっと、誰か何か言ってよ!不安になってくるでしょ!
「ふえぇぇぇん……」
と、思ったら、シクススが声を上げて泣き出した。メイド三人とルプスレギナは涙ポロポロ流してるし、エントマちゃんやハンゾー達も小刻みにプルプル震えてる。
挨拶の時もそうだったが、俺には部下を泣かす才能でもあるのだろうか。いらねぇよ!そんな才能!単に交流を深めたいだけなんだってば!
「なんで……なんでアバ・ドン様はそんなに優しいんすかー!」
ルプスレギナが吠えるように叫んだ。お、地が出たんじゃねこれ? よ、よし、このままフランクに接してくれる流れを作れば……。
一先ず、メイド達を慰めるところから始めよう。
次回はプレアデスの二人メインの会話。
ナザリック外には中々出ませんがご了承くださいorz
その内出るよ!